◇side カイズ
練習場でカイズは全てを恭也に伝える。自分たちが平行世界から来たこと、そして何とかして自分たちの世界に帰りたいことなどなどだ。だが話せば話すほど不安な気持ちが膨れ上がっていった。
恭也はどちらかといえばアナログよりな人間だ。こんな突拍子のないことをどこまで信じてくれるかわからない。だがここまで自分に良くしてくれた人に嘘偽りを語りたくなかったのだ。
話すことは全て話した。恭也は驚いたような顔も、馬鹿にしたような顔もすることなく、顎に手を添え「ふむ」と口にした。
「平行世界ですか、それは本当に大変でしたね」
「えっ、し、信じてくれるんですか⁉ 結構突拍子のないこと言ってると思うんですけど」
「ええと、実は以前にも似たようなことがあったんですよ。あの時は俺達の遠い親戚にあたる高町ヴィヴィオという少女が未来からやってきたんです」
「み、未来からですか」
「ええ……未来から血縁が来ることがあるなら、まあ平行世界から人が来ることもあるのかなと」
「へ、へぇ~~」
魔法がないこの世界ではなかなか話を受け入れてもらえないと思っていた。だが改めて考えてみるとそれも違う気がした。
「いや、よくよく考えたらブレイブデュエルという技術は些かオーバーテクノロジーのように思える。それにチヴィットと言われる小型のロボが空を舞い、動物が普通に人語を喋る世界だ。自分たちの常識で当てはめること自体が些かおかしかったのかもしれないな」
ともあれ、張りつめていた緊張の糸が一気に解けていくのが分かる。よき理解者を得られたことにカイズはほっと一安心する。だがそれとは逆に恭也はかなり難しそうな顔をしていた。
「親戚を未来に帰したときはかなり大がかりの装置と聞いています。それに関してはなのはや忍あたりに当たってみようと思います。……それよりもです」
恭也はカイズの肩をガシッと掴む。そして真剣な眼差しを向けてきた。
「平行世界に戻る方法がわかったらすぐに帰ってしまうんですか?」
「え、いや、えっと、まだどうしたら帰れるかわからないので何とも言えないんですよね」
「それはそうですよね。それじゃあこの後時間はありますか?」
「時間ですか? ええ、まだまだ大丈夫ですけど」
正直恭也の説得に丸一日使うつもりでいたので、時間は有り余っている。その言葉を聞くと今度は恭也の方がほっと一息つく。恭也は木に立てかけていた木刀の小太刀を二振り手に取りカイズに渡す。そして彼もまた二刀の小太刀を構えた。
「……恭也さん?」
「本当はもっと時間かけてから、じっくりと教えたかったんですけどね」
一呼吸置くと、場の空気が重くなるのを感じる。恭也は声色を変え話を続ける。
「……暗殺剣を生業とする俺だからこそ気づけたカイズさんの才能。それを今から伝えていきたいと思います」
「で、でもいきな――――ッツ!」
反射的に上体を反らす。すると先ほどまで顔があった空間を恭也の木刀が走り抜けていった。
「(避けれてなかったらただの怪我じゃすまなかったぞ)」
殺意の込められた攻撃に冷や汗が流れる。カイズは一瞬だけ後ろを確認すると逃走ルートを計算し始めた。
「(恭也さんには悪いと思う。だけどここで大きな怪我をしてヴィータさんを悲しませる訳には)」
いかない。そう心の中でつぶやくつもりだった。だがそれを最後まで心の中で放つことが出来なかった。
「…………………」
恭也の射抜くような真っ直ぐな瞳。けがれのない純粋なる殺意。そしてそれらを向ける彼の顔は今まで見たどんな時よりも真剣そのものだった。
カイズにとっては脈絡のない突然の出来事だ。だが恭也にとってこれは何よりも優先するべき大切なことなのだろう。
彼と過ごした三ヶ月があるからこそ、その覚悟は語られるまでもなかった。
「(何でだろう。ここで背を向けたら、恭也さんに二度と顔向け出来ない気がする。……すみませんヴィータさん。死にはしないと思いますけど。……今一度無茶をします)」
逃走のために力を入れていた軸足を戦闘用に構えなおす。カイズは手にした二刀の小太刀を力強く握りしめた。
カイズの覚悟を見届けて恭也は少しだけ口を緩ませた。
「ありがとうございます。――――行きます!」
「――――はいっ‼」
もう言葉などいらない。語るべき方法はお互いの両手に握り込まれている。二人は小太刀を構えると全力で振りぬいていくのだった。