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慢心はしていない。だが小ヴィータの戦術に翻弄され、ヴィータは消耗し続けていた。
「ぐっ、オラアァァァァッツ!」
渾身の一撃が小ヴィータを捉える。だが実像のないそれにヴィータは大きく空振りをしてしまう。
「ティアナのフェイクシルエット! っと、あぶねぇ⁉」
デコイの消失に反応して二発の魔弾が向かってくる。一発は何とか避ける。だがもう一発はデバイスで受け止めるほかなかった。
「ぐっ、っつうう!」
爆発の余波とこれまでのダメージで、ヴィータもグラーフアイゼンも限界ギリギリである。ヴィータは魔弾を弾きその場から駆け出し、廃ビルの中に飛び込んでいった。
「ハァ、ハァ、ハァ、いったいあの小娘は何枚カードを所持してるんだよ。次の手が全く見えてこねえ」
それでもギリギリで退けられてきたのは、それらがヴィータの知っている魔法と同じ動作をしていたからだ。もしこの世界オリジナルのものが来てしまえば、致命傷は避けられないだろう。
「このままじゃじり貧だよな。……だがキツいのはあたしだけじゃねえはずだ」
HPだけを見れば断然ヴィータのほうが不利だろう。だがMPはどうであろうか。これだけのスキルを連発しているのだ。ステータスの差はあれど、かなりの消耗をしているはずだ。
大きく深呼吸をして息を整える。体中ボロボロだが脚は問題ない。ヴィータは落ち着いて所持しているスキルカードを取り出した。
「あたしの手札で勝負できるのはやっぱりラケーテンハンマーだよな。ほかのカードは決定打にかけるし。……ああ、こんなことなら少しくらい課金しておくべきだったかな」
だがないものはない。取りこぼした物を数えて今を見つめられないのは愚か者のすることだ。ヴィータはじっとカードを見ると、見慣れないカードを抜き取った。
「これは。……ああ、さっきアインスに貰ったカードか」
他のカードと混ざっては咄嗟の時に反応が遅れる。ヴィータはそれを別の場所に仕舞うと残りのカードをチェックした。
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それからほんの数分後。ヴィータは小ヴィータのデコイを追跡していた。そしてデコイが廃ビルを抜け、視界の開けた場所にでた瞬間攻撃をしかけた。
――――ブゥン!
当然ながら攻撃はかすめられていく。そしてデコイの消失と同時に魔弾が二発ヴィータに襲いかかってきた。
「こ こ だ‼」
グラーフアイゼンにラケーテンハンマーのスキルを読み込ませる。デバイスは平らな表面を突起に変え、その後ろには強大なブースターを展開する。赤い火花をあげブースターが唸りを上げる。ヴィータは魔弾をその身に受けながらも弾道の先を見据えた。
「――――見えた!」
廃ビルの屋上でデバイスを構え、遠隔操作いる小ヴィータの姿が目に映る。ブースターを全開放すると、急激なGに体がバラバラになりそうになる。だがそれだけの価値は確かにあった。
急速に近づくヴィータに今気づいたのだろう。ほんの僅かな隙。だが小ヴィータに近づくには、その僅かな隙で十分だった。
デバイスを構える隙すら与えない。ラケーテンハンマーの勢いのままに小ヴィータの体をぶち抜いていった。
「これであたしの――――なにっ⁉」
クリーンヒットしたそれに手応えがない。それはまるで先ほどまでのデコイそのものだった。
「しまっ、ぐっ⁉」
気づいたときには後の祭りだ。後方の安全圏にいたそれはフェイクシルエットだった。砕かれたシルエットの残滓はヴィータの体にまとわりつく。そしてその姿を鎖に変えると、ヴィータの両手両足を縛りあげていった。
「あーはっはっはっは、どうだどうだー! これがお兄さんの戦術プラスさっきのお兄さんの試合要素を取り込んだバインド戦法だ!」
高笑いをあげながら、小ヴィータが雲の切れ間からゆっくり降りてくる。手足を縛られたヴィータはその姿に目を向けることしか出来なかった。小ヴィータは勝ち誇った顔でにやにやとヴィータを眺める。
「ステータスに差があったからって言い訳するなよなー。あたしが何度も何度もガチで戦うって言ったのに、そうさせなかったのはお前だからな、この無駄乳女!」
「言い訳なんてする気はねえよ。ハンデなしを望んだのは私だ。それにそれがなくたって私は何度もお前の戦術にハメられた。……その事実は覆せないからな」
「ふん、往生際だけはいいみたいだな。じゃあ負けを認めてもらったところで、そろそろ止めだ」
小ヴィータは一枚のカードを取り出す。それは実在枚数も所有者も少ない激レアカード。小ヴィータの最大攻撃力『ギガントシュラーク』のカードだった。小ヴィータがカードをスラッシュすると、グラーフアイゼンはその鉄槌部を何倍、何十倍にも巨大化させていった。廃ビルを覆うほどのそれを天に構えると小ヴィータは口を開く。
「さあこれで終わりだ無駄乳女。最後に言い残したことはあるか」
これは油断? いや余裕であろう。小ヴィータはヴィータの体力とバインド解除までの時間を計算しきっている。どのようなルートでもちゃんと詰みが見えているのだろう。
そこまで理解するとヴィータは大きなため息をつく。
「正直お前は私の予想の何倍も上をいってたよ。初めは猪突猛進だけが取り柄の小娘かと思ってたけど、子供の成長は早いな。たった三ヶ月でこんなにも見違えちまった」
「それはお兄さんが手取り足取り教えてくれたからだ。そしてその成果を勝利としてあたしはお兄さんに掲げる」
そんな小ヴィータをヴィータは鼻で笑う。
「……口を開けばお兄さん、お兄さん。それがお前の駄目なところだ」
「…………はぁ?」
疑問の声を上げながらも小ヴィータの目はすわっていた。きっとギガントシュラークを構えていなければ、今すぐにでもつかみかかって来ただろう。ヴィータは挑発するわけではない。ただ淡々とヴィータは言葉を述べた。
「確かにお前はカイズの戦法を上手く再現できてる。だがそれだけだ。自身の上手くいった姿を見せたいだけで、勝ちに貪欲じゃない」
「な、なに言ってるんだよ! 現にテメェはあたしの戦術を引っかかりまくってるじゃねえかよ!」
「ああ、そうだ。だけどな。等身大の魔弾を囮にした初手の一撃、あれが決まった時点で本当はお前の勝ちだったんだよ」
「なっ、何を!」
小ヴィータは口では何だと言葉にする。だが思い当たることがあるのか、その口調はどこか弱々しさが伺えた。
「お前がさっき言ったように、この戦いはハンデなしの試合だ。当然ブレイブデュエル歴が長いお前の方がステータスはずっと高い」
ここからが本題だ。ヴィータは淡々としてた口調を徐々に強めていく。
「だからこそあの初手の一撃の後、ステータスにモノをいわして攻め続ければよかったんだ。それで私は何の成す術なく負けていたんだからな」
先ほどのカイズの試合を見ているならなおのことだ。
だがそれをしなかったのは、新しい戦術を試したい気持ち。そして何よりカイズの教えを本人に見て貰い、認められ、忘れないで欲しかったのだろう。
「お前の気持ちはわかるぞ。だけどよ、そんな戦い方じゃあいつは苦笑いしかしてくれねえぞ」
「うっ…………うるせええぇぇぇぇぇぇぇっ‼」
ヴィータの言葉に感情が爆発する。見た目こそ普段のヴィータと同じだが、中身はまごうことなき小学三年生だ。その正論に怒りで応えることしかできなかった。
「テメェがどれだけ言おうが両手両足縛られて何が出来る! カードも取り出せねえテメェに勝ち目はねえだろう! これで終わりだあああああぁぁっ!」
ヴィータを丸ごと押しつぶすようにギガントシュラークが振り下ろされる。小ヴィータの言うように、両手両足を縛られたこの状態では何も行動に起こすことが出来ない。だがそれは本来のヴィータならの話だ。ヴィータはニッと笑みを浮かべる。
「なあ小娘。バリアジャケットもデバイスも所持カードも私たちはほぼ同系統だ。だけど私たちには決定的に違うところがある。……なんだか分かるか?」
「はぁ? 知らねえよ!」
「今もお前の視界には見えてるはずだぞ」
そう言うとヴィータは両手両足を縛られたまま、何度も全身を上下に動かしていく。そのたびにヴィータは胸は大きく揺れていった。
「はぁ、何だよ? 何もかもわかんねえよ!」
「そうか、そうか。答えはな。――――胸だよ!」
ヴィータの巨乳が一段と大きく揺れると、その空いた胸元から一枚のカードがこぼれ落ちていく。それは先ほど別の場所にと仕舞っておいた、アインスから受け取ったカードだ。
ヴィータは手首から上を器用に動かすと、グラーフアイゼンにそのカードを読み込ませていった。
「カードリリース バリアジャケットパージ」
カードを読み込みヴィータの命令が下った瞬間、彼女の周りで大きな爆発が起きる。それが砂塵を巻き上げると小ヴィータは一瞬目を覆いそうになる。だがその手は目元に行かず、しっかりとデバイスを握り込んでいた。
「(こけおどしだ。この状態で逃げきれる速度は相手にはねえ)」
例えラケーテンハンマーを使おうとも、ブースターの展開前にぶち抜くことが出来る。小ヴィータは考えるよりも早く、グラーフアイゼンを振り抜いていった。圧倒的圧力でビルがひび割れてく。だがそれよりも速く、赤い閃光が走り抜けていく。
「――――ソニックドライブ!」
目にも留まらぬとはまさにこのことだ。ギガントシュラークに全リソースを回した彼女に防御壁はない。小ヴィータは腹部に神速の一撃を受けると、全てのHPを根こそぎ奪われていった。
倒れる小ヴィータをヴィータは優しく抱きしめていく。そんなヴィータの姿は普段のものとは違い、肌の露出が多い薄手のバリアジャケットだった。肌に張り付くような素材は、ヴィータの豊満な胸や艶めかしいヒップラインをさらに強調しているかのようにも思えてしまう。
極めつけはその形だ。競泳水着のようなそれに前垂れがついたそれは全男性にとって刺激があまりにも強すぎた。
「真ソニックフォーム。視察前のなのはの言葉を思い出してやってみたけど……やっぱりあたしには速すぎるな」
小ヴィータを抱き抱えたままゆっくりと地面へと降りる。そして気を失っている小ヴィータに優しく声をかけた。
「バインドで捕まえた時点でさっさとラケーテンハンマーで決めればよかったんだよ。大技で決めようとしなければ、防御にだって魔力を割けた。この試合、どのタイミングでもあたしの負けは濃厚だったんだよ」
だがこの敗北できっと彼女は何倍にも大きく成長するだろう。時空が違い、境遇も違い、年齢が違っても、やはり彼女はヴィータだ。だからこそヴィータには誰よりもそう感じ確信することができた。
『WINNER ヴィーラ‼』
勝利を告げる電子音があがる。ヴィータはぐっとガッツポーズを取る。そして観客席からは今日一番の大歓声があがっていくのだった。