ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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たった一つの小さな願い(海鳴市視察編 完)

「うっ、うん……?」

 

 意識を取り戻すと、ヴィータは周りを見る。だがそこには何もない。底知れぬ闇が支配する黒い世界だった。

 

「カイズ? カイズ!」

 

 大切な人の名を叫ぶが、その声に応える者はいない。これはいったいどういうことだろうか。ヴィータはその場から動き出すと、その歩幅に違和感を覚えた。

 

「これは? 大人化が解けてる?」

 

 いつも足下を覆い隠していた胸がない。髪の毛を触ってみると懐かしの二つ分かれの三つ編みになっている。鏡こそないが自身が本来の姿に戻っていることが理解できた。

 

「ここは。……転移が失敗したのか」

『そうではありません。時空を越えるほんの僅かな時間、私が語りかけているだけです』

「……誰だ⁉」

 

 声のしたほうに向き直ると、そこには赤い目の銀髪の少女がいた。

 

「アインス……? いや違う、背格好はあたしと同じくらいだから、ツヴァイとも違うな」

『私に正式な名前はありません。私は海鳴市で生まれたロストロギア欠片、貴方たちの言うシードという存在です』

 

 自らをシードと呼称した少女は、無表情のまま深々と頭を下げた。

 

『今回の事は全て私が原因です。二人には本当にご迷惑をおかけしました』

「迷惑をかけたって、順を追って説明してくれねえか」

『確かにそうですね。ですが、私がこうして話しかけられるのは転移が終了するほんの短い間です。なので、手短に説明させていただきます』

 

 シードは顔を上げると、その無表情を変えることなく淡々と言葉を続ける。

 

『通常ロストロギアとは発展しすぎた技術や魔術が行き着いた故に崩壊した世界、その古代遺産のことを指します。ですが私の生まれは少し違います』

「そうだよな。海鳴市は、というか地球はまだまだ発展途上の世界だし」

『そうです。ですがそんな海鳴市ではいくつもの大きな事件が起きました。ジュエルシードを巡るプレシア・テスタロッサ事件。古代ベルカの遺産が起こした闇の書事件。その他にもいくつもの事件が海鳴市で起こったことを貴方は知っているはずです』

「……ああ、そうだな。あの街では本当にいろんなことがあったからな」

『ロストロギアを巡る戦いはいつも苛烈でした。そして時にはロストロギアを奪い合いそれを傷つけること、またロストロギアその物と戦うこともあったはずです。その時傷つきこぼれ落ちた小さいながらも力強い欠片、その集合体が私という存在です』

 

 シードは自身の顔を指差す。

 

『その中でも闇の書が一番強い意志もつ欠片でした。そのため私の姿は貴方たちの知るそれと近い姿になっています』

 

 突然そう言われてもなかなか納得には至らない。だがその顔は嘘偽りを言っているようには思えなかった。ヴィータは両肘を抱えながら話を続ける。

 

「……話はわかった。だけどどうしてあたし達をあの世界に閉じこめたんだ。お前の狙いはいったい何なんだ」

 

 その答え次第では容赦はしない。ヴィータはシードを牽制するように睨みつけた。シードは表情を動かすことはない。だがその声はどこか悲しげに聞こえてきたのは果たして気のせいだろうか。

 

『私の願いはただ一つ。……全ての人に幸せを与えることです』

「幸せを与える……?」

『この海鳴市では多くの事件が起きました。それは貴方が知っているもの、そして平行世界で起きた『貴方でない貴方』が体験したもの、数多く存在します。ですがその全ての事件はただ一つの純粋な想い。幸せになりたいという願いから起こったものばかりです。幸せになりたい。幸せにしたい。そして全てを救い出したい。ロストロギアの欠片、そして海鳴市で戦った魔導師の無垢なる想いが重なり私は生まれました。……全ての人を幸せにするために』

 

 話しながらもシードは瞬き一つせず無表情のままだった。

 

『私は今はまだ本当に小さな存在です。私が人に干渉するためには、まだ何千、何万という時が必要です』

「だけどあたしは現にあの世界に飛ばされた。それはどうしてだ?」

『理由はいろいろ考えられます。私を人格する闇の書の一部だったことが原因か。それとも闇の書の一部でありながらも、他のロストロギアに浸食されたこと。私のように混ぜ物のロストロギアになったことにより、知らず知らず惹かれあってしまったのか』

「混ぜ物のロストロギア。……デスイーターか!」

 

 その話を聞いてヴィータはようやく合点がいく。ヴィータは海鳴市に来てからいつも以上に幸福感を覚えていた。それはきっと知らず知らずのうちにシードと惹かれあった結果なのだろう。

 

ヴィータの考えをシードも理解しているのだろう。肯定するように小さく頷いた。

 

『それに加え貴方だけでなくあの男の人が一緒に来れたのは、彼が貴方の精神世界に入ることが出来るバリアジャケットを着ていたからかもしれません。いえ、本当のところは私にもわかりません。それを調べる術を私は持っていませんから』

 

 シードはその無表情をほんの少しだけ崩す。そして目から大粒の涙を流していった。

 

『貴方を巻き込んだことに私の意志は介入していません。ですがそうであったとしても、貴方を巻き込んでしまい、そして貴方を悲しませてしまい。本当に申し訳ありませんでした』

 

 その涙は止まることなく、嗚咽を交えながらシードは語り続ける。

 

『私は全ての人を幸せにするという想いから生まれました。ですがその幸せは私という存在の尺度でしか測ることが出来ない。それを貴方の件で思い知ることが出来ました。貴方にとって一番幸せな世界。それは誰もが傷つかず、失うことのない、全てが救われた世界だと想っていました。しかし貴方にとってそれは違いました。貴方があの世界のアインスと出会ったときの顔と叫びを見て、私は自身という存在を本当に心の奥底から嫌悪しました』

 

 その言葉、後悔、嘆きは止まることはない。シードはその場で崩れ落ち地面にひざを付けた。

 

『人の幸せの在処はその人の中にしか存在しない。それを私は理解していませんでした。私は人を幸せにするために生まれたのに、私は貴方に本当に辛い思いを……』

 

 人を幸せにするために生まれた願望機はその存在矛盾に気づいてしまったのだろう。

 

確かに初めてヴィータがあの世界に来たとき、彼女は深く傷ついた。こんな物を見たくなかった。こんな世界を知りたくなかった。もっと自分が頑張れていれば、もっと自分がしっかりしていれば。そんなことばかり考えていた。

 

 だが今は違う。あのかげかえのない三ヶ月でヴィータはようやく知ることができた。

 

ヴィータもまたその場でひざをつく。そしてシードを優しく抱きしめてあげた。

 

「あたしは幸せだったぞ。アインスが笑顔で暮らしている姿を見れて、夢に向かって頑張ってる姿が見れて、本当に、本当に」

『……ヴィータ』

「でもどんだけ幸せでもあれは現実なだけのただの夢なんだ。どれだけ満たされててもあそこはあたしの居場所じゃない。もしあそこを居場所だって認めちまったら、あたしはこの手に残ってる大切な物を取りこぼしちまうことになる」

 

 悲しい別れは存在した。だがその覚悟により救われた者は確かに存在する。そんな者達の決意を引き継ぐために、それだけは絶対に見誤ってはいけない。

 

 ヴィータはまるで子供をあやすようにシードの頭をポンポンと撫でてあげる。シードはまだ少し涙を流しながら、ヴィータの顔をのぞき込んだ。

 

『私は誰も不幸にしたくない。だけどこの力はいずれ大きな間違いを起こす。だから……』

 

 シードはそう言葉にし始めると同時に、体の一部から淡く小さな光の粒子が零れる。それはまるで体が崩壊していくかのようであった。

 

『だからどうか私を貴方の中で眠らせてください。願望機の欠片でしかない今の私には大きなことは出来ません。ですが、私は貴方の中にとけ込み貴方の感情を感じ取り、そして自分勝手ではない。小さいながらも貴方の幸せを叶える力になりたい。それが貴方に迷惑をかけた罪滅ぼし。そして幸せの願望器である私の最初で最後の願いです』

 

 そう話しながらもシードの体はどんどんと崩れ落ちていく。それは彼女の限界か、もしくは夢から覚める時間が迫っているのだろうか。

 

だがそんなことは関係ない。ヴィータは心のままにシードの体を深く、強く、抱きしめていった。

 

「それがお前の願いなら、あたしはそれを受け止めるよ。だから今は眠っててくれ。それでいつか、あたしの幸せを叶えてくれよな」

『――――ありがとうヴィータ』

 

 散り散りになった光は吸い込まれるようにヴィータの元に集まっていく。ヴィータは体の中に確かな暖かさを覚える。そして深く重い闇は徐々にその姿を淡く白い光へと変えていった。

 

 それは転送が終わるからだろうか。いや違う。きっとその光は今の彼女の気持ちそのものだろう。確証などどこにもない。

 

だがきっとそうである。そうであってほしい。ヴィータはそう想い、その光を受け入れていくのだった。

 

――――ヴィータ、ヴィータ‼

――――ヴィータちゃん‼

 

 ずっと、ずっと聞いていたはずの声なのに、本当に懐かしい声色な気がした。

 

 ヴィータはゆっくりと目を開けると二人の女性の姿が映る。はやてとなのはだ。その姿はこの三ヶ月ヴィータが見ていた者とは違う。共に過ごし見届けた大人の姿の彼女たちだった。

 

 どうやらはやてのベッドで寝かされていたようだ。ヴィータは目をこすると二人を見つめる。

 

「大丈夫ヴィータちゃん!」

「よかった、ほんまによかったヴィータ」

 

 涙ながらに二人は身を寄せてくる。また心配をかけてしまった。ヴィータは申し訳なく思う。と同時に、隣にいたカイズも目を覚ましたようだ。

 

「ん、あれ、転送上手く行ったみたいですね」

「……ああ、そうだな」

 

 そう答えるカイズはシードとのやり取りを知らないのだろう。二人はベッドから起きあがる。と同時にお腹が鳴るのがわかった。

 

 点滴で栄養は補給されていたのだろう。だが固形物を食べなければお腹は満たされないものだ。はやてとなのははそんな二人を見て、勢いよく立ち上がる。

 

「とにかくまずはご飯やな! 私に任しときヴィータ!」

「ここは私に任せてよはやてちゃん! 監督兼リーダーでもうヘロヘロでしょう」

「そんなこと言ったらなのはちゃんやってあっちこっち飛び回って限界ギリギリやろー!」

 

 よく見ると二人の目元にはくっきりと大きな隈が出来ている。きっと自分たちのために昼夜問わず駆けまわってくれたのだろう。

 

今にも倒れそうな二人を見て、自分たちのために昼夜問わず動き続けてくれたがわかる。ヴィータはそんな二人の間に割って入った。

 

「そしたら二人とも休んでてくれよ。とっておきの料理を用意するからよ」

「で、でもヴィータちゃん目覚めたばっかりだし」

「大丈夫、大丈夫。三日間寝てたからか、頭はスッキリで、体調もすこぶる快調だからよー。むしろ鈍ってた体を少し動かしたいくらいなんだ」

 

 ヴィータはいつの間に手に持っていたかわからない。そうであってもなくすはずないと分かっていた『和食大全』の本を掲げる。

 

「待ってろよー。最高に美味しい和食を用意するからなー」

 

 事件の話は皆が一息入れてからでいいだろう。ヴィータは腕まくりをすると満面の笑みで台所へと向かっていくのだった。

 




あとがき

まずはここまでの読了本当にありがとうございました!
本当にお久しぶり&初めましての白翼です!

ヴィータちゃんは男友達が少ない。久しぶりの長期連載のほうはいかかだったでしょうか? 少しでも皆様の心に残ってくれましたら本当に幸いです!

私も久しぶりに全力でヴィータちゃんが書けて本当に楽しい毎日でした! 

そしてこの作品、この後2022年4月30日に同人誌版を発売します!!
昔作っていた文庫版へ寄せられたコメントを生かさせてもらいまして、今回はなんと、なんと本編に三作品の書下ろしがプラスされます!

追加作品は『主のいない大きなお風呂で』『ここはゆの街海鳴市リターンズ(旅館編付き完全版)』そして本編後のお話『力の代償と最後の一日』となります。
内容は全て【十八禁】となっています。本編に負けず劣らず全力で書きましたので楽しんでいただけたら本当に幸いです!

販売サイトは『BOOTH』でURLは

https://hakuyoku123.booth.pm/items/3811958

となっています。4月30日になるまでは、注文ができないと思いますので、発売日後によろしくお願いします!!

さて長々と宣伝をさせていただけたところで、ここまで読んでくださった皆様。

もし、もしよかったら、お気に入りや評価、そして感想などいただけたら、本当に、ほんとーにありがたいです!

出来ればまた次回作への力の糧にしたいと思いますので、どーか、どーか、お気に入りや評価、そして感想をよろしくお願いしまーーーす!

さて今後のヴィータちゃんは男友達が少ないはまだどうなるかは決まっていません。ですがもしまた連載することになりましたらその時はよろしくお願いしますー!

ここまでありがとうございました―――!

ではは~ ノシ
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