ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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俺にしかできないこと

 カイズ君。ヴィータが、ヴィータが。

 

 その言葉は、以前も電話越しで聞いた言葉だ。だがヴィータが幼児退行したときとは、明らかに違う血の気の引いた声。

 

 それは今回の連絡の深刻さを、何よりも大きく物語っていた。

 

 管理局のメディカルセンター。カイズはその一番奥の一室につくと、病室のドアを乱暴に開けた。

 

「はやてさん。ヴィータさんが、ヴィータさんがどうしたんですか!」

 

「……カ、カイズ君。ヴィータが、ひっく、ヴィータが」

 

 大切な家族の名前を口にすると、はやては目に涙を貯める。きっと自分がここにたどり着くまでにも、ずっと泣いていたのだろう。

 

 はやては真っ赤な目のまま、再び涙を流していった。

 

 いったい何があったのか。カイズはゆっくりと視線を降ろすと、ベッドに寝ている少女に目を向ける。

 

 そこにいる少女は、あれだけ盛大に扉を開けたのに、全く気にする様子もなく。

 

 ただ静かにそこに横たわっていた。

 

「――――――――」

 

 血の気が引く。足が震え出す。目の前が真っ暗になる。

 

 様々な絶望がカイズの体に一気に押し寄せると、カイズはその場で崩れ落ちそうになる。だが隣にいたシグナムが、すぐに肩を貸していった。

 

「ショックなのはわかる。だが今は冷静になってくれ」

 

「れ、冷静になれって。でもシグナムさん」

 

「――――わかってくれ。私たちだって、ギリギリなんだ」

 

 そう言葉にするシグナムの肩は、小刻みに揺れている。ショックなのは自分だけではない。それがわかると、カイズは心を強く持った。

 

 自分の両頬を力の限り叩く。そして決死の覚悟でヴィータに近づいた。

 

「ヴィータさん? ヴィータさん? いったいどうしたんですか。何があったっていうんですか?」

 

「………………」

 

 彼氏の問いかけに、その少女は何も答えようとはしない。呼吸はしている。だが生きているだけの彼女に、その機能を働かせることができないのだ。

 

 カイズは再び足下から崩れ落ちそうになりながらも、その場で必死に耐えていった。

 

「い、いったい何が起こったっていうんですか。……ヴィータさんは、ヴィータさんはどうなっちゃうんですか!!」

 

 自分を奮い立たせるように、必死に声をあげる。

 

 どうなってしまうのか。その最悪の答えを口にするものはこの場にはいない。

 

 だがどうしたらいいのか。その答えを伝えるために、白衣を着た金髪のショートカットの女性は声を上げた。

 

「そのためにカイズ君を呼んだんです。……ここではあれだから、隣の部屋に行きましょう」

 

「シャ、シャマルさん。で、でも……」

 

「時間がないの。ヴィータちゃんを救いたいんだったら、しっかりして!」

 

「――――はい。わかりました」

 

 ヴィータを救いたいなら。それはまだ彼女を救う手段があるということだ。

 

 その可能性があるというのなら。今は狼狽えている場面ではない。

 

 カイズは眠り続けるヴィータを横目に、シャマルと共に病室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 巨大な液晶モニターが取り付けられた簡素な部屋。カイズとシャマルは机越しに対面に座る。

 

 シャマルは手元のリモコンを操作すると、モニターに映像を映した。

 

「時間がないから、細かい説明は省きますね。まずこれが今回ヴィータちゃんが回収予定だったロストロギア【デスイーター】です」

 

「死を食べるもの? この黒い卵がですか」

 

「ええ、そうです。このロストロギアが発見されたのは、魔法や科学が全く発展していない未開拓エリアです。これが偶然作り出されたものか、流れ着いたものはか不明。とにかく管理局が気づいた時には、すでに危険な状態でした」

 

 シャマルは端末を操作すると、554人という数字を表示する。

 

「この数字はなんですか?」

 

「これは。…………このロストロギアのために犠牲になった人の数です」

 

「――――ッ」

 

「このロストロギアは人の死によって羽化するものなの。……いいえ。正確に言えば人の死の記憶が一定に達するとといったほうが正しいかしら」

 

「人の死の記憶? その記憶を作りたいためだけに、人を殺し続けたってことなんですか」

 

「ええ、どうやらそうみたいなの。だけど化学兵器も魔法も存在しない未開拓エリアでは、このロストロギアが羽化するための死の記憶が全然足りなかったのよ。…………だけど、そいつは見つけてしまったの。多くの死の記憶を魂に刻み込んでいる人物を」

 

「…………それが、ヴィータさん」

 

「ええ。カイズ君も知っているはずですね。――――闇の書事件。私たちがはやてちゃんと出会う前にしてきた数々の虐殺の記録を」

 

「それは。……はい」

 

 ヴィータのことを思い出した高等部から局員になったばかりの時代。とにかくヴィータに近寄るにはどうしたらいいか。ヴィータのことを何でも知りたいと、調べ回っていたうちに、その記事とは何度もぶつかった。

 

 魔法が発達していない未開拓地。そこで暮らす人間からは地球と呼ばれている場所で、最後の闇の書事件は起きた。

 

 多くの人や次元を破壊してきた闇の書事件は、今のエースオブエース高町なのはやフェイト執務官。それに闇の書事件に大きな理解を持つクロノ総督やリンディハラオウンなどにより、犠牲者0という奇跡的な終演を迎えている。

 

 だがそこに行き着くまでの闇の書の暴走は、語るのも苦しいほど悲惨たるものだった。

 

 カイズの顔を見て、シャマルは全てを語りとったのだろう。闇の書の説明を省くと、話を続ける。

 

「私たちは闇の書が暴走するたびに記憶がリセットされて。だからこそ、毎回同じ過ちを繰り返してきました。なので今のヴィータちゃん自体には、人を殺した記憶などは存在しません。ですが、記憶になくとも記録には刻み込まれていると思います。…………私たちの心の中に」

 

「そ、それじゃあ、そのロストロギアが大量の人の死の記憶を読みとったら」

 

「それは完全に羽化します。そして記憶を荒らされたヴィータちゃんは、全てを喪失するか。……最悪、さい、あくは」

 

 そこから先を言いたくないのだろう。だがそれはカイズも同じ気持ちだ。カイズは思い切り机を叩くと、シャマルに詰め寄る。

 

「ど、どうしたらいいんですか。どうすればヴィータさんを救うことができるんですか」

 

「…………そのためにカイズ君を呼んだんです。きっとこれはカイズ君にしかできないから」

 

「俺にしか、できない?」

 

「ええ。――――順を追って説明していくわね。まずはヴィータちゃんを救う方法。管理局の機器とヴィータちゃんと同じ存在であるヴォルケンリッターが架け橋となって、ヴィータちゃんの深層心理に進入できるようにします。ロストロギアが魂の記録を奪うためには、今のヴィータちゃんの意志を破壊しなければいけないみたいなの。それを破壊される前に、対象者にはロストロギアの破壊をしてもらいます」

 

「それが、俺、なんですか……」

 

「ええ。ちなみにこの術は相手にものすごい負担をかけます。多分二人以上は、ヴィータちゃんの精神が持たないと思うの」

 

「ま、待ってください!」

 

「どうしたのカイズ君?」

 

「どうしたのじゃないですよ。何で、そんな重大な役目に俺が抜擢されたんですか。それに相手はロストロギア、俺なんかより、高町さんやはやてさんのほうが適任だと思います」

 

 そう言葉にするカイズは、責任から逃れようとしているわけではない。本当にヴィータが大切だから。だからこそ、たかだかBクラスの自分がいくよりも、AAAからS+までいるメンバーから抜擢するのが最良であると判断したのだ。

 

 そんなカイズの気持ちはもちろんシャマルもわかっていた。わかっているからこそ、その意見を却下した。

 

「そう、本当ならそうするのが一番です。ですが、深層心理にダイブするためには、条件が二つあります。――――その一つが今ロストロギアがダイブしている深層心理の記憶に、登場している人物はその世界に入り込めないということ。……ロストロギアが死の記憶を求めているなら、きっとロストロギアは闇の書事件の記憶に入り込んでいるはずです。だから私たちはもちろん、なのはちゃんやフェイトちゃんも入ることはできないの」

 

「そ、そうなんですか。……なら、俺が。――――いいえ、それでも俺なんかが!」

 

 今すぐにでもヴィータを助けにいきたい。その想いで、思わず了承しそうになる。だが、彼女を本当に助けたいのなら、それは早算すぎではないだろうか。

 

 カイズは顎に手を添えると、思いついた答えを口にする。

 

「それなら元機動六課のメンバーに頼んでみるのはどうですか。あそこならティアナ執務官を筆頭に、優秀なフォワード陣がいるはずです」

 

「私ももちろんそれは考えました。……だけど、もう一つの可能性を考えたら駄目なのよ」

 

「もう一つの可能性。…………はっ、それってもしかしてゆりかご事件のことですか」

 

「ええ、そうよ。ロストロギアが死の記憶を求めるなら、あっちの記憶に行っている可能性は十分に考えられる。つまりその時点で元六課のメンバーを向かわせるのも、すごく賭になっちゃうの」

 

 だったらもう自分でいいのではないだろうか。きっと自分にしかヴィータを救うことはできない。

 

 はやる気持ちと、どうしよもない焦りで、カイズは今にも席から立ち上がりそうになる。

 

 だがそんな自分を全力で押さえ込むと、さらなる質問をした。

 

「…………だ、だ、だった、だったら、ヴィータさんに何の関係もない優秀な魔導師が、い、いけ、行けばいいの、で、は」

 

「それが一番無理なんです。――――ヴィータちゃんの深層心理に入り込むということは、つまりヴィータちゃんの記憶に入り込むということにもなるの。ヴィータちゃんの記憶にいない人は、ロストロギアみたいに多くの人の意志を取り込んでいないかぎり、存在し続けることができないの。――――逆に闇の書事件やゆりかご事件に何の関わりもなく。そうであっても、ヴィータちゃんの記憶に強く残っている人なら。…………ヴィータちゃんの記憶で存在し続けることができます」

 

「…………だからこそ俺が選ばれた」

 

 そこまで説明されれば、もう自分を押さえ込む必要などない。カイズは爪を立てていた太股から手を離すと、勢いよく立ち上がった。

 

「行きます。行かせてください。絶対に、必ず、俺がヴィータさんを救ってきますから」

 

「――――カイズ君。ありがとう」

 

「こちらこそ、俺を選んでくれてありがとうございます」

 

「それではすぐにでも準備を始めます。カイズ君は十五分以内にダイブできるように、最低限の身支度を整えてください」

 

「わかりました!」

 

 カイズとシャマルは弾かれるように外に飛び出すと、それぞれの準備を始めていくのだった。

 

 

 

 

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