ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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この世界のルール

『ヴィータさーん。高町教導官のプロテクションはめちゃくちゃ堅いですよー』

 

「うるせえ! あたしに貫けないもんなんてないんだよ!」

 

 ヴィータはハンマーをなのはを振り降ろす。だがカートリッジシステムを積んだレイジングハートを装備したなのはは、それを難なく受け止める。

 

 

 

 

『ヴィータさーん。そのアクセルシューターはプロテクションで防いだらじり貧ですよー』

 

「あんなちっこい魔弾で、あたしのプロテクションを突破できるもんか!」

 

 なのはのアクセルシューターがヴィータに迫る。その攻撃は相手の面でなく点を徐々に削り、ヴィータのそれを狭めていった。

 

 

 

 

『ヴィータさーん』

 

「今度はなんだよ!」

 

『…………愛してますよー』

 

「ひゃ!? う、うるせえぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 ヴィータは顔を真っ赤にしながら、再びなのはと接敵していった。

 

 

 

 

 

 ヴィータと出会ってから数日が経っただろうか。カイズは今までヴィータといたことを思い出しながら、いろいろあって用意された八神家の一室を開ける。

 

 そのまま引きっぱなしの布団の上に寝転がると、改めて知ったこの世界のルールをまとめていった。

 

「この世界はあくまでヴィータさんの記憶の中。俺が介入しようとも、大体のことはその記憶通り進む。もし何かしらの改変を俺がしたとしても、それはなかったこととして記憶も進んでいく。これは確かなことだな」

 

 実際小さなことだが、カイズのしたことはいくつかある。だがその全ては出来事としては起こっているが、結果として後の世界に反映されないのだ。

 

「だからこそ俺にできることなんてほとんどない。いや、何かしても何かしたという結果が残らないんだよな。しかもそれができる条件っていうのも。……んっ、少しもよおしてきたな」

 

 カイズはブルブルと体が震えると、布団から起きあがる。夢の中でもトイレには行きたくなるのだと、部屋から出るとそのままトイレに向かった。

 

 一階に降りると、廊下にはシグナムとシャマルがいた。カイズは『無駄』だとわかっていても、習慣で二人に頭を下げていった。

 

「お二人とも、今日もお疲れさまでした」

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

目をくれることもなく、二人はそのままこちらに向かってくる。

 

「おっと、危ない」

 

 カイズはそんな二人を避けるために、体をくねらせる。だが完全に避けきれず、肩がぶつかりそうになる。

 

――――スカッ。

 

 しかし肩にぶつかることなく、そのまますり抜けていってしまう。

 

 こんな不思議な現象が起きながらも、全くこちらを気にしない二人。そんな姿を寂しそうに見ると、トイレに向かいすぐ部屋に戻った。

 

 カイズは再び布団に飛び込むと、ボーッとした眼差しで天井を見つめる。

 

「何で今回の事件は、過去改変とか過去転生とかじゃないんだろうな。こんな長時間誰にも相手にされないと。……さすがに辛いな」

 

 別段二人が不審者である自分を無視しているわけではない。いや、まだ無視のほうがましだ。

 

 それは意識があるが故に、意識しないようにしているのだから。

 

 そう、これがダイブ後に判明したもう一つのルールである。

 

 ここはあくまで記憶の世界。つまりヴィータの記憶にないことは、あくまで今までこういうことがあったから、こうであろうという記憶でしか補われないのだ。

 

 今のようにシグナムとシャマルが一緒に歩いている姿は何度も見たことがある。だがこの記憶の中に、カイズは存在していない。つまり二人はカイズのことを認識できないのだ。

 

 それならこの前の嘘発見はどういうことなのか。

 

「俺がこの世界に影響を及ぼす方法。それはヴィータさんを介してでしか行えない。一番大変なところだよな」

 

 例として、ヴィータをA カイズをB シャマルをCとしたとしよう。

 

 Aはこの記憶を維持している存在である。つまりAが思ったことがこの世界では反映される。

 

 なのでもちろんAがBやCを攻撃することができる。

 

 次にイレギュラーであるBは、Aの記憶に存在してはいない。だが記憶の対象者であるAを攻撃することにより、Aがこの過去の記憶においてBに攻撃されダメージを受けたと錯覚させ記憶の改変することが可能である。

 

 そしてBはCを攻撃することができない。Aの記憶にあるCはBという存在に攻撃を受けたという記憶が存在しないわけなので、それはAの記憶の中では当たり前だ。

 

 それはCにも言えたことだ。Aの記憶において、CがBを攻撃したという記憶、並びにその存在を認識しているという記憶がないのだから、必然的にCはBの存在を認識できなくなる。

 

 ただ例外は一つだけある。それはBがCを攻撃しているところを、Aが観察しているということだ。

 

 BがCを攻撃した。それはつまりCがダメージを負ったということ。その認識をAがすることにより、この過去の記憶において、BはCを傷つけたという記憶改変が起こるのだ。

 

 そしてその原理を有すれば、CがBに干渉することもできる。以前の嘘発見がそれだ。

 

 AがBを観察し、Bに対してCにしてほしいとことを思う。そうすればここはAの記憶の中の話だ。実際にCがそういったスキルがあるにしろないにしろ、Aができると思えばCはその行動を起こすことができる。

 

 だがそういった記憶改変はたとえしたとしても微々たるものだ。実際に過去に起きたことはそう変わることはなく、何事もなかったかのように流れ続ける。

 

 この過去を大きく変革させる。それはロストロギアが狙っているように、Aの意識をこの世界で殺すことだろう。

 

 Aがこの世界で自分が死んだと思えば、それはつまり実際に現実の体が生きていようとも、心はこの世界で死んでいるという錯覚を起こすことになる。

 

 精神の死。これがロストロギアの最大の狙いであり、何が何でもカイズが止めなければいけないことだ。

 

 カイズは大きなため息をつくと、ガックシと肩を降ろした。

 

「これがタイムスリップとか転生だったらな。事件の全容を話して、初めは相手にされないながらもしっかり努力して。いつしかみんなに認めてもらって。それで闇の書事件を最速最短で解決して、最後はみんなで真の敵を。ってなるんだろうけどな」

 

 だが現実は。いや、夢の中はそんなに甘いものではない。誰にも相手にされない日々、自分の存在のちっぽけさ。何より闇の書事件の実体がわかっているのに、傷つき倒れながらも戦っているヴィータ達を見ていることがどうしよもなく辛かった。

 

「でもこういった行き違いがあっても、最後には全部うまくいくんだよな。それにここで余計なことをしても、結局は記憶の中の話で。……俺のするべきことは、ロストロギアからヴィータさんを守る。それしかないんだよな」

 

「誰が誰を守るっていうんだよ。あたしより全然弱いくせによ。ほら、夕飯持ってきたぞ」

 

「ありがとうございますヴィータさん!」

 

「別に今更だけどよ。……そういえば何ではやて達と一緒に食べないんだよ。確かにおまえのことは信用してないけど、もうそこまでう、疑ってもねえんだぞ」

 

「そう言ってもらえるのはありがたいですけど。……ま、まあ一家団欒を他人が邪魔するのも悪いかなって思いまして」

 

 カイズはヴィータから視線を逸らすと、ありきたりな言葉で取り繕う。

 

 本当は自分だってみんなと食事をとりたい。だが認識という壁のせいで、自分の存在が空気と化し、なお且つ目の前で温かな家族団欒を見せつけられるのに、カイズは耐えられなかったのだ。

 

 一度や二度は同席したことがある。いや、したからこそあの場にいるのなら、一人でいることを選んだのだ。

 

「ふーん。まあお前がそういうなら別にいいんだけどよー」

 

「せっかくの申し出なのにすみません」

 

「べっつに。それじゃあ、さっさと机用意しろよ」

 

「あっ、すみませんでした。いま布団どかしますね」

 

 カイズは布団をどかすと、ヴィータに用意してもらった小さな机を組み立てる。

 

 ヴィータはそこにトレイを置くと、そのまま座り込んだ。

 

「あれ、どうしたんですかヴィータさん? というか今日は随分と量が多いですね」

 

「お前は茶碗二杯分食べる気かよ。――――あたしの分もあるんだから、当たり前だろ」

 

「えっ、だ、だけどせっかくのはやてさんとの団欒が」

 

「そのはやてが言ってたんだよ。最近お前の様子がおかしいから、一日ぐらい傍にいってやれって。……あたしはお前のことなんてどうでもいいんだけどよ。は、はやてがそう言ったからだからな!」

 

 ヴィータは「ふんっ」とそっぽ向くと、ご飯をかきこみ出す。カイズはそんな彼女の言葉を聞くと、心が温かくなるのを感じた。

 

 この記憶の世界において、はやてがカイズに対し干渉することはない。

 

 だがそれでも傍にいてくれと言ったということは、ヴィータがそう思い、はやてがそう行動するように思ったということだ。

 

 つまりこの改変はどうとろうとも、ヴィータがカイズのことを思ったが故の結果なのだ。

 

 やっぱりヴィータさんは優しいな。

 

「な、なんだよ。いきなりニヤニヤしやがって」

 

「いえいえ。あっ、そうだ。明日はどういった予定なんですか?」

 

「あー、明日は久しぶりにじーちゃん達に顔だしとこうかなって思ってよ。さすがにあたしもシグナムもシャマルもご近所に顔をださなすぎてるしな」

 

「そうですか。――――だったら」

 

 ヴィータが茶碗を置いたところを見計らうと、彼女の両手をギュッと握り込む。

 

 そして渾身の笑みで言葉を続けた。

 

「だったら明日俺とデートしましょう」

 

「あっ? デート?? デートって、わっ、わわわわっ!?」

 

 聞き慣れない単語の意味を理解し、ヴィータは普段出さないような困惑の声とともに頬を赤く染める。

 

「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ!」

 

「馬鹿なことじゃありません。俺はいつでも本気です!」

 

「ほ、本気って。そ、そういうのは恋人同士が」

 

「俺とヴィータさんは恋人同士なんで問題なしですよ!」

 

「そ、それはお前のなかだけでだろうがあぁぁぁっ!」

 

「ヴィータさんの中でもそうですって!」

 

「わっ、ちょっと、そ、そんなに顔寄せるなよ」

 

「いやです。ヴィータさんがデートしてくれるっていうまで、俺はこの手を離しません!」

 

「ぐっ、このっ!」

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!」

 

 互いに全力を込めて、手を握り離させようとする。

 

 前に八神家で力比べをしたときは、死ぬ気(カイズを殺す気)のヴィータに一歩及ばなかった。だがこのデートに賭ける想いは、自身の生死より重く大きい。

 

 カイズはヴィータの手をひたすらに握り込み続けると、それを自身の胸元まで引き寄せた。

 

「な、何なんだよお前は。…………はぁ、じゃあついてくるだけだからな」

 

「えっ、今なんて?」

 

「だ か ら! あたしが外に出ていくのについてくだけだったらいいって言ったんだよ」

 

「それじゃあデートしてくれるんですね!」

 

「ちがーう! だからデートじゃなくて、ただお前があたしについていくだけだっ!」

 

「やったー。ヴィータさんとデートだー」

 

 必死に否定するヴィータを尻目に、両手をあげてカイズは喜びを表す。

 

「くそっ、たく。何でこいつの前だとこんなに調子が狂うんだよ」

 

 ヴィータは自身でもわからない感情に整理がつけられず、大きなため息と共に先ほどの妥協を後悔していくのだった。

 

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