ショッピングモール街。カイズはヴィータのほうを向きながら、悔しそうに手を握り込み歩いていた。
「だぁー、しっかし惜しかったですね。あともう少しでヴィータさんの勝ちだったのに。最後の玉がこう、ちょんってゴールの杭にぶつかってたら」
「でも当たらなかったんだからあたしの負けなんだよ。っていうか、どうしてあたしじゃなくて、お前が悔しがってるんだよ」
「だってヴィータさん悔しかったですよね?」
「お、おう」
「だったら俺だって悔しいですよ」
「そ、そうか。…………って、だから何でだよ!」
「何がですか?」
「…………はぁ、なんでもねえよー」
ヴィータが大きなため息をつくと、カイズは困ったように、あたりを見渡す。すると、目の前にアイス屋があるのがわかった。
「そ、そうだヴィータさん。頑張ったで賞ってことで、アイスでも食べませんか? 俺、奢るんで」
「何だよいきなり。それにもうすぐクリスマスだぞ。そんな季節にアイスかよ」
「えっ、あっ、そうですね。……すみません」
ヴィータの返答を聞くと、がっくしと肩を落とす。ヴィータはそんな彼をみると、「ふぅ」と小さくため息をついた。
「まああたしは動いたばっかりだからアイスでもいいんだけどよ。お前は寒いんじゃないのか」
「――――そ、そんなことないですよ。ヴィータさんと一緒なら、俺の心はどこだってぽっかぽかです!」
「ば、馬鹿叫ぶなよ! どうしてお前はそんなに羞恥心がないんだよ!」
「それはヴィータさんのことがス――――」
「ストップ、黙れ。とりあえずお前はあたしにバニラアイスを買う。それだけでいいんだよ!」
「ふ、ふぁい」
「ったく」
ヴィータはカイズの口から手を離すと、大きくため息をつく。そんなヴィータをみても、カイズはニコニコと笑顔を浮かべるだけだった。
全くなんなんだよこいつは。
数週間前までは、ただリンカーコアを奪うだけの存在だった。
だがヴェルカの騎士である自分を圧倒し、魔力が強いかと思ったら、そこいらの管理局とそう変わらなくて。
そしたらこの世界が夢の中だとか、わけのわからないことを言い出して。
そうかと思ったらあたしのことを、す、す。……好きとか言い出して。
(本当はこんなところでアイスを買ってもらってる場合じゃねえのに。じいちゃんたちに顔出して、すぐにでも魔力を集めなくちゃいけないのに)
はやての体は日に日に悪くなっていくばかりだ。きっとこのままでは取り返しのつかないことになるかもしれない。
だけどどうしてか、目の前の男を放っておくことが自分にはできなかった。
こいつの言ってることが、とても真実だとは信じられない。
だけど、嘘だと切り捨てることもできない自分がいて。もう自分の中でも、考えがごちゃごちゃしてしまっていた。
「――――さん。ヴィータさん?」
「ん? どーしたんだよ」
「えっと、アイス買ったんでどうぞ。バニラです」
「ありがとうな。……お前のは?」
「俺のはチョコチップですね。このチップのコリコリした感触が好きだってヴィータさんが言ってたので」
「…………また現実の話ってやつか?」
「えっ、あっ、はい。……そうです」
遠慮がちに言葉にする。ヴィータはそんなカイズの姿を見ると、降参だと両手をあげた。
「わかった、わかった。だったらお前の話を聞いてやるよ」
「それってどういうことですか?」
「…………お前のことを信じてやるっていうんだよ。ま、まあ、本当に信じるかはお前の話次第だけどよ」
「――――ヴィータさん」
ヴィータがカイズのことを初めて肯定すると、彼は救われたように、柔らかな笑みを浮かべる。
この笑みだ。いや、笑みだけではなく、彼が落ち込んでいても苦しんでいても、何かが心の中で引っかかるような気がする。
目をきらきらさせながらこちらを見るカイズからプイッと視線をはずす。ヴィータは「ふん」と鼻を鳴らすと、ゆっくりとバニラアイスを食べ始めるのだった。