ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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ヴィータちゃんは男友達が少ない11 堅すぎた絆と初結婚式
俺の前だけ あたしの前だけで


「ん、んんー。あれ、カイズがいない」

 

 早朝七時。ヴィータは瞼を擦ると、彼氏の姿を探す。

 

 今日は自分が朝食当番のはずだ。トイレにでも行っているのだろか。ヴィータは左右に目を向けると、そこに見慣れた光景があることに驚いた。

 

「……あれ、どうして自分の部屋にいるんだろ。だってあたしはカイズと同棲し始めたはずじゃ」

 

「ヴィーター、そんなん寝ぼけてたら遅刻してしまうよー」

 

 開かれた扉から、はやてが顔を出す。ヴィータは一度目をぱちくりすると、ハンガーに掛かっている服を見る。

 

 足下まで届く紅いドレス。その存在を見て、ヴィータはようやく頭が覚醒し始めた。

 

「……そうか、さすがにドレスはカイズの家に持っていってなくて、それで一度家に戻ったんだっけ」

 

「もう朝食の用意はできてるから、みんなで食べようなー」

 

「うん、ありがとうはやてー」

 

 年下の彼氏の前では見せられないだらけきった顔をすると、ヴィータはベッドから起きあがる。

 

 はやてが扉を閉めると、ヴィータは改めて紅いドレスを見る。そして自分に言い聞かせるように、今日の出来事を口にした。

 

「今日はシンドウさんの結婚式か。そういえば結婚式の参列って初めてだな」

 

 今日は晴れてよかった。窓から見える光景を見ると、ヴィータは大きく欠伸をするのだった。

 

 

 

 

 

 車の運転席。はやては車を止めると、隣にいるヴィータに声をかけた。

 

「本当にここでいいんか。あれなら、もうちょっと中にいけるけど」

 

「大丈夫だって。電車で来てる人だっているわけだし、このくらいの距離なら問題ないから」

 

「慌ててドレスの裾踏まんようにな」

 

「それも大丈夫だって。普段はこれくらいの丈の服で、教導してるんだし」

 

 初めての結婚式に、ヴィータではなく、はやてのほうがあたふたしてしまう。ヴィータは赤色の小さい鞄を持つと、助手席のドアを開けた。

 

「それじゃあ行ってくるなはやて。また何かあったら連絡するから」

 

「気をつけてなー。あと、カイズ君によろしく言っといてな」

 

 窓越しに手を振ると、はやての車がゆっくりと走り出す。ヴィータは履きなれないヒールの高い靴に悪戦苦闘しながら、ゆっくりと待ち合わせ場所に向かう。

 

 繁華街の真ん中にある巨大な噴水広場。待ち合わせ場所として有名なこの場所で、ヴィータは自身の待ち人を探す。すると、黒いスーツを着た黒髪の青年が、嬉しそうに大腕を振っているのが見えた。

 

「ヴィータさーん、ここですよー。じゃなくて、今行くんで待っててくださーい」

 

 あまりにも大きな声に、広場にいた人々の視線がカイズとヴィータに集まる。

 

「ば、馬鹿、声がでけえよ」

 

「だって久しぶりにヴィータさんと会うから俺、嬉しくて!」

 

「久しぶりって、たった一晩だけじゃねえか。ああもう、ほんと恥ずかしい奴だな」

 

 そう文句を垂れながらも、カイズの姿を見るとヴィータもまた自然と顔をほころばせていた。

 

 ほんと、たった一晩だけなんだけどな。

 

 だが彼ほどではないにしても、ヴィータもカイズと会えたのが嬉しくて、慣れない靴で小走りに彼の元に近づく。

 

 カイズはヴィータのドレス姿を見ると、グッと拳を握りしめた。

 

「やっぱりヴィータさんには紅色が似合いますね。大丈夫ですかー、そんなに可愛いと今日の主役を食っちゃうんじゃないんですか」

 

「そんなふうに思うのはお前だけだよ。でもまあ……ありがとな」

 

「いえいえ、本心ですから。それにしても結構攻めたドレスですね。足下はまだしも、肩がでてるなんて」

 

「ああ、これははやての趣味で。せっかく結婚式に出るんだから、これくらい派手なほうがいいって」

 

「へぇー、そうなんですか。…………ちなみに、上着はあるんですか?」

 

「ん、いや特に持ってきてないけど。ど、どうした? なんか変な顔してるけど」

 

 先ほどの上機嫌とは打って変わって、カイズの顔に険しさが走る。何か彼を不機嫌にすることを言ってしまっただろうか。ヴィータは少しおろおろとしてしまうと、カイズは突然スーツの上着を脱ぎだした。

 

「……とりあえず会場につくまでは、これを羽織ってください」

 

「これって、え、別に寒くはないぞ」

 

「そ、そうじゃなくて。その。……嫌なんですよ」

 

「嫌ってなにが?」

 

「そ、それはその……」

 

 カイズは少し困ったように頬を掻く。だが観念したように息を吐くと、ヴィータの耳元に口を寄せた。

 

「ヴィータさんの肩の露出をほかの男に見られるのが嫌なんです。…………すみません。器の小さい男で」

 

「肩の露出って。……ぷっ、ははは」

 

「わ、笑わないでくださいよ。お、俺は本当に嫌なんですから」

 

「だ、だってよ。さすがに気にし過ぎだって。……まっ、カイズがそうしたいなら、あたしはそれで構わないけどよー」

 

 どれだけ独占欲が強いのだろうか。だがそんなカイズの気持ちがヴィータには心地よく、思わず声が弾んでしまう。

 

 しかしそんな声色が、カイズからしては馬鹿にされていると思ってしまったのだろう。

 

 むっと頬を膨らませる彼を見て、ヴィータは「悪い悪い」と彼の腕に抱きついた。

 

「それじゃああたしも一つだけ言っておくぞ」

 

「……なんでしょうか」

 

「あんまりほかの女の前で上着脱いだり、ネクタイ緩めたりするんじゃねえぞ。カイズのリラックスしてる姿、ほかの女に見られたくねえからよ」

 

「ネクタイ緩めてる姿って。……別に俺の首もと見たって喜ぶ人なんていませんよ」

 

「さーって、どうだろうな。あたしの肩同様、案外わかんねえかもしれねえぞ」

 

 実際、少し前の夜。お酒を飲む前に、ネクタイを緩め鎖骨が見えたとき、自分はドキリとしてしまった。

 

 だがそれはさすがに恥ずかしくて言えない。ヴィータは「えへへー」といかにも誤魔化しに見えそうな本心の笑みを見せると、ぐいぐいとカイズの腕を引っ張った。

 

「ほらあんまりぶーたれるなよ。そんなんじゃ友人代表のスピーチなんか務まんねえぞー」

 

「そうだスピーチだ! ヴィータさん、俺のスピーチ見ててくださいね。ヴィータさんのために俺、一生懸命やるんで!」

 

「あたしのためにやってどうするんだよ」

 

「別にサクヤなんてどうでもいいんですよ。俺はヴィータさんに一番よく見られたいんですから!」

 

 カイズがあまりにも真面目に言うものだから、ヴィータは困ったような笑みを浮かべると、「あははは」と乾いた笑い声をあげる。

 

「そ、それじゃああたしのために頑張ってくれよな」

 

「――――はいッ!」

 

 実際自分のために頑張らなくてもいいのだが、それが巡り巡ってサクヤのためになるならそれでいい。

 

 とにかくこのままここで話して、遅刻しては元もこもない。ヴィータはコツコツとヒールを鳴らすと、目的地である式場に向かっていくのだった。

 

 

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