深く 暗く
初めの頃。俺はきっと復讐心で心が黒く染まっていたと思う。
奴らが許せなくて。自分の非力が悔しくて。
ただ泣き続けた。ただ嘆き続けた。
だからこそ力をつけた。無理矢理換算されたこの体を利用して。
全ては奴らを殺すために。
そんなことを繰り返しているうちに、俺は様々な世界を渡った。
雲に届きそうなビルが建ち並ぶ世界。未だに穴蔵に住んでいるような旧世界などその数はもう覚えていない。
ただ力をつけるため。そのためだけに、その世界において『絶望』と言われる数々の難敵を俺は倒してきた。
圧倒的実力の差があるときもあれば、死にかけたことも何度もある。
だがそのおかげで、俺は強くなった。しかし強くなる中で、俺の心の闇は少しずつ薄らいでいった。
『ありがとう』
老若男女様々な人間から、その言葉をもらった。
俺はただ自身のために剣を振るっていただけなのに。それでも結果として世界の驚異を倒した俺に、人々は感謝の言葉を述べたのだ。
それから何百年世界の驚異と戦い続けただろうか。
気がつくと俺は強くなることよりも、人々の笑顔と平穏のために剣を振るっていた。
俺が普通の人間であったとき。その時に味わった絶望を何も忘れたわけではない。
だが忘れなくとも、これでいいのかもしれないと思い始めてきたのだ。
憎しみは、復讐は、何も生まない。
こんなことをしても、エレナはもう戻ってこないのだから。
そう思い始めてまた数百年。そしてここ数ヶ月の間にその噂が耳に届いた。
どうやら俺の知らないところで、あの事件の全ては終わりを告げたようだ。
ならもう俺の出る幕ではない。自ら手を下さなくても、奴らがしっかりと罪を受けてくれれば。
そう、それでよかったのだ。
それからしばらく、俺はその事件の結末を調べ続けていた。この結末をみれば、俺の長い時間は終わる。
――――そのはずだった。
「保護観察処分? …………死刑の執行もなければ、懲役もないだと」
唖然とした。奴らに下された処分に、頭の中が真っ白になってしまった。
こんなことがあるわけがない。どうして奴らが許されなければいけないんだ。
だって奴らは多くの人を、世界を、そしてエレナのことを――――
さらに奴らのことを調べていると、一枚の特集ページが見つかる。
『機動六課の仕立て人。強固な絆で結ばれた家族』
その写真には五人の女性と一匹の狼が映っていた。その全ての女性はみな笑顔で。
真ん中のミドルヘアの女性に慕う彼女達の姿はみな幸せに満ち溢れていた。
その瞬間。俺の中で薄れかけていた想いが、深く暗く心の中に広がった。
俺から全てを奪った奴らが、家族と共に笑顔で暮らしている。その姿は奴らが罰せられなかったことを知ったときよりも、何倍も衝撃的なことだった。
「……エレナ。俺は」
今までの人生で一番力強く剣を握りしめる。
管理局が奴らを許すというのなら。
世界が奴らの幸せを望むなら。
俺のすることは決まっている。
俺はずっと、そのために生きてきたのだから。
手に持っていた本を握りつぶすと、俺は別時空へと転移魔法を展開させるのだった。