ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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誰にも言えない

「ん、んん。あふわぁ~。もう朝か」

 

 今日は自分が朝ご飯の担当のはずだ。カイズは両手を伸ばすと、ベッドから起きあがる。

 

「さて、ヴィータさんを起こさないように。って、あれ、ヴィータさんがいない?」

 

 隣にいるはずのヴィータがなぜかいない。カイズは困惑したような顔をするが、部屋に漂う匂いにすぐ気づいた。

 

「あれ、今日は俺の当番でしたよね」

 

「おー、そうなんだけどよ。……まあいいじゃねえか」

 

「いや、別に悪いとはいってなんですけど。でもせっかく役割決めたわけですし」

 

「いいだろ! サボってるんじゃなくて、家事をやってるぶんにわよ!

 ――――あっ、ごめん。そんな怒ることじゃないよな。ほんと……」

 

「いやいや、気にしてませんよ。それに俺、ヴィータさんのご飯大好きですしね」

 

 動揺を顔に出さないようにし、キッチンのヴィータの元に歩く。そういえば、ここ最近エッチなことどころか、キスすらご無沙汰だ。

 

 カイズはヴィータが包丁を持ってないタイミングを見ると、彼女の肩を抱きしめた。

 

「ヴィータさーん。朝のキスしてもいいですかー」

 

 してもいいですかと聞くのは、ヴィータに肯定の言葉をもらうためだ。『えっ、キ、キスって。……おぅ、いいぞ』と恥ずかしがりながらも、唇を伸ばすヴィータはいつ見ても可愛かった。

 

 今日もその顔が見られると思っていた。

 

 だがヴィータは困惑したような顔を見せると、小さく首を横に振る。

 

「…………ちょっと今はそういう気分じゃねえんだ」

 

「――――えっ?」

 

「ごめんなカイズ」

 

 もうそれ以上ヴィータは何も言わない。強く拒絶するわけでもなく、肩に置かれた手を払うと再び背を向けてしまった。

 

「……ヴィータさん?」

 

「………………」

 

 拒絶されたことよりも、無言の返答のほうが何倍も辛かった。カイズは再び手を伸ばそうとするが、その手がヴィータを捕らえることはなく。

 

 そのまま何も言うことなく、テーブルに戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 あの結婚式以来、あたしは明らかに挙動不審になってしまった。

 

 料理を食べてもおいしいと感じないし、人と話していても上の空。何よりカイズと一緒にいることが辛くてしかたなかった。

 

 カイズのことは好きだ。だから一緒にいて苦痛であるわけではない。彼といられるだけで、自分は幸せで。そんな当たり前の幸せを今までどれだけ奪ってきたのか。

 

 それを考えると、胸が苦しくてしかたなかった。

 

 闇の書事件を介して、自分ははやてと出会った。いろんなことがあったけど、死者を一人も出すことなく事件は幕を閉じた。

 

 それからは今までの贖罪のために、自分たちは管理局に務め様々な事件を解決してきた。

 

 JS事件を筆頭に、大小関係なく様々な事件に取り組んだ。そのなかで何百、何千という人を助けることはできたかもしれない。

 

 だけど。何千という人を救ったからといって、何千という人を殺した罪が消える訳じゃない。

 

 償っても償いきれない罪をおかした自分は、どうしていま幸せに包まれているのだろうか。

 

 あたしは。……あたしは幸せになる資格があるんだろうか。

 

「――――ちゃん。ヴィータちゃん」

 

「…………」

 

「ヴィータちゃんってば!」

 

「えっ! あ、おお。……どうしたんだなのは」

 

「どうしたんだじゃないよ。大丈夫? ご飯はぜんぜん手をつけてないし、私が話しかけても上の空だし」

 

「……すまねえ。ちょっと考えごとしてて。それで何の話だったっけ?」

 

「――――ふぅ。ヴィータちゃん最近なんだかおかしいよ。何か相談ごとがあれば、私でよければ乗るけど」

 

「い、いや、相談ってほどのことじゃねえんだ。それよりも急ぎの話なんだろ。そっちのことを話してくれよ」

 

「まあ急ぎは急ぎだけど。……本当に、何かあったら相談してよね」

 

 管理局の食堂。二人掛けのテーブルの向かいに座っているなのはは、ヴィータの態度に少し疑問を思いながらもテーブルに資料を広げる。

 

 ホッチキスで止めてある一枚一枚の資料は薄いが、その膨大な量にヴィータは目を丸くした。

 

「これはなんの資料なんだ?」

 

「……何でも何百年も前から続いているものらしくてね。この資料に書かれてる次元の世界って、どこも一度は世界の危機に瀕したことがあるの」

 

「んん? 瀕したことがあるってことは、世界自体は無事だったってことなのか」

 

「それがこの事件のみそなところでね。この資料の全ての世界が崩壊の危機に陥りはしたの。……だけどある一人の男性によって全てが救われてるってのが、ここ最近わかってきたの」

 

「ある一人の男って。だけど資料を見るように、もう何百年も前から続いてることっぽいよな。さすがに同一人物ってのはないんじゃないのか?」

 

「そう。管理局もそうだと思ったから、これらのことはただの偶然。または様々な人物による模倣だと思ってたの。……だけどここ最近、また様々な世界が大がかりに救われることが多発したの。その際に残った様々な痕跡と過去の資料を照らし合わせた結果、これまでのことが同一だってわかったみたいなんだ」

 

「でもそれがわかったところでなんなんだ。別に世界を救ってるんだから、何の問題もないんじゃないのか?」

 

「今まではそうだったんだけどね。だけど、ここ最近のこの人の動きが活発すぎるというか。……形振り構わずいろんな世界を救いすぎちゃってるの」

 

 なのははテーブルに広げた資料を片づけると、ここ最近のものをデバイスに表示させた。

 

「昔、私たちがいた地球と同じような世界。魔法の存在が公になっていない世界において、その人は魔法の力を行使して世界を救ってしまったの」

 

 つまりその男は、その世界に魔法という存在しない爪痕を残してしまったのだ。

 

 魔法がない世界で、魔法の存在が知れ渡ってしまうこと。それはその世界の理屈を根底から覆してしまう立派な事件だ。

 

 形振り構わず救えばいいわけではない。存在しない力をちらつかせることは、その世界の人間を恐怖に陥れることにだってなるかもしれない。

 

 それはヴィータにもわかっている。わかっているのだが。

 

 ヴィータは額に手のひらを当てると、俯いたまま唸るように声を上げる。

 

「……なぁ、それって本当に悪いことなのか」

 

「悪いことって。それはいいことだとは思うけど、それだとその世界自体の均衡も――――」

 

「均衡とかそんなことどうでもいいじゃねえか! 誰だって死にたくなんてねえ。それを救うことが本当に悪いことかって聞いてるんだよ!」

 

「ヴィ、ヴィータちゃん……」

 

 激情のままに大きな声を出してしまった。ヴィータは苛つくように椅子に座り直すと、なのはから視線を外す。

 

「……すまねえ。あたしだってわかってるんだ。わかってるんだけどよ」

 

「…………ねぇ、本当にどうしたのヴィータちゃん。ちょっと前から何か変だよ。それともあたしには話せないことかな。でもだったら、はやてちゃんかカイズ君には――――」

 

「……二人には話せねえよ。特にはやてとカイズの二人にはぜってえに話せないことだ。……それはお前もだ。ごめんななのは」

 

「ヴィータちゃん。私は謝って欲しいんじゃなくて、ちょっとヴィータちゃん!」

 

 席から立ち上がるヴィータになのはは声をあげる。だがヴィータは何も答えることはなく、一口も食べていないトレイを持つとそのまま歩いていってしまうのだった。

 

 

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