ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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次に会うときはきっと

 こんな日がいつか来るかもしれない。

 

 思わなかったわけではない。考えなかったわけではない。

 

 あたしはたくさんの人間を不幸にしてきた張本人だ。だから今が罰を受けるべき時なのかもしれない。

 

 振り下ろされる大剣をヴィータは他人事のように眺めていた。

 

 死ぬ。死ぬとはいったいどういうことなのだろうか。

 

 闇の書の意志に消されたことはあっても、それは次の転生までのインターバルにしか過ぎなかった。

 

 だが今の自分に次の命はない。

 

 このまま剣を受ければ、あたしは――――。

 

『ヴィータさん』

 

『ヴィーター』

 

『ヴィータちゃん』

 

「――――――――――うあっ!」

 

 頭の中で三人の人間が声をあげる。

 

 直接話されたわけでも、念話でもない。

 

 それは頭が作り上げたただの妄想にしか過ぎないはずだ。

 

 だが三人の悲しみに満ちた顔を見た瞬間。ヴィータは足に力を込めていた。

 

「う、うああぁぁぁぁぁっ!」

 

 形振りなど構っていられない。無様でも不格好でも構わないと、ヴィータは後方に倒れ込むように動く。

 

 その次の瞬間、シスンの大剣が彼女のいた空気ごと斬り裂いていく。

 

 シスンは体勢を崩し、倒れ込んでいるヴィータを見ると、吐き捨てるように声を出す。

 

「はっ、やはり死にたくないか。あれだけ人の幸せを奪っておきながら、自分の幸せは奪われたくないんだな!」

 

「ち、違う。あたしは、あたしは…………」

 

「違うというなら、ここで俺に裁かれろ。貴様一人の命では釣り合うはずもないが、そうでなければ誰も浮かばれることもない!!」

 

 もうヴィータの意志など関係ない。もとより抵抗されることを前提にシスンは力をつけてきたのだ。

 

 彼は再び脚に力を込めると、ヴィータを睨みつける。

 

 まずい。早く体勢を整えないと。

 

 ヴィータの中にある戦闘本能がそう叫び声をあげる。シスンの踏み込みはシグナムのそれよりも早い。

 

 だが同時にもう一人の自分が声を上げる。

 

 このまま殺されればきっと楽になれるよ。もう罪悪感に捕らわれることもない。だってあくまであたしは『殺されて』しまうのだから。死んだあたしを誰も非難できない。

 

 二つの相反する声に、ヴィータは未だに立ち上がることすら出来なかった。

 

「……う、あぁ」

 

「今度こそ覚悟を決めたか? いや、覚悟を決めようがどうしようが関係ないことだ!」

 

 シスンは脚に力を込めると、再び接近戦を仕掛けようとする。だがその瞬間、二人の間をピンク色の砲撃が割って入った。

 

「大丈夫ヴィータちゃん! それにこの人は私の資料にいた。――――とにかく今は!」

 

 空中にいるエクシードモードのなのはは、再びデバイスを構えるとシスンに狙いをつける。非殺傷設定なら殺すことはない。

 

 圧縮した魔力をレイジングハートの先端に集中すると、二発目の砲撃を打ち放つ。

 

「…………ふん、ヴォルケンリッターの奴らでも来てくれたら手間が省けたのだがな。ハアッ!!」

 

 シスンは構えていた大剣で、ディバインバスターと真っ向から立ち向かう。いや、それは立ち向かうという言葉を使うには、あまりにも淡々とした作業だった。

 

 今までなのはのピンチを何度も救ってきた、信用の置ける一撃。だがその信用をあざ笑うかのように、シスンはたった一振りで、その砲撃をかき消した。

 

「そ、そんな……」

 

「おい、そこの管理局の女。――――悪人以外は殺したくない。だから、全力で防げ」

 

「――――えっ」

 

 シスンはその場で中腰に構えると、大剣を腰のあたりに構える。刃に集中される魔力。その強大さに大気が震え、なのは達の肌にはビリビリと威圧が襲いかかる。

 

「この魔力量は。――――ヴィータちゃん!!」

 

 なのはは叫び声をあげると、半ば墜落するように全力で降下する。呆然としているヴィータはまだこの状況に気づいていない。なのはは彼女の前に立つと、プロテクションを何重にも展開させる。

 

「――――消えろ」

 

 シスンの静かな声とともに、突然の突風が吹き荒れる。草原を揺らす強風。だがその風すら、この攻撃の前には嵐の前の静けさに過ぎなかった。

 

 吹き荒れる嵐がシスンの刃に集結する。そして――――

 

 ――――ヒュン。

 

 何かが放たれる音が、二人の耳に届く。だが届いた時には、全てが終わっていた。

 

「うっ、くぅ」

 

 なのはがその場で膝を突く。そしてそれを合図にするかのように、何重にも張ったプロテクションはガラスが割れるような音を立て、全て砕かれていった。

 

「……な、なのは? お、おい、なのはっ!」

 

「だ、大丈夫だよヴィータちゃん。ちょっと肩にカスっちゃっただけだから」

 

 確かになのはの言っていることは真実だ。だがそうだとしても、それだけではない。

 

 管理局でもこと防御面においては、なのははトップクラスに位置している。

 

 そのなのはの全力の守りを抜けて、傷を負わせてきた。

 

 シスンの一撃は、それだけで彼の力量を示すのに十分だったのだ。

 

 このままではまずい。このままでは自分の過去になのはを巻き込んでしまう。

 

 ヴィータの顔が青ざめる。シスンはそんなヴィータを見ると、念話を送る。

 

『先ほども言ったように、俺は悪人以外を手に掛けたくない。――――だが忘れるな。近いうちに貴様等は必ず全員殺す。周りを巻き込みたくないのだったら、身の振り方を考えておくんだな』

 

 返事を待つことなく、一方的に念話を切られる。シスンは再び刃に魔力を集中すると、それを地面に突き刺した。

 

 またあの攻撃が来るのか。なのはは、先ほどよりも強固なプロテクションを展開する。

 

 だがシスンのそれは砂塵を巻き上げるだけで、何の攻撃性もない。そして彼の狙い通りに完全に視界を封じられると、目を開いたときには彼の姿はなくなっていた。

 

 なのはは逃げられてしまったため息と、引いてくれたという安堵の息を同時につく。

 

「ヴィータちゃん。今のって、私がさっき見せた資料の人だったよね。……でもどうしてヴィータちゃんが襲われてたの」

 

「そ、それは…………」

 

 それはあたしがシスンの全てを奪ってしまったから。

 

 自然とそう口にしようとした。だがなのはがそう質問するということは、まだ管理局がシスンと闇の書の関連性を知らないことも意味していた。

 

 ここでなのはにことの顛末を話せば、きっとこの事件は解決されるはずだ。

 

 いくらシスンが強くとも、局が動けばいくらでも包囲網を張ることができる。

 

 そして彼に狙われている張本人である自分達の安全も約束されるであろう。

 

 だから。だからこそヴィータは――――。

 

「…………さっきなのはの資料を見てよ。それっぽいのがいたから後をつけたんだ。そしたら尾行がバレたみたいで。ちょっとしくっちまったよ」

 

「もう、ひとりで捕まえようとしたら駄目だよ。……でも並の犯人なら、ヴィータちゃんひとりで十分だろうけど。あの人、相当強かったね」

 

「おう。……だけど次に会うときはきっと」

 

 きっとどうするのだろうか。全力を持って彼を捕まえるのだろうか。それとも今度こそ彼に――――。

 

「うん。今度こそ捕まえて見せようね!」

 

 意気込むなのはとは逆に、ヴィータの心はドンドン沈み込んでいく。

 

 結局、ヴィータはシスンのことについて何も話すことはなく。そのままなのはと別れてしまうのだった。

 

 

 

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