「…………仕事、サボっちまったな」
仕事をサボるなど、いったいいつ以来であろうか。きっと片手で数えられるほどだったと思う。
ヴィータは私服のまま人混みの中を歩いていた。ここならそう簡単に知り合いに会うことはない。
まあどちらにしても、普通ならみんな仕事中だ。今は誰にも会いたくない。ヴィータは顔を俯かせたまま、流れに身を任せた。
このまま、またあの草原に行ってみるかな。
あそこに行けばまたシスンに会えるかもしれない。そうすれば自分はどんな形であれ命を懸けなければならない。
こんな宙ぶらりんな気持ちでい続けるくらいなら、いっそ決断を促さなければならないように――――
そんな自殺めいた考えが頭に浮かぶ。
ヴィータはその場で足を止めると、あの草原の場所に目を向ける。
「――――ヴィータさん、ヴィータさんですよね」
立ち止まったヴィータに、女性の声が届く。その声の主はコバルトブルーの髪をなびかせると、ヴィータの元に駆け寄ってきた。
「サクヤ……さん……」
まさか平日の繁華街で知り合いに会うとは。読みが甘かったと下唇を噛む。
だったらこのまま人混みを駆け抜けてしまおう。ヴィータの体つきと運動神経なら簡単なことだ。
つま先に力を込める。だがヴィータの行動よりも、サクヤの言葉は早かった。
「ヴィータさん。――――すみません! すみませんでした!! まさかあんな失礼があったなんて知らなくて。本当に申し訳ありません!!」
額が膝につくほどに、サクヤは深々と頭を下げる。
予想だにしなかった、突然の謝罪に逃げようと思っていたヴィータの思考は停止してしまう。
「えっ、サ、サクヤさん?」
「本当に、何度謝っても謝りきれないことだとは思います。でも本当にすみませんでした!」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ。なっ、とりあえず頭をあげて」
「上げられるわけありません。今の私にその資格はありません!」
今にも土下座をしてしまいそうなほどの勢い。そんな二人の様子は、当然ながら人々の興味を誘った。
傍目からすれば、大の大人が子供に謝り倒しているのだ。不思議に思わないほうが少ないだろう。
このままではただの注目の的だ。だからといって、ここから逃げ出してしまったら、サクヤは何をしだすかわからない。
ヴィータは彼女の両肩に手をおくと、彼女の顔を無理矢理上げていった。
「と、とにかくここ以外のところで話をしような! ほら、近くに喫茶店とかあるし、とにかくここから離れよ!」
「……すみません。私なんかのために」
「そうと決まったらとにかく行くぞ。ほら、道をあけてくださーい」
サクヤの手を握ると、ヴィータは人混みをかき分けていく。こんな注目されたままでは店にも入れない。
ヴィータはしばらく繁華街を歩き続けると、適当な店へと入店していった。