ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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長き旅路 前編

「――――――――!?」

 

 意識を失った瞬間、突然意識が目覚めるのをカイズは感じる。この不思議な感じは、どこかで体験したことがあるきがした。

 

「俺は確か、シスンさんにやられて。…………どこだここは?」

 

 倒れていたカイズは、あたりを見渡す。そこは先ほどまでカイズがいた場所よりも、何倍も広大な草原だ。

 

 何かがおかしい。カイズは漠然とした不安に襲われると、自らの体を見て息をのむ。

 

「か、体が。消えかかってる」

 

 まるで擦り切れた映像作品のように、カイズの体は所々が現れたり消えたりしている。

 

『どうやら、マイクリエイターの時と同じようですね』

 

「イノセントハート? ヴィータさんと時と一緒って。――――まさかっ!」

 

 カイズはその場から立ち上がると、急いで辺りを見渡す。するとそこに一人の女性がいることに気づいた。

 

 その女性は二十代前半くらいであろう。水色の肩にかかるミドルヘアが特徴的な人だった。

 

 そして彼女は足が悪いのだろう。膝に食料などを乗せ、両手で車いすを動かしていた。

 

 あの女性には記憶がない。だがもしこの現象がヴィータと同じなら。それなら、自分の存在感がこんなにも曖昧なのも頷ける。

 

 なにより彼は、言ったのだ。自身のことをヴィータと同じだと。

 

「…………いた」

 

 車いすの少女を捜していたのだろう。現在よりも筋肉質な体ではなく。さらに自分と同じ黒髪の男性は、額に汗をかきながら彼女に駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「エレナッ!」

 

 青年は大きく手を振ると車いすの少女に向かって駆け寄る。彼女はそんな彼を見ると、小さく手を振った。

 

「シスン? どうしたこんなところで」

 

「どうしたもこうしたもないだろう。何で一人で出かけたんだ。荷物があるなら、俺が行くって言っただろ」

 

 シスンはエレナの横に立つと、乱していた呼吸を整える。だがそんな彼を見て、エレナは頬を膨らませた。

 

「だーかーら、過保護は駄目だって言ったでしょう。これくらいの荷物なら私だけで運べるって。それにシスンだって村の護衛で疲れてるんでしょう。ここ最近魔物が多いって、私も聞いてるよ」

 

「そ、それはそうだが。だけど、なぁ」

 

 最近魔物の出現が多い。それはエレナの言ったとおりである。でもだからといって、生まれつき体の悪いエレナに無理はしてほしくなかった。

 

 それが顔にでてしまったのだろう。エレナは小さく肩を落とすと、言葉を続ける。

 

「シスンはこの村の自衛団の隊長なんだよ。隊長が真っ先に疲れちゃったら、ほかの人に示しがつかないんだからね」

 

「それはわかってるんだがな」

 

 エレナの言うとおり、それは重々承知している。

 

 元々人の少ない小さなこの村。若い男もあまり多くない。自然が豊かと言う名の、自衛防壁がなにも存在していない村なのだ。

 

 だがこんな小さな村で、城壁を作り上げることなどもちろんできない。それに伴い、自分を中心とした8人の自衛団は常にパトロールに回ることになっていた。

 

「この二ヶ月だな。どうしてこんなに魔物が活発になったんやら」

 

「ほんとにねー。新婚してまだ半年、もーちょっと一緒にいたいんだけどねー」

 エレナはシスンの腕を取ると、筋肉質な腕に頬をすり寄せる。不意に腕に広がるむずがゆさに、シスンはパッと腕を外してしまった。

 

「ほーんと、シスンはこういうのに弱いよねー。外では魔物相手に、いっぱいいっぱい傷ついてるのに」

 

「いや、傷の痛みとこういうのは全然違うだろう。……とにかく車椅子押すから早く帰るぞ」

 

「だーかーら、自分のことは自分でするって言ってるでしょう」

 

「…………たいんだ」

 

「えっ? 今なんていった??」

 

 体の大きさからでは考えられないほど、ボソボソとした言葉にエレナは耳を傾ける。

 

 シスンは耳まで真っ赤にすると、今度は聞こえるように言葉を放つ。

 

「は、早く家に帰って。エレナと一緒にいたいんだ。た、ただでさえ短い時間なんだ。だから一時も無駄にしたくないって言ったんだ!」

 

「…………あー、あはは。ごめん、なんだかんだ言ってたけど、そういう理由だったんだね」

 

「…………女々しいか」

 

「んーんー」

 

 エレナはそこで言葉を止めると、チョイチョイと手を動かす。人に聞かれたくないことでもあるのだろうか。シスンは困惑したように、顔を近づける。

 

「シスンのそういう子供っぽくて真っ直ぐなところ。――――私、大好きだよ」

 

 彼の両頬に手を添えると、エレナはそっと彼の唇に口づけをする。結婚してから。いや、結婚する前から数えてこれで何度目のキスだろうか。

 

 未だにそれになれないのか、シスンは顔を真っ赤にすると飛び上がるようにエレナから離れる。

 

 そんな彼を見て、エレナは幸せそうに笑みをこぼした。

 

「もー、夜はもっとがっついてるのに、こーいうのにシスンは弱いねー」

 

「ぶっふ! そ、それは言うなよ。仕方ないだろ、わ、若いんだから」

 

「そのせいで私の初めては大変激痛でしたけどねー」

 

「だ、だからそれはすまなかったって何度も謝ってるだろ」

 

 初めてとはいえ、確かにあれはがっつきすぎた。シスンはシュンと肩を落とす。そんな彼をみてエレナは「えへへ」とちろっと舌を出した。

 

「まあ落ち込まない落ち込まない。そんなことしてたら、もっと私といる時間が少なくなっちゃうよー」

 

「そ、そうだ。こんなところで時間を潰してる場合じゃないな!」

 

「そうと決まれば今日は仕方ないか。――――それじゃあ、ゴー、シスン号」

 

「よっし、任せておけ。荷物を落とすなよ!」

 

「おーう」

 

 シスンは車椅子の後ろに回り込むと、二つのアームを握り込む。エレナは荷物をギュッと抱え込むと、車椅子が動き出すのを感じた。

 

「うおおぉぉぉっ!」

 

「あはは、はやいはやーい」

 

 エレナは遊具で遊ぶ子供用に、無邪気な笑みを浮かべる。そんな嬉しそうな彼女を見て、シスンもまた車椅子を押す力を強めていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 それは本当に突然のことだった。いつも通り二人で草原に出かけていた時だ。

 

 エレナが持っていた本が白い光をあげると、不思議な形の魔法陣を作り上げる。

 

 そして真っ白な光が消えると、エレナとシスンの取り囲むように、三人の女性と一人の男がひざまずいていた。

 

「闇の書の起動を確認しました……」

 

「我ら、闇の書の収集を行い、主を守る、守護騎士めでございます」

 

「夜天の主の下に集いし組……」

 

「ヴォルケンリッター……何なりと命令を」

 

 これはいったいどういうことであろうか。突如現れた人物を前に、シスンは立ち上がりエレナを守るように両手を広げる。

 

 エレナもまた状況についていけないのだろう。目をぱちくりさせると、四人の姿を見た。

 

「え、えっと一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「はい。何なりとお聞きください」

 

 エレナの言葉にピンク色の髪の女性が答える。

 

「主っていうのは私のことかな? それでいま主を守るって言ってたよね」

 

「はい、確かにそう申し上げました」

 

 エレナの質問にどういった意図があったのだろうか。ものすごく目を輝かせているエレナを見ると、シスンは心配そうな顔をする。

 

 だがエレナは違う。確固たる確証を得ると、その言葉を口にした。

 

「……それじゃあ、四人はずっと私と一緒にいてくれるってことだよね」

 

「ええ。闇の書のページ収集が完成し、主が夜天の王となるま―――――」

 

「だったら、その闇の書が完成しなければみんなはずっと一緒に。私と家族でいてくれるんだよね!!」

 

「か、家族? い、いえ、私たちはあくまで主に仕えるものとして」

 

「あー、もう。そんな堅苦しいのはいいんだよ。やった、やったよシスン。家族が一気に四人も増えちゃったよ!」

 

 こんなシリアスな場面であるにも関わらずエレナはハシャぎ回る。そんな彼女の様子に、シスンもまた肩の力を抜く。

 

 だが彼女のことを知っているシスンとは違い、四人はあっけに取られたまましばらく動けなくなってしまうのだった。

 

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