「ヴィータちゃんっ!!」
そう手を伸ばした瞬間、突然見慣れた天井が目に映った。カイズは慌てたように辺りを見渡す。
「だ、大丈夫かカイズ? っていうか、どんな夢を見てたんだ」
ベッドの横にはヴィータが座っていた。いったいいつの間に家に帰ってきたのだろうか。それよりもだ。
「ヴィ、ヴィータさんですよね。ここにいるのはヴィータさんですよね」
「当たり前だろ。大丈夫か、何だかうなされてたみたいだけど」
「と、とりあえず大丈夫です。……えっと、どうして俺は家にいるんでしょうか?」
さっきまでのことが夢だとすると、昨日の夜からの記憶がすっぽり抜けてしまっていることになる。
ヴィータにその答えを求めると、彼女もまた困ったように頬を掻いた。
「それがあたしもよく覚えてねえんだよ。確かなのはとはやてと一緒に飲みにいったはずなんだけど、そこからの記憶がなくて。……なんだか、二人とも随分と謝ってたみたいだけど、どうしたんだろう。記憶がないあたしたちが何かしたならわかるけど、二人ともほぼ素面だったよな」
「それはまあ。……いろいろあったんでしょうね」
記憶にないのなら、ヴィータの暴走をわざわざ思い出させることはないだろう。
(やっぱりさっきまでのことは夢だったんだな)
ヴィータに言われたとおりだと理解する。だがそれと同時に、カイズは自分のするべきことを思い出すのだった。
「そういえばカイズ、今日は映画に行くんだよな。もうそろそろ出ないと間に合わ―――――」
「ヴィータさん! 俺はヴィータさんのことを愛してます!!」
「は、はひ!? い、いきなりどうしたんだよカイズ」
「ヴィータさん! ヴィータさんは俺のこと好きですか? 愛してますか?」
「そ、そんなこと今更聞くなよ。……カイズのことは大好きだよ。その、愛してる……」
頬を赤く染めながらも、ハッキリとそう言葉にする。
カイズはその答えを聞くと、ヴィータの両手を力強く握りしめた。
「俺もです。俺もヴィータさんのことが大好きです。すぐにでも結婚したいくらい、ほんとーに大好きです! ――――だからそのときが来たらすぐに結婚式ができるように今のうち頑張って起きたいんです!!」
「お、おう、それはいいんだけど。……それで今日はどうするんだ?」
先ほどからストレートな感情をぶつけるばかりで、いまいち具体例が出てこない。
カイズはヴィータの手を離すとクローゼットの中身に手を伸ばす。そして私服の中でも一番キチンとした服を選ぶと、再びヴィータの方を見た。
「これからはやてさんちに行きます。それでキチンと伝えたいと思います。おたくの娘さんを僕にくださいって」
「あー、なるほどなー。…………ええっ!?」
あまりの衝撃に思わず流してしまいそうになる。きっと冗談か何かだろうとヴィータは思う。いや、本当はそう思いたかったのだが、カイズの目があまりにも本気すぎてそう言葉を出すこともできなかった。
「休日を潰してしまってすみません。いま出来ることはいましておきたくて」
「そ、それはそうだけど。……でも早すぎないか」
プロポーズをされてまだ一週間も経たないのだ。はやてへの報告はもう少し先でもいいとヴィータは思っていた。
だが薬指に輝く指輪を見て、その考えを思い直す。
「あー、でも元はと言えばあたしが指輪をつけてたから余計な心配かけちゃったんだよな。何かしらあたしが言ってれば、昨日も記憶がなくなるようなことにならなかったわけだし」
「ヴィータさんは悪くありませんよ!」
「いや、悪い悪くないっていったらもうどっちも悪くないとは思うけど。…………でもそうだな。カイズも一週間後には教導実習に行っちまうし。それが終わったら卒業試験を受けて、晴れて教導官だしな。――――よしっ!」
ヴィータはクローゼットの中から自身の洋服を漁る。そして病院の上で一度きり着た洋服を取り出すと、それに着替え始めた。
「だったら連絡してすぐに行こうぜ」
「……今更ですけど、いいんですか。こんな突然のことで」
ヴィータに断られても引く気はなかった。だがヴィータも思うところがあってもいいはずだ。
カイズがそう心配そうにヴィータを見るが、彼女はニッと白い歯を見せると明るい口調でこういった。
「あったりまえだろ。あたしだってカイズと早く結婚したいんだ。だ、だから早めに挨拶済ましちまおうぜ」
「――――はいっ!」
カイズはそう元気に返事をすると、洋服を着替え終える。
そして朝ご飯の準備をすると、キッチンに向かうのだった。