ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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ヴィータちゃんは男友達が少ない15 たとえ貴方が忘れてしまっても
愛してますよ


「ふふーん、ふんふふーん♪」

 

 赤い三つ編みの、どこからどうみても小学生くらいの少女は、鼻歌を口ずさみながら局の廊下を歩いている。

 

 なのはは彼女の三つ編みが嬉しそうに上下してる姿を見つけると、後ろから声をかける。

 

「どうしたのヴィータちゃん? 何だかご機嫌みたいだけど」

 

「おっ、なのはか。えへへ、そんなに嬉しそうに見えるか」

 

「う、うん。それはもうかなり見えるけど」

 

「そうかー、そうだよなー」

 

 ヴィータは両頬に手を添えると、嬉しそうにハニカむ。未だかつて見たことないヴィータの様子に、なのは「うーん」と顎に手を添えた。

 

「……熱があるわけじゃないよね」

 

「そんなわけねえだろ。今日だってしっかり教導こなしてきたんだからよ」

 

「ああ。それじゃあカイズ君関連のことかな」

 

「なっ!? 何でそれがわかったんだ!!」

 

「あ、あははは……」

 

 それ以外にここまで浮かれることもないだろうに。なのはは苦笑いしたまま、ヴィータの隣に歩み寄る。そして少し先の自販機を指さした。

 

「じゃあちょっと座ろうか」

 

「お、おう」

 

 ヴィータはどうしてなのはに自分の考えがバレたのか未だ思い悩んでいる。なのははそんな彼女に呆れることなく、うまくいっているようでなによりだと彼女の分のココアも購入した。

 

「おっ、さんきゅうな。えっと、金は」

 

「ああ、いいってこれくらい。それでこれからカイズ君と何かあるの? それとも何かあったの??」

 

「そ、それがよ。その、えっと、あのよ」

 

 ヴィータは紙コップを股の間に挟むと、恥ずかしそうに両人差し指を突っつき合う。そして頬を赤くすると、上目づかいでなのはを見る。

 

「い、いよいよもうすぐなんだよ」

 

「ん、なにが?」

 

「そ、その。――――カイズの最終教導試験の結果がもう少しででるんだ」

 

 ヴィータはそう言うと、ギューッと目を閉じる。なのははそんなヴィータの様子を見て、頭に『?』を浮かべた。

 

「う、うん。それは嬉しいと思うけど。……どうしてそんなに恥ずかしがってるの」

 

「そ、それはそうなんだよけどよ……」

 

「んん?」

 

 何がなんだかわからないとなのはは、二つ三つと『?』を追加する。しかしわかるわけがないのだ。カイズが教導官になるということはつまり。

 

 ヴィータは紙コップを手に取ると、ココアを一口の飲む。そしてそれを椅子に置くと、なのはの耳元に小さな唇を近づけた。

 

「こ、これはまだはやて達が内密に準備してるだけでな。万が一落ちてるなんてことがあるとあれだし」

 

「う、うん。それで」

 

「……それがよ」

 

 ごにょごにょごにょと決して周りに聞こえないように、小さな声でなのはに話す。

 

 その言葉を聞き続けると、なのはは徐々に目を見開いていった。

 

「ヴィ、ヴィータちゃん。それってつまり、カイズ君が教導官になったら、けっ――――」

 

「でかい、声がでかいぞなのは!」

 

「えっ、あっ、うん。……すーはー、すーはー」

 

 何度も何度も深呼吸をすると、気持ちを落ち着かせる。なのはは周りに誰もいないことを確認すると、小さな声でヴィータに話しかける。

 

「そ、それでそんなに嬉しそうだったんだね」

 

「べ、別にそれだけじゃねえぞ。あいつが教導官になるのは純粋に嬉しいしな」

 

「あっ、そういえば教導試験のほうはどうなの?」

 

「おお、ほぼ合格間違いなしだと思う。まあ年が若いからか、実習とかは随分苦労してたみたいだけど、勉強の面ではかなり努力してたからな」

 

「発表は明後日だっけ」

 

「おう。それで合格してたらそのまま結婚式の準備をする予定なんだ」

 

「ふーん、結婚か。いいなーヴィータちゃん。すごく幸せそうで」

 

「…………あたし自身が一番驚いているけどな」

 

 ヴィータの頬から赤みが抜ける。彼女はココアに口を付けると、伏せ目がちになった。

 

「ただの一介のプログラムだったあたしがこうして普通に生活して。大切な仲間もたくさんできて。こんなちんちくりんな体なのに、好きになってくれる奴がいて。幸せすぎてどうかしちまいそうだ」

 

「それはヴィータちゃんが一生懸命全部頑張ったからだよ。闇の書事件もそう、六課時代の時も、その後のあの事件の時だって……。それを考えたらこうしていられるだけで私も十分幸せなんだけどね」

 

 なのはは胸ポケットにしまっている紅いデバイスを取り出す。彼女の相棒である赤いデバイスとは違うそれは、もう二度と動くことはない。だがなのはお守りのようにそれをずっと持ち歩いていた。

 

「そういえば最近顔見てねえけど、子供は元気なのか」

 

「うん。何の問題もなく、すくすく成長してるよ。もうヴィータちゃんの背に追いついちゃうかな」

 

「それじゃあお姉さんできるまでに一度会いにいかねえとなー」

 

「大丈夫だよ。私の子供は背で人を判断したりしないからねー」

 

「そういいながら、あたしの髪の毛ぐりぐりするなよ!」

 

 なのははいつまで経っても自分のことを子供扱いする。だが今日のそれは緊張している自分を解してくれているのだと、甘んじて受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 二日後の午後。ヴィータは教導の資料をまとめながら、何度も机に置いたデバイスを見ていた。

 

 ううー、もうそろそろ発表の時間だよな。

 

 カイズのことだ。きっと発表時間ぴったりに行っているに違いない。ヴィータは今か今かとそわそわとデバイスを見つめる。

 

『ブー、ブー』

 

「――――!」

 

 マナーモードのデバイスが震える。ヴィータはすぐに手に取ると、早歩きで廊下にでた。

 

「もしもし!」

 

『ヴィ、ヴィータさん。ヴィータさんですよね!』

 

「あたしのデバイスなんだから、あたしに決まってるだろ。そ、それで結果はどうだったんだカイズ」

 

 きっと合格に違いない。実技の様子とテストの手応えからそれは間違いないと、ヴィータは確信している。

 

 だがそれでも結果が出るまでは何が起こるかわからない。ヴィータはゴクリと唾を飲み込むと、カイズの言葉を待つ。

 

『や、やってしまいました』

 

「やっちまったってなにをだよ!」

 

『不詳な自分ですが。……見事に合格してしまいました!!』

 

「お、脅かすんじゃねえよおぉぉぉぉ! ――――あ、な、何でもないです」

 

 事務室の視線が一斉に集まるのを感じると、ヴィータは深々と頭を下げる。ヴィータはさらに廊下の奥に向かうと、デバイスを持ち直した。

 

『ど、どうしたんですかヴィータさん』

 

「お前があんまりため込むからだろ!」

 

『だ、だってまだ合格できた実感が沸かなくて。な、何かの間違いかもしれないって』

 

「そんなことねえよ。カイズはちゃんと合格してる。あたしが言うんだから間違いねえよ」

 

『――――そ、そうですね。そうですよね!』

 

 ヴィータに太鼓判を押してもらい、ようやくカイズの声に喜びの色が見える。

 

 カイズはどうにも自分を小さく見る傾向がある。確かに一時期は実技に手を焼いていたが、それもヴィータお手製のデバイスである程度解決ができた。そしてこと筆記試験に置いては、何も心配がないほどだ。

 

 とりあえずよかった。ヴィータはほっと胸をなで下ろす。

 

「改めて、おめでとうなカイズ」

 

『ありがとうございます。それもこれもヴィータさんに一生懸命指導してもらったおかげです』

 

「別にお世辞なんていらねえよ。ここまで頑張ってこれたのはお前が頑張ったからだよ」

 

『だったら頑張れたのはヴィータさんがいてくれたからです。だから全部ヴィータさんのおかげなんですよ』

 

「お、おう。まあ、ありがとうな。……って逆だろ逆。ああぁぁぁ、とにかく今日は盛大にお祝いするぞ!」

 

『そうですね。これで心おきなく結婚式の買い物もできますしね』

 

「けっ、結婚か。そ、そうだな……」

 

『えっ、あっ! …………はい』

 

 結婚という単語。互いにそれを意識してしまうと、何とも言えない空気が流れる。

 

「と、とにかくまずは昼食べてからだな。カイズはまだ食べてねえよな」

 

『合格発表見るまで食欲なくて。そうすると集合場所はどうしましょうか』

 

「試験会場の途中に繁華街があったよな。そこらへんでいいんじゃねえか。今日は平日だしそこまでこんでねえだろうし」

 

『そうですね。それじゃあ繁華街の真ん中の辺りに噴水があるんで、そこで集合にしましょうか』

 

「おう、わかった。まだ仕事が終わってねえから、少し遅くなるからあれだったら先に店に入ってて――――」

 

『大丈夫ですよ。何時になってもずっと待ってますから』「お、おぅ」

 

 電話越しにでも感じることができるカイズの真っ直ぐな好意に、ヴィータはむずがゆい気持ちになる。

 

 ヴィータは「こほん」と心を落ち着かせると、年上としての威厳を何とか保とうとする。

 

「そ、それじゃあまた後でな」

 

『はい。あっ、そうだヴィータさん』

 

「ん?」

 

『――――愛してますよ』

 

「ひゃっ!? お、お前いきなりなにを」

 

『それじゃあまたあとで。近くに来たらまた連絡くださーい』

 

 一方的に愛の告白をされると、電話が切られる。ヴィータは震える手でデバイスを何とか握りしめると、力が抜けたように壁に背を預けた。

 

「な、なんだよ。なんだよあいつ、自分が言いたいことだけ言って、さっさと切りやがって。……くそ」

 

 ヴィータはデバイスを握りしめると、カイズの写真を表示する。そして何も言わないそれに向かって、小さく、本当に小さくつぶやいた。

「…………あたしだって愛してるよ」

 

 そう言った瞬間、ヴィータはものすごい勢いで左右を見渡す。今の会話を聞いていたものは誰もいない。それだけわかると、気合いを入れ直した。

 

「さーって、それじゃあちゃっちゃと仕事終わらせて会いに行くとするかー」

 

 ヴィータは心の中で「おー」と手を挙げると、事務室に戻る。

 

 幸せを疑うことのなかったこのときこの瞬間。

 

 それはこの後の事件が起こる一時間前のことであった。

 

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