ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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駆け抜ける貴方への想い

「んー、今日はすごい日だな」

 

 病室にいたカイズは今までのことを思い出すと、声を弾ませた。

 

「高町さんに、テスタロッサさん、それに八神さんにまで会えるなんて。もう一生分の運を使ったんじゃないのか」

 

 テレビの向こう側の人と何人も会えるなんて、なんて自分は幸せなのだろうか。そう自分に言い聞かせて鏡を見る。だがそこにいるのは、声のトーンとは違い、沈みきった顔の自分がいるだけだった。

 

「何だよ。今日は最高の日じゃないか。…………何でこんな顔してるんだよ俺は」

 

 その理由は理解していた。先ほどあった紅い髪の女の子のことを気にしているからだ。

 

 だが理由が納得できなかった。自分は年上好きのはずだ。どうしてあんな年端も行かない少女のことをこんなに気にかけているのかが、自分自身にもわからないのだ。

 

 ドンッ!!

 

 その瞬間、病室のドアが乱暴に開けられる。

 

 コバルトブルーの髪の毛の女性は、鼻息を荒くしながらカイズに近づいていった。

 

「おっ、やっと来たなサクヤ。ってか、なんか少し老けたか」

 

「はぁ? あたしが老けたならあんたは腑抜けたんじゃない。何してるのよあんたは。ふっざけるんじゃないわよ!!」

 

「な、なにそんなに怒ってるんだよ。恋人がこんな大怪我したっていうのに」

 

「あんたとの恋人生活なんて、とっくの昔に終わってるのよ。それを終わらせたのはあんたよ。あんなにあっさり私のこと振っておいて、あんたは何一番大切なこと忘れてるのよ!!」

 

「俺がおまえを振る? え、いったいなんで…………」

 

 学生生活で自分は何人もの女性とつきあってきた。だがサクヤほど自分のことを理解し、波長が合う人間はどこにもいなかった。

 

 いったい、自分の知らない中で何が起こっているのか。カイズは困ったようにベッドの中で後ずさる。

 

――――ピピピピピ!

 

「おっ、うわ、なんだ。……なんだこの端末は」

 

 驚くままにベッドの脇に置かれた見覚えのない通信機を手に取る。初めは切れるまで待とうと思ったが、それが鳴りやまないことがわかると、しぶしぶとボタンを押す。

 

『対策局員全てに連絡します。独断で戦闘機人を追跡していたヴィータ二等空尉に魔力反応、並びに連絡が完全に途絶えました。現在救護班が向かっていますが、魔力磁場の強い場所のため所在をつかむことができません。手の空いてる局員はすぐに救出に向かってください。繰り返します―――――』

 

「ヴィータ二等空尉。あれ、ヴィータ。…………ヴィータ」

 

 その名前を聞いた瞬間、胸の奥がズキリと痛くなる。何か大切なことを忘れているような気がしていた。

 

「俺、俺は。誰だ。ヴィータ、ヴィータさん?」

 

「ヴィータお姉ちゃんはお兄ちゃんの恋人だよ!」

 

「――――えっ、君は?」

 

 サクヤの後ろにいたため気づかなかったが、そこには一人の少女がいた。誰だろう。こんな子供に自分は覚えはない。だが心の奥底が何かを訴えかけていた。

 

「私はお兄ちゃんに何度も、何度も助けてもらった。だからお願い、私のときみたいにヴィータお姉ちゃんも助けてあげて」

 

「俺が、助ける。俺は、俺は…………」

 

 カイズは突然の頭痛に襲われると、両手で頭を押さえつける。同時に、紅い髪の毛の少女との思い出が、どんどんと頭の中を走り抜けていった。

 

 

 

 

『フン、まあお前がどうしてもって言うなら。そ、その、試しに付き合ってやらないこともないぞ。でも昔みたいにまた忘れるんじゃないのか』

 

『やっぱりあたしはカイズのことが好きなんだなって。……そう思っただけだよ』

 

『あたしが目を開けたら、絶対に側にいろよな。……嘘だったら、グラーフアイゼンの頑固な汚れになってもらうからな』

 

『カイズが一人でいるのが怖いなら、あたしがずっと一緒にいる。夜の闇が怖いんだったら、隣でずっと手を握ってる。だからよ。もう一人で全部背負い込むなよ。あたしがずっと傍にいるから。……頼むからあたしにだけは迷惑かけてくれよな』

 

『ありがとうカイズ。…………大好き』

 

 

 

 フラッシュバックのように次々と少女との思い出が蘇る。

 

 カイズは頭を抱えると、ずっと引っかかっていた何かを拾い上げようとした。

 

「ヴィータ……ヴィータさん」

 

『なお、ヴィータ二等空尉は雪山で生き埋めになったようであり』

 

「生き埋め。…………それって、それって」

 

「お兄ちゃん!」

 

「――――あっ」

 

 生き埋めという単語が。少女の叫びが。カイズの中の一番深い記憶を呼び起こす。

 

 電車の落盤事故に巻き込まれ、絶望の淵にいた自分を助けてくれた一人の女の子の姿を。

 

 あのとき自分を助けてくれたお姉さんのようになりたくて。だからこそ俺は、俺は。

 

「ヴィータさん。――――ヴィータさん!」

 

 カイズは机に置かれた小さな黒い刀のデバイスを掴み取る。すぐにバリアジャケットを生成すると、泣き出しそうな少女の頭を優しくなでてやった。

 

「思い出させてくれてありがとうな。それじゃあお兄ちゃんちょっと行ってくるな」

 

「――――うんっ!」

 

「サクヤもありがとうな。ってか、そんな激しい一面もあったんだな」

 

「おかげさまでな。ほら、早く行ってこい」

 

「おうっ」

 

 カイズは病室のドアを開けると、迷うことなくその場から飛び出していく。

 

 それと同時に病室のドアが開かれた。

 

「カイズ君、ヴィータちゃんが、ヴィータちゃんが。……あれ、カイズ君は」

 

 病室にカイズがいない状況に、なのはは面食らってしまう。だがそんななのはに、少女はその答えを口にした。

 

「お兄ちゃんは、お姉ちゃんを助けに行ったよ」

 

 そう笑顔で答える少女の顔は、安心の色に包まれていた。

 

 

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