胸に立てた新たな誓い
週末の午前中の八神家。はやてはスケジュール表を見ながら、みんなに指示を送る。
「結婚式の招待状はどうやリイン」
「大丈夫ですはやてちゃん。何名かを除いて、全部送り終わってるです」
「料理のほうはちゃんと話は通っとるんやろなシグナム。こっちだけそう思ってましたじゃ話にならないで」
「そちらも大丈夫です主はやて。連絡は何度もとってますし、料理の全般はサクヤの夫に手を回してもらってます」
「シャマル、当日の休憩所や子供預かり所の手配は」
「そっちは知り合いの子に何人か声をかけてるから大丈夫です。手配した式場も用件に完全に合致してます」
「よーし、大丈夫やな。みんな、本番まで時間はいくらあってもたらへん。けどや。うちの大切な家族の一世一代の晴れ舞台や。絶対に完璧に、いや、完璧以上のものに仕上げるよ!」
「「「「おおっ!!」」」」
はやての鼓舞に皆が拳を掲げる。
こういう多くの人を動かすことに関して、はやての右にでるものはいない。彼女は的確に適材適所に人員を配置すると、急ピッチで披露宴の準備を進めていく。
元々みな仕事の急がし身だ。全員揃うことは休日以外にはあまりなく、今日という日に彼女たち家族は全力を注いでいた。
普通の結婚式ならここまで忙しい進行にはならないだろう。だがカイズやヴィータの願いを優先し、可能な限り最短で最速に結婚式を行うためこのようなことになっている。
さらにこの結婚式にはものすごい人数を招待する予定になっている。元々浪費癖が少ない八神一家に、なのは、フェイトを筆頭に元軌道六課の面々、さらに多くの知り合いが今回の結婚式に出資している。
もう軽いプロジェクトといっても過言ではないほど、今回の結婚式にかける皆の思いは大変なものになっていた。
「主、ギル・グレアムが今回の結婚式に出資したいと」
「いしょしゃあああ、もういくらでもきいやあぁぁぁっ!!」
ザフィーラか電話を受け取ると、懐かしい声に反応することなく、すぐに結婚式についての話に入るのだった。
◆
時間はちょうどお昼休みになったころだ。ヴィータは管理局の食堂につくと、食事をしているなのはの前に座った。彼女は先ほどまで教導をしていたようで、額に少し汗をかいていた。
「わりぃな。忙しいときにきちまって」
「そんなことないよ。たまたま今日が休日出勤だっただけだし、午後は二時間ぐらいで終わりだしね。――――体のほうはもう大丈夫なの?」
「おかげさまで、カイズもあたしももう全快だ。―――――それじゃあさっそくであれなんだけどよ。これ、招待状な」
ヴィータは小脇に抱えていた鞄から白い招待状を取り出す。なのははそれを両手で丁寧に受け取ると、申し訳なさそうな顔をした。
「うちに郵送でもよかったのに」
「別に全員にそうしてるわけじゃねえよ。なのはにはほんと、その、世話になったからよ。……多分、あの教導の時になのはがいなかったら、あたしはカイズからずっと逃げてるだけだった。本当に感謝してるんだ」
ヴィータは小さく頭を下げると、なのはは慌てたように声を上げる。
「そ、そんな改まらないでよ。それにカイズ君だったら、私が何か言わなくても、ヴィータちゃんが折れるまでずっとグイグイ行ってたって。だからね、顔上げてヴィータちゃん」
「…………おう」
ヴィータは顔を上げると、なのはと目を合わせる。ヴィータは口元をゆるめると、白い歯を見せた。
「でもだけどよ。ありがとうな、なのは」
「うん、どういたしましてだよヴィータちゃん」
こういうお礼なら望むところだ。二人は笑みを見せあう。ヴィータは鞄からもう一つの招待状を取り出した。
「こっちはテスタロッサの分だ。あいつにも仮教導試験の時にめちゃくちゃ世話になったからよ。……胸のことでも相談に乗ってもらったしな」
「ん、最後のほう何か言った?」
「な、なんでもねえよ」
「んん?」
顔を真っ赤にしているヴィータを見て、なのはは首を傾げる。ヴィータはこほんと一度せき込む。そんな彼女を見て、なのはは微笑ましい笑みを浮かべた。
「でもヴィータちゃんが結婚かー。何だか未だに信じられないな」
「それはあたしが一番思ってるよ」
「結婚式は楽しみにしててねー。元スターズチームでものすごい余興をやる予定だから。元ライトニングチームの女性陣とどっちがすごかったか、投票もする予定だからね」
「お、おお。何だかいろいろ決まってきてるんだな」
正直結婚式については、ヴィータもカイズもほぼノータッチである。それはサプライズにサプライズを重ねて、ヴィータを喜ばせたいという、招待客みんなの合意であった。
この調子では結婚式当日は、さらにすごいことになっていそうだ。ヴィータは楽しみでもあり、少し不安に思うと苦笑いを浮かべた。
「……さて、それじゃああたしはそろそろ行くな」
「これから他の人にも渡しに行くんだね」
「おーう、今日を逃したら次に休みがあるかわからないからな」
ヴィータは椅子から離れるとなのはに手を振る。そんな彼女を見て、なのはは最後に声をかけた。
「ヴィータちゃん」
「どうした?」
「――――お幸せにね」
「――――おうっ」
なのはの声に、ヴィータは笑みで答える。
なのはは彼女の背中を見送る。そして本番は頑張ろうと胸に新たな誓いを立てるのだった。