時を同じくして、一人でカイズは公園を歩いていた。
「あれー、確かだいたいはここにいるはずなんだけど。――――あっ、いたいた」
カイズはベンチに一人座っているミズホを見つける。だがカイズが笑みを浮かべるのとは違い、ミズホは彼の顔を見ると俯いてしまう。
「こんにちわ。よかった、住所がわからないから今日会えなかったらどうしようかと思ったよ」
「…………お兄ちゃん」
「ど、どうしたの暗い顔してるけど? お腹でも痛いのかな??」
カイズは彼女の隣に座る。だがミズホはその場から立ち上がると、突然頭を下げた。
「ご、ごめんなさいお兄ちゃん!」
「へっ、えっ、ど、どうしたの急に」
「だって私お兄ちゃんに迷惑かけてばかりで。私が男の子に虐められてた時も無視したし、こ、この前の時だって。わ、私が逃げられなかったから、だから、お、お兄ちゃんは……」
きっと心の中でずっと不安が渦巻いていたのだろう。いつも自分は彼に迷惑をかけている。子供ながらに合わせる顔がないと感じていたのだろう。
ミズホは張りつめていた想いを打ち明けると、目に大粒の涙を浮かべる。カイズはそんな彼女をみると、おろおろと狼狽えてしまう。
「そ、そのことは大丈夫だって。俺もヴィータさんもこうしてもう元気なわけだし。それに君が悲しんでると、俺も悲しんだよね」
「……どうして」
「だってだよ。俺がそれこそ命を賭けて助けたのに、その助けた子が泣いてるんじゃ、あまりにも俺が報われないじゃないか。俺は君に泣いてほしくて助けたわけじゃない。――――君に笑ってほしいから体を張ったんだから」
「でも、だけど。…………私は」
カイズの言葉にミズホは納得できない。いや、出来るはずないのだ。そんな言葉で納得できるほど、ヴィータとカイズの傷は浅いものではない。さらに彼が記憶喪失になったせいで、ヴィータには相当辛い思いをさせたのだ。
言葉で許すと言われても、はいそうですと許される気はミズホにはなかった。カイズは「んー」と頬を掻く。
「それだったらなー。えーっと、一つとっても大変な仕事があるんだけど。……それを手伝ってもらってもいいかな」
「それって本当に大変なことなんですか」
「うん。しかもかなり重要で、絶対に失敗できないこ――――」
「やります。やらせてください! 私、少しでもお兄ちゃんとお姉ちゃんに恩返しがしたいんです」
カイズが言葉を終える前に、ミズホは了承する。二人が管理局に所属していることは、前回の事件で知っている。
その仕事に危険が伴っていることは、子供のミズホでもわかっていた。
だがそれでも構わなかった。二人に報いることができるのなら、どんな危険なことにでも協力する。
気まぐれではない。ミズホは確かな覚悟を持って、そう答えたのだ。
「そうか、それならよかった。…………もう今更できませんって言っても聞かないからね」
「だ、大丈夫です」
「ん、だったらこれね」
カイズはバッグから招待状を取り出す。それはヴィータがなのはに渡したものと同じものだ。
ミズホはその手紙を受け取ると、頭に疑問符を浮かべる。だがその中身を確認すると、困ったような表情を浮かべた。
「こ、これって」
「俺とヴィータさんの結婚式の招待状。君の友達もみんな連れてきてくれるとにぎやかになって嬉しいかな」
「こ、こんなことじゃ恩返しにならないよ! 私はお兄ちゃん達に本当に迷惑をかけたって思って。だから」
「おっと、話はここで終わりじゃないよ。ここからが重要なんだから」
カイズはデバイスを取り出すと、ある画像を表示させる。その画像には純白のウエディングドレスを着た花嫁の姿があった。
だがカイズが見せたかったのは花嫁ではない。画像を拡大すると、カイズは一人の子供を映し出した。その子供はウエディングドレスが擦れないように、裾をしっかりと握っている。
「俗に言うベールガールって奴だね。君には本番にヴィータさんのドレスを持ってほしいんだ」
「もってほしいって。――――えっ、ええっ!?」
全く思ってもみなかった言葉に、ミズホは目を丸くしてしまう。そして自身の顔の前で世話しなく手を振る。
「だ、だめだめ。む、無理だよそんなこと!」
「おっと、今更無理は聞かないって言ったよね。これは重要な仕事だよー。たくさんの人がみんな見てるし、絶対にミスなんてできないからねー」
「ど、どうして私なの。だって、私、二人には迷惑かけてばかりで」
「これは俺とヴィータさんで決めたことなんだ。きっと心優しい君は後悔してるだろうって。だから思い切り重要な役を押しつけて、しっかり発散させてやれってね」
「だ、だけどー」
「だけどもなにもないよ。これはもう決定、本番はよろしくね」
カイズはミズホにしっかりと招待状を握らせる。そして有無言わせない笑みを見せると、ミズホは諦めたような、困ったような顔をした。
「…………本当に私でいいのかな」
「君がいいんだよ。俺もヴィータさんも」
「――――うんっ! 私頑張るね!!」
カイズとヴィータに選んでもらったこと。そして自分を助けてくれた二人に少しで恩返しをしたい。
二人が笑顔になってくれるなら。そのことを胸に秘めると、ミズホは力強く頷く。
「その招待状があれば、親御さんも入場できるからね。それじゃあ本当に大変だろうけど、本番はよろしくね」
「うん!」
ミズホの言葉を聞くと、カイズは再び笑みを浮かべる。
やはりミズホには笑顔が似合う。カイズはそう思うと、ベンチから立ち上がる。
そして次の場所へと向かうのだった。