街の賑わいから外れた静かな場所にある墓地地帯。カイズは花束を抱えると、一つの場所に向かっていた。
シスンの事件が終わったあと、二人のお墓を立ててあげたいと自分とヴィータは思っていた。
そこで紹介されたのが、この場所だ。はやてに教えてもらったこの場所は、元々ティアナから聞いた場所らしい。ここには訳があって、存在を消されたもの、名を残すことが許されないものが多く存在する。
ティアナが誰のためにこの場所を使用したかは、実のところはやても知らないらしい。だが数年前に、間接的ながらなのはを救った恩人のためにと、彼女が懇願したようだ。
「まあ深く追求することもないよな。シスンさんのことだって、内密な訳だし」
彼はいくつかのお墓を通り過ぎると、その二つの前に立つ。『シスン』と『エレナ』もちろんその中身はからであるが、二人のためにと作られたものだ。
カイズは花束を置くと、その場で膝を突いた。
「近日にヴィータさんと結婚することになりました。ご報告が遅くなってすみません。これはその招待状です」
カイズは二人に用意した招待状をそれぞれの墓に添える。もちろんこんなことをしても無意味だということは、やっている本人が一番よくわかっていた。
これはきっとただの自己満足行為だろう。だがそれでも構わなかった。これは自分が本当にしたいと思ったことなのだから。
「正直教導官にはなれましたけど、俺はまだまだ半人前です。きっとこれからもヴィータさんに迷惑をかけるだろうし、またこの前みたいに無茶をするとは思います。……でもヴィータさんのことは絶対に幸せにしてみせます。それはこの胸に誓って必ずです」
カイズは自身の胸に手を添えると、二人の墓に頭を下げる。
ゴーン、ゴーン。
夕暮れを伝える鐘が墓地に鳴り響く。カイズはその場から立ち上がる。
「また、墓参りにきますね」
カイズはそっと二人の墓に背を向けた。
『ヴィータを、幸せにしてあげてくださいね』
「――――えっ」
その声にカイズは勢いよく振り返る。だがそこに誰かがいるはずもなく、カイズは大きく深呼吸をする。
「……はい、必ず」
カイズは最後にその言葉を伝えると、その場から歩き出す。今の言葉が幻聴でも空耳でもそれはどちらでもよかった。
ただもし二人があの場にいたのなら、きっとそう言ってくれる気がした。そう思えただけで、カイズには十分だった。
墓地地帯を抜けると、ちょうど鐘が鳴り終わる。
これで今日のするべきことは全て終わった。あとはヴィータとの結婚式を待つだけだ。
カイズ自身も、そして今はここにいないヴィータもきっとそう思っていただろう。
だからこそ、その出会いに彼は驚いた。どうして目の前に彼女たちがいるのかに。
「はやてさん? それに他のみなさんも。……どうしてここに??」
「んー、ようやく結婚式の準備が全部終わってな。だから最後の仕上げにきたんよ」
「最後の仕上げ? 急ぎの打ち合わせって何かありましたっけ……」
今のところ結婚式の段取りは順調に進んでいる。それにはやて一人ならいざ知らず、ここにはヴィータを除いた全てのメンバーがいた。
はやてにシャマル、シグナムにザフィーラ、年相応の背格好をしたリインやアギトもだ。
しかもこのメンバーの瞳には何か、大きな決意のようなものが見て取れた。カイズは唾を飲み込むと、次の言葉を待った。
「とりあえずカイズ君、ここじゃ狭いから少し移動しようか。もう少し歩いた場所に開けた場所があるさかい」
「…………わかりました」
歩きだした八神家のあとに続き、カイズも歩き出す。その間の会話は一切存在しない。それだけ大切な話があるのだろうと、カイズもまた黙って後についた。
やがて彼女の言葉通り開けた場所にでる。草木が生えていない天然の茶色の地面の周りには、障害物は何一つない。
そこまでたどり着くと、はやてはその場から一歩下がる。そして彼女たちを代表して、シグナムが彼の前に立った。
「――――セットアップ!」
その言葉に反応して、待機状態のレヴァンティンがその姿を剣に変える。シグナムはその剣を横凪に払うと、そのままバリアジャケットが生成された。
シグナムは切っ先をカイズに向ける。
「カイズ、お前もデバイスを構えろ。……一本勝負だ」
「構えろって。いったいどういうことですか」
「その返事は全てが終わった後に主から告げられる。――――だからこそ今はただ構えろ。そしてお前の答えを我らに示せ」
「俺の、答え…………」
その質問が意味するところがカイズにはわからない。わからないが、それでもこれには大きな意味があるのだろう。
どちらにしても避けて通るという道など存在しない。彼女たちのその目を見て、そんな考えができるはずがないのだ。
「…………わかりました。いくぞ、イノセントハート」
カイズはメンテナンスから帰ってきた相棒を取り出すと、バリアジャケットを生成する。二つの黒刀を構えると、シグナムに目を向けた。
「もちろんお互い非殺傷設定だ。合図は主が出す」
「はいっ」
近すぎず離れすぎず。互いにとって公平な距離が作られると、はやては右手を天に構える。
「それでは。――――始め!!」
合図とともに右手が振り下ろされる。
瞬間弾かれたように接近するシグナムに対しカイズは、二又の黒刀で段幕を張っていくのだった。