自宅の扉前。カイズは両頬を叩くと、気を張りなおした。
「ただいまヴィータさーん」
カイズの言葉に返答はない。だがこちらに向かう足音が聞こえると共にヴィータはすぐに出迎えてくれた。
「お帰りカイズ、って、どうしてそんなに汚れてるんだ! またなんか無茶してたのか」
「あー、これはちょっと盛大に転んじゃって。でもそれだけですよ、怪我は一切してませんし」
ヴィータがそう言うからには、まだ管理者権限の話は彼女には話されていないのだろう。まあ当然だ。もし自分があそこで相打ち覚悟をしていたのなら、はやては決してその権限を譲ろうとはしなかったのだから。
ヴィータはカイズの体を触っていくと、本当に怪我がないことを確認する。そして一安心だと、ほっと一息ついた。
「もうあんまり心配させるんじゃねえ。…………いや、そうじゃないんだよな。やっとわかったんだ。だから早くそれを伝えたかった」
ヴィータは汚れていることなど気にせずカイズを抱きしめる。そしてその答えを口にした。
「あたしたちは管理局に属してる。いや、そうじゃなくてもあたしもお前も困っている人を放っておけない性分だ。……だからこの前みたいに大怪我を負うのも、もしかしたら、もしかしたらそれ以上の可能性も。……ありえることだと考えてた」
「……ヴィータさん」
「だけど無茶をするななんて言えなかった。カイズはたくさんの人を救いたいという思いを邪魔したくないし、それはあたしにも言えたことだからな。―――――だけど、あたしは今からワガママを言うぞ。それでカイズが困ることになっても、絶対これだけは守ってもらうんだからな」
ヴィータは抱きしめていた腕の力を弱めると、上目で彼を見つめる。そしてその言葉の続きを口にした。
「人を助けるためなら。困っている人を救うためなら。どんな無茶をしてもいい。許す。だけど絶対に死ぬんじゃねえ。どんな怪我を負ってもいい、それでまたあたしを忘れたっていい。それでも。……それでも絶対に帰ってこい。絶対、絶対なんだからな」
そう口にするヴィータの体は小さく震えている。
きっと彼女自身、子供じみたことを言っているとわかっているのだろう。この言葉が今後カイズの意志を縛ってしまうかもしれない。ヴィータはカイズの重りにも束縛にもなりたくはなかった。
だからこそ、自身のワガママを彼がどう受け取るかが怖かったのだ。
言葉にされなくてカイズにはヴィータの気持ちがわかっていた。カイズもシグナムとのあの戦いで、全く同じことを思っていたのだから。
今度はカイズがヴィータの体を強く、強く抱きしめていった。
「だったら俺とも約束してください。ヴィータさんもどんな無茶無理をしても構いません。だけど絶対に俺の元に帰ってきてください。ヴィータさんがいなくなったら、きっと俺、ものすごい泣くと思うんで」
「…………絶対にあたしのほうがいっぱい泣くぞ」
「いえ、俺の方が泣き散らしますって」
「いいや、あたしのほうが」
「俺が」
お互いがお互い自分の方が悲しむと声を上げる。そのなかでヴィータはカイズを抱きしめる手に再び力を込める。
そして二人はお互いに目を合わせていった。
「だったら絶対に帰ってこないといけませんね。――――約束します。俺、何があっても必ずヴィータさんの元に帰ってきます」
「ならあたしもここで誓うな。どんな困難があっても絶対にあたしはカイズの元に帰ってくる。―――――ここが、あたしの帰る場所だからな」
お互いに抱きしめる力を緩めることなく。深く、強く互いの体温を確かめあう。
もう俺は絶対に彼女を悲しませない。
もうあたしは絶対に彼を苦しませない。
その約束に明確なものは存在しない。
だが絶対に消えることない想いであると二人は確信しあっていった。