ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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番外編 シグナムさんは男友達が少ない(※問題なくここからでも読めます)
失格の証明


 薄茶色のタイトスーツに身を包んだ一人の女性。彼女は苛立つようにヒールを鳴らし、腰まで届くピンク色のポニーテールを揺らしながら扉の前に立つ。

 

 ここは管理局のヘリ整備室だ。

 

「こら貴様等! また人を賭の対象にしていたようだな!」

 

「やっべ、逃げろ!!」

 

 すす汚れた作業着姿の男たちは、その女性を見るやいなや蜘蛛の子を散らすように走り去る。

 

 大の大人が三十人集まり、なぜ女性一人に逃げ出さなければいけないのか。それは教導の模擬戦の勝敗を賭事にしていた後ろめたさもそれなりにあったのだろう。

 

 だがその理由はほんの些細なことだ。

 

 烈火の将と呼ばれた彼女は、自慢のデバイスを展開すると首謀者を一喝する。

 

「ヴァイス、また貴様か! 前回のことで懲りてないみたいだな!」

 

「いやいや、こう平和が続くとヘリの整備もすぐにおわっちまって。これくらい目を瞑ってくらさいよシグナムの姐さん」

 

「……それが貴様の最後の言葉でいいんだな」

 

 シグナムはレヴァンティンを構えると、その切っ先をヴァイスに向ける。彼は「あははは」冷や汗を掻くと、脱兎のごとく走り出していった。

 

「……ふぅ、全く」

 

 シグナムはレヴァンティンを肩に置く。小さくため息をつくと、がらんとしたヘリ整備室の天井を見上げた。

 

「平和なのはいいことだが、こうも怠け癖がつくのはどうかと思うな」

 

 いや実際に彼らは怠けているわけではない。六課時代と違い、今は四六時中ヘリを使っているわけではない。

 

 ヘリの使用頻度が減れば、その分修理や点検にさく時間も少なくなり、結果彼らは仕事を完璧にこなしつつ怠け癖がついてしまっているのだ。

 

「あれでも六課時代の顔見知りも多い。緊急の時は動いてくれると思うが。……不安の種ではあるな」

 

 まあ今回のことでしばらくは落ち着きを取り戻すだろう。シグナムは天井に向けていた視線を下ろすと、そのまま引き返そうとする。

 

 その時だ。誰もいなくなったと思っていたその部屋で、一人の男を見つけたのは。

 

「………………」

 

 まるで今までの騒ぎが聞こえていなかったように、木箱を机にノートパソコンをブラインドタッチしている男。

 

 シグナムはその背中に声をかける。

 

「おい貴様。私から逃げないとはいい度胸をしているな」

 

「…………」

 

 無視をするのはいい度胸だ。いや、単純にこの賭事に関係していないのかもしれない。だが整備員が全員関わっているのに、そんなことがあるだろうか。

 

 シグナムは彼のパソコンをのぞき込むと、その考えが杞憂であることがわかる。

 

 よく言えば古風、悪く言えばかなりボロボロのノートパソコンには高町なのはを筆頭とした、様々な人間の名前が羅列されている。それは今回賭の対象になった人物のもので間違いない。

 

 シグナムは額に青筋を立てると、男の肩を掴み大きく揺らす。

 

「おい、貴様。これだけ堂々とやっておいて、まだシラを切る気か!」

 

「………………」

 

 ぐわんぐわんと男の体が揺れる。だが彼はパソコンの画面から目を離すことなく、シグナムのことなどまるで意に介していなかった。

 

「き、貴様っ!」

 

 男の態度に、シグナムの怒りはさらに増す。

 

 元機動六課のシグナムと言えば、管理局では名を知らないものがいないほどだ。また彼女を怒らせればどうなるか、それを知らないものもいない。それゆえに、ヴァイスを含めたヘリの整備士は皆この場から逃げ出したのだから。

 

 シグナムは肩から手を離すと、彼の目の前に移動する。そして右手をめいっぱい広げると、それを振り下ろした。

 

「――――――っ!」

 

 パソコンの画面が閉じられるのに気がつくと、男はさっと両手を離す。その瞬間、画面越しだった二人の視線がようやく重なった。

 

 男の歳は二十代後半くらいであろうか。手入れをする気がないボサボサの髪の毛と無精ひげはあまりみていて気持ちのいいものではない。

 

 いつも清潔している誰かさんの旦那とは大違いだ。

 

 だが不快に思ったのは男も同じのようだ。男は閉じられたノートパソコンをそっと撫でると、シグナムを睨みつけた。

 

「……何のようだ」

 

「それは先ほどから何度も言っているはずだ。貴様、いくら遊び半分とはいえ、仲間を賭事の対象にして恥ずかしいと思わないのか!」

 

「賭事の対象って。……ほかの奴らは知らないが、俺はその賭には一切関与してないぞ」

 

「ほう、今更シラを切る気か? だが残念だな。さきほど貴様が賭事のデータを表示しているのを私は見ている」

 

 それが動かぬ証拠だとシグナムは詰問する。彼女のその眼力は、返答次第では容赦はしないとも言っていた。

 

 いくら平和が続いているからと言って、最近気が緩みすぎている。ここらへんで、誰かにしらしめる必要も彼女は少し前から考慮していた。

 

 今のシグナムにはそれだけのすごみがあった。大体のものならすぐにその場から逃げ出すか、それとも土下座して謝るだけのプレッシャーは放っていたのだ。

 

 だがその男はそんなシグナムから視線を外さなかった。

 

「…………はっ、俺が整備士失格ね。まあ配属されて日が浅い。それは認めようじゃないか。だがな、そんなこと言ったらあんただって前線にでる局員失格なんじゃないのか?」

 

「い、言うに事欠いて!!」

 

 前線にでる局員失格。つまり戦士として失格だと彼は言ったのだ。ベルカの騎士の将であり、管理局でも輝かしい戦果を出しているシグナムには一生縁がないと思われた言葉。彼女は思わず声がうわずってしまう。

 

「わ、私の何が失格だと言うんだ!」

 

「そんなの決まってるだろ」

 

 男は右手をあげるとそのままシグナムの方に持っていく。――――そして、そのまま彼女のたわわな胸を握りしめていった。

 

「ふっ、ふぁ?」

 

 突然の出来事に思考が停止する。いま何が起こっている。この男は何をしているんだ。

 

 思わず変な声をあげてしまったことなど、気づく間もなく。男はシグナムの胸を手のひらの上で弾ませると、無表情のまま言葉を続ける。

 

「こーんなでかい胸してよ。戦闘中絶対じゃまだよな」

 

「あっ、なっ、なっ。――――何をするんだああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ――――バシィンッ!!

 

 シグナムらしからぬ悲鳴に似た声と共に、頬を叩く音が整備室に響きわたる。

 

 賭事の注意から始まった頬へのビンタ。これがシグナムと彼との初めての出会いであった。

 

 

 

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