ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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その言葉をまだ彼女は知らない

 優秀な『管理局中央情報室』のおかげで未然にテロを防ぐことができた。そのニュースが流れてから、早三日が経つ。

 

 防衛システムを破壊はしたが、データの流出を防いだシグナムもまた表彰ものの功績を称えられた。

 

 これにて今回のバグ事件は一件落着。そう思えなかったのは、表彰されたシグナムと情報室の面々だけであろう。

 

 コウキに謹慎処分がでたのは、事件の次の日のことだ。整備士が勝手に情報室に入り、作業の妨害をした。そんなありえない罪に問われ、彼は五日間の謹慎処分を受けている。表面的には上層部の計らいによりそれだけの罰で済んだということになっているらしい。

 

 その言葉を他のものから聞いたとき、シグナムは怒りを隠せなかった。

 

 だが当のコウキが騒ぎ立ててほしくないと。みんなが無事だったんだからそれでいいと頭を下げたため、誰も口に出すことはなかった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 もうすぐ夕暮れになるであろう。シグナムはバグ事件の表彰のために溜まってしまった仕事を全て終わらせると、ピンク色のポニーテールを揺らし小走りで目的地に向かっていた。

 

「確かユウキの話ではここらへんに。――――いたっ」

 

 公園の一番隅のベンチ。コウキは魂の抜けたような顔で、ぼーっと茜色の空を眺めていた。

 

 シグナムは息を整えると、ゆっくりと彼に近づく。

 

「こんなところで、き、奇遇だな。謹慎中なのに、こんなところにいていいのか?」

 

「ん、あっ、あんたか。……あー、まあよくはないのよなー」

 

「……隣いいか?」

 

「あー」

 

 カラ返事もいいところだ。だが彼がこうなってしまうのも仕方がない。コウキはあのバグとの戦いで、大切な半身を失ってしまったのだから。

 

 ぼーっと空を見上げるコウキに、シグナムは何か声をかけようとする。だが何と言っていいか、彼女にはわからなかった。

 

 生半可な想いが今の彼に届くはずがない。どうして自分はこんなにも口ベタなのか。

 

 どうして彼がこんなにも沈んでいるときに、何もしてあげられないのか。

 

 シグナムはそんな自分を恥ずかしく思いながら、待機状態のレヴァンティンを手のひらに乗せる。

 

 自分は戦うことでしか役に立つことができない。そう戒めるかのようであった。

 

「あんたのデバイス。――――そうか、もうそれくらいやったほうがいいよな!!」

 

「なっ、なんだいきなり!」

 

「いやー、ずっと考えてたんだ。ノート型でどうやって馬力を持たそうかって。そうか、いっそ外付けでカートリッジシステムをつけるのもありだな。あー、そうなると放熱のほうをさらに強化しないと熱暴走起こしちまうか」

 

「先ほどから何を言ってるんだ?」

 

「何を言ってるって、新しい俺のノートパソコンの話だよ。どっちにしろ市販品を買う気はないし、自作をしようって思ってな。あんたが来てくれたおかげで、いい案が浮かんだ」

 

「はっ、はぁ……。お前は悲しんでいたんじゃないのか」

 

「いやー、この二日間はさんざんっぱら悲しんださ。胸にぽっかり穴があいちまって、何してても身が入らなかった。だけどじいちゃんは言ってたんだ。例え弱くても強くなれって。今だってあのパソコンのことを思うと苦しい。だけどそんな悲しさを持ったままでも、前に進もうって。じいちゃんの言葉に応えられるようにがんばろうって思ったんだ」

 

 そう言葉にするコウキの顔にはやはり暗い陰があった。だがそれでも前に進もうとするなら、シグナムはそれを否定したりはしない。

 

 どう声をかけようかと思っていたシグナムは、肩の力が抜けてしまうとベンチの背を預けた。

 

「外装はじいちゃんのパソコンを使うとして、中身は全部ショップを回らないとな。――――謹慎期間もあと二日あるし、明日にリストアップして、明後日はいっちょパーツや巡りでもするかな」

 

 コウキはその場から立ち上がると、ぐっと拳を握り込む。そんな彼を見ると、シグナムは慌ててその場から立ち上がる。

 

 彼の背中を見ると、シグナムは右手を伸ばしては、引っ込め、また伸ばす。そんなことを何度も繰り返すと、やっとのことで、コウキの袖をチョンと握り込んだ。

 

「じ、実を言うと私も明後日は休日なんだ。だ、だからその、一緒に、だな……」

 

「一緒にってパーツ屋巡りなんてつまらないぞ」

 

「そ、それはそうかもしれないが、その、えっと……」

 

 しどろもどろになりながら、シグナムは考える。何か機転を効かせよう。だけど、どうすれば――――!!

 

「か、借りだ。そ、そうだ私にはお前に借りがある!!」

 

 数日前、胸を揉まれてシグナムは思い切り彼を殴りとばしてしまった。そうでなくても、無理矢理卵焼きをつっこんだりと、借りはドンドンと重なるばかりだ。

 

「ここらへんで借りを返しておきたい。だ、だから私も買い物につきあうぞ!」

 

「あー、確かに荷物は多くなるけど。でも本当に面白くな――――」

 

「面白い面白くないは関係ない! いいか、一緒に行くと言ったら絶対にいく。ベルカの騎士に二言はないからな!!」

 

 そう言い放つと、シグナムは通勤鞄からメモ用紙を取り出す。そこに自身の番号を書き込むと、そのまま彼の胸に押しつけた。

 

「明後日は絶対に行くんだからな! だ、だからちゃんと連絡を入れるんだぞ。待ってるからな。コ、コウキ……」

 

 管理室で言葉にして以来、初めて彼の名前を口にする。シグナムは今まで感じたことのない胸の動悸を感じながら、ぎこちなく彼に背を向ける。

 

 そんなガチガチな彼女をみて、コウキは笑みを浮かべ声を上げた。

 

「じゃあ今日の夜にでも連絡する。また明後日な、シグナム」

 

「――――あ、ああ」

 

 シグナムはそう返事をすると、その場から走り出してしまう。

こんな約束をして、いきなり走り出してコウキは自分をおかしく思いかもしれない。

 

 だがそれでも今の顔を見られるよりずっとマシだった。

 

「わ、私はいったいどうしたと言うんだ。顔の緩みが、お、治まらない」

 

 いくら頬を引き締めようとしても、緩んだそれは戻る様子がない。それに先ほどから体調がおかしかった。

 

 心臓はドクンドクンと高鳴り、頬の熱はいっこうに取れる気配がない。

 

 この気持ちをどう言葉に表していいかシグナムはまだ知らない。しかしひとつのことだけは確かにわかっていた。

 

「シグナム。シグナムか、ふふ」

 

 コウキに呼ばれた自分の名前を何度もリフレインさせていく。

 

 シグナムは人に顔を見られないようにと、下を向いたまま家路へと向かっていくのだった。

 
















あとがき


そんなわけでシグナムさんの短編小説でした。

お久しぶりです、白翼です。

ヴィータちゃんが終了後、指を休めること二週間。そのあとに、久しぶりにDVDを借りまくって見て、宮部みゆき文庫新作小説を読んだり、遊戯王やガンダムビルドファイターズのアニメが楽しすぎて何度も見返しての今回の小説です。

もともとこの小説は昔から考えてたものでした。

といいますか、あとがきを書いている時点で思ったのですが、ヴァイスが賭け事で盛り上がり、それをシグナムが叱る。

これってなのはの公式アンソロジーを読んでないと、わからないんですよねw

まあ気づいたときはもう書き上げたあとなので、どうにもこうにもでしたが。

持論ですが「ヴィータちゃんが好きな人は、大体シグナムさんも好き」との考えのもと、文章が短いということもあり、こちらのほうにあげさせていただきました。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

三週間も小説を書いていなったので、いざ書き始めは書けるのかなと少々不安になっていました。

ですがまあ、書き始めたら進むこと進むこと。なんとか11月の初めに間に合ってよかったです。

この続きも考えてはあるので、またその時がきたら書きたいと思います。

とりあえず白翼は今年残り二ヶ月をどのように燃やそうかと決めたので、それに向けて頑張って行きたいと思います。

ヴィータちゃんとのときと違い、シグナムさんが自らの思いに気づくのは相当先になりそうですが、それはごゆるりとお待ちください。


さてさて、それでは指もちゃんと動くとわかったところで、今日のところはこのへんで。

またそのうちにお会いしましょう。

ではは~ ノシ
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