ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

78 / 142
シグナムさんは男友達が少ない2 心の距離と言葉にできない想い
聞こえる声 見えぬ彼


 情報管理室での事件が終わり、公園での約束から二日後。いよいよ今日は約束の日であった。

 

 ――――ちら。

 

(また見られているな。……やはりいつもの服でくるべきだったか)

 

 駅前の公園。噴水の前のベンチで座っているシグナムは、今日何度目かの視線に心の中でため息をつく。

 

 だがそれには心当たりがある。特徴的な腰まで届くポニーテールはいつものままだが、その服装に問題があるのだろう。

 

(しかし管理局の制服で来るわけにはいかないし。……やはりジャージとジーンズでよかったのかもしれないな)

 

 ここ何年かは、休日になると浜辺で子供たちにシューティングアーツを教えることが多かった。

 

 そのためか、服装は比較的動きやすいものになり、こういった外出着をあまり所持しなくなってしまった。

 

(確かにヴィータやサクヤに急遽服選びを頼んだかもしれない。だけど私がこんな服を着て似合うはずがないんだ)

 

 シグナムは改めて自分の服装を見る。上はノースリーブの厚手の紫のシャツ。襟から胸のあたりにかけて装飾されたリボンが特徴的だ。

 

 下は白のロングスカートだ。スネまで隠れるものなど、何年ぶりに履いただろうか。

 

 普段よりもむしろ露出が減っているにも関わらず、上品な服装に恥ずかしさがこみ上げた。

 

――――ちら。

 

 再び道歩く男性に好奇の視線を向けられる。シグナムはとうとう視線に耐えられなくなると、ベンチから立ち上がった。

 

「だ、駄目だ。やはり今からでも着替えに帰ろう!」

 

「えっ、もう帰るのか。いきなりだな」

 

 聞き覚えのある声にシグナムの体がビクリと固まる。彼女は噴水の時計を見ると、まだ待ち合わせに十五分はあること理解する。

 

 ギチギチとさび付いた機械のように、後ろに振り返る。だがそこにはその声の主がいなかった。

 

「うん? 今あいつの声が聞こえたような」

 

 だがいくら見渡しても、彼の姿が見えない。視線に入るのは、緑のミリタリージャケットにジーンズ姿のこぎれいな男だけだ。

 

「まあまだ集合時間まで時間がある。あいつが早めに来るわけもないか」

 

「あいつ? あいつって、ほかに誰か来るのか??」

 

「ほかに来るもなにもまだコウキは。――――なっ!?」

 

 視線の先の男性から聞き覚えのある声が聞こえた。いったいどこから声を出しているのか。完全に気配が消えている。どこに隠れているのだ。

 

 シグナムは騎士の誇りにかけて、あたりを索敵する。そんな彼女を見て、目の前の男はちょんちょんと彼女の肩を叩いた。

 

「いや、それは何かのギャグなのか。別に無理に一緒に出かけなくてもいいんだぞ」

 

「いや、だから私はコウキと出かける約束を。……んん」

 

 肩を叩いた男と目と目が合う。彼は呆れたような顔をしている。シグナムは声の出どこと、男の顔を何度も何度も往復させると、驚いたように声をあげた。

 

「コ、コウキ! お前がコウキなのか!?」

 

「いや、お前がもなにも俺が俺でなくて誰になるだよ。ほら、このノートパソコン」

 

 目の前の男はバッグのなかの型遅れのノートパソコンを見せる。ところどころに焼け焦げたあとが見えるのは、確かに彼のパソコンだと物語っていた。

 

「ど、どいうことだ。わ、私の知ってるコウキは、髪の毛も髭も伸ばし放題で、いつも汚れた作業着を着ているはずだぞ」

 

「そりゃ仕事中だから作業着を着てるだろう。髪の毛は昨日床屋に行ってきた。ついでに髭も剃ってもらった。ああ、この服は結構前にユウキの奴が見繕ってくれたやつだ。『上に立つ人間なんだから、休日であってもあまりみずぼらしい格好をしないでください』とか何とか言って。まあそれが今や下っ端整備士だから笑っちゃうよな」

 

「あ、あああ、そ、そうだな」

 

「んっ? どうしたんだ変な顔をして。それに少し顔が赤くないか??」

 

「そ、そんなことないぞ。私はいたって冷静だ!」

 

 シグナムはそれだけ言うと、バッと背を向けてしまう。そして両頬に手をあてると、必死になって心を落ち着かせた。

 

(こ、これは。……不意打ちだ)

 

 あのズボラなコウキのことだ。休日に出かけるとしても、きっと上下ジャージで髪の毛も解かしていないとばかり思っていた。

 

 だからこそヴィータやサクヤに選んでもらったからといっても、こんな気合いの入った服ではと思ってしまったのだ。

 

(よ、よかった。二人に服選びを手伝ってもらって)

 

 もしジャージにジーパンで来ていたら、それこそ自分は家に帰ってしまっただろう。

 

 シグナムは両頬を何度か叩くと、心を落ち着かせた。

 

「ん、んん。それで今日はどこに行くんだ」

 

「えっ、ああ。とりあえず駅まで移動する。それでパーツ探しだ。それより。……なんか俺が来る前にいいことでもあったのか?」

 

「――――ど、どうしてだ!!」

 

「だって顔がにやついてるからよ。随分とご機嫌だなと思って」

 

「―――――――ッ!!」

 

 シグナムは再び背を向けると、両頬を強く引っ張る。

 

 二日前、コウキと別れてからしばらく頬の緩みが治らなかったのは確かだ。

 

 あまりにも治らないせいで、夕ご飯を家族と一緒に食べられなかったほどである。

 

(いったいどうしてここまで平常心を乱す。落ち着け、落ち着くんだ)

 

 ぐぃーっと頬を最後に引っ張ると、シグナムはキリっと引き締まった顔をして見せた。

 

「……ん、んんっ! 待たせてしまったようだな」

 

「いや、別にいいんだけど。ほっぺたが真っ赤だぞ」

 

「それはどうでもいいことだ。ほら、とりあえず駅まで行くのだろう。早く行くぞ」

 

「お、おお」

 

 近場の駅なら、場所はわかる。シグナムはできるだけコウキの顔を見ないように歩き出すと、彼もその後に続いていった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。