ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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言葉にできないその気持ちを

 パーツ候補を集めるには二時間ばかり時間がかかる。

 

 そういわれた二人は表通りに向かっていた。

 

 コウキは始め、自分のパソコンパーツなのだから残ろうと言っていたが、アカノ達の決死の説得によりシグナムと共に外にでていた。

 

 たった数十分。あの暗く細い道を抜ける間に、彼女のテンションは百八十度変わってしまっていた。

 

 無言のままフラフラとするシグナム。そんな彼女を見て、コウキは心配そうに声を上げた。

 

「大丈夫かシグナム? 調子悪かったら、本当に帰っても大丈夫なんだぞ」

 

「…………………………いや」

 

 思わず「ならそうさせてもらおう」と言いそうになり、何とか声を絞り出す。

 

 ここで帰ってしまっては、借りを返すことができない。だが借りを返し終わったら、きっと自分達の関係は終わってしまうのだろう。

 

(いや、終わるもなにもまだ何一つ始まっているわけではない。…………ただ日常に戻るだけなのだな)

 

 そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。

 

 そう、元に戻るだけ。お昼休みにわざわざ整備室に行くことも、入ることをはばかられそうな細道に行くこともない。たったそれだけのことだ。

 

 だがそうだとしても、一言言いたいことがある。シグナムは一度心を落ち着かせると、それでも弱々しく声を上げた。

 

「それにしても。…………殺されるは言い過ぎではないか」

 

 確かに自分は腕っ節が強く、戦闘狂である自覚もある。コウキのことも何度か殴りとばしたこともあった。

 

 だがこれでも自分もまた乙女だ。真実だとしても、冗談混じりだとしてもそういったことは言ってほしくないのが本当の気持ちである。

 

 だがコウキは違う。あっけらかんとした顔で、ぶんぶんと手を動かした。

 

「いやいや、絶対に殺されるって。間違いないって」

 

 あくまで真剣に鬼気迫る顔で言われると、シグナムはそれ以上なにも言えなくなってしまう。

 

(私は、そんなに凶暴な女に見えるのか。…………そうだな。そんな女に、何かを想うわけないか)

 

 ズキリと心が痛むと、シグナムは思わずその場で立ち止まってしまう。コウキの背中が少しずつ、少しずつ小さくなる。もしこのまま止まり続けたら、彼は自分を置いてどこかに行ってしまうのだろうか。

 

 いや、置いて行くもなにも。もともと私はコウキのどこにもいなかったんだな。

 

 ならこれ以上はいいではないか。コウキに嫌々つきあわせているのなら、私は――――。

 

「わかってないなー。お前、自分がどれだけ人気者か知らないのか」

 

「――――えっ!?」

 

 あまりにも予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。コウキはゆっくりとこちらに振り返ると、「はぁ」と肩を落とす。

 

「知らないみたいだから言うけどよ。お前って整備士のなかではかなり人気あるんだぜ」

 

「に、人気がある? そんなの初耳だぞ」

 

「そりゃ内々で騒いでるだけだからな。一介の整備士が、管理局のエリート様になんて言えるわけないだろう」

 

「そ、そんなわけない。私はいつもあいつらを怒鳴りつけているだけで。その、暴力的な女ではないか」

 

「まぁー、ヴァイスさんは違うと思うけど、意外にも多いんだぜ。――――賭事やって騒いでれば、シグナムが叱りに整備室に来てくれるかもってやつ」

 

「は、はぁ?」

 

 それこそわけがわからない理屈だ。どうして好意があるにも関わらず、わざわざこちらを怒らせようとするのか。

 

 きっとそういった整備士の気持ちは、管理局の英雄と呼ばれるまでのシグナムにはわからないのだろう。コウキは彼女の元に歩み寄ると、説明を続ける。

 

「俺とシグナムが弁当食べてたとき、よくハンカチで涙拭いてる奴らがいただろう。いやー、あの時は大変だったんだぜ。シグナムとどういう関係だって。お前新人のくせに調子乗ってるんじゃないって、もうものすごい勢いでな。ほんと、あの時は殺されるかと思った」

 

「――――あっ」

 

 殺される。その単語がでた瞬間、先ほどの彼の言葉が自分の中でストンと落ちていった。

 

 殺されるというのは、なにも自分に向けられた言葉ではない。嫉妬に狂った整備士から言われた言葉なのだ。

 

 きっとシグナムが整備室に来るたびに、コウキは随分と追いつめられのだろう。

 

「そ、それはすまなかった。……私の知らないところで随分と迷惑をかけてしまったみたいで」

 

「…………いや、まあそれに関してはいいんだけどな。俺は、その、楽しかったし」

 

「い、今なんて」

 

「だから俺はシグナムといられて、その、結構楽しかったって言ってるんだよ。迷惑だったら、元から追い返してるって言うんだ!」

 

 ぶっきらぼうにそういうと、コウキは背を向けてしまう。だがそうしてもらえて本当によかったとシグナムは思っている。

 

 もし今の顔を見られたら、自分は恥ずかしくて死んでしまうと思ったからだ。

 

(コウキが私といて楽しかったって。わ、私は邪魔ではなかったんだな)

 

 先ほどまでのテンションが嘘のように、鼓動が早くなる。だがならどうしてという思いが、彼女の中に浮かぶ。その疑問の取っ掛かりは、コウキのほうから投げかけられた。

 

 その疑問は、彼の言葉で具体的なものとなった。

 

「だから今日は悪かった。……借りがあったからって、無理矢理来てもらって。本当に悪かったと思ってるんだ」

 

「なっ、なにを言ってるんだ」

 

「だって本当は嫌だったろ。借りがあるからって、俺と一緒に出かけるの」

 

 その言葉でシグナムの頭が真っ白になる。

 

 そんなことはない。自分はコウキと出かけると決めた日から、ずっとドキドキしていた。

 

 緊張もしたし心配もしたけど、それでもその日が早く来て欲しいと思っていた。

 

 シグナムはぱくぱくと声を出せずに、口を開けたり閉じたりする。コウキはそんな彼女を見ると、少し投げやりにこう口にした。

 

「だってお前そっぽ向いてばかりで、ずっと不機嫌そうだったじゃないか。……気合い入れてきた自分が馬鹿みたいでよ」

 

「――――――――」

 

 今度こそ声がでなかった。だがそれでも回らない頭で、シグナムは今日のことを思い出していた。

 

 コウキと公園で待ち合わせして自分はなにをしたか。

 

 電車での移動中。街に着いていたから。

 

 果たして今日自分は何度彼の顔を見ただろうか。

 

 そして何度彼の視線から顔を背けてしまったのだろうか。

 

 いつも、いつもそうであった。勝手に自分で勘違いして、でもやっぱり始めに彼を傷つけているのは自分の方で。

 

 シグナムは歩き始めた彼に手を伸ばそうとする。だがその肩をつかむことができなかった。

 

 きっと今彼を振り向かせても、うまく言葉にできない。それは当たり前だ。まだ彼女自身、この思いを理解しきれていないのだから。

 

「あっ、うっ……」

 

 だからこそシグナムは走り出した。

 

 言葉にはできない。文字にも表せない。

 

 彼女にできることはいつだって体を張ることだ。だからこそ、彼女は今の気持ちをそのまま行動に移した。

 

「えっ、お、おい、どうしたんだよ!」

 

「~~~~~~~!!」

 

 シグナムは勢いよく彼の腕とると、そのまま体全体で抱きしめていく。突然の抱擁にコウキのおどおどしたように、あたりを見渡す。

 

 先ほどまでのやりとりを聞いていた通行人も多いのだろう。二人の存在は注目の的であった。

 

「と、とりあえず人も見てるし、その」

 

「…………いい。周りなんてどうでもいいんだ」

 

 シグナムは頭の先まで真っ赤になりながらも、それでも抱きしめた腕を放さなかった。

 

「ご、誤解させてすまなかった。だ、だけど、これ、これだけは勘違いしないでほしい。――――私もコウキと一緒にいて楽しかった。今日だって、ずっと、その、楽しみにしてたんだ」

 

 プシューと蒸気のあがるような音が聞こえそうなほど、シグナムは恥ずかしさにもだえる。

 

 そんな彼女の言葉を聞いて、コウキもまた顔を真っ赤にした。

 

「と、と、と、とと、とにかくどっか飯でも食べに行くか」

 

「そ、そそ、そうだな。そうするとしよう」

 

 二人はゆっくりゆっくりと歩き出す。ガチガチに緊張した二人は、何とも歩き辛そうだった。

 

 だがどちらからも離れることはなく。二人は表通りを歩いてくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電気街へ出かけて数日後のことだ。

 

 シグナムは整備室に向かうと、懐かしい姿をコウキを見た。彼女は壁に寄りかかってあぐらをかいている彼の隣に腰を下ろす。

 

「パソコンの自作、終わったんだな」

 

「まあ自作っていっても、用意してもらったパーツを組み上げるだけだからな。時間さえできれば、あとはパパッとな」

 

「今はなにをしてるんだ?」

 

「また地雷ゲームだ。今までのデータが消えたから、改めて記録作りだな」

 

 カチカチとマウスを動かすと、次々とマスを開けていく。無邪気にゲームをしているコウキの横顔をシグナムは微笑ましく見る。

 

 そんな彼とふと目が合う。どうやら爆弾を踏んでしまったようだ。

 

「そういえばその、ありがとうな」

 

「ん、なにがだ」

 

「いや、ヴァイスさんから聞いちゃったんだけど、シグナムが説明してくれたんだろう。謹慎は不当なもので俺は悪くないって」

 

「あ、あの馬鹿。…………だがまあ、その。余計なことをしてしまったな」

 

「謝るなよ。こっちは感謝してもしきれないくらいだ。なんせ俺は整備士としては、まだまだ下っ端だしみんなの信用もないしな。……事情が事情だし、言い訳もできないし、俺は人付き合い悪いからなに言われるかっておどおどしてたんだ。本当に感謝してる」

 

 パソコンを下におろすと、コウキは深々と頭を下げる。シグナムは慌てたように手を振ると、彼に顔をあげさせた。

 

「き、気にするな。もとより不当な処罰だったんだ。それでも力になれたなら、その、よかった」

 

「ああ、本当に助かったと思ってる。――――昼飯、食べるか」

 

「……ふふ、そうだな」

 

 最後には二人とも笑みを浮かべると、コウキはパンを。シグナムは弁当箱を取り出す。

 

 コウキとはご飯を食べている間は、あまり会話がない。辺りが静かになると、シグナムはそうだと思いキョロキョロとあたりを見た。

 

「何だ。やはり嘘ではないか」

 

「なにがだ?」

 

「整備室に私目当ての作業員がいるということだ。今日は誰も私たちのことを見ていないぞ」

 

 電気街でコウキに言われたときは、言われてみればという気持ちがあった。だが改めて見てみれば、こちらを見ている人など誰もいなかった。

 

 やはりこんな凶暴な女に興味を示す人などいない。シグナムがそう自己完結しそうになると、コウキは呆れたような顔をした。

 

「そりゃまあ。……俺の謹慎中にシグナムがヴァイスさんを説得して。必死に説得したのが俺のためだってわかれば、もう誰も近づかないと思うぞ」

 

「うん? それはどういうことだ?? ――――全く殺されるなんて、誇張もいいところだったな」

 

「誇張なんかじゃないって。本当にすごかったんだからな」

 

「だが証拠がないじゃないか」

 

 実際に見ている人間がいないのなら、それはコウキの被害妄想にすぎない。シグナムは「フフン」と鼻を高くすると、コウキはその反応にすぐ反論した。

 

「いや、証拠もなにもないと思うぞ。――――だってお前すげえ可愛いじゃん」

 

「はっ!? ………………今なんて言った」

 

「いや、だから。あー、可愛いってよりは美人のほうがあってるか。いや、でもこの前の私服は可愛かったよな。まあとにかく顔もプロポーションも完璧なシグナムにファンができないわけないって」

 

「美人? 可愛い?? 私が???――――なっ、なっ、なっ、なああぁぁぁぁ!?」

 

 シグナムはボンっと顔を真っ赤にする。そんな彼女の構えを見て、コウキはスッと冷や汗を流した。

 

「えっと、シグナムさん。その構えた拳は何なんでしょう、オグフッ!!」

 

 右ストレートが綺麗に腹にめり込まれる。床で悶絶するコウキを見ると、彼女はハッとしたように自らの拳を見た。

 

「す、すす、すまない!」

 

 シグナムはそれだけ言うと、弁当箱を畳んでそのまま走り出してしまう。

 

 整備室のドアを勢いよく開けると、顔を真っ赤にしながら廊下を駆け抜けていった。

 

「や、やってしまった。私はどうしてこう学習をしないんだ」

 

 頭には先ほどのことに対しての後悔がよぎり続けている。だがそんな思いと違い、彼女の顔は引き締められないほどゆるんでいた。

 

「綺麗、か、可愛いなど。……異性にそんなことを言われたのは初めてだ。ほ、本当にそうなのだろうか」

 

 時空管理局に入隊してから、シグナムは仕事上何度も男性と話す機会はあった。

 

 だが彼女の強さ、整った容姿、そして階級の高さのせいで、まさに『高嶺の花』状態だったのだ。

 

 そんな彼女に声をかけられる異性などいるはずもなく。まずなにより、彼女を誉められる異性自体存在していなかったのだ。

 

 だがこの際他人の評価などどうでもいいのかもしれない。

 

 コウキがそう思ってくれている。その間違いようのない言葉にシグナムは胸を躍らせる。

 

「それにしてもまた私は手を出してしまって。――――まだまだ借りは返し終わらないみたいだな」

 

 コウキには本当に悪いと思っている。だがパソコンの完成も見届け、次に会うキッカケを失っていたのも確かだ。

 

 次はなにをしてあげようか。いや、まずは先ほどのことを謝ろう。

 

 彼女は通信用のデバイスを取り出すと、一度大きく深呼吸をする。

 

 そして震えた指でコールボタンを押していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















あとがき

そんなこんなで、お久しぶりの白翼です。

最後にあげたのが、クリスマスなので随分と時間が経ちましたね。

そのあとにインフルエンザにかかったりと、なかなか踏んだり蹴ったりでした。

しかしそんな俺を心配してくれて、さらに元気づけてくれようと、相方のKさんが、なんと、なんと。

ミニスカサンタのヴィータちゃんを描いてくれました!!

いやー、嬉しかったですね。去年のクリスマスは特にサンタヴィータ率が激低だったので、心の清涼剤でした。

KさんのピクシブURLは↓です。

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41580929

もしかしたら、シグナムさんの絵に飛んでしまうかもしれませんが、作品一覧で探してもらえると幸いです。

あとブクマしてもらえたら、彼も喜んでくれると思います!!



さてさて、小説の話を。

ここ最近書いていた一次小説(中編)を書き終えて、久しぶりに二次のほうに戻ってまいりました。

今回はシグナムさんでしたけど、どうだったでしょうか。

私はこの小説を書きながら、やはりシグナムさんも好きだなと再認する感じでした。

やっぱり普段姿とギャップがでる(姿を妄想できる)キャラは本当に大好物です。

更新ペースはどうなるかはわかりませんが、またちょくちょくあげたいと思うので、その時はよろしくお願いします。

さてさて、とりあえず本編以外の告知をいくつか。


これは毎回のことなのですが。イベントに出店予定です。

リリカルマジカル17
2014年3月30日(日)
11:00-15:00
大田区産業プラザPiO大展示ホール


まさかの申込書とネットの締切日時が違うという恐怖に気づきギリギリ申し込みに間に合いました。

出す本は文庫版 シグナムさんは男友達が少ない の予定です。

まだどうなるかはわからないのですが、せっかくなんで18禁の話でも織り込もうかと思っています。

値段とかの話は、このハーメルンさんでするべきことではないかと思うので、そちらはほぼ更新してないホムペあたりでぼちぼちやりたいと思います。


で、次の告知はこれまたイベント後の話なのですが、自宅通販などをやってみようかと思ってます。

某超有名サイトで自宅通販をしている姿を見て、「自宅通販、そういうのもあるのか」という気分になりまして。

とりあえずイベントで全部の本がさばききれるわけもなく。ただ部屋を圧迫しつづけてるだけなら、ちょっと頑張ってみようかなと。

まあこれも詳しいことは金銭が関係あるので、あまり深くはしませんが、今までの小説を自宅通販するかもしれない。と、それぐらいに思っていてください。


そしてしつこいですが、もう一つ。

とりあえず来週中に二次になるか、一次になるかはわかりませんが、昔の作品を蔵出ししたいと思います。

なんといいますか、様々な理由があって書いたはいいが、あまり人に見てもらってない作品がたくさんあるので、このままパソコンの肥やしになっているのもどうかなと思いまして。

で、告知方法なのですが、こちらハーメルンさんの活動報告や、Twitterなどでしたいと思います。

Twitterでの名前も  白翼 

ユーザーを直接表示で探す時は @hakuyoku123

で探していただけるとありがたいです。

といいますか、ブログとかホームページはあまり更新しないので、無言フォローで全然おkなので、Twitterのほうにきていただけると、かなりありがたいです。

通販などの告知もいつ更新されかわからないホムペ見るよりも、こっちのほうがチェックしやすいと思うのでw

さてめちゃくちゃあとがきにいろいろ書きましたが、今回はこんなところで!

次は来週に出すであろう、蔵出し作品でお会いしましょう!!


ではは~ ノシ
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