ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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起爆した二つの地雷

「つまり、突然知らない少女がなれなれしくパソコンに触ってきたと」

 

「いや、本当にそうなんだって」

 

「……まあそのようだな。コウキのパソコンのことも知らなかったようだしな」

 

 コウキの知り合いであるなら、彼が型遅れのパソコンを使っていることを知らないわけがない。

 

 シグナムはズイッと無言で飲み物を押しつけると、どっしりとベンチに座り込んだ。

 

 コウキは紙コップの中身をのぞき込むと、恐る恐る声を上げる。

 

「だ、だけどよ。初めから見てたなら、止めに入ってくれたって」

 

「――――何か言ったか」

 

「い、いえ、何も」

 

 シグナムに一喝されると、コウキは見る見ると身を縮こませていく。そうやって、落ち込んでいたからだろう。シグナムもまた落ち込んでいることに、彼は気づかなかった。

 

(入り込めるわけないじゃないか。あんなに親しそうに話しかけられていたのに。……それに、私にはわからなかった)

 

 わからなかった。それはこの型遅れのパソコンをコウキがどれだけ大切にしていたかということだ。

 

 それがわからずシグナムは彼のパソコンをぞんざいにあつかった。

 

 だがあの少女はそれを一目で見抜いたのだ。自分に見抜けなかったことを、たった一目で。

 

 それを認めてしまうと、何故か心の中がもやもやした。そうしているうちに入り込むタイミングを失い、結局少女が離れるまで待つ羽目になってしまったのだ。

 

 シグナムは唇を尖らせると、紙コップの中身を口に運ぶ。そしてコウキの膝の上をちらりと見た。

 

「そういえば、先ほどは何をしてたんだ」

 

「え、ああ。いつもの地雷ゲームだ。中級者向けのを起動してたんだけど、なんか調子がよくなくて。そしたら、あの女の子がパパッとクリアーしちゃってさ。そういえば、その時に気になること――――」

 

「――――私もやるぞ」

 

「……んっ?」

 

「だから私もその中級をやると言ってるんだ。確かデスクトップにショートカットがあったはずだな」

 

 シグナムはコウキの了解を取ることなく、マウスを手に取る。そして膝上のパソコンをこちら側に寄せると、地雷ゲームをダブルクリックした。

 

「ど、どうしたんだよいきなり」

 

「どうしたもこうしたもない。ただ地雷ゲームがやりたくなっただけだ。あの少女にもやらせたのだから、問題はないだろう」

 

「い、いや、別に問題はないけど。とりあえず俺の膝の上からパソコンを」

 

「あの少女もこの体勢でやっていただろ。なら、問題はないはずだ」

 

 コウキの声など聞く耳も持たず、シグナムは地雷ゲームの中級を起動させた。

 

「あっ、くくっ、だから太股の上でマウスはくすぐったいって」

 

「先ほどは耐えてたのだから、今も耐えろ!」

 

「っていうか、何をさっきから怒ってるんだ」

 

「知らん!」

 

 そう一刀両断すると、シグナムは地雷ゲームを始める。

 

 コウキの股の上でカチカチとマウスを動かす中、シグナムは先ほどの自分の言葉を訂正した。

 

(知らん。ではないな。……わからない。それが私の本音だ)

 

 とにかくムシャクシャしていた。何がどうと言われるとわからないが、もしかしたら全てに対してかもしれない。

 

 だからこそ、先ほど二人が行っていたことを全てなぞっていこうと思った。そうすれば、この胸のモヤモヤの確信にたどり着けると思ったからだ。

 

「うっ、ぷぷっ」

 

 マウスが太股をなぞるたびに、コウキの押し殺した声が聞こえる。シグナムはそれを完全に無視すると、画面を眺める。

 

 地雷ゲームの初級は、ここ最近何度かクリアーできるようになっていた。だが中級に入ると、そのマスの多さはざっと倍。さらにマスに書かれた数字も、『4』『5』など大きいものが増えていた。

 

 とりあえず角から開けていこう。シグナムはスッとマウスを移動させると、同時にコウキの声が漏れる。

 

「うぁっ、おっ」

 

「コウキ、しばらく動かないでくれ」

 

「いや、動かないでくれって。シグナムこそ一回落ち着け」

 

「私は落ち着いている。……どうだ。半分は空いたぞ」

 

「おひょっ!?」

 

 そんなにくすぐったいのだろうか。シグナムが上下左右の角にマウスを持っていく度に、コウキは素っ頓狂な声をあげる。

 

「いや、マジ無理。ほんと勘弁してくれ」

 

「あと少しだ。我慢しろ」

 

 地雷ゲームも後半戦に入ると、いよいよ旗の数が足りなくなってくる。だが初めての中級にしては、なかなかどうしていいところまで来ているのではないだろうか。

 

「次はこっちか、それともこっちか」

 

 右へ左へとマウスがさまよう。果たしてどちらが正解か。

 

 やはりここは奥を狙うとしよう!

 

 覚悟は決めた。シグナムは下部分をクリックするためにと、マウスを奥へと動かす。

 

――――コツッ。

 

「うん? マウスが先に行かないぞ」

 

 コードの長さは十二分にある。いや、コードというよりは、何かに引っかかってマウスは先に進まなかった。

 

 さらにぐいぐいと何度か動かすが、マウスは力強い何かに押し返されるばかりだ。

 

「ん、んん、マウスの故障か? コウキ??」

 

 また彼の私物を傷つけてしまったのだろうか。シグナムは恐る恐るコウキの顔に目を向ける。

 

 だがコウキはシグナムと顔を合わせないかのように、両手で顔を覆っている。

 

 手で覆いきれない耳などは真っ赤に染まっており、小さな声で「俺のせいじゃない。俺のせいじゃない」と呟いているのも聞こえた。

 

「何を言ってるんだ。何がコウキのせいじゃ、―――――ンンッ!?」

 

 シグナムの視線がマウスパッドとして使っていた彼の体へと向けられる。

 

 初めこそシグナムは彼の太股を使っていたはずだ。

 

 だがそれはゲームが白熱し、コウキとあの少女のことを悩んでいる間に、マウスが動かしやすい平たい方へ移動してしまっていたようだ。

 

 いや、そこは平たかった場所というべきだろうか。

 

 シグナムは彼のズボンのチャック付近で何度も何度もマウスを動かした。そうして刺激を与え続けた結果、マウスは彼の突起物に引っかかりその動きを阻まれてしまったのだ。

 

 その正体は確認するまでもない。不意に堅くなる下半身部分といえば、それは。

 

「す、すすす、すまない、コウキ! そ、そそ、そんなつもりで私は!!」

 

「と、とりあえずマウス放してくれ。これ以上されたら。…………お嫁にいけなくなる」

 

 それ言うならお婿だろう。そう突っ込みたくなるが、きっと今の彼の気分的にはそういう気持ちなのだろう。

 

 シグナムはマウスから手を離す。すると、手から離れたマウスがコウキの猛にコツンとぶつかる。

 

 それすらも刺激になったのだろう。彼の意思とは関係なく、それはビクッとシグナムの前ではねて見せた。

 

「あ、あわわ、わわわ」

 

 おおよそシグナムの人生であげたことのない声が垂れ流される。

 

 目を白黒させながら、シグナムはトマトのように顔を真っ赤にする。そして初めて対面するズボンの膨らみにちらちらと視線を向けた。

 

「痛くないのか? さすった方がいいのか??」

 

「…………………………いや、しばらく放っておいてくれ」

 

 どうして少し悩んだのかはわからないが、コウキはベンチから降りるとその場で前かがみに座り込んでしまう。

 

(コウキはやめろと言っていたのに。それなのに私は、私はあぁぁぁぁぁっ)

 

 ポカポカと自身の頭を叩き続ける。そんな端から見たら意味の分からない二人組が落ち着くのには、それから十五分の時間を有していく。

 

 パソコンの画面には気がつくと全体が爆弾だらけになっており、どうやらこちらの地雷も踏んでしまったようだった。

 

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