ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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心を持った人形

 ベンチに座ったまま二人はもじもじと体を縮こませている。先ほどから会話がない。シグナムはどうしたものかと、思ったまま声を出す。

 

「も、もう大丈夫なのか。っと、わ、私は何を言ってるんだ。違う。今のはなかったことにしてくれ」

 

 これではセクハラどころか、パワハラレベルではないか。シグナムは困ったように、おろおろする。

 

 コウキはパソコンを鞄にしまうと、少しは落ち着いたのだろう。何度か深呼吸をし口を開いた。

 

「ま、まあちょっと危なかったけど、その、大丈夫だ。ん、んん、おほん。それじゃあ今日の本題の話なんだけど。その、八神はやてさんっていつ頃暇だったりするかな。可能な限り、休日は合わせたいと思うんだが」

 

「主なら来週は普段通りの休みだったと思うぞ。今日の夜にでも訪ねてみるが」

 

「シグナムの休みは?」

 

「私か? 私は主とは一日違いだ。それがどうかしたのか??」

 

「どうかしたじゃないだろう。シグナムが隣にいなくちゃ、どうにもならないだろうが」

 

「どういうことだ? 残念ながら私は腕っ節ばかりでデバイス作りでは何も力になれないぞ」

 

 そんな自分がいても邪魔になるだけではないのか。シグナムはさも当たり前のようにそう言うと、コウキはブンブンと首を横に振った。

 

「いやいやいやいやいや、そんな初対面の人と一緒になんて絶対無理だって。それに八神はやてさんって女性だろ。こんなむさ苦しい男と一緒なんて、絶対耐えられないって」

 

「そんなことはないぞ。主は見かけで人を判断したりはしない」

 

「ああ、それだったら言い訳しない。女性と二人きりなんて、俺の精神が持ちそうにないんだ。いや、ほんと無理。人付き合いがからっきしだった俺が悪いんだけど、絶対に会話が持たないと思うんだ」

 

「それで私がいると助かると?」

 

「おう。シグナムが一緒にいてくれれば空気も重くならなくて済むと思うし」

 

「…………そうか」

 

 ようやく話が通じたと、コウキは一安心する。だがそんなコウキとは違い、シグナムはどこか複雑な顔をしていた。

 

 安心感があると言われたこと。それは自分のことを信頼してくれているということだろう。

 

 だが同時に自分が女性だと言われてない気もしてしまったのだ。女性と二人では空気が持たない。自分だってれっきとした女性だと言うのに。

 

「……………それとも、コウキは知っているのか」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「い、いや、何でもない。……何でもないんだ」

 

 自分でいうのもあれだとは思っている。だが体は鍛えており、タルんでいる部分はない。胸なども些か大きすぎる気はするが、小さいことは決してない。

 

 少なくとも、自分が女性として見られないということは今までないと思っていた。

 

 だがもし、コウキが自分の過去を知っていたとしたら。

 

 女性として見ることができても、『女の人』と見ることができないと知っているとしたら。

 

 その可能性がふと頭をよぎると、背筋に冷たいものが走る。

 

 それは今まで考えたことすらなかったことだ。戦うことしかできなかった自分が、異性に対して特別な感情を抱くとは思っていなかった。

 

 だからこそ忘れていた。自分は人間ではない。『人と同じ形』をしているだけということを。

 

 誰しもがヴィータの旦那のような考えをしているわけではない。自分は周りに恵まれているだけで、そういったことに嫌悪を覚えるものもいるだろう。

 

(いや、まだ人間でないということが知られているだけならいい。……もし私の過去のことをコウキが知ったとしたら)

 

 シグナムはちらりとコウキの横顔を見る。誰に対しても、どこかおどおどしているコウキ。そんな彼がもし自分が過去、大きな事件を起こしていると知ったらどう思うだろうか。

 

 自分は過去に取り返しのつかない罪を起こした。

 

 それを償うために罰を受ける覚悟もある。

 

 自分は愛する家族に囲まれて。頼れる仲間に恵まれて。これ以上何かを望むのは失礼とさえ思っていた。だけど。

 

 ――――ドックン、ドックン。

 

 心臓がゆっくりと鼓動をあげる。まるで幸せの淵にいるシグナムを試すように、その音は消えることはなかった。

 

「ど、どうしたんだシグナム。なんだか顔色が悪いみたいだけど」

 

「……いや、何でもない」

 

「何でもなくないだろう、そんなに顔色悪くして。なあ、頼むから言ってくれよ。俺、人付き合い悪いし、口べただから、ちゃんと言ってくれないとわからないんだ」

 

 そんなに今の自分は余裕のない顔をしているのだろう。コウキは静かに声を荒げた。

 

 そんな彼に心配をかけたくない。だからこそ今の思いを口にしたかった。何も隠すことなくコウキと接したかった。

 

「……あっ、ああ」

 

 だが声に出せるはずがなかった。この言葉を告げてしまったら。

 

 下手をしたらもう二度とこの時間は――――。

 

「とりあえず移動するぞ。あっちに屋根つきの休憩スペースがあったはずだ」

 

「だ、大丈夫だ。私はここで―――――」

 

「そんな顔して信じられるかよ! っていうか、歩けるか。歩けるならいくぞ」

 

「…………すまない」

 

 コウキに無理矢理手を捕まれると、その場から歩き出す。シグナムはその手を握りしめよとする。

 

 しかしその手に力が入ることはなく。ただ引かれるがままに、歩いていくだけだった。

 

 

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