ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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失うものの大きさ

 ルールは至って簡単、基本的に地雷ゲームと違いはない。

 

 リードミーと画像を照らし合わせながら、コウキはルールを確認していた。

 

(唯一というか、このゲームのミソは圧倒的マス目の多さか。三十分という時間を考えたら、ほぼ無限と考えていいな)

 

 説明書に書いてあるマスの数を見て、一瞬くらっとしてしまった。

 

 この数を全部開けられるはずがなく、勝負は三十分でどれだけミスなく開けられるかということだろう。

 

(旗の数はそんなに多いわけじゃない。これはかなり運の要素も絡んでくるな)

 

 さらにこのゲームは地雷が爆発した時点で、マスを開けた数がゼロ扱いになるらしい。

 

 マス目次第では止まるのも一つの選択肢だろう。

 

「…………あとは、互いのマシンの性能か」

 

 用意された回線は、どこにでもあるローカルネットだ。ネット環境が同じなら、あとは互いの頭脳とマシンスペックの差が勝負を分かつはずだ。

 

「だが相手はあのサイだ。きっと管理局中央情報室並のスペックは用意してあるんだろうな」

 

『と思いますよね。でもそこは安心してください。こちらもここ最近自作したノートパソコンを使います。まあこちらは画面が電子画面の分、スペックが上でしょうけどね』

 

 スピーカーから軽快な声が流れる。どうやら指定されたローカル回線から、こちらの了承もなく音声を繋げたようだ。

 

 それにしてもどうしてこちらのパソコンのことをこんなにも知っているのだろうか。

 

 情報が漏れていることに不安を覚える。だが内容こそわからないが、シグナムのことも徹底して調べているのだ。自分のことぐらいは、調べればすぐなのかもしれない。

 

「………ノートパソコンね。その言葉を信じろと? それに地雷ゲームもそっちが用意したものだよな」

 

『あっ、別に信じなくていいですよ。そうすれば、負けたときの言い訳もしやすいですしね。……まあ必ず勝てる試合をするくらいなら、わざわざ勝負の必要もないですけどね。私はいちプログラマーとして、借りを返したいだけですので』

 

「……まっ、そうだよな」

 

『それじゃあ残り一分です。準備はもう大丈夫ですか?』

 

「ああ、いつでも大丈夫だ」

 

 マウスパットも設置し、上着も脱いでいる。戦いの準備自体は五分前には終わっていた。――――だが。

 

 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

 

 どうしても先ほどから鼓動が収まらない。

 

 何を緊張する必要があるのだろうか。前回の事件と違い、サイとの勝負に負けても大きなリスクはないはずだ。

 

 中央管理室の失墜。ユウキ達、元同僚の責任問題。各次元からの管理局への圧力。

 

 最悪、中央管理室にいた自分は職すら失っていたかもしれない。

 

 なのに今の緊張はあの時の比ではない。いや、きっと緊張だけではないのだろう。

 

 様々な思いがぐちゃぐちゃと混ざりあって、もう自分でも何がどうなのかわからなかった。

 

 ちらりとシグナムの方を見る。彼女は今にも泣き出しそうな顔で、ただ俯いているだけだ。

 

 そんな顔になったとしても、彼女は話そうとはしてくれない。友と認め仲間と認めたものに話していることを。

 

(どうして、何でなんだよ。…………くそっ)

 

 そんなに自分は頼りないのだろうか。

 

 そんなに自分は信用がないのだろうか。

 

 マウスに添えた手が震えているのがわかるが、それを誤魔化すように力を込めて握り直した。

 

 どちらにしても負けられない。負けなければ問題ないんだ。

 

『それでは残り十秒。…………五、四、三』

 

 こちらの気持ちなどつゆ知らず。サイは軽い口調のままカウントダウンをする。

 

 頭のなかは未だにぐちゃぐちゃだ。

 

(俺はいったい。……どうしたいんだ)

 

 そう問いかけるが答えがでてこない。コウキは決意などつける暇もなく、一つ目のマス目をクリックするのだった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 画面越しの勝負が始まる。いったい今コウキは何を思って戦いに挑んでいるのだろうか。

 

 シグナムにはもちろん彼の心を読むことはできない。だがその険しい顔つきから、前向きな思いでないことは見て取れた。

 

 シグナムの犯した罪。それは主であるはやてを筆頭に、知っている人間も数多い。皆、戦乱のベルカのこともある程度理解しており、それをしっかりと受け止めてくれている。

 

 だけど目の前の男性はどう思うだろうか。自分の汚れた過去を聞いて。自分が、人間でないと聞いて。……果たして、それでも自分を受け入れてくれるだろうか。

 

 誰しもがなのはやフェイトのように強い心を持っているわけではない。

 

 ハラオウン家のように、被害者でありながら全てを許す器があるわけでもない。

 

 そしてヴィータの旦那であるカイズのように、彼女を愛し全てを受け入れようという間柄でも断じてなかった。

 

 借りを返すという、ふわふわした約束ごとから始まった関係。二人の間にはまだ、何もありはしないのだ。

 

 元から壊れる関係などなにもない。なにもないと心では叫んでいる。だけど、自分の心を誤魔化しきれなかった。それくらい自分はもう彼に引かれていたのだ。

 

 自分には戦うことしかできない。

 

 自分には女らしい服は似合わない。

 

 手先が器用ではない。機械いじりはできないはできないからサポートに。

主の食事がおいしいから。自分は料理が苦手だから。

 

 いつからだろうか。『戦いしかできない』ことを言い訳に使うようになったのは。

 

 戦うことしかできない自分には、他に何もできない。

 

 そうやって、いつまで逃げ続けるのだろうか。

 

 今すぐ胸の内を彼に伝えたかった。だけどそう思う度に唇が震えた。

 

 だがそこまできてようやく自分は気づくことができた。

 

 彼を怒らせて。彼に呆れられて。そこまでされてようやく気づけたのだ。

 

 こんな感情は初めてで、だからこそ言葉にすることができなかった。でも今なら、今だからこそハッキリわかった。

 

「――――あっ」

 

 パソコンの画面を見ると、思わず声をあげてしまう。

 

 コウキはぐしゃぐしゃと乱暴に髪の毛を掻くと、その画面は爆弾で埋め尽くされていた。

 

 

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