――――ガシャン、ガシャン。
日常の公園には似つかわしくない、猛々しい機械音が響きわたる。パソコンから延びるコードに接続されたレヴァンティンは、その刃を鞘に納めている。
だがそうであっても内部の機械はフル稼働していた。
――――ガシャン! プシュー。
四度目のカートリッジロードをすると、パソコンとレヴァンティンが同時に放熱をする。なま暖かい風を感じながら、シグナムは残りの時間を見る。
「残り三十秒。……もうこれでは追いつきようがないな」
「ああ、そうだな。かあぁぁぁ、一か八かだったけど、本当に同じ条件でやってくれたみたいだな。正直心臓がばくばく言ってるぜ」
コウキはマウスから手を離すと、「かあぁー」と両手を広げる。シグナムはまだおどおどしていたが、それでもコウキに声をかけた。
「何が一か八かだったんだ? 私としては最終的にコウキの圧勝に見えるが」
「ああ、数だけ見たらそうだよな。でもまあ俺もサイも地雷ゲームのルールに捕らわれすぎてたんだよ。って、それじゃあわからないか。――――なぁ、シグナム。普通の地雷ゲームのルールってなんだったっけ」
「……決められたマスを開け、限られた旗を使って埋めることだ」
「ああ、そうなんだよ。俺はそのルールでずっとこのゲームをやってきた。そしてサイもそうやってこのゲームに臨んだ。だからこそ、初めは難易度の高くなった地雷ゲームだと思ったんだ。旗の数も違うしな。だけど一度地雷を踏んで、それで気づいたんだ。……これはもう知恵比べや、計算のし合いじゃないってな」
コウキはそういうと今までに開けたマス目を見せる。それは、今までの彼の画面で見たことある緻密なものとは違っていた。
大ざっぱに、画面の端から端のところどころがクリックされたそれは、確かに計算して開けたようには見られなかった。
「シグナムも知ってるだろう。このゲームはある一カ所をクリックすると、たまに一気にマス目があくことがある。――――もしこのゲームを計算された旗の数で全部開けろっていうなら、そりゃ相当な難易度だ。だけどマスの数で勝負するなら、もう適当でいいんだよ。だってこのゲームに求められてるのはただの運なんだからな」
だからこそコウキはとにかくめちゃくちゃにクリックし続けたのだ。それで多くのマスが開くことがあったら、また違う番面へ、それが終わったら次の番面へ。そう繰り返しているうちに、あっと言う間にマスの数を増やしていったのだ。
「いやー、でもレヴァンティンを借りられてよかったぜ。やっぱりローカル回線を使ってるからか、読み込みが遅くて遅くて。あの怒濤の勢いがなかったら、サイも慌てずに同じ答えに行き着いてたかもしれないしな」
そう語るコウキの顔には先ほどまでのイライラとした様子はなかった。いつも地雷ゲームと向き合っているような真っ直ぐな無垢な笑顔。そんな彼を見て、シグナムは強迫観念が少しずつ和らいでいくのを感じた。
(……大丈夫。コウキならきっと)
コードを外されたレヴァンティンがシグナムの手元に戻る。彼女はそれを待機モードに戻そうとするが、それより早くメール音が鳴り響いた。
ファイル名は『私の負けです』。きっとここにシグナムの過去のデータが記録されているのであろう。
コウキはそのファイルを見ると、困ったように頭を掻いた。
「えーっとな。さっきは悪かった。誰だって言いたくないことの一つや二つあるよな。……それを無理に聞こうなんてもう思わないからさ。だから」
「いや、いいんだ。コウキには知っておいて欲しい。いや、コウキだからこそ聞いて欲しいと思えるようになったんだ」
「……シグナム?」
この心の変化を彼が知るはずもない。だけど、自分は彼の隣にずっといたいと思った。だからこそ、いま彼に打ち明けようと決心できたのだ。
――――ドックン。ドックン。
心臓は世話しなくなり続ける。だが先ほどに比べたら、その音はかなり落ち着いたものになっていた。
覚悟はできた。だからこそシグナムは自分自身という存在を彼に伝えた。
「私は。――――私は人間ではないんだ」
「ほぅ、それで、それで」
「えっ、なっ。今のを聞いてたのかコウキ。私はお前とは違う。人間じゃないと言っているんだぞ」
「お、おおぅ? それは聞いたけど、えっ、それがどうかしたのか??」
ポカンとコウキは首を傾げる。どうやら茶化しているわけではない。本当に疑問に思っているようだ。
「わ、私は人間じゃないんだぞ! おかしいとか、嫌悪感を抱いたりはしないのか!!」
「いや、別に。…………ところでだ。お前は人間の知り合いは多いか?」
「それはもちろんだ。主はやてに、高町やテスタロッサ。その他にも機動六課の面々や、最近ではシューティングアーツを教えている子供達など多くの人に囲まれている」
「はあぁ? それだけの人に囲まれて、なに今更人間かそうでないかとかうじうじしてるんだよ。そんなこと言ったら、パソコンとジャンクショップのじいちゃんたちしか知り合いがいない俺はどうなるよ? 自慢じゃないけど、学生時代はいつも一人。お昼も放課後も休日もずーっとパソコンと一緒。そんな俺よりもシグナムのほうがずっと人間らしいじゃねえかよ」
「そ、それは。……そうなのか?」
「そうに決まってるだろう。で、それだけじゃないんだろう。まだ言いたいことはあるんだよな」
まさか人間でないことを、『それだけ』ですまされるとは思っていなかった。だがそれはシグナムの気を使って言っているのではない。
彼の本心であることが、言葉からでも態度からでもわかるからこそ彼女は嬉しかったのだ。
シグナムは決意とともに、パソコンの画面を指さした。
「たぶんそこに私の過去についてのデータがあると思う。これからそれを一緒に見てくれないか」
「おう、まかしとけよ。…………それと、そのデータを見たらちょっと言いたいことがある。だから絶対に途中で逃げ出さないでくれよ」
「うん? ああ、わかった」
何か重要なことを伝えようとしているのだろう。息を飲むのが、こちら側でもわかるほどだ。
だがまずは自分の過去を知ってもらわなければ始まらない。シグナムは自らマウスを手に取ると、そのファイルをクリックした。
そこには先ほどのように一つの動画がある。まさか戦乱のベルカ時代の映像が残っているというのだろうか。
疑問は残るが、彼女はそれを再生した。
―――――ガ、ガガガ、ウィーン。
何かの飛行音が耳に入ると、画面が映し出される。
そこに見えるのは、人通りの多い繁華街のようだ。
「……こんなきらびやかな場所。戦乱のベルカ時代にはないはずだが?」
いや、それどころかこの道には思い当たる節がある。
ぴたりとカメラが固定されると、映像がズームアップされる。その場所には、色とりどりの女性向けの服が並べられていた。
そこにいるのは、赤い二つの三つ編みをした少女と、コバルトブルーの髪色をした女性。そして見覚えのあるピンクのポニーテールをした者の姿だった。
ピンクのポニーテールの女性は、真っ白なワンピースを自分の体に重ねると、真っ赤な顔で二人に言う。
『こ、こんな可愛い服。やはり私には、に、似合わない』
『だから似合うって言ってるだろうシグナム。おめえは女らしい服ろくに持ってねえんだから、これくらい買っとけよ!!』
『そうですよシグナムさん。それにシグナムさん見たいな凛々しい女性が可愛い服を着る。特別な姿を自分にだけ見せてくれる。そんなギャップを見せつけられたら、男なんて一発ですって』
二人の女性に押しに押されると、ピンクのポニーテールの女性は顔を真っ赤にする。そして本当に呟くように口にした。
『こ、この服を着れば。……コウキは可愛いと言ってくれるだろうか』
「…………何だこれはあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
画面上でない烈火の将が吠える。
画面の女性が持っているものと同じ服を着た彼女は、木製の椅子から立ち上がると、バンバンと机を叩き出した。
「な、何だこの映像は。しかも音声まで!!」
「え、えっと。……シグナム?」
「ち、違うぞ、これは。いや、違うということはないが、とにかく私はそういうわけではなく、その、あのだな」
「と、とにかく落ち着け。落ち着いてくれないと、その、オチが見える!!」
「わ、私は落ち着いている!!」
『ほ、他の人の反応はどうでもいいんだ。ただコウキが似合っていると言ってくれればそれで―――――』
「――――うううぅ!!」
自身の声がパソコンから聞こえると、シグナムはうるっと涙目を浮かべる。
この時コウキは思った。どうしてメールがくるタイミングがあと数秒遅くなかったのだろうかと。
それならば、いつも通り鉄拳ですんだはずだ。
シグナムは頭の先まで真っ赤になると、涙目でレヴァンティンを構える。それは綺麗に頭上に掲げられると、ピタリと止まった。
「眠れええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「それは永遠に、オゴブフッハッ!!」
鞘に納められたレヴァンティンがコウキの頭上に降りおろされる。
コウキは摩訶不思議なうめき声をあげながら、目の前が真っ暗になるのを感じるのだった。
30分後くらいに、最後の一個あげます。