pixivに載せたもの。
霧崎第一のメンバーが古橋のために誕生日プレゼントを用意する話。

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古橋生誕祭

 6月30日。

 いつものように部室の扉を開けた古橋は、派手な破裂音と紙テープに出迎えられた。

「古橋、誕生日おめでとー!」

たった今使用されたクラッカーを手に、ニヤニヤと笑う原と山崎。

しかし、山崎は一人分声が足りていなかった事に気づいたらしく、「おい、瀬戸ぉ!」と、瀬戸を起こしにかかる。

「あらら、寝ちゃってたんだね」

 笑いに代えて、腹は風船ガムを膨らます。

 山崎が何度も揺すっていると、「ふがっ」と声を上げ、瀬戸は目を覚ました。

「瀬戸、もう古橋来てる」

「ああ……」

 未だ入口で突っ立ている古橋を見て状況を把握したらしく、のそのそと古橋の許に歩み寄ると、手に持っていたクラッカーを鳴らした。紙テープが古橋の頭に掛かる。

「誕生日おめでとう」

「…………」

「あれ? 嬉しくない?」

 原の問い掛けに、「否」と古橋は無表情のまま答え、「すごく、驚いている」

「そっか。――ザキ、イェーイ」

 原が隣に来ていた山崎にハイタッチを求め、山崎は訳が分からないままハイタッチをする。

「瀬戸、イェーイ」

 続いて瀬戸にも求め、最後には、「古橋、イェーイ」と古橋にまで求めた。普通に応える瀬戸と古橋。

 誰も古橋までハイタッチした事にツッコミを入れない。面倒だからである。

「――で」

 古橋は尋ねる。

「何だ、これは」

「何だって酷いなぁ。古橋の誕生日会。予定だったら、ここで古橋が感動の涙を流すんだけど」

「否、こんなんじゃ泣けねーだろ」

 山崎の呆れているツッコミに、原は「そーかなぁ?」とおどける。

「もう一つ訊いていいか?」

「何?」

「花宮は?」

 古橋は部室内を見回すが、何所にも主将の姿は見えない。

「んー、今は気にしなくてもいいかなー。てか、古橋早く入りなよ」

「あ? ああ」

入室した古橋、「どうぞ、どうぞ、本日の主役」と、原が恭しくパイプ椅子に案内する。座らせると、山崎が尋ねた。

「古橋は誕生日プレゼント、何が欲しい?」

「誕生日、プレゼント?」

 これには原が答える。

「そ。何でも貰えるとしたら、何がいい?」

「何でもいいのか?」

「何でもいいよー」

「じゃあ」

 古橋は即答する。

「保存用と観察用と実用用の花宮三人分が欲しい」

「その古橋の歪みのなさ、好きだよ」

 苦笑する原に続き、「すまん、俺にはちょっとその意味が分からねえ」と山崎が首を傾げる。持ち前の知能で想像までできた瀬戸は何とも言えない表情を浮かべていた。

「はいっ」

 原が手を叩いて場の空気を変える。

「今日はそんな古橋君に、俺達から、プレゼントです! ――ほら、ザキ、早く早く」

「わぁかったよ」

 渋りながら山崎が物陰から何かを引っ張ってくる。

 それを見た古橋の表情に変化が表れた。死んだ魚のようと言われている目を見開く。

「花宮?」

 山崎が引っ張り出してきたのは、パイプ椅子に縛られた花宮だった。花宮を縛っているのはピンク色のリボンで、身体とパイプ椅子をと括り付け、手首の所にリボン結びがされている。そして、結び目のところにはメッセージカードが貼られていて、大きく『古橋へ』と書いてある。

 困惑している古橋を残し、三人は「じゃ、楽しんでいってねー」と言うと、部室を出ていった。

 部屋には拘束された花宮と、その前で固まっている古橋。

 数分の時が流れ、やっと古橋が口を開いた。

「……花宮、なにしてるんだ?」

「…………」

 花宮は顔を伏せたまま答えない。その顔は少し赤らんでいる。

 古橋は首を傾げる。

 話がまるで分からない。ここが部室でなければ、犯人が原達でなければ、理解が出来るのだが……。

 加えて、花宮を縛っている物がリボンという事実が、さらに古橋の思考を遠回りにさせていた。

「……康次郎」

「何だ?」

「誕生日、おめでとう」

「……ああ、ありがとう」

「それで……」

 花宮の明朗な言葉が、ごにょごにょと不鮮明になっていく。

 古橋はまたしても首を傾げた。

 その仕草に痺れを切らしたのか、「てめーはわざとやってんのか!」と花宮は怒鳴った。

「否……わざとではないが」

「あーっ、くそ!」

 一年超の付き合いから、花宮が極度のイライラに達しているのは察せられたが、残念ながら鈍感な古橋には答えが分からない。

「さっき原が言ってたろ!」

 花宮の言葉に古橋は原の言った事を遡り――そして、思い至った。

「プレゼントか」

「それだ!」

 花宮の表情に疲労が見える。まさか、古橋が一目でそれと判別出来ないとは思っていなかったのだ。

「それじゃあ」

 状況を把握してからの古橋は早かった。

 花宮に近付き、顎を掴むとグイッと顔を上げさせ、「花宮は俺の好きにしていいって事だな?」

 古橋のいつになく真剣な顔に、花宮の喉が鳴る。

「ああ、お前の好きにしろ」

 そして、ニヤリと笑う。

「何せ、今の俺は康次郎の物――」

 花宮の言葉は途中で消された。古橋が己の唇で花宮の唇を塞いだからだ。

 花宮が動けないのをいい事に、何度も角度を変えて口付ける。

 いつも皆に囲まれている花宮を、今、自分だけが独占している。

 いつも余裕でいる花宮を、今、自分のキスで余裕をなくさせている。

 その事が古橋を酷く昂らせていた。

 口を離すと、花宮が火照った顔で一気に酸素を取り込む。

 その艶やかな姿に、古橋はぞくりとする。

「花宮……綺麗だ」

 上気した頬と違い、真っ白な首筋に、吸い付くようにキスをする。

「……っ」

 顔をしかめる花宮を見、古橋は言った。

「お前を食べてしまいたい」

 すると、花宮は「ふはっ」と笑った。

「好きにしろよ。俺はお前へのプレゼントなんだから」

「ああ、そうだな」

 古橋は頷き、花宮へ手を伸ばし――リボンを解いた。

 花宮が不思議そうな顔をして古橋を見る。

 古橋は一つ溜息を吐き、「悪童も落ちぶれたものだな」

「はぁ?」

 花宮が訳を尋ねる前に、「少し協力してほしい。俺が合図を送ったら、焦った声で俺を呼んでくれ」

「あ? ……ああ」

 利口な花宮は、すぐに意味を悟ったらしかった。

 古橋がドアに近付き、花宮の方に向き直り、手を差し出した。

「やっ、やめろっ! 康次郎っ!」

 花宮の焦り声のすぐ後に、古橋はドアを開ける。

 すると、三人の人物が雪崩れ込んできた。原、山崎、瀬戸である。

「いったぁ……勝手に開けるんじゃないよ、古橋ぃ」

 一番下敷きになった原が文句を言う。

「お前等が盗み聞きしてたのが悪い」

「別にいいじゃんかよー。減るもんじゃないしー。――ってか、早くどいてよ、二人とも」

「ああ、悪い、悪い」

 立ち上がって一息ついた三人の前に、満面の笑みを浮かべた花宮が立つ。

「お前等、明日の練習メニュー五倍」

「……はい」

 花宮の剣幕に圧され、三人は素直に首肯した。

「にしても、花宮は気付かなかったのか? こいつ等が盗み聞きしてた事。前にもこんな事があったような気がするが」

 古橋が不思議そうに尋ねると、花宮は「やっ、気付いてた!」と、彼らしくなく見え見えの嘘を吐いた。

 怪訝な顔持ちの古橋に、瀬戸が小声で言う。

「花宮自身は気付いてないけど、あいつ、お前が関わると途端に感が鈍くなるんだよ。分かってやってくれ」

「そうなのか?」

 古橋が尋ね返すと、瀬戸は小さく頷いた。

 そして、その二人の後ろでは、原と山崎が言い合いをしている。

山崎が「だから俺は帰ろうと言ったんだ」と文句を言い、「ザキだって乗り気だったじゃんよ!」と原が言い返し、そのまま喧嘩に発展したのである。

 瀬戸は古橋から離れ、二人のなだめにかかった。

 古橋はちらと花宮を見る。

 花宮は自分といると調子が悪くなるのか。

 新たな事実に、古橋はフッと笑う。

 それを見ていた花宮は虚を衝かれたような顔をしたが、すぐに笑った。

 古橋も花宮の笑顔に気付いた。そして、傍に寄り、「今日、俺の家に来ないか? 親は出てるんだ」

「ああ。そうしようか」

 喧噪など蚊帳の外のように、二人はこっそりと約束を交わした。

 

 そして、翌日の部活にて、花宮が腰が痛いのを理由に練習を見学したのは、言うまでもない。

〈終〉


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