穂群原学園・転校生
小鳥の囀りが聞こえる。
日の出直前の霜が降り始める冷え込みが感じる。
朝独特の匂いが鼻につく。
重い目蓋を上げて時計を見ると午前四時五十分、いつなら少々早い時間なのだが昨日から家にいる
着替えを済ませて洗面所で顔を洗う、冷たい水が眠気や気だるさを洗い流し、意識をしゃっきりさせる。
歯磨きをして寝癖などがないかチェックする。
――問題なし。
居間に行くと和服を着たマスターが既にいた。新聞を読みながらコーヒーを啜っている。
「おはよう士郎。早起きなだな、早起きなのは良いことだ」
「おはようマスター。マスターも朝早いですね」
「ああ新聞配達員が来たのでな、受け取りにな。
あと士郎今度からはコーヒーミルを用意しておいてくれ、インスタントコーヒーは不味くはないがイマイチだ」
マスターは新聞を読みながら簡潔に答える。
――できれば顔を見ながら応えてほしいな……
「ハイハイ土蔵にあったはずだから帰ってきたら出すよ。じゃあマスターすぐに朝ごはん作るから少し待っていてくださいね」
マスターはああ、と新聞を読みながら応える。このまま静かに読み続けると思っていたが……マスターは読みながらもこちらをじっと見ている。
この間もこちらをじっと見ていたのだが、マスターは何か気になることでもあるのか見続けてくる。別に何かするわけでもなく、口出しすることもなく見続ける。
――気にしても仕方ない。ここは自分の仕事に集中しよう。
決意をあらたに腕まくりをして調理を始めようと思ったが、ここで1つ問題が発生した。昨晩やっておこうと思った下拵えを忘れていたのである。だがここは歴戦の主夫衛宮士朗、冷蔵庫冷凍庫にある食材を確認して短時間で、尚且つ食べ応えのある料理を脳内のレシピ集から検索、選択したら即行動に移す。
まず土鍋をコンロの上に置き、次に白菜を一枚一枚はがして水を張ったボールに入れ土や汚れを取り除き適当な大きさに切る。そして切った白菜と取り出しておいた豚肉のスライスをミルフィーユのように交互に土鍋に敷き詰めていく。それが終わったら調理酒とだしの素を適量ふりかけ中火にかけて出来上がるのを待つばかり。
次は味噌汁をつくる。具材はさっきの白菜の余りと豆腐で白味噌を使う。
箸休めにほうれん草のおひたしも作ってここで一安心したいが、あの人のことだからまだ足りないだろうと思うので鳥のむね肉を使った品とあと2つ加えるとする。
むね肉のスジや骨を取り除き、水洗いしてフォークて刺したあと少し小さめの一口サイズに切ってボールにお酒、塩コショウ、今回は少し気分を変えてカレー粉でで味付けする。合わせ調味料を作ったらそこにむね肉を30分程漬け込む。
あと食べる直前に焼くだけでいい。
使った調理器具を洗って片付けたあと食後のデザート作りに入る。
たまごと三温糖をボールに入れて泡立器でよく混ぜ合わせる。それに牛乳を入れて更によく混ぜ合わせるそれをを茶こしでこして型に入れ、フライパンにお湯を沸かしその中に並べる。蓋をして弱火で10分、火を止めて更に10分蒸らす。
蒸している間に卵焼きを作っておく、味付けは酒と砂糖でふんわり甘いやつをだ。
それらを終える頃には土鍋は湯気を勢いよく吹いていたので火を消して食べる直前に温めるだけだ。
時計を見ると六時を過ぎていた。たしか桜は朝練がある日はもうすでに起きて料理をしている時間なのだが今日は少々遅いようだ。流石にそろそろ起きてくると思うのですぐにコンロの火をつけ直す。
フライパンも温めてお肉を焼き始めるといきなりマスターが声を発した。
「今朝はフーゼレークはないのか?」
マスターの突然の発言に首を傾げる。昨日は`精進しろ`と言っていた料理を`今朝はないのか?`とはいかなる心境の変化なのか。
「――どうしたのマスター急に、昨日は`精進しろ`って言ったくせに」
ここは少々嫌味っぽく言ってみる。昨日の意趣返しに。
「確かにまだまだ精進する必要はあるが、士郎のフーゼレークは”ファーストキスの味”がする」
「ッ!」
――いきなり何を言い出すんだこの男は…俺はフーゼレークにレモンなんか入れてないぞ。
――第一”ファーストキスの味”っていったいどんな味だよ!? ファーストキス……
自分の顔が熱くなってくるのがわかる。たぶん今俺の顔はりんご……いや完熟トマトのように真っ赤になりつつあるだろう。
――いかん! ここは冷静にならなければ――
調理中に集中の乱れは怪我の元、しいては料理のクオリティーを下げる要因になる。だからこそ冷静であろうとする衛宮士郎。
幸か不幸かここで桜が居間に入ってきた。
「おはようございます先輩。少し寝坊しました……って、あれ? 先輩、もう作り終えたんですか?」
――って、桜! いつの間に来た!? というか足音にさえ気づかないってどんだけ動揺しているんだよ俺は。
「――お、おはよう桜。悪いな桜あとはこれが焼き終えたら並べるだけなんだ」
精一杯平常心を心掛けなんとか持ち直した。
心の中でガッツポーズをして桜のほうへ視線を向ける。
なぜか桜は少し残念そうにしたがすぐに気を持ち直していつもの笑顔になる。
――そんなに料理がしたかったんだろうか?
俺のそんな思案をよそに桜は台所に掛けてある布巾を手に取り。
「配膳しますね先輩」
桜はそう言うと俺の目をじっと見てくる。その目は『私にも何かさせてください』と言うっている。
ここまでやったら全部やってしましたいが、後輩にそんな目をされてはしょうがない。
「じゃあお願いしようかな」
「はい!」
桜は元気よく返事をして笑顔になる。さっきよりもきれいな笑顔だ。
この瞬間、いつもの日常が戻ってきたような、あの夜のことが夢のように思える安堵感がこみ上げてくる。
だが、視界の端に新聞を読みながらこちらを見つめるマスターを確認するとそうではないと実感する。
――そうだ。俺はあの夜に殺されて、そしてマスターと出会った。
机を布巾で拭いて盛り付けておいた料理と茶碗や湯呑みを配膳していく。
「そういえば桜、藤ねえは?」
桜は一度手を止めて俺の顔を向いてから答える。
「藤村先生ならお腹を空かせてもうすぐ来ると思いま」
桜が言い切る前に廊下からけたたましい物音が近づいてくる。誰の足音かは言うまでもない。
「おっはよーーーー今日もおいしいごはんで来てる!? って多い! 豪勢! どうしたの士郎今日は何かあったけ?」
「いや、マスターが朝はしっかり食べた方が良いっているし藤ねえもその方がいいだろ」
「確かに朝はもっとしっかり食べたいと
テスラさんにはやけに優しくない?」
「そ! そそ……そんな、こと、はないぞ」
――ばかトラまで何を言い出すんだ。
「あれ? 士郎どもちゃってどうしたの?」
「……なんでもない。ほらさっさと食べちゃおう」
無意識に視線を食卓の方にやると新聞を読むマスターと配膳を終えた桜がこちらというか俺をじっと見ていた。
――なんか朝からよく見られるな。
「む! なんか変な士郎。それはともかくごはんごはん」
それから俺も席に着き手をあわせて。
「「「「いただきます」」」」
食事が始まる。マスター昨日と同じく新聞を読みながら食事をしようとしたが。
「テスラさん新聞を読みながら食事するのは行儀悪いですよ」
「そうだそうだテスラさん行儀悪いぞ」
「藤村先生も昨日しましたよね」
「はい、すいません」
という一幕があったのでそばに畳んで置いてある。
「あ! ニュースニュース」
藤ねえがテレビをつけると新都のビルが映し出された。ちょうどテレビのキャスターが新都のビルで昏睡事件があたったことを伝えているところだった。奇妙なことに昨夜警備員が見回ったときは何の異変もなかったとも伝えており藤ねえは訝しんでいた。
「えー警備員が見回ったときは異変がなかったって職務怠慢の言い訳にしては杜撰すぎるんじゃない」
倒れた人たちは病院に緊急搬送されて今も意識不明の状態で警察もお手上げらしい。
――これは間違いなく聖杯戦争がからんでいるだろう、しかもこれだけの規模となると普通の魔術師では無理だ。つまりこの事件はキャスターのサーヴァント仕業とみて間違いない。
そう冷静に判断する一方、聖杯戦争に無関係な人を巻き込むサーヴァントとそれを容認する
「テレビ切るね。みんなごめんね朝から気分の悪くなるの見せちゃって。ほらごはん冷める前に食べちゃおう」
藤ねえがテレビを切るとみんな黙々と食事を再開する。特に会話などはなく食事が終わる。もちろんおかずもごはんも残ることはなかった。
「明日からもう一合多めに炊かないと」
桜が顔を伏せて小さな声で何か言っていた。どうしたのかと聞こうとしたらマスターが先を制して聞いた。
「桜、食事が足りないならちゃんと言っておいた方が良いぞ。お前たちはまだ子供なのだから遠慮するものではない」
桜が顔を真っ赤にしながら手を虚空にぶんぶん振り回してる。すごい慌てぶりでこんな桜は見たことがない。
「//////聞こえていたんですかテスラさん」
「耳はいい方でな」
「なんだ桜まだ足りないのか?」
――ふむ。桜もまだ足りないとなるとこれからはもっと食べ応えのあるもの作ることにしないとな。
「いいえそんなこちょはありゃませんせんぴゃい」
桜がまた俯いてしまった。さっきよりも慌ててかみかみの言葉が微笑ましくなんか可愛らしい。
「ダメだよ桜ちゃん油断していると敵は静かに忍び寄るんだよ、体重計という見えないところからね」
「もう私の話はいいから早く学校に行きましょう!」
桜が無理やり話を切り上げてしまう。よっぽど恥ずかしかったようだ。
その後は何事もなく片付けを終えて家を出ようと玄関まで行く。
そしてなぜかマスターは玄関におり、初めて会った時の白詰襟服を着ていた。
「見送ってくれるのマスター。じゃあマスター留守番よろしく」
「いや士郎わたしも今から出かけるところだ」
「? そうなのもしかして散歩と鳩の餌やり?」
――たしか前に趣味がそれだと言っていた気がする。
「違う」
「そう。まあいいやじゃあ閉めるから早く出て」
マスターが出るのを確認して桜とガスの元栓やそのほかの確認事項をした後鍵を閉めた。
「じゃあ士郎、桜ちゃん私は先に行くから車に気を付けて来るんだよ。
では、行ってきまーーす」
藤ねえはけたたましくスクーターのエンジンを鳴らしながら学校へ行った。
「ずいぶん杜撰な二輪だな、あとで改修しなければ」
「じゃあ俺たちも行こうか桜」
何かマスターが不穏なことを言っているが無視しよう。
「はい先輩」
「じゃあ行ってきますマスター」
「ああいってらっしゃい」
マスターに挨拶をして学校に向けて歩き出す。
……歩き出したんだが、しばらく家を出てからずっとマスターは俺たちの後をついて歩いてくる。
もしかして途中までの道が同じなのかと思い黙っていたのだ。
幾分かするといつの間にかマスターは俺たちとは別方向に行ったのか姿がなかった。
マスターがどこに行ったかは気になるが今は学校に行く。
俺と桜は校門で別れて俺は生徒会室にいるであろう一成と校内の備品の修理に、桜は道場で朝練に行った。
作業を終えるて教室に入ると赤毛のオールバックの男が此方を向いて挨拶をしてきた。
「おほよう衛宮。今日も朝早くから生徒会長と校内の備品修理ごくろう。
母校に貢献することはいいことだ、だがなによりも朝早くからやるのがいい。
速度は力だ。人生ってのは道だ、ゆっくり歩くやつから、転げて、崩れ落ちていく。その点衛宮は問題ない流石だ」
「…………」
――誰だ!?
「どうした衛宮黙って、聞きたいことがあるなら早く聞くといい時間の無駄だ。しいては速度を失する」
「では遠慮なく、誰?」
「察しが悪いな衛宮。俺だ後藤だ」
「……………………は? 後藤くん?」
――え? 後藤くんってこの間まで忍者していたんじゃなかったけ?
と考えていると近くのクラスメイトが小声で教えてくれた。
なんでも昨日の朝起きたら何か降ってきたらしく、曰く『今までの人生で自分はどれだけ速度を無駄にしていたのか』と宣うくらいキャラの変わりように家族はもとより友人というか周りすべてが一歩引いているらしい。
「ではな衛宮、おれは次の授業の予習をする」
そう言って後藤くんはきびきびした足取りで自分の席について予習を始めた。
俺はクラスメイトのあまりの変わりように周りの人同様あっけにとられていると予冷が鳴り響いた。
いつもならあと五分はしないと藤ねえはこないのだが今日は予冷通りに来た。ただ額に汗を垂らして緊張というかなんというか状況が把握できていないという顔で。
いつもと違う藤ねえをみたクラスメイトは自然と静まっている。
「はーーいみんな席について」
藤ねえがパンパンと柏手をうってみんなが席に着くよう促す。
そして全員が席に着くと再び口を開く。
「えーーと急ですが本日転校生がこのクラスに仲間入りします」
その一言にクラス中がざわめきだす。
「はいはい静かに。じゃあ入ってきて」
扉を開けて入ってきたのは白詰襟服を着たあの人だ。
今朝一緒に食事をし、昨日は一緒に学校を回って、あの夜助けてくれたあの人。
堂々と胸を張って。それこそが当然のように。
「こちらが2年C組の新しい同級生、転校生のニコラ・テスラ君です。
それじゃあ、テスラ君。自己紹介をして」
「ああ」
「ニコラ・テスラ。73歳。転校生だ」
「ななじゅうさんさい!?」
「??」
「本日より諸君の同輩となる二年生だ。さらに……。
本日付で開業された、思弁的探偵事務所の所長でもある」
「そして、だ。」
「冬木市10万の市民諸君。運命に呪われたお前たち、全員。
――私が、この手で、救ってやる。」
「そ、え……な……。
マスター……?」
はい遅くなりまして申し訳ありません。
積みゲーを消化してから書こうかと思ったのですが中々終わらず見切りをつけて投稿した次第です。
やっぱりRPGはきついですね。
今日はというかいつも突貫気味というか今回はかなりクォリティ低いと思うのですいまん。
あとヴァルターさんぽい後藤くん書いてみたかったのでやってみました。あまりヴァルターさんぽくないですけど、こうしたらもっとそれっぱいていうのがあったら教えてください。
他にも時間がかかった理由はフーゼレークの味をどう表現したらいいかわからなかったからです。こちらもなにか他にいい表現あったら教えてください。
では皆様良き青空を。