「これは、腐界の寓話」
「誰にも知られない、極彩色の言葉」
「誰にも聞こえることなく腐敗する常識。
誰にも気づかれずに、崩れていく」
「誰にも、知られずに。腐敗していく。
ぼろぼろと、ぼろぼろと」
「異臭を放つ。
強く、強く、強く、強く」
「腐敗して、腐乱して、すべてを崩す。
それは淀み。それは、大いなる歪み」
「
なぜか、ふたつの言葉が重なった。
「
『
静かな教室に放たれた衛宮士朗の言葉は私たちは元より、他のクラスメイトにも届いていた。もちろん彼の友人、柳洞一成も聞いており。
「――衛宮! 今、この御仁を
意外な人物も声をあげる。
「
「転校生! 貴様、なかなか速さと見た! この俺と勝負だ!」
間桐慎二だ。彼は衛宮士朗とは友人関係で、柳洞一成とは犬猿の仲だ。その二人が同じ意見を言うのはとても珍しい。あと後藤、お前邪魔だ。
それほどまでに
「ああ、マスターとは今――」
「私は士朗の家に同棲している」
「「「!!!!」」」
爆弾発言だ。そう、爆弾発言だ。彼は特大の爆弾を教室に落とした!
「な……なに言っているんだ! 「士朗どー言うこと!」マスター!」
もっともな発言だ衛宮士郎。あと、タイガー邪魔。
でも、同棲、か、ゲヘヘヘヘヘ――………………
巡る。廻る。めぐる。二人の同棲生活が、四角関係が、ああ、甘美なるものが! 雷鳴が、輝きが我らを貫く!
「
「
「チクタク。
チクタク。
チクタク。
すべて。そう、すべて。あらゆるものは意味を持たない。
たとえば――――」
「この前書きに何の意味もない」
「はぁ――」
その日は、朝から大変だった。
朝食と学校でのホームルームの時にマスターは変なこと言うし、マスターに無謀な挑戦をしてきた後藤くんは、
「わが加速の
体育の時間の準備運動のトラック三周を競争して倒れた。もう一度言う、これは準備運動だ、だから体を馴らす程度に走るものなのに後藤くんは100m走するように全力で走っていたので、一周する頃には酸欠で、回りが止めようとするがそれを振り切って走り抜き、最後は倒れて下校時刻まで保健室で寝ていた。
まあ、倒れて保健室で寝るのは良い、良いんだか、俺は一つ納得いかないことがあった。
――なんでマスターが後藤くんを運ぶのさ、しかもお姫様だっこなんてして、あんなの俵運びか引きづっていけば良いのに、最悪おんぶするくらいだろうにマスターは――あんな優しそうに運ぶんなんて、俺だってまだなのに、お姫様だっこ…………って、なんで俺が後藤くんに嫉妬なんかしてんだよ!
――そうだ、俺は男、男の子だ。うん。男の子だ。男だよね…………女子更衣室や女子トイレに入ったことはないし、小さい頃に藤ねえに無理矢理銭湯の女子風呂に連れていかれたことがあるくらい。
――うん。男の子、うん。男と子だよな? 女の子ではないし、男の娘ではないよね。うん。男の娘……………んな訳あるかーーーー! なんで俺はそんなわかりきったことを確認してんだよーーーー! 俺は漢だ!
「はぁ――」
ため息が出てしまった。変なことを考えていたら本当に疲れた。本当はすぐにでも家に帰ってしまいたいが、マスターの急な転校だったらしく、書類に少々不備があり、その確認等を生徒相談室でやっている最中だ。マスターは部屋の外で待っているよう言ったが、それでは手持ち無沙汰で校内の備品修理をして回っている。
「なに一人で百面相してんのよ」
目の前から急に声が聞こえてハッとする。目の前には魔術師の少女、遠坂凛が仁王立ちしている。しかも、凄い形相で。
「――――――――」
「……遠坂、どうしたんだそんな顔して」
「わからないの――」
質問を途中で切られた。が、何かしらの答えを出さないとこの場は切り抜けれない。そう思い考える。考える。
回答が思いつかなく、重い沈黙が続く。そして、
「呆れた。さっきの百面相もそうだけど、セイバーがあれだけお膳立てして、私もその一端を担いだのに、それを理解できず一人でいるなんて」
遠坂は堪えきれなかったのか、意味の分からないこと喋りだす。それに、今一部聞き捨てならないことを言っていた。
「待て遠坂、いま『お膳立て』って言っていたが、マスターが転校してきたのは遠坂のおかげなのか?」
「ええ、セイバーと取引をしてね。っで、私が、一日で、貫徹の突貫で、転校させたのに。その意味を分からずに、呑気に工具箱をぶら下げて校内を徘徊するあなたを見て、冷静でいられると思う?」
――なるほど、それで遠坂は怒っているのか。でも、
「……なあ、遠坂」
「――なによ」
「今俺とマスターが一緒にいないのは書類に不備があったからなんだが」
「…………………そんなのはどうでもいいのよ!!」
――あ、開き直った。
「それでも、部屋の外で待っていればいいでしょ!!」
「マスターも同じこと言っていたけど、別に学園には人がいるんだし、遠坂だって人前で魔術なんて使わないだろ?」
俺は魔術を扱う者として当然のことを言った。だが、それを聞いた遠坂は嗤った。その顔には憐れみを通り越して、怒りも通り越して、憤怒の感情に染まっている。
「――ねえ、衛宮君、どこに、人がいるの?」
遠坂は酷く、穏やかに、静かに聞いた。
「人って、そりゃあそこいらに……」
俺は左右に首を振る。だが、誰もいなかった。
「衛宮君、冥土の土産に良いもの見せてあげる」
遠坂は右腕の袖をまくり、俺に見えるようにかざす。その腕は見たことのない模様が、青白く光っている。
そして、俺はそれが、なんなのかわかってしまった。
「遠坂、それは――」
「ええ。これが遠坂の魔術刻印」
魔術刻印、魔術師の家系における後継者の証であり、遺産。歴史。その家が伝えてきた魔術を凝縮した刺青のような物。簡単に言うと体に刻み込む魔道書。
データベースとしての役割だけではなく、刻印自体が術者を補助するよう独自に詠唱を行ったり、負傷した術者を強制的に生かす事も可能というより生かす。
俺にないものであり、魔術の家系においては誇りだ。
「どう衛宮君。最後に良いもの見えたから、もう思い残すことはないわよね?」
「ちょっと待って遠坂、話を聞い」
俺は遠坂を制止しようとする。ここで暴れたらどうなるか、もしものことになったらと心配だからだ。
だが、遠坂には、俺の声は届かなかった。
「問答無用!」
遠坂が俺に向かって魔術を放つ、俺は咄嗟に持っていた工具箱を投げつける。そして、一目散に逃げる。
「こら! まて! 逃げるな!」
「待てと言って待つ奴がいるか!」
遠坂は魔術を放ちながら追い掛けてくる。ここに、俺と遠坂の命がけの鬼ごっこが始まった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
生徒相談室の扉が開かれる。部屋から出てきたのは転校生ニコラ・テスラだ。
「ふう。やれやれ思ったより時間がかかったな、リンも仕事が思いの外
さて、士郎はど」
ニコラ・テスラの言葉が最後まで続かなかった。ニコラ・テスラの言葉を遮ったのは三本の矢。ニコラ・テスラ正面の開かれた窓の隙間から飛来したそれ、このような芸当ができるのはたった一騎。
そして、奇襲をするにしてあまりに攻撃力が低い。つまり、これは脅し、威嚇。
――次は後ろの部屋、校舎ごと攻撃をすることもできる。そう言っているのか。
直後に感じる魔力、その波動には覚えがある。遠坂凛のものだ。次に士郎の魔力も感知する。
二人は今戦闘中と言うことだ。二人の戦力比は歴然、リンが下手を打たなければ士郎には万に一つも勝ち目はない。つまり、アーチャーはこのまま傍観しろと言っているのだ。
「アーチャー――」
ニコラ・テスラは飛来した先を睨む、ニコラ・テスラの視力をもってしても捉えられない距離にいるであろうアーチャーを見据えて。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ここは久遠川にまたがる冬木大橋、そのアーチの一番高い場所にアーチャーはいる。
その瞳は遠く、穂群原学園三階の生徒相談室の前にいるニコラ・テスラを捉えている。矢を
「そう睨むなセイバー、君が動かなければ何もしない」
彼はそう言いながらほくそ笑む。あとは、釣れる魚を待つばかりと言わんばかりに。
ニコラ・テスラとアーチャーが睨み合うこと数分、しかし、その沈黙は破られる。
ニコラ・テスラが表情を一変させる。直後ニコラ・テスラはアーチャーに声なき声を叫ぶ、無論アーチャーはニコラ・テスラが何を言ったのかわかった。
「サーヴァントだと――」
アーチャーは装備を解除すると全速で学園に向かう。ニコラ・テスラに集中しすぎて学園全体の警戒を怠っていた。彼に有るまじき失態であるだ。
「凛、無事でいてくれ」
彼は駆ける。学園へ。速く、速く、速く、主を助けるために。
この時アーチャーは気付いていない、本来なら敵の言葉は疑ってかかるべきなのに、彼なら疑っているはずなのに、彼は疑うことなく学園へ駆ける。
遅くなりました。いやー以前、さる方から正気を失っていると言われたので、探していたら時間がかかりました。
実は親切な人が教えて下さったんですよ。その人は白いスーツに身を包んだ長身の男で、髪は白いが肌は黒く、瞳は赫くって、
「チクタク」
言っていたんですけど誰なんでしょうね?
ではハーメルン読者の皆様方良き柴影を。