ジャラジャラ、ジャラジャラ。
ジャラジャラ、ジャラジャラ。
鎖が擦れる音がする。いま俺は目の前のサーヴァントに拘束されている。まるで大蛇が獲物を絞め殺すように、背後の木もろとも絞め殺すように。
強く、強く、強く。
「いい加減する観念する気になりましたか? 先の暴言の訂正、そして今すぐセイバーを呼ぶことに」
「く、――あ、ああああ」
サーヴァントの鎖が首より下をより強く締め付けてくる。骨が軋む音が聞こえそうな程締め付けているのに、鎖が擦れる音と激痛でで実際に骨がどうなっているのかわからない。鎖の
――このままじゃあダメだ、なにか、なにか手を考えないと、殺される。
――いやだ。
――でも、でも――
思考が中断される。徐々に徐々に強く締め上げる鎖が脳内を激痛で埋め尽くされる。
「すいません。これではしゃべれませんね」
サーヴァントがわざとらしく鎖の拘束を緩ませる。いつでも自分のさじ加減一つで殺せる。そう再確認させるために遊ばれてる。
――だからこそ、譲れぬ意地がある。こんなところで、こんな奴に弱味なんか見せられない。
「さあ、もう一度返事を聞かせてください。『私ごときがセイバーに勝てない』等という戯れ言の訂正とセイバーを呼ぶか否か」
「――は! 何を訂正する必要がある。あんた程度は俺一人で十分だ! セイバーを、マスターを呼ぶ必要はない!」
「……先程から疑問でしたが、あなたは自分のサーヴァントを
「そんなのは簡単なことだ。俺がそれだけマスターを信頼して、尊敬して、敬愛しているからだ」
「尊敬と敬愛? あなたはセイバーに暗示でもかけられているのですか? いや、そもそも暗示にかけられていたら認識できないか」
サーヴァントが訝しむ、それは大いにまともな考えだ。サーヴァントは過去や神話に登場する英雄、本来は自分たちが呼び出せるはずない稀人。しかし、魔術師という者達はそのサーヴァントを所詮は使い魔と断じる、どこまで行っても聖杯獲得のための道具であり、ましてや自分からサーヴァントのことを
そんな奇異な存在が目の前にいるのだ、疑惑の目をむけるのは当然である。
「暗示? そんなものをマスターが俺にかけるはずないだろ。なにせ俺たちは信頼し合っている。聖杯欲しさに一般人を襲いそれを了承する
急に緩められていた鎖が強く締め出してきた。
「あなたは少々暴言が過ぎますね、それにこの調子では話は進みません。他の者たちが介入してきては厄介です。よって」
サーヴァントが一歩一歩こちらに近づいてくる。その間にも締め付けはどんどん強くなってくる。いや、とりわけ右手首が強く締め付けてくる。
「その意志の強さに免じて命だけは助けてあげましょう。右手の令呪はもらい受けます。ただし、先までの暴言の罰として激痛を伴う方法を採択しますがそれは自業自得ということで」
サーヴァントの手が俺の右手に伸びてくる。
――くそ! なんて様だ。なんで俺はこんなに弱いんだ。誰かのの役に立ちたかったのに、マスターの役に立ちたかったのに……これじゃただの一般人と変わらないじゃないか! 俺はこんなことのためにマスターと契約したんじゃない! 俺はどうすれば……
「――バリツ式」
「――!」
聞こえた。確かに聞こえた。あの人の声が。
「雷電かかと落とし」
刹那、俺とサーヴァントの間に、雷が、眩くも輝かしき雷電が落とされた。
「――マスター――」
俺は呟く、来るとは思っていなかったから、あの追いかけっこの最中に遠坂が。『セイバーならアーチャーが足止めしているから誰も助けに来ないわよ』っと言っていたのだ。たしかに、いつもならすぐに駆け付けてくれるであろうマスターが一向にくる気配がなかったのは遠坂の言う通りアーチャーがうまく足止めしたのだろう。仮に、来てくれたとしてもまだ時間がかかると思っていたから、思っていたから。
だから、だから、不意に、目から涙が零れそうになった。
「大丈夫か士郎」
俺はマスターに抱き留められる。いつの間にか鎖が消失して支えを亡くした俺が前のめりに倒れそうになったのをマスターが受け止めてくれた。そして、その瞬間にさっきまでの痛みや疲れが一瞬で消えてしまったかのような錯覚に陥り、目を閉じて眠ってしまいそうになる。が、そこで気付く、ここには俺たち以外にもう一人いたはずと。
「マスター、サーヴァントは!?」
俺は全身に響く痛みを堪えて立ち上がり辺り一帯をを見回す。そこにはあの紫のサーヴァントは見当たらず、俺とマスター以外は雑木林ししかない。
「落ち着け士郎。敵サーヴァントは逃げた」
「なんで追い掛けないんだマス……」
マスターは冷静に敵サーヴァントが逃亡したと告げた、あの一般人を平気で襲う輩をマスターがみすみす逃したのかと思うと腹が立ってくる。しかし、気付く、ここでマスターが追撃に入ると俺は一人になる。そうなった場合また遠坂と戦闘になる可能性がある。最悪の場合アーチャーの加勢があるかもしれない。そう思とマスターが追撃できなかったのは足手まといの俺のせいであり、結局のところ俺はマスターの役に立てていない。そう言うことになる。
――ここでマスターに当たるのはお門違いだ。
改めて自分の無力さを実感する。本当はすぐにでも追いかけてほしいのに、自分に背中を任せてほしいのに、でも現実は全く逆だ。今までの鍛錬が無意味であったと思えてしまう。マスターはそうではないと言ってくれるだろうけど、言ってくれるだろうけど実際には自分の身を守るのでさギリギリで、それもただの魔術師である遠坂一人でそれなのにここでアーチャーまで来たらどうにもならない。文字通り秒殺されるだろう。
――だからって!
いま、所かまわず何処かに八つ当たりした気持ちに駆られる。そこらの木や、地面にだっていい。兎に角八つ当たりしたくなるが、そんなみっともない真似をマスターの前ではやれない。静かに俺を見守るマスターがいるんだから、だからここは強引に話題を変える。
「マスターあの女の子は?」
「ああ、無事とは言い難いが、リンが応急処置が的確で命に関わる状態は脱しっているだろう」
「そっか、よかった」
安堵した。これであの子に何かあったら本当にどうしょうもなかった。安心したらまた倒れそうになるが何とか踏みとどまる。少しでもマスターにみっともない姿は見せたくないから。
「衛宮くーーん」
校舎の方から遠坂の声が聞こえる。そこには息を切らして走ってくる遠坂の姿があった。
「遠坂」
「衛宮君も大丈夫……といわけではないみたいね」
遠坂はしげしげと俺を見る。今更ながらた制服のあちこちは擦り切れて枯葉や枯木も所々に引っ掛かってボロ布同然だ。中身に至ってはあちこち打ち身、骨折まではいかないまでも酷い打撲痕もあるだろうし藤ねえや桜にどうやって言い訳したものかと思うと。
――いや、それよりもあの子のことだ。マスターは経過しか見ていないから最終的な状態はどうだったか聞かないと。
「遠坂おれのことはいい、それよりもあの子は」
「? セイバーから聞いてないの?」
「いや聞いた。でも容態の急変ということがあるかもしれないだろ」
そう、マスターのことは信頼しているし、一片たりとも疑っていない。しかし、マスターは医療関連については門外漢だと思うから最後は遠坂に聞きたかった。
「ふーん。セイバー、あなた信用されてないわね」
遠坂がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらマスターに声をかける。
「な――そ、そんなことないぞ! おれはマスターを信頼していりう」
「ハイハイ、わかっていますよ。ちょっとからかっただけじゃない。あと、安心していいわよあの子は無事よ」
俺は慌てて弁明する。しかし、遠坂はそんな俺の反応は予想済みだったのか、未だにニヤニヤしている。マスターはそんなこと気にしていないのか俺たちを静かに見守っている。
いや、見守っていたマスターが遠坂の背後に視線を向けた。
「すまんない凛、遅くなった」
遠坂の背後に雌雄一対の双剣を持ったアーチャーが実体化した。そしてアーチャーが現れたのと同時にマスターが俺とアーチャーの間に入ってきた。
「アーチャー遅い! で、なんで臨戦態勢なの?」
遠坂はアーチャーが現れて武装状態という疑問よりも先に罵倒した。
「凛、人に疑問をぶつけるよりも先に罵倒するのはどうかと思うぞ。それと遅れた理由は距離を考えていってくれ。
アーチャーは手に持った双剣を仕舞うことなく、やれやれと遠坂に呆れていた。
流石に今の遠坂の行動は同情の余地なしに酷いと思う。もっともあのアーチャーに同情はしたくないのだが。
「わかっているわよそんなこと! で、なんで実体化するなり臨戦態勢なの!?」
遠坂が再度アーチャーに迫り詰問する。今度は先よりも語気と視線を強くして、踏み込む足もより強く。質問の返答よりさきに窘められたのが腹に据えかねているようだ。まあ、アーチャーの指摘ももっともだと思うが。
「ふう。凛、剣を持つ理由など簡単だろう。
ここでその二人を倒すためだ――」
瞬間、アーチャーから俺たちに明確な殺気が放たれる。未だに戦闘態勢に入っていないマスターと満身創痍の自分では明らかに不利であり、ここはマスターに足止めしてもらって自分が先に逃げるか? 否、たとえマスターがアーチャーを足止めしても遠坂がいる。今の状態では遠坂から逃げ切ることは難しい、いっそマスターに担いでもらって逃げるか。
「待ちなさいアーチャー」
そうこう思案している内に遠坂がマスターとアーチャーの間に割って入る。両手を胸の前で組み不敵な笑みを浮かべながら。遠坂は提案する。
「ねえ衛宮君、私たちと手を組まない?」
はい。遅くなりました。うん。最近の自分の執筆速度に軽く絶望して言うる今日この頃。
軽く予告みたいなことすると、次回以降急展開する予定。うん。予定。とりわけクトゥルフ的な何かの正体がわかる人にはすぐわかる展開が来ると思います。
では、親愛なるハーメルン読者の皆様良き青空を。