Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

18 / 26
正義の味方・同盟締結

「ねえ衛宮君、私たちと手を組まない?」

 

 遠坂はそう提案する。その表情は不敵に、答えがわかっているような嫌な笑みをしている。隣に立つアーチャーは何も言わず腕を組み、盛大にため息を吐いている。

 その態度に遠坂はアーチャーに視線を向ける。

 

「あら? アーチャー、あなたならここで苦言の一つでも言うかと思ったのに」

 

「なに、この数日の間に君の性格は把握している。ここで私が何を言おうとも君は意志を変えるつもりは無いのだろう。せいぜい私にできることはこの無能なマスターが君の提案を拒むことを祈るくらいだ」

 

 アーチャーは片目で遠坂を見ながらヤレヤレとポーズをする。悪びれもしないアーチャーに遠坂は腹を立てるかと思ったが違った。遠坂は頼もしそうにアーチャーを見ている。

 二人はまだコンビを組んで俺たちとそう変わらないと思うのに、こんなにも信頼しあえている。それなのに俺はセイバー(マスター)に助けれてばかりで、二人をとても眩しく見える。

 

「ふーん。あんたも私のことわかってきたみたいじゃない。感心感心。

 っで、衛宮君、返答をしてもらる。私たちと手を組むか、組まないか」

 

 遠坂が返事の催促をする、気付けば俺は少し落ち込んでいたのか遠坂の胸元当たりを見ていた、すぐに視線を上げると遠坂が俺を真剣な目で見つめる。この答えによっては次の瞬間にまた死闘となるだろう。いや、マスターには俺と言うハンデがある分不利になる。

 ――そんなのは嫌だ、嫌だけど、

 

 今なら、違う、さっき身をもって知った。彼我の戦力差を、遠坂と俺との魔術師としての実力差を、知った。懐に入りさえすれば俺にも勝機はあるかもしれないが遠坂はそれを許さないだろう。校舎での逃走劇で手の内は晒してしまったし、いや、そもそもこちらは満身創痍、どう考えても遠坂と今戦ったら死んでしまう。もちろんマスターはそんな事態にならないように俺を守りながら戦うだろうがそれでは防戦一方、ジリ貧だ。

 ――俺はこんなところで死ぬためにマスターと契約したわけじゃない。マスターと一緒にこの街を守るために、一緒に戦うために契約したんだ。

 ――でも、そんな重大な判断を俺がしていいんだろうか? ここはマスターに任せた方が良いじゃないか。

 

 遠坂たちと、正確にはアーチャーから俺を遮る位置に立っているマスターの背中に視線を向ける。その背中は別段偉丈夫というほどでもないのに、同じ人間とは思えないくらい大きく見える。その背中は不遜で、一切の揺るぎはなく、全てを守ると語っている。

 ふっと気付く、今マスターは臨戦態勢ではない、この瞬間にも戦闘開始してもおかしくないのにマスターの周囲には剣がない、それどころか雷電さえ走っていない。マスターは何かを待っている、その何かはわからないが、このまま重い沈黙が続くかと思ったが違った。

 

「――士郎、自分でリンに応えなさい」

 

「マスター――」

 

 マスターが待っていたのは俺の答えだ。

 

「今この場において私がお前に助言することはない、お前が今日まで見聞きしたこと、お前が感じたことを考慮して答えを出せばいいだけだ。

 たしかに他者に意見を求めるのは間違っていない。が、今の士郎は私に決定権を委ねようとしている。それはダメだ、私は士郎に呼ばれたとはいえこの聖杯戦争の時しかいない稀人(まれびと)だ。この先、様々場面で意見の聞ける者がいるとは限らない。自分で考え、自分で判断するしかない。私はこの聖杯戦争において士朗の意思に従う。

 一つ私が言うことがあるのならば、人は間違いを犯すものだ、今の自分が絶対では無い、未来において失敗だったと判断することの方が多いだろう。この私をもって例外ではない。そして、その失敗から物事を学び成長していく。それが人間の唯一無二の特権だ」

 

「でも」

 

 ――マスターが言うこと正しいと思う。けれど、今この場においての判断ミスは命取りになる。死んでしまっては成長も何もない。マスターだってそれくらいはわかっているはずなのに、なんで、俺に全てを任せれるんだ――

 

「士郎は私が信頼できないのか? 心配無用だ、たとえどのような状況に陥ろうとも私は輝きある限り(やぶ)れることはない。

 そう、たとえ相手が誰であろうとも(・・・・・・)

 

「マスター――」

 

 ――いま、一瞬、いつものマスターとは違う、強い感情が覗いた。それは怒り、悲しみ、そして深い後悔。

 

「……は」

 

 その声は遠坂の前にいるアーチャーから聞こえた。

 アーチャーはわざと聞こえるよに、口元の嘲笑を隠そうともせず、歪んだその笑みを見せつける。

 

「――アーチャー――」

 

「いや失礼、そこの男が、あまりにも面白いことを言うのでね」

 

「私は何か貴様を笑わせるようなことを言ったか」

 

「ああ、言ったね。まるで《正義の味方》のようなことを言っていたな」

 

 笑っている。嗤っている。嘲笑っている。アーチャーは心底わらっている。いや、わらっているように見えるだけでアーチャーから強い敵愾心(てきがいしん)を感じる。腰を低くし、両足に力を溜めている。つい数分前が本気ではないと思えるくらいアーチャーは強い敵意をマスターに向けている。

 アーチャーの敵意は直接向けられていない俺にでさえ震えるほどなのに、アーチャーのマスターである遠坂もアーチャーがなぜマスター(セイバー)に敵意を向けているのかわからず困惑している。

 対するマスターは動じない、どれほどアーチャーから強大な敵意を向けられていても不動だ。不遜にも腕を組み佇む、延々と続くかに思えたその時、マスターが口を開く。

 

 しかし、マスターの返答はアーチャーにとって慮外のものだった。

 

「《正義の味方》なモノか、私は《世界の敵》だ」

 

「――!」「な――!?」

 

 以前のも聞いた台詞、《世界の敵》、初めはただはぐらかす為の方便かと思ったが、今は違うとわかる。アーチャーもあの時屋根の上から聞いていたはずだが信じていなかったんだろう。その証拠に声には出していないものの遠坂同様に驚愕している。

 

「――セイバー、それは、どういう意味だ……」

 

「言葉通りの意味だ。たとえ世界が人々を害することを選択したのなら、私は、それと戦う」

 

「言っている意味が分かっているのか? それは《抑止力》と、《秩序》と対立することを意味しているのだぞ。

 そして、その結末は人類の破滅だ。お前はそれを許容するというのか」

 

 マスターの次の一言に全員が固唾を飲んで待つ、その一言次第で俺はマスターと袂を分かつことになる。だから、次にマスターから発せられる言葉を一言一句逃さぬよう全神経を集中させる。

 

 そして、

 

「許容するわけなかろう。

 私は、その脅威からも、

 人々を救う――」

 

 突如、強烈な風圧と轟音が鳴り響く。アーチャーがマスターに切り掛かっていた。その一撃にはフェイントや牽制と言った戦術を感じない、ただあるのは殺意。あの冷静なアーチャーからは想像できない嚇怒の念に染まった形相でマスターに迫る。

 

「戯言を言うのもほどほどにしろセイバー、そのようなことが出来るはずないだろう。ああ、出来るわけがない!! 許されるはずがない!! そのようなことは神しか、いや、神でさえできん!!」

 

「アーチャー……お前は――」

 

「……! アーチャー止まりなさい!」

 

 遠坂がアーチャーを止めにかかる。しかし、アーチャーが止まる気配はない、むしろ、勢いが増している。

 

「アーチャー!」

 

「止めるな凛! この男だけは絶対に倒さねば、いや、殺さねばならん!」

 

「アーチャー、なんであなたがいきなりセイバーに襲い掛かるかわからないけど、今はその時じゃない。

 私たちはこの聖杯戦争を勝たなければない、仮にこの場でセイバーを倒したとしてもあなたは全力を出さなければならない。それは今もどこからか私たちを監視しているかもしれない誰かに手の内を晒すことになり、最悪の場合消耗した状態で連戦になるのよ。

 いいアーチャー、そこのセイバーは私たちが知っているニコラ・テスラとは合致する情報が少ない全く未知数の英霊よ。そんなのと戦って消耗するよりもここはセイバーたちと共闘して、その後出来るだけ多くの情報を得てからでも遅くはない。幸いにしてセイバーのマスターはへっぽこで役に立たないから数に数えなくっていい。つまりここで戦うメリットは少ない、あなただってそれくらいはわかるでしょ」

 

「ああ、それくらいは考えもするし、想像がつく、つかぬわけなかろう。しかし、それを度外視してもこの男の存在を許すわけにはいかない」

 

「おねがいアーチャー、引いて――」

 

「…………」

 

 懇願する遠坂、無視するアーチャー。そこには先程までの信頼関係は見えない。信頼し合っていたはずの二人の間には、今大きな溝が広がっていた。

 

「――私に令呪を使わせないで」

 

 遠坂は右手をかざす。これは最後通告、ここでどのような命令が出されるか見当はつかない、が、選択肢は少ない。

 自害か。

 停戦か。

 あるは交戦。

 

 その三つくらいだろう。

 

 再び沈黙、その間もアーチャーは手を緩めていない。変わらず視線はマスターに向いている。敵意も減るどころか増している。再度遠坂がかざすとアーチャーは引いた。

 彼にどれほどの葛藤があったかわからい、わかろうとも思わない。でも、それでも、アーチャーは引いた。そこにどのような打算が、妥協があったかわからない。しかし、引いたということは少なくともこの場での戦闘は終わりを告げる。

 剣を収めたアーチャーはマスターに背を向けると無言で霊体化して姿を消した。

 

(ありがとう、アーチャー)

 

 遠坂がなにか呟いたと同時に風がその小さな呟きを掻き消す。二人の間に、いま大きな亀裂が入ったのは明確で、わざと出ないとしてもその原因がマスターにある。

 ――でも、でも。

 

 マスターの言葉を反芻する。《抑止力》と二重の意味で敵対するという言葉。自身を《世界の敵》と号するその真意。どっちも現実味がわかず、マスターは、ニコラ・テスラは本当は狂っているのかという思考が横切る。少なくとも《抑止力》を相手にするなど正気でない。正気で言えるはずがない。

 考えれば考えるほど疑念が湧いてくる。それは針の穴から天を覗くようなことだとしても、それでもその、疑念は、俺の心のに小さな、そう、小さな、わだかまりとなって俺の心を引っ掻く。

 

 これはいけないモノだ。

 これがあっては戦っていけない。

 コレがあっては誰も信じれなくなる。

 

 だから蓋をする。しなければならない(・・・・・・・・)

 じゃないと、あの時、感じたモノが嘘になってしまうから。

 

「さて、返事、聞いていいかしら、衛宮君。

 セイバーにあそこまで言わせたのだから応えない。なんて言わないわよね」

 

 遠坂が俺に向き直る。その表情は普段の、魔術師としての彼女の表情ではあるが、声が少し震えていたが途中で立て直した。彼女が何を考え、何を感じたか察することはできないが、たぶん恐怖を感じたと思った。

 ――そう思うとは滑稽だ。結局この場にいた三人の考えや感情をどれ一つ察することが出来ず、対処するための行動さえ取ることが出来なかった。

 ――自身の無力さに、自身の無能さに呆れてくる。それでも遠坂は俺に返答を要求する。マスターも何も言わず、その背中はこう語っている。

 

『お前に委ねる』

 

 マスターに対して出来てしまった小さな疑念、懐疑心、それはまだ覆い隠せてはいない。さらけ出すモノでもない。でも、マスターに信じてもらっていると思うと、胸が暖かくなる。涙が零れそうになる。期待に応えようと思う。

 ――まだわだかまりはどうにも出来ないけど、出来ないけれども、俺はマスターと一緒にいたい。だからその期待に応える。

 

「遠坂、おれは、その申し出を受ける」

 

 答えを聞いた遠坂は無言で俺の顔を見つめる。そこにどんな感情があるか探っている。

 

「ねえ衛宮君、理由、聞いていいかしら? まさか安易にこの場を抜けたいから、なんていうのないわよね?」

 

 当然の疑問だ。そして俺は正直に答える。どのみち俺程度のポーカーフェイスが通用するとは思わないから。

 

「――それも理由の一つだが、一番大きいのは遠坂と争いたくないからだ」

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 遠坂は急に俺たちにそっぽを向く。

 

「――ふう。本来なら赤点だけど、まぁ大目に見てギリギリ及第点」

 

「は?」

 

 唐突のギリギリ及第点扱い、たしかに戦略的、戦術的理由に乏しいのはわかるがいきなり及第点はひどいと思う。

 

「いいの、気にしないで。

 じゃあ私は準備があるから先に帰るわね。あと、その傷の言い訳考えておきなさいね」

 

 そう言うと遠坂は駆け足で校舎へと向かって行った。なぜ俺たちから背を向けて駆け出したかわからないが、急ぐことでもあったのだろう。

 

「士郎、一つお前に言っておかねばならないことが出来た」

 

 これまた唐突にマスターが口を開く、『言っておかねばならない』ことはなかなか重そうな話なので静かに耳を傾ける。

 

「これは魔術師としてもそうだが、一般人としても大変重要なことだが」

 

 ――? なんだ? 魔術師だけでなく一般人としても重要なことって?

 

「こと、誰かと契約する際にはしっかり内容確認することだ。あとで知らなかったでは許されん場合がある」

 

 ――??? ますますおもってわからない。いったいさっきまでの遠坂との会話の中に注意する点があっただろうか?

 その後、保健室で治療をして家に帰る最中に言い訳を考えていたのだが、家に着いた途端、それらの事が頭の中から抜け落ち呆然としてしまった。

 

「あら、お帰り衛宮君。遅かったわね」

 

 家の門の前で大きい旅行用トランクと共に赤い悪魔(遠坂凛)が笑顔で立っていたからだ。




遅くなりました。うん。最近この言葉ばかりしか言っていない気がします。
以前にもまして遅筆になりました。以前なら7~10日には一回のペースで登校で来ていたのに!
今回は地文と会話に苦労しました。うん。なにせ雷電王閣下の呼称がマスターだから結構気を使ったんですよ。まぁそれでもどこか違和感があったら言ってください。すぐ訂正するので。

では、親愛なるハーメルン読者の皆様良き青空を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。