運命の日
――こんなところじゃあ死ねない。助けてもらったんだ、俺にはいきる義務がある。
青い槍兵が土蔵に入ってきた。その姿は士郎にとって鎌を携えた死神にみえた。
「筋は悪くない、機転もきく、が魔術はからっきしときた、まだ若すぎたのもあるが運がなかったな。
もしかしたらお前が七人目だったのかもな」
――どうにかしてこの場から脱出しなければ、今死んだら助けてもらった意味がない。
助けてもらったからには早々と死んではならない。
俺は生き残って義務を果たさなければならないのに、こんなところで死んでは義務を果たせない。
ここは自分の鍛練場なにか武器になるものがあるはず。
「諦めろ哀れな魔術師よ」
また一歩死神が近づいてくる。
「お前の声は届かない」
そして青い槍兵は槍を構える。次こそは決して生かさぬと言わんばかりに。
「残 念 だ っ た な !」
槍が心臓に向けて走る。
この槍は前回と同じように、この穂先は俺の心臓を過たず貫くだろう。
俺はそれを知っている。
そしてそのあとには絶命した自分が横たわっているのがわかる。
俺は――
例題です。
ここに一人の少年がいます。
魔術師の少年です。
少年の目の前には青い槍兵がいます。
つい数時間前に少年の命を奪った男です。
少年は必死に逃げて抵抗しました。
助けられたからには生きなければならないと。
生きて義務を果たさなければならないと。
けれど為す術がなく追い詰められました。
少年は自分の心臓を穿とうとする槍の軌跡を追います。
今まで目視するとことかなわなかった槍の軌跡が見えます。
刺突の一撃がまるで自分の心臓に吸い込まれるように走ります。
この槍は皮膚を突き破り。
骨を砕き。
肉を裂き。
心臓を串刺しにするでしょう。
少年はその痛みを。
穿たれる槍の感触を。
意識が薄れいく感覚を。
自分の命が消えゆくその時を。
また味わうのでしょうか?
少年の命はここで終わってしまうのでしょうか?
助けられた命をここで終えてしまうのでしょうか?
――――どうするべきでしょうか?
少年は、諦めるべき?
少年は、泣き伏せるべき?
少年は、抗うべき?
少年は――――
――――少年は抗います。
例え目の前に死神がいようとも。
例え少年を絶命させた槍が来ようとも。
少年は最後まで諦めません。
意味もなく殺されないように。
助けてもらったから。
義務を果たさなければならないから。
――――少年は戦います。
「こんなところで意味もなく、平気で人を殺すお前みたいな奴に!」
魔法陣が光る。まるで士郎の声を聞き届けたように。
「――なに! 七人目のサーヴァントだと!?」
「バリツ式雷電前蹴りッ!」
音した瞬間には青い槍兵は外に吹き飛ばされていた。
そして青い槍兵を土蔵の外に吹き飛ばす者が顕現した。
――雷鳴が轟く──
「輝きを持つ者よ。尊さを失わぬ、若人よ。 お前の声を聞いた。ならば、呼べ。私は来よう」
――黒い襟巻棚引いて――
――閃光が迸る――
――雷鳴が轟く――
その腰部には
その両腕には
たなびく黒い
曾て軍服の様なものをまとい、
空の果ての雷をまとい、
刹那に、彼はその姿を現した。
――そして――
――彼の瞳、輝いて――
――周囲に浮かぶ光の剣、5つ――
「絶望の空に、我が名を呼ぶがいい。――――雷鳴と共に。私は、来よう」
静かな月華に照らされた土蔵、今日この日、運命の夜に衛宮士郎とニコラ・テスラは邂逅した。
白い男はこちらを見た。
「少年、君が私のマスターか」
「……マス……ター?」
なんのことかわからない。マスターとはなんのことだろうか、この男は何者なんだ。
「なるほど正規のマスターではないのだな、だが安心するといい。私が君を守る。
さしあたっては外で殺気剥き出しの槍兵を大人しくさせてからゆっくり話すとしよう」
そう言うと白い男は外へ飛び出ていった。
士郎はそこで飛び上がるように立ち上がる、すると白い男を追うように外に出る。
そこは士郎にとって、否魔術師とっても規格外の光景であり、世界であった。
閃光が迸る、雷鳴が轟く。夜を昼に変える。土蔵の外は士郎の知る世界ではなかった。
「発雷十!」
白い男がそう言うと雷鳴が10回ほぼ同時に鳴り響いた。しかし雷の落ちた黒焦げた大地には青い槍兵はいなかった、だが青い槍兵の回避した先に5本の光の剣、突き袈裟右凪ぎ唐竹背後からの突き、それらを緩急をつけ青い槍兵に迫る。
「なめるなぁ!」
怒号一喝。青い槍兵は光の剣を全てを薙ぎ払い、打ち落とし、躱す。
「さぁ!」
青い槍兵が突進すると三連突き、更に三連、どんどん加速する槍撃に白い男は腕組みを崩すことなく光の剣で迎撃。
空気が軋む、大気が悲鳴を上げる。轟音鳴り響くこの場所はもはや現実ではなく神話の世界だ。只人が生きてはいけない世界。
そして青い槍兵の槍がついに白い男に届く、が、その槍は素手で防がれた。
しかし槍兵は止まらない、むしろ更に加速する槍はもはや瀑布。その怒涛の攻撃は音の壁を越え白い男を首を捉えた。
「――
「惜しいが、遅い」
「な!?」「え?」
白い男が文字通り消えたように見えたと思ったら槍兵の背後にいた。
「あの槍を躱た!? 閃光! 雷速! 否、光速――!」
左手と右手を、輝かせて。
左手と右手に、紫電を溜めて。
白いの男が――
「然り! ――電刃ッ!」
「
「ちぃ!」
――閃光が――
――視界を埋めて――
――夜がほんの一瞬朝になった――
目が慣れると二人は5mほどの距離をッていた。
「ふむ。やるなランサーあのタイミング、あの状態で直撃を避けるとはなかなかどうして。
必殺の一撃を放つとき必ず隙ができる。絶妙だったはずだか。
認めようランサーお前は私が今まで会った中で最強の槍兵だ」
白い男は手放しに青い槍兵…ランサーを称賛していた。
余りにも場違いで不真面目にも捉え得る言動、しかし彼は至って真面目である。
ランサーはというと。
「うれしいこと言ってくれるね。だがあの一撃はヤバかった。危うく直撃を食らうところだった。
――しかし貴様何者だ。宙に浮かぶ光の剣、雷を操る、あまりに芸達者でキャスターかと思ったが、我が槍を受け止める奇っ怪な無刀術と光速の超移動。曲者揃いの聖杯戦争において貴様程の男はなかなかいないだろう」
「尊き輝きを守護するものだ。尊くも儚い者を守る騎士といったところだ。
お前にわかるかランサー」
そうだ。今自分はわけのわからない状況下にあるが、一つだけわかることがある。
「窮地に陥る者の味方だ。そしてお前の敵だ」
それを聞いたランサーは笑いを堪えるように
「は、ほざけよ雷電魔人」
「ではどうするランサー、このまま、やるか」
白い男は依然不敵な態度を崩すことなくランサーと相している。そしてランサーは。
「やってやろうさ! 元々偵察目的だかそんなもの知るか! ここまでやられたんだ返礼の一つも出来ずになにが英雄か!」
ランサーは槍を僅かに下げ、姿勢が低くする。
その構えを俺は知っている。
それは必殺の一撃、夜の校庭で赤い男を殺すはずだったもの。
周囲の空間が歪んだ。
――槍を中心に、魔力か渦巻き躍動する――
「宝具か――」
白い男は不遜な態度を崩すことなく立ち続けている。
敵がどれ程危険な存在かわかっているはずなのに白いの男は正面から受けて立つつもりだ。
「――その心臓、貰い受ける――!」
ランサーが疾走する。
そして距離も半ばのところで踏み込む。
槍の間合いには程遠い、ランサーともあろう者が間合いを読み間違えるだろうか。
刹那。
「――
言葉に魔力が宿る。
その真名をもって宝具は解放される。
形をなした神秘。
「――
槍が複雑な軌道をとって白い男に迫る。
白いの男はその槍を光の剣で防いだ――防いだはずだ。
――しかしランサーの槍は――
――防いだはずの槍は――
――白い男の胸を貫いていた――
――凶々しいく深々と――
そしてこの槍は心臓だけではなく雷電核をも貫いていた。
それは、幻想たる彼の中心だ。それは、雷の鳳の力そのもの。
人間でたとえるならば心臓と脳を同時に砕かれたに等しい。
かの槍は神代の海獣の骨から作られた魔槍で貫かれた者は必ず絶命するといわれる。
ここに白い男の敗北が決定した。
――Fエクスペリメンツ―を使用して世界介入をします――
《――入力――》
《――承認――》
《介入を開始します》
《基底現実を書き換えます》
◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □
――二人は間合いをとった状態になっている。
さっきまでの光景はなんであったのか。
「……貴様どうやって我が槍を防いだ」
訝しむというよりはある種激昂している。
彼の槍は心臓を穿つ文字通りの必殺の一撃だった、なのに彼は生きている。自分の必殺技を、自身の誇りを防がれたことに怒りを覚えているように見えた。
白い男は未だに不遜な態度のままだかその内心は伺えしれない。
「ゲイ・ボルグっと言ったか、なるほど御身はアルスターの光の御子か」
ランサーは槍を納めると片手で頭をかき。
「ちっ。これをやるからには必殺でなけりゃならないのに。俺もヤキが回ったか。
まったく、有名すぎるのもどうか」
「落ち込むことはないランサー、御身の宝具は間違いなく必殺の一撃だった。私とて少しでも対応を間違えればれば命を落としていた」
それを聞いたランサーは哄笑し始めた。
「そうかそうか、そいつは光栄だ。が、その一撃を防ぐお前は何者だ?」
「言っただろ、騎士だと、そしてお前の敵だ」
ランサーは諦めたのかため息を吐くと踵を返した。
「追ってこないのか雷電魔人」
「追ってもいいがそこの少年を放っておくわけにもいくまい。
行けランサー」
「そうか、ではな雷電魔人、次は全力でやり合おう」
そう言うとランサーは塀を越えて夜の闇に消えていった。
白い男がこちらにやって来た。
「大丈夫か少年。服は血塗れだが――大きな傷はなさそうだな」
なんか大人が子供の心配をするような対応に少しイラッとくる。
「少年じゃない、衛宮士郎だ!」
「そうかでは士郎無事なようでなによりだ。それで君は私に聞きたいことがあるのではないか? 正規ではないとは言え君はマスターであり、私は君の質問に答える義務があるし、君は質問をする権利がる。
故に私のわかる限り答えよう」
「っ……」
――な……なんなんだこいつは、いきなり名前で呼ぶなんて、ふ、フツーは名字で呼ぶもんじゃないのか………!?
照れを隠すように、子供扱いされないように強い口調で質問する。
「……じゃあ聞くがあんたは何なんだ、なぜ俺は襲われたんだ」
彼は手を顎に添えると。
「なるほどまずはそこからか。
まず私はニコラ・テスラ、気軽にマスターテスラ又はマスターと呼ぶがいい。
そして君は魔術師達による狂気なりし儀式、聖杯戦争に巻き込まれた。
だが安心するがいい、私が君を護り抜く」
「ニコラ・テスラって、あのテスラコイルの?」
――なにか妙なこと言っている男がいる。と言うか痛い男。
そんな視線をニコラ・テスラを名乗る男に向ける。
「確かにそのニコラ・テスラで相違ないが、なにやら失礼なことを考えている目だな。
まぁいい、士郎きみは体のどこかに聖痕――令呪があるはずだが」
「聖痕って……そんなのあるわ――痛っ!」
突然左手に痛みが走る。
左手の甲には刺青のような、変な模様が刻み込まれていた。
「なん……だ、これは」
「士郎それが令呪だ。
それが聖杯戦争におけるマスターの証であり、サーヴァントを律する三つの命令権であり、マスターとしての命でもある。あまり無用に使わないように、ここぞという時に必要になる」
なんなのか未だに追い付かない。
「――ん? 外に気配がするな。この短い時間にサーヴァント二騎と遭遇とは、やれやれでは外で迎えるか。
士郎は危ないからここで待ってなさい、戦闘は回避できるようにする」
言うやいなやニコラ・テスラ(仮)は門の方へ跳んでいった 。
「……外に、気配?
ちょと待て、俺を置いていくな!」
彼を追い、全力で門へ走る。
まだ聞きたいことが山積しているんだ。
息を切らして門の外へ出る。
ニコラ・テスラ(仮)と対峙している二人組を見つけた。
月は雲に覆われて、辺りは闇に包まれて顔がよく見えない。
そして、
「あら衛宮君こんばんは、なかなか面白いことしてるようね。よかったら私とお話しない?」
月華に照らされた先には、この場には相応しくない女の子がいた。
遠阪凛学園の優等生がいい笑顔でこちらを睨んでいた。今日、この日、この運命の夜がすべての始まりであった。
取り敢えずそんな笑顔でこっち睨まないで。
閲覧ありがとうございます。この小説はアーチャーと士郎が雷電王閣下と出会ったらという妄想を具現させたものです。正義の味方談義楽しいかなと思ったので。