夢それは記憶
多分、これは夢だ。夢なんだろう。
見たことのない程広く、世界そのものを覆い尽くす暗い灰色雲の空。観たことのない程壮大で、どこまでも貫くような蒼穹の空。俺たちの世界に似ているようで、全く似てない世界。
さりとて、この夢には介入は出来ない。これはただの夢ではない。多分これは過去、すでに過ぎ去り、確定されて既定されている現象だ。
そう、これは記憶、記録だ。
青空がのぞく地にて、幼い子が誰から燻陶を受けている。そして、小さな約束をして、時は駆け抜ける。
その後の少年は成長した。けれども彼は、道を、義を、人を、何もかもが、遠ざかる――――
彼は世界の敵なのだから
誰とも結ばれない
それは契約であり
呪いなのだから
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
気付いたら朝になっていた。視界が、いつも見ている天井の風景が滲んでいる。瞳は涙でぼやけている。
夢を見て泣いていた。そんなのはいつぶり……いや、少なくともオヤジに、切継に拾われてからそんな記憶はない。もしかしたら、それ以前は、怖い夢を見て泣いたことがあるかもしれない。
けれども、そんな記憶は酷く朧気で、酷く曖昧で、自分のことなのに胡乱に思える。
薄情で、
非道で、
あの日、助けられなかった人達の中には実の両親もいたはずなのに、毎朝挨拶をした近所の人達も、友達も、学校の先生も、いたはずなのに…………
それなのに、朧気で、曖昧で、胡乱なのは、
あの日
あの火の海
切継との出会い
それ以来、過去を昔話として、記憶を記録として、切り離し、磨耗するフィルムのように思えてしまう。
いや、あの日以前の自分と今の自分は、乖離している。してしまっているのが、どうしょうもなく――
俺は目を拭い、上体を起こして、
「起きたか士朗」
すぐそばにはマスターがいる。
「あ、おはようマスタ…………」
………………あ、れ、?なんで、マスター…………がここに………………ッ!!――――――!!
跳ねるように、文字通り飛び上がり。壁に背を密着させて、一瞬にして乱れた呼吸を迅速に整える。
今の今まで寝ていたのが嘘のように、昨日までの疲れが無かったかのように、自己最速俊敏に動けた。
「ふむ。もう問題なさそうだな」
「なんでマスターがここにいるの!?」
声を荒げる。荒げて、少し冷静になった。落ち着いて考えればマスターは男で、ここにいても問題ないのに、むしろこの朝の感じからして寝坊したのは自分だと判断できる。
故に、なんら、問題は、ないはず…………はずだ。
昨日の記憶を遡る。遡り、
――たしか、昨日は夕食の後片付けをしたあと、一番風呂を頂いて、それで…………――――――!!
思い出す。思い出した。思い出してしまった。
そして、あることをマスターに聞く。
「あ、あの、マスター。もしかして、着替えは――」
「? もちろん私がした。子供とはいえ、女性にさせることではないからな」
――やっぱりかーーーーー!
声ならぬ声を、悲鳴ならぬ悲鳴を、音ならぬ叫びをする。
同時に、身を捩り赤面する。
「何を恥ずかしがっている。士郎はいい体をしている。なにも恥ずかしがることは無い」
――………なにを、言っているんだ……
「あ、あの、マスター、何のこと?」
「? 士郎はいい体をしてる。その年にしては全身を満遍なく、無駄のないように、実戦に耐えれるように鍛えられている。年齢と身長と人種等を加味していれば完成していると言っていい。
実にいい肢体と言いても過言ではない。それは士郎自身の今までの努力の現れなのだから」
――いい体をしている? いい身体…//////いい――
なおのこと、悶え、隠れたくなる衝動を抑え、再度冷静に、心を穏やかに、平静になるよう深呼吸する。
そう、マスターは男で、のぼせた自分を朝まで看病してくれた恩人。つまり、ここで逆上するのはお門違いで、感謝こそすれど、起こるなんてもっての他。だからもう一度深呼吸していつもの自分になる。
――まだ頬が熱いが、それ以外は、大、丈夫の、はず////:
「さて、大丈夫そうなら、私は居間に行く。
士朗も落ち着いたら、着替えて来るといい。今は桜が朝食の用意をしている」
「桜が」
「ああ。今日は人数が多く大変そうだからな。早く手伝うといい」
マスターは、言うだけいって部屋を出ていく。そもそも朝食が大変なのはマスターが朝にたくさん食べるのが原因なのでは? とは口が裂けても言わない。
――ともかく、早く桜を手伝いに行かないと。
そんな、どうでもいい(家計的には重大)ことを考え、即さと着替えて居間に向かう。
少し、ほんの少し、いつもの調子が戻った。けれども着替えの最中にも体節々の痛みが、この間によりも生々しく打ち付けられた傷が疼く度に、今が聖杯戦争という非日常を思い知らされる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後俺は先に朝食の支度をしていた桜の手伝いに入り、配膳を終えて後は遠坂がくれば、いつもよりも少し遅めの朝食が始まる。
はずであった――
「ひゃーーーー!!」
朝の静寂……とはいかないまでも、穏やかな朝をぶち壊す女の子が出すには間抜けな悲鳴が衛宮邸に木霊する。その際、お茶を口に含んでいたため僅かながら、不覚にもむせてしまう。桜に背中をさすられ、自分の周辺を台拭きで拭っている。
ドタドタとした地鳴りが居間に近づいてくる。
突然の悲鳴に、近づく地鳴り、些かなからの緊張と共に待つ。
そして、
「衛宮君なんなんあれ!?」
居間の戸を荒々しく開けた遠坂。目元が若干涙目で、顔を赤くした少女、遠坂凛。
俺たちが通う学園の高嶺の花、眉目秀麗才色兼備を欲しいままにして、親友の一成曰く《赤い悪魔》《魔性の女》《女狐》と、言われる遠坂凛が――
否応なく目を奪われる絶対りょ……太ももから下の黒いタイツにかけて透明な液体がつたい、黒いタイツにシミを作り、更に下の足首には薄桃色の下着が心持ちなく引っ掛かっている。
そんな遠坂に藤ねえと桜は、苦笑いしつつなにか納得した感じで、マスターは泰然自若で、俺はどんな反応したらいいかわからず固まる。
そんな中マスター。
「士朗、なにも驚くことはない。リンもまだまだ少女なのだ。不意に粗相してもおかしくない」
「な!」
マスターの突然の言葉に固まる遠坂、そんな遠坂をお構い無しに言葉を続けるマスター。
「そもそも女性は男性よりも堪えがきかないものだ。
それよりも早く、片付けてあげなさい。紳士たるもの女性に恥をかかせてはいけない」
「そう、なんですか?」
マスターの言葉に半信半疑ながら、別の思考では早く片付けないといけないという衝動が駆ける。
駆ける衝動に抗いきれず、行動を起こす。
何より、先程から小刻みに震えてい遠坂、それは体を冷やしたのではないかと思ったから。
――そうだ。マスターに言われなくても、切継からも女性は大事にしろって言われていたんだ。だからこれくらい。
「遠坂大丈夫か? 替えの下ぎ」
「大丈夫なわけあるか!」
一瞬にして間合いを詰められ鳩尾に頂肘(所謂肘突き)をくらい、意識が、暗く、落ちる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……きみがこの部屋へ来るのは、随分と久方ぶりな気がするね。その後変わりないかい、士郎君」
「はい。いいえ。うん? え? 俺はここ来るのは初めてですよ。というか、ここどこですか?」
少年の当然の言葉と疑問に、彼は、その老人は僅かに微笑んだようだった。古めかしいパイプから紫煙が漂う。部屋がやや白く染まり、汚染された空気が少年の鼻腔を刺激する。
薄く煙るその”部屋”で。少年は、一人の老人と対話している。
その鼻腔を刺激する紫煙に、どこか懐かしさを覚え、しかし目の前の老人には一切の面識がないのを明確にして、少年は部屋で佇む。
「そうかな」
老人は、再度微笑んで。静かに言葉を紡ぐ
「衛宮士郎。君は神という超常的存在を信じるか?」
「神? 何のことですか?」
「いいかね。神とは気まぐれで、無頓着で、気狂いで、自棄奔放な存在のことを言うのだよ」
「だから、何の話ですかって言っているんですけど!」
「神は、人に望外の幸運を下ろしもすれば、望まぬ不幸を下ろすのも神だ。彼は、彼らは、自分が面白いと思うシナリオを人に強制して、それを自画自賛し、他者に広め毀誉褒貶を楽しむ存在だ。
そんな者に、抗う術はそうはない。抗うこと事態が不可能なのだ。しかし、君が諦めなければ、いや、それも無理な話だ。
だから、抗うのはやめたまえ。すべては、無駄な足掻きだ」
「じいさんあんた、いったい何の話を――」
「それでも、君が諦めなければ、君が望めば、君自身が君自身を、常に最強の自分に抱けたのならあるいは――」
『なるほど。諦めなければいつか、必ず叶う。ですか、
けれど、あなたは願いは叶えられることは無いでしょう。いや、かなうはずがない』
背後から、声が聞こえる――
少年の背後からのぞき込む者があった。それは、視界の端で嘲笑う仮面。奇怪な男。華美な衣装に身を包み、顔だけを隠した男。
暗がりにある老人と同じ空気を纏う者。直感で、わかる。この男はいてはならない存在だ。
『滑稽だ。実にあなたは滑稽だ』
怪人の口元は歪んでいる。それは、少年のすべてを嘲っている。
『あなたは。
いや、お前には。何もできはしない。何をしても、何をしようとも』
「おまえ、いったい何を言って……」
『そうだ。お前の選択は無意味で、無価値だ。何にも成れず、何も掴むことは出来ない。
お前は、お前は神に弄ばれ、慰み者になる運命だ。救い、希望ある明日は訪れない。
そう。お前は神の掌か抜け出すことはできない。胡乱な超常なる神だけではなく、たしかに存在する時計仕掛けの神からも抜け出すことは出来ない』
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
その哄笑に、その嘲笑は、部屋全体に反響し。残響する音は暗闇となって、俺の意識さえも、すべて覆い尽くす。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇◆
「せ……ぱい」
――誰かが、俺を揺すっている。
ゆさゆさと、俺の肩を揺する誰か。柔らか手、優しい香り。
藤ねえならこんな起こし方はしない。なら、誰だ。
「マス……ター」
「!」
直後。額に痛みが走る。目を開けると桜が半ば馬乗りのような格好で俺の上にいた。
――そのような体勢ということは、先程の痛みは桜がやったのか?
「桜」
「先輩。大丈夫ですか? どこか痛みとかありませんか?」
「うん。ああ、特にこれといってない。それと桜、さっき額に」
「そうですか。じゃあ席に座って朝食食べましょうか。あちらもそろそろ終わりそうですし」
なにやら強引に話を終わらされたカンがある。が、額の痛みは特に酷いというものでもないので、特には気にならないが。
――うん? あちら?
先程桜が視線を向けた方に、俺も向けると…………
「くっそ! 素直に当たれ!」
マスターに拳を連打する遠坂。
「子供が扱うには少々物騒な拳法だか、なかなかの功夫だ。師に恵まれたのだなリン」
マスターは遠坂の武を称賛しつつも、なんの事も無げに、器用に片手で新聞を読み、もう片方の手で遠坂の連撃を防いでいる。自分が二度にわたり成す術が無かった遠坂の暴力を、いとも簡単に。
「ッ! あんなのが師なものか!」
もっと、遠坂はマスターの称賛がカンに障ったのか、深い踏み込みと共に拳を繰り出そうとした。
が、そこに来てマスターは正座を崩して、片足を遠坂と同じタイミングで踏み込み、繰り出された拳を受け止めた。それにより、遠坂の一撃によって発生した衝撃を相殺し、そばの机にはほぼ振動が伝わってなかった。
「リン。そろそろ気も晴れただろう。朝食にしよう」
「フン!」
遠坂も今は敵わないと判断して、自分の場所に移動して乱暴に座ったのを見計らって空腹の限界だったのか藤ねえが、
「いただきます!」
っと、何事もなかったように朝食をマスターと張り合うように平らげ始めた。
さて、大分遅くなりましだか、あと、六時間くらい早く更新したかったジンネマンです。
今回は、まー、嵐の前の静けさ(?)的な話にしたかったのでこんな感じですね。次回にはアレが来ます。スチパン的には絶望するしかないアレが…………
まあ雷電王閣下がいれば問題ないですよね!士朗次第ですが…………
それはそうとFGOの年末年始の成果!
ナーサリー六枚!?
ベーオーウルフ二枚
フィン一枚
カーミラー一枚
ステンノ一枚
オジマン一枚
両儀式一枚(三万円)
エルメロイ一枚
因みに他に狙ったのはイリヤ、ギル、イシュタル、キング破産。
全部爆死したがね!
では、親愛なる皆様良き青空を。