Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

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親友・分水嶺

「まったくなんなのあのトイレは! 新手の嫌がらせか罠としか思えない!」

 

 まだ道行く人もまばらな時間帯とは言え、女の子が天下の往来でトイレ発言はどうかと思う。それと、日本が誇る文明の利器を罠や嫌がらせ発言を訂正するとしよう。さもないと設置した俺が謂れのない謗りを受けそうだから。

 

「遠坂、アレは『ウォシュレット』っと、言ってお尻を自動で洗ってくれる文明の利器だ。元々は医療用に開発されたも」

 

「そんなことはどうでもいいのよ! 私が言いたいのは不意討ちで作動するのはどうかっていうことよ!」

 

 顔を真っ赤にして憤慨する遠坂、この時間帯の深山町は人通りが少ないので注目は浴びないものの、もうそろそろ朝練の学生や新都に向かう人たち達が増えてくる。遠坂の機嫌をどうにかしないとこちらにあらぬ誤解を受けそうだ。

 昔切嗣(じいさん)が言っていた。『誤解はすぐに解いた方がいい。さもないと大変なことになる』

 その真意はわからないが、その事を語る時の切嗣はとても一言では言い表せない。とても苦い顔をして笑っていた。

 そんな俺の意図を察してか桜が助け船を出してくれた。

 

「遠坂先輩。あれはあれで良いものですよ。

 特に調理に携わる者としては衛生面には気を付けたいですし、慣れれば快適なんですよ。

 それにあの便座は暖房機能が付いてるから冬でも暖かです」

 

「…………ふん。確かに衛生は大事よね。

 まあ、確かに自分の手を汚れないのは良いことだし。便座が冷たくないのはいい文明ね」

 

「そうだぞ遠坂。清潔なことはいい文明だし、暖かいのもいい文明だ」

 

 ――うん。でもなんだろうか? 遠坂はなんら間違ったことは言ってないのに、一部なぜかとても物騒に聞こえるのは………

 

「――そう言えばテスラ君はどうしたの? 朝食のあとそくさと出ていったけど」

 

「ああ。マスターなら昨日早速依頼された迷い猫を探しに行ったよ。ほらあの電柱にも貼ってある猫。なんでも本当は昨日のうちにやる予定だったんけど、都合が悪くなったから今朝早くに探して、一限目が始まる前には片を付けてくるとか言って」

 

「ふーん。まあいいけどさ、猫一匹そう簡単に見つかるの? 見つからないから張り紙をするんだし、その子はたぶん藁にも縋る思いので依頼したのね」

 

 まあ。そうなんだろう。冬木は田舎とは言え地方都市でそれなりの規模の街であり、そんな中一匹の猫を見つけるのはとても難しい。

 俺も昔に何度かそう言った迷子の迷子のペットを探したが、そのすべてが結局見付からずに今に至る。無論頼まれれば全力で探しに行く、それでも見つけるのは至難だろう。その度にある種の諦観がある。

 せめて生きていてほしい。交通事故等に巻き込まれないでほしい。死体となって見つからないでほしい。

 

 士郎にしてはネガティブで、普段の彼なら思いもしない感情だが、それだけ迷子の動物を探すのは困難で途方もない。

 それが顔に出たのか、遠坂が俺の背中に紅葉を作る勢いで叩いてた。

 

「なに暗い顔してんのよ。まだ猫以前にあの男が見つけるとは限らないんだから……気を落とさないでね衛宮君」

 

 途中から口調が変わった。回りを確認すると人がいるようには見えないが、遠坂のことだから壁向こうから人の気配を察知したんだろう。猫を被るのにそこまで必死になると言うのもどうかと思う。

 それから昨日の印象のせいか、激しい違和感のする猫被りな遠坂ととりとめのない話をしつつ学園前の坂を登り終えた先、校門に背を預けている男に気がついた。その男も数舜遅れてこちらに気付くと、瞬間に顔をしかめた後笑顔になってこちらに近づいてきた。

 

「……おはよう衛宮。今日も早いな。それに遠坂もおはよういい朝だね。ついでに桜も」

 

「……おはよう慎二。でも妹の桜をついで扱いはないんじゃないか」

 

ッチ。相変わらず五月蝿い奴だな。それよりも衛宮、ちょっと話があるんだ来いよ。

 遠坂、衛宮返してもらうよ。ほら早く来いよ」

 

「待ちなさい間桐君。衛宮君は|私たちと楽しくお話をしてるんだから邪魔しないでよね♥」

 

「!!!!!」

 

 慎二は俺の二の腕を掴むと強引に引っ張ろうして遠坂に制止された挙げ句、俺たち三人の歓談を遮った邪魔者扱い。そんな扱いされたら自尊心の高い慎二だから次の反応は容易に想像がつく。

 

「五月蝿いな遠坂。衛宮は僕のだ。どうしようが僕の勝手だろ!」

 

「待てしん」「あら? いつから衛宮が物になったの? しかもあなたの?」

 

「うるさいぞ遠坂! 衛宮は僕と話があるんだ! 引っ込んでろ!」

 

「遠さ」「あら? 女性徒には優しい間桐慎二君がまさか私に手を挙げたりはしないわよね?」

 

 その言葉に歯が軋む音と共に憤怒の視線を遠坂に向けるもそれをそよ風のように受け流す、いや、そも遠坂は風とすら思っていない。それどころか俺が二人を仲裁するために声を出そうとすると、絶妙なタイミングで台詞を乗せて封じ込めてくる。慎二がいくら喋っていようともだ。

 俺の言葉を潰す瞬間の遠坂は終始猫被りの笑顔だったが、内心は嫌らしい笑みを浮かべていることだろう。今朝の事が未だに腹に据えていたのか、次第に慎二を煽る言動が増えてきた。

 こうして口論が激しくなるにつれて二人を中心に直径五メートルは誰も近づけない空間が出来上がっていた。普段から慎二と一緒にいる取り巻きの女性徒、抜き打ち検査を実施している風紀委員ですら近づこうとしない。

 

 ただ一人の例外を除いて――

 

「おい。校門の前でなんの騒ぎた――貴様は遠坂! それに衛宮と慎二。

 遠坂、まだ貴様が原因か!?」

 

 今の刹那、密着されている俺にだけ聞こえるほど小さな声で遠坂が『げ!』っと言ったのが聞こえた。顔がひきつったかに見えた。いや、ひきつったのだろう。

 穂群原学園の最後の良心にして問題時たちの最強の敵、遠坂凛にとって不倶戴天。この学園の生徒会長にして慎二と俺の共通の友達――柳洞一成。

 

「何かしら生徒会長。開口一番に原因扱いとは穏やかではないんじゃない? それともなにか証拠でもあるのかしら?」

 

「戯けたことを抜かすな遠坂凛。お前がなにか行動すると言うことは、何かしらの企みがあるに相違ないのはわかっている。

 お前のせいでうちの会計がどうなったか知らぬわけではあるまい! いや、知らぬとは言わせぬ!!」

 

 ビシ! っと、某ゲームの熱血弁護士なら背後に擬音出そうなほど力強く遠坂を指差す一成。 普段の一成ならしないであろう人に指差すという失礼な行為はしない。

 礼儀などにうるさい一成をここまでさせるのは、流石は遠坂と言えばいいのか、親友の一成を慮りもう少し手加減してやってくれと言えばいいのか、何とも言えない。

 

「なによ。まだあの子ノイローゼが治ってないの? ちょっと精神薄弱すぎない? この間も挨拶しただけで逃げちゃうし」

 

 「おい遠坂」

 

 そんな二人の言い争いの中になにか、小さな声が聞こえた。

 

「何度同じこと言わせる戯けが! お前が彼女をそこまで追い詰めたのであろう! 彼女は真面目で芯が強く、仕事もできる将来有望な子たったのに……それが生徒会を辞めたいだの、果てには転校まで考えているそうだぞ。

 何をすれば彼女をそこまで追い詰められる!? 彼女になんの罪があった!?」

 

 「柳洞」

 

 まただ、一体誰の声かと思案すると、

 

「……だから前にも言ったじゃない。私は会計の子と文化系部活動に配分される不平等なな部費について話をしただけよ。ほら、お金に関することは明朗会計が一番じゃない? 不透明な資金は明解にした方が生徒会のため。しいては皆のためなんだから」

 

「だから何度同じこと言わせるのだ遠坂! なせその手のことを文字通りの部外者が口を出すのだ! 部活動の予算についてはこちらも是正しようと色々やっておるのに、お前のせいで交渉が停滞しておるのだぞ!」

 

「だから私はよかれと――」

 

 「お前ら僕を無視するのも大概ににしろよーー!」

 

 突然の怒声。俺の腕を掴んでいた慎二がその手を離し、二人に掴みかかろうとする。が、二人は阿吽の呼吸で同時に慎二の関節を極めた。それの流れる動作は見ていて美しいとさえるもので、極められた慎二はと言うと……

 

「痛い痛い痛い痛いんだよ! 離せよ!」

 

「すまん慎二。お前がいきなり来るものだからつい」

 

「まったくよ間桐君。いきなり飛び出してくるのは危ないわよ。と言うかまだいたの? あんまりに静かだらもうとっくに教室行っているのかと思ったわよ」

 

 二人から解放されたにも関わずこの対応に再度慎二が(いき)り立つのは目に見えているのに、特に遠坂の余計な一言は火に油を注ぐようなものだ。

 当の慎二は歯が砕けんばかりの歯ぎしりとトマトよりも真っ赤な顔で二人を睨んでいる。

 ――不味いこのままだと――

 

「貴さ」「俺に話があるんだろ! ほら、何処に行く? 早く行こう! 俺も丁度慎二と話がしたいと思っていたんだ! と言うか慎二から誘ってくれるなって嬉しいな」

 

 また行動を起こしそうな慎二の両手で掴み、ぎこちないまでも笑顔で慎二要求と自尊心を満たすように快く答える。そんな俺を見た慎二はなんとも万人向けしそうな笑顔で俺の手を握り返す。

 そして、俺越しに二人に視線を流し。

 

「と言うわけだお二人さん。いやー衛宮は話が分かる奴で助かるよ。僕はお前の物わかりのいい所はそんなところ嫌いじゃない。

 ああ、むしろ好感すら覚えるね。流石僕の親友だ。あとな柳洞、おまえ僕が衛宮を道具扱いしているって言うがなお前こそ衛宮を道具扱いしているじゃないか、毎朝早くに学校の備品を衛宮にタダで修理させておいて何言っているんだか。遠坂も僕の事を言う前にそい」「ほら早く行こう慎二、あんまり遅いと藤村先生がまた騒ぐからさ」

 

「ふん。そうだな、あの女教師はうるさいから早く終わらせよう。なにすぐ終わる要件だから心配しなくっていいよ衛宮。

 じゃあねお二人さん。僕たちは忙しいから、あと遠坂、すげなくしてわいるけど今度お茶にでも誘ってやるよじゃあな」

 

 慎二の手を引き先を進む俺には見えないが、たぶん慎二は遠坂と一成に優越感に染まった笑顔を向けていることだろう。

 後で二人に謝罪とフォローしておこう。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 それから人気(ひとけ)のない校舎裏まで来て慎二の手を離した。

 

「慎二、話って言うのはなんだ? お前がわざわざ俺のことを待ってるなんて、相当重要な話なんだろ」

 

「話が早いな衛宮。僕はお前のそう言うところが好きだよ」

 

 慎二が仰々しく、大げさに手を広げて一人で悦に入ってる。先のやり取りに慎二を喜ばせる何があったとは思えないが、少なくともあまり慎二を激昂させないよう注意しなくてはならない。

 仮にここで慎二を激昂させると、その波は桜や他の生徒に及ぶ可能性もあるから。

 そして慎二は普段と変わらぬ態度と口調で爆弾を落とした。。

 

「さて、衛宮もあの二人をあのまましておくのは気が気じゃないだろうし、まあ僕は気遣いと空気を読める男だからね。早め済ませてあげよう。

 衛宮。お前、聖杯戦争のマスターだろ?」

 

「!」

 

 ――なんで慎二が聖杯戦争の事を!? いや、それよりもなんで俺が聖杯戦争のマスターだと。

 背中に冷や汗が吹き出す。知らず拳を強く握りしめ、半歩下がって腰を低くする。

 

「おいおい衛宮。そう怖い顔するなよ」

 

 なおも変わらぬ慎二に俺は不信感と警戒感を露にする。

 

「……慎二なんで」

 

「『なんで聖杯戦争のことを知っているか?』か? そんなの簡単な話だよ衛宮。僕も聖杯戦争のマスターだからだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 それと衛宮とテスラが聖杯戦争のマスターとサーヴァントだってのはバレバレだったからな」

 

「!!」

 

 衝撃だった。慎二が聖杯戦争のマスターだったということもそうだか、俺とセイバー(マスター)の聖杯戦争の関係者だとバレていたこと相当だった。

 ならば、マスターのいない今は慎二にとって絶好の機会だということに今思い至る。聖杯戦争が遠坂やあの神父が言った通りならば慎二の側にサーヴァントがいる。

 ――いや、聖杯戦争では人目につかない夜に戦うのが暗黙の了解のばず。

 

 そうは言っても先日そのサーヴァントに痛め付けられたことが脳裏をよぎる。

 もはや警戒の余地なく魔術回路を起動させて臨戦態勢に移る。

 ――一矢報いることは出来なくてもせめてマスターが来てくれるまでは、

 

「おいおい、だからそう怖い顔するなよ衛宮。そんな警戒しなくっても僕のサーヴァントはここにいないし、僕に至っては無防備そのものだ。

 それとなにか、衛宮は戦う意思もなく無防備な人間を攻撃するような非人間なのか? 違うだろ」

 

 ――確かに今の慎二に戦う意思はないし無防備だ。ならいまは大人しく慎二の話を聞こう。マスターには後で連絡すればいい。

 握っていた拳を緩め、励起していた魔術回路も閉じて臨戦態勢を解く。

 

「そうそう。やっと話ができるよ。

 さて、無駄に時間を浪費してしまったから単刀直入に聞くよ衛宮。

 

 

僕と手を組まないか

 




本当は先月に載せたかった……
なんでしょうね、最近投稿スピードが落ちてきて仕方ない。でもこれからは今よりも少し時間が取れそうな反面、給料が下がる……喜んでいいやら悲しんでいいやら!
てなわけで、恒例(?)の不定期になる『アインツベルン陣営の日常(仮)』をお送りします!
その後ネタバレ必至な次回予告を書きます。と言ってもタイトルをのせるだけなんですが、それでも良いという方は見てください。




二月四日アインツベルン城内、浴場。


「お嬢様。シャンプーを流します」

「いいわよセラ」

「イリヤ。背中流す」

「いいわよリズ」

「イリヤ足を洗うよ」

「いいわ『けなわけないでしょA(アー)

アインツベルン城の広い浴場に耳をつんざく高音が反響する。
その声にセラの正面にいたイリヤスフィールと真横にいたリーズリットは耳を塞ぎ目をつむるほどであった。が、とうの本人はなに食わぬ顔でイリヤスフィールの足を黙々と洗っている。指と指の間、それどころか指紋の溝に至るまで洗いそうなほど丁寧に洗っている。
そんな彼は、セラに一切視線をあわせず手も止めず口を開く。

「セラ。そんな至近で大声を出したらイリヤに迷惑だよ」

「だ・れ・の・せ・い・だ・と・思っているんですか!」

「?」

セラの嫌味にAは気付いていない。むしろ困惑しているくらいだ。

「だいたいですね。昨日決めたではないですか、お嬢様のお身体(肢体)を洗うのは私とリーズリット。あなたは妥協に妥協を重ねた結果更衣室で待っていることに!
それなのにあなたときたら」

「しかしセラ、もう聖杯戦争は始まっている。そんな中でマスターであるイリヤスフィールが無防備をさらしているのを見過ごすことはできない。

――だからこそ僕はここに来た――


これ以上もなく真面目に、いつもの鉄面皮から想像できないほど真摯な声が、英国紳士もかくやという凛とした声が、セラに響く。
だかしかし、そんなことで折れるセラではなかった。

「なるほど。どこまでも真摯に、真剣に、紳士にあろうとしているのですね…………っとでも言うと思いましたか!」

「? 何が不満なんだセラ?」

尚も困惑するAにセラは遂に堪忍袋の緒が切れた。

「あなたの下腹部のそれを見て何を信用しろと言うのですか!?」

セラがAの身体の一部を指差す。これが動かぬ証拠だと語る探偵の如く。

「…………僕は欲情してはいない」

「ならそれはなんですか!? どうしてそうなったんですか言ってみなさい!」

「…………………………僕にもこんな機能があったことは以外だったんだか、

僕はいま興奮している


「キメ顔で言うことかーーーー!」

そのセラの声は欲じょ……ではなく浴場を越えて城全体にまで響いた。
再度、この日の内に使用人会議は開かれ(イリヤスフィールは萱の外)Aは背中と髪のみ洗うことが決められた。




以上、『アインツベルンの日常(仮)』でした!
さて、下の空白の先にタイトルコールとその他多少を書くのでネタバレの嫌な方はここで終わり。
では、親愛なる皆さま方、良き青空を。













































次回は『チクチク・回転悲劇』
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