Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

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聖杯戦争が終わって無事に進級した学生生活最後の12月某日。
あの激しく、苛烈に、激動の半月はたぶん、幾星霜経っても忘れない。忘れない日々。

たからだろうか。気の緩みか、慢心か、遠坂のうっかりが感染したのか、ともかくその日は油断していた。

その日は美綴に頼まれて臨時で入部して間もない新入生の稽古を見ていた。その年は例年よりも多くの部員が入ったのと、以前に美綴に藤()関係で迷惑をかけた貸りを返すために駆り出された。
当日美綴の()美典(みのり)本人の希望で私が担当した。

――流石は美綴の妹だけあって飲み込みがいい、このまま伸びれば来年にはレギュラー入りも間違いない。
そんな将来有望な後輩の指導をこなし、昼食のお弁当を藤兄と桜、美綴兄妹と囲む。みんなが舌鼓うつ中美典だけ『先輩はズルい』っと、むくれるようにほほを膨らまして呟く。
尤も、とうの士郎本人はなにが(・・・)ズルいのか検討もつかず、美典は『料理も上手で、弓も巧くって、優しくって可愛いなんて、こんなに女子力が高いなんて、先輩はズルい』っと、最後の部分だけが無意識に漏れたのは誰も知らないし、本人も気づいてない。

そんな美典を葛藤をよそに時は刻々と進み、その日の部活は終了してそれぞれの帰路につき、美典からは『絶対に負けませんからね!』っと、挑戦状を叩き付けられた。
士郎から言えば向上心旺盛な後輩が自分を目標に頑張る姿にしか見えず、『頑張ってね』と返事をしたら顔を赤くして帰っていたのは不思議な光景に思えた。
なお、美典本人は『桜先輩のことは、絶対に負けませんからね』と言ったつもりだったのだが、堂々と桜の名前を言うのも恥ずかしく後半部分しか声に出せていなかったのは本人も気づいてない。



夕方の衛宮邸ではいつもなら士郎、桜、たまに凛とアシスタントでライダー、ごくたまにキャスターの料理(料理を習いに来た時の副産物)といった具合なのだが、今日は久しぶりの弓道という事で普段使わない筋肉を酷似して汗をかいたので白米の用意だけしといて、先にお風呂を浴びることになった。
こういう時に運動部用にシャワー室とか学校に完備してほしいところだが、流石にそれは不公平かと思う。去年今年と一成が運動部文学部と予算の不公平差の是正や校内秩序(主に学園の三悪対策)等の政策に熱をあげているのに、そこを乙女(・・)としては重要な案件だが親友の邪魔だけはしまいと諦める。
ただ、久しぶり弓道場で弓を引くのは楽しかったし、ほとんど接する機会もなかった弓道部の後輩たちとの交流も楽しかった。

――鍛練以外で久しぶり気持ちのいい汗をかいたかも。
まんざらでもなく、これからも暇があれば弓道部を覗いてもいいかもしれない、そう思えるくらいに楽しかった。
顔を出すといってもせいぜい道具の手入れや掃除の手伝いや、弓についての相談も指導等はするつもりはない。それは桜や藤兄の領分だから。
思ったよりも楽しそうに感じ、悪くないかもと思い馳せる。

だが、士郎は油断していた。
気が抜けていた。
注意力散漫していた。
諸々か緩みきっていた。

それも致し方ないと言えばそうだとも言う。
久しぶりに弓を引き、後輩たちとの交流、まだ肌寒い季節の一番風呂、こまでの好条件が重なれば頬どころかありとあらゆる警戒心も緩む。

そして、彼女に捕っての霹靂が来た


「士郎、『温泉のもと』を持ってきた」

「………………………」

沈黙、青天の霹靂、寝耳に水、虚をつかれる。
咄嗟に自身のサーヴァント、敬()すべきセイバー、ニコラ・テスラが突然乙女のプライベートの最奥たる御風呂場に入ってくるとは想像すらできなかった。
故に、

「――は、ん? あれ? って、えええええエエエェェェェェエエエ!!!!
なんでセイバーがお風呂に入ってきてるの!」


当然の悲鳴。
当たり前の質問。
リラックスして伸ばしていた肢体を丸め、胸元を両手で隠して。

が、当の本人は、

「? 温泉のもとを容れようと思ってな」

何を驚いているか、
何に悲鳴を上げているか、
何故顔を赤くしているか、
検討もついていない模様。

憐れ

だが、セイバー、ニコラ・テスラは碩学であり、学者でであるから向けられた質問に誠心誠意答える。

「大河から聞いてな、士郎が弓道部の後輩たちに指導をして汗を滴らせるほどかいていて食事の準備をする前に風呂にはいると、そして士郎も普段使わない筋肉を使用して疲れているだろうと思い『温泉のもと』を持ってきたのだか、なにか問題があったか?」

「そそ、その気遣いは嬉しいけども声くらい」

「かけた。だが返事がなかったので入った。なにが不満なんだ士郎?」

事情は理解した。自分の不手際とセイバーの不器用が過ぎる心遣いと、もう少し英国紳士を自称するならばデリカシーを学んでほしいという願望は高望みと諦めて今この状況をどうするか。
――折角の気持ちを無下にするのは気が引ける。かといってこの状況を維持するのもNG。どうしたら………

「そうか。背中を流してほしいのだな」

「なんでそうなるの!」

こちらが色々頭を悩ませている最中にこの英国紳士の思考回路でどういった計算式でその解答に至ったか疑問にして尽きない。
そして、あまりにも予想外で斜め上でこっちの思考回路を周回遅れにした答に湯槽から立ち上がってツッコミを入れてしまった。
もちろんここは御風呂場で、スーパー銭湯や温水プールでもなく、海外の露天風呂でもない。

結果、士郎は一糸纏わぬ裸身を敬()するマスター(ニコラ・テスラ)にさらしてしまう。

「!!///////////」


感じられる膝から上の、少し深めの湯槽から立ち上がったことで浴室の湿気をおびた独特の寒気に、浴室暖房がついていない浴室は濡れた裸身を肌寒く感じるには十分な室温であったのは確実だ。
咄嗟、寒さと羞恥諸々(もろもろ)で総身を震わせて湯槽にダイブするように体をお湯に叩き付け、身を隠すように体操座りの体勢を鼻より下をお湯につける形に。
そんな私の行動に際し、目の前の英国紳士の反応は――

「相変わらず難しいな、21世紀は」

――どこがですか!
先程の寒さと羞恥諸々にプラス怒りに再度身を震わせる。ああんもー! っといきり立ちたい衝動を抑えて浴槽に身を隠す。
第一、自分のとっている行動は一部の特殊性癖の方々いがではほぼ普遍的に、一般的に、常識的に間違っていないはず。なのに、目の前の英国紳士はそれ以上の………………聖杯戦争でゴニョゴニョがあったのだから何ら羞恥足り得ないと思っているのか、色々と遠慮がない。

――だあー、もーー! やっぱり一言(ひとこと)言わないと!

決意を新たに口をお湯から出して、物申そうとしたところで、
――あれ?

意識が揺らぎ朦朧とした。
振り替えれば激しい感情の起伏、こちらの思考回路とは解離した自称英国紳士の発言に頭を痛め、僅かとはいえ濡れた裸体を冷ました結果かもしれないが、少なくとも脳が情報処理能力を超過して冷却期間を求めた結果がこれだ。
ほんの少し前屈みに、浴槽に身を預けるように意識がおちる。

「――――――」「!!!!――――――」「!!!!!!」「!!!!!!れ!!」

かすれゆく意識の端にセイバー以外の声が二人三人聞こえた。消えはしたが、それを最後に意識が途絶えた。

後日談とオチ。

セイバー以外の声は桜と遠坂と藤兄だった。悲鳴の発生から遅れてきた理由は風呂と居間が離れていたのとテレビの音で聞こえ辛かったことだ。
突然桜が『乙女(センパイ)の危機を感じました!』とか言って風呂へ突撃しようとしたのを遠坂と藤兄が止めていたのだが、その拘束を突破して駆けつけたのが顛末だ。
私が意識を取り戻すと夕飯の出来ていて、着替えはたまたま家に来ていたイリヤのメイド(アー)がしてくれた。

その後の家族会議でお風呂を最新の設備に改装して呼び出しボタンや浴室暖房などの設備が充実することになった。そして、私が呼ばれない限り風呂に近づくのは禁止となった。

最後に、セイバーが風呂来た理由は『ほめてほしかった』から、らしい………
なんでも、聖杯戦争が終わってかは自分との距離が空いたと思いスキンシップをとりたかったみたいで、確かに思い返してみれば聖杯戦争がお終わってからは疎遠とまでは言わないけども接する時間は減っていたのは事実であり、遠因で言えば自分にもあるわけで、だから、こんど、誰もいないときに、二人きりの時には言ってあげる。

「マスター。ありがとう」


っね。







「チクタク。
チクタク。
チクタク。
すべて。そう、すべて。あらゆるものは意味を持たない。
たとえば――――」

「この前書きに何の意味もない」




追記


今回から文中で士郎が『セイバー』と言っている箇所は『マスター』と言っています。つまり、『セイバー=マスター』とふりがなは付いてませんが、そう呼んでます。
これから度々『マスター=魔術師』と『マスター=セイバー』を使い分け、分かりやすく書く自信が無い故の措置です。
ご了承下さい。許してください。


惨禍・停戦

 紫影の空が砕けた。ガラスが割れるようなかん高い音と共に、降り注ぎ地面に触れて粉々と。

 それは、とても幻想的で、美しかった。先程まで悍ましく、今思い出しても身震いするほどの恐怖と暴を振るった《白きもの》の散り際としては、相反するほどに。

 

 一時の静寂、セイバー(マスター)やアーチャーは残心、キャスターは警戒をしているのかもしれないが、少なくとも俺は惚けていたんだと思う。

 凶悪なライダーの結界の発生から葛木がキャスターのマスターという事実、そこから突如ライダーの結界が砕かれ紫影の空へと塗り替えられ、降臨した《白きもの》の奉公の余波でのライターの敗退。

 そこから3陣営の一時休戦と共闘。《白きもの》の撃退まで息つく間もなく余りにもの情報量に脳がパンク寸前だった。だからかしばし惚けてしまった。

 

 静寂故だった。背後からの物音に過敏に反応して振り替えると、《白きもの》との戦闘の余波か立て付けが悪くなり一向に開こうとしない扉と格闘していた元ライターのマスター間桐慎二(・・・・)がいた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 その男を見た私は、一瞬で頭に血が上るのを自覚した。

 

 

 

 私は肩で息をしつつも緊張感を途絶えることなく張り続け周囲に目を向ける。後ろで惚けている衛宮君は置いておく、彼も妙に胆が据わっているがそれでも今日1日にあったことは情報量過多でクールダウンが必要だと思ったからだ。

 私も最初はライターの結界の惨禍を目の当たりにして動揺して、狼狽えてしまった。だが、だからこそ克己しなければならなかった。私は冬木の管理人(セカンドオーナー)遠坂の現当主だ。

『余裕をもって優雅たれ』毎日、何時如何なる時も忘れぬよう、心がけてきた遠坂の家訓を胸に抱き。お父様に託された思いに応えるために、奮起して今度は目の前の男と割れた窓から覗く惨状といつの間にか葛木にいたキャスターを見据える。

 

 直立不動ながら周囲への警戒を怠っていない葛木、やはり只人ではない、先の戦闘で見せた徒手空拳は異様だった。素人とか達人とかどうこうではなく現代日本では廃れて久しい蛇を彷彿とさせる殺人拳。しかもあれは間違いなく初見殺し。一度きりの為の、生涯唯一一回のみ許される。使い捨ての拳。

 正直、葛木と綺麗(陰険神父)が拳を交わしたら初見なら間違いなく葛木が勝利するだろう。射程距離に入りさえすれば、もしやサーヴァントですら殺しかねない拳だった。

 少なくともランサーに対抗できるほどの武技を誇ったアーチャーでも確実に狩られている。もしかしたらセイバーすらも、そう確信が持てるほどに凶悪な拳だった。

 

 そして、その葛木のサーヴァントたるキャスターも恐るべき相手だ。ほんの呟くような詠唱一つで遠坂よ宝石魔術に匹敵するほどの魔術を連発したのだから、それを見て確信した。

 現代に伝わり残る程度の魔術ではない、失われた神代の魔術(ロスト・ミスティック)だ。文字通りの神代(かみよ)の時代の御業。

 

 現代よりもずっと神秘に溢れ、

 近代よりもずっと根源に近く、

 今世よりもずっと神魔が当たり前の、

 

 師曰く、

 科学は未来へと進む技術体系。

 魔術は過去へと遡る技術体系。

 

 ならば私たち現代を生きる魔術師の求める一旦が目の前にあるのに、余りにも格差がありすぎて実感が湧かない。

 キャスターのサーヴァントは現代にはない魔術に精通する分基本的に脆弱だ。それに大抵の魔術師は自尊心が強く唯我独尊でサーヴァントのことを文字通りのサーヴァント(従僕)としか思っておらず、そのせいで仲違いや自滅へと追い込まれた例もある。稀にサーヴァントの琴線に触れて良好関係を結ぶものもいるらしいが、今回がその例だろう。

 

 サーヴァントすら屠りえる凶拳を使うマスター(前衛)と神代の魔術を行使するキャスター(後衛)。聖杯戦争の常識からすればあり得ない布陣ながら、見事に噛み合っている布陣。

 だが、脅威はキャスター陣営だけではない。《白きもの》との戦いの最前線、アーチャーとキャスターの援護があったとはいえ終始圧倒したセイバーもサーヴァント単体の括りなら最大の最大の脅威だ。唯一の救いはマスター(衛宮士郎)がへっぽこであることだけだ。

 

 そんな、脳内で今後の戦略を練っている最中に後方で、衛宮君よりも後ろのドアが軋む音が聞こえた。事後の静寂故を破る、普通なら聞き逃してしまいそうな程ほんの僅かな音が室内に明瞭に響いた。

 振り変える。先の戦闘の衝撃でひしゃけ歪んだドアの前には間桐慎二(・・・・)が四つん這いでいた。

 

 間桐慎二。間桐家の長男で間桐桜の兄、今回の聖杯戦争の間桐家のマスターで、サーヴァントライダーのマスターでもあった(・・・)男。

 開戦の狼煙となった魔術における魔力とは違う、未知の力がこもった《白きもの》の咆哮は令呪が刻まれた魔導書(スペルブック)をその余波だけで破壊し燃やした。燃えるのと同時にライダーも断末魔を上げて消失。

 

 もはや、ただの一般人となった間桐慎二は戦闘中も教室隅で膝を抱えて震えていたのは容易に想像がつき、今度は無力な自分に(遠坂凛)や葛木、サーヴァントたちの凶刃が来るかと予想して逃走しようとした。

 普段の私ならそんなもの杞憂だと、サーヴァントを失い再起を図る力のない間桐慎二にそんな価値はないとしてさっさと教会に保護してもらえと逃がしただろう。

 

 だが、今回は例外だ。

 

 間桐慎二は聖杯戦争のマスターだ。サーヴァントは最大7人という二桁にもならない人数でありながら戦争と表現される程の戦力を秘めた兵器といっても過言ではない存在だ。

 そんな常識から逸脱存在を世間一般とは価値観がかけ離れている魔術師とはいえ一個人が所有し行使するのだ。街一つが地図から消えてもおかしくない。一般人から言えば常に人の形をした戦闘機や爆撃機がいるのと同義だ。

 だからこそ、聖杯戦争のマスターは覚悟しなければならない。

 

 自分の命を奪われる覚悟を、

 自分が命を奪う覚悟を、

 数多の犠牲を強いる覚悟を、

 

 例外的に偶発的に魔術の資質をもって生まれる突然変異、または祖先が魔術の家系だった場合は一般人であろうとも聖杯戦争に巻き込まれる事例もある。しかしこの男、間桐慎二は明らかに自ら進んで聖杯戦争に参加したはずなのに、自身が傷付き倒れる可能性を考慮していない。無論負け戦を好き好んでやる馬鹿はいないだろうが、そういった万が一に備えるのも覚悟の内だ。かつて時臣(お父様)がしてくれたように、言葉にしろ資産や財産にしろ己が身を賭して戦う覚悟の現れでもあった。

 だが、間桐慎二(この一般人)にはそれらの覚悟が一つもない。それなのに多くの学生、あまつさえあの子(・・・)にまで害を為したのだ。虎の威を借る狐だ。サーヴァントの威を笠に着るだけの屑だ。

 

 ああ、たからだろうか。先程から精神が高ぶり冷静であろうとするのに、冷やした先から瞬時に沸点を超える怒りがこみ上げてくる。

 そんな怒りを少しでも発散させて冷静になるために、普段から被っている優等生の仮面をかけることなく一歩一歩踏み出す。

 威圧のためゆっくりと歩いているつもりだったが、思いの外速いのか間桐慎二は押っ取り刀で扉に体当たりした。思いの外軋んで脆くなっていた扉は容易に壊れ、散らばった破片と共に間桐慎二は無様に廊下の壁へとぶつかった。

 私は一瞬止めかけた歩みを再度進めて間桐慎二の左肩に足の裏を押し付け、止めに身動き取れなくするために声を上げる(脅す)

 

「答えなさい慎二、アレがなんなのか!」

 

 痛みと恐怖で言葉が出ず、首を激しく横に振るだけの間桐慎二に一回気付け(ガント)を見舞うと再度問う。

 魔術回路はおろか、対魔術ようの礼装の類いも持っていない間桐慎二には現状において最大限手加減したガントでさえ神経と内蔵が撹拌されたも同然の痛みと辛苦が襲う。

 

「慎二、アレがなんなのか答えなさい」

 

 そこまできてやっと目の前の遠坂凛(魔術師)は本気だと理解して、絶え間なく攻めてくる苦痛の嵐に必死に抵抗して言葉を吐き出す。

 

「………………ジら、ない。ぼ、ボくば、なじモ、じらばい」

 

「本当でしょうね?」

 

「ぼんどだ。なにもしらない゛んだ。おじいさ゛まから、な゛にも聞いでないんだ」

 

 最初は聞き取り辛かった言葉も徐々に呼吸を整え、少しは聞こえるようになり、思考に余裕ができたのか間桐慎二の顔が歪んだ。

 

「しかし、おと、なげないな゛遠坂、ぼくはざ、ーヴァンとを失っ、たトハ言え、マスターだ、っダンぞ。

 ――――それなのに、こんな仕打ちとは、遠坂も落ち、ヒィ!」

 

 一度深呼吸をして呼吸を整えた。まだ痛みを伴っているだろうが言葉も聞き取り安くなったが耳障りな()を囀ずる音源の真横にガントを撃ち込む。正直今すぐにでも苛虐行為をしそうな自分を抑えているのに、間桐慎二は自分で自分の寿命を消し飛ばしたいのか。――何でこいつは私のカンに障る言葉ばかり発するのだろうか。

 もはや短絡な思考が横行しそうになる。だが、間桐慎二の言葉の中に彼女を冷静にさせる単語があった。赫怒一歩手前まで来た精神を鎮静させるには十分な効力がある人物が。

 

 ――間桐の翁、間桐臓硯(ぞうけん)………

 かの御仁は表向きは慎二と桜の祖父、穂郡原学園のPTA会長で地元有数の名士にして地主の顔を持つが、その実態は老獪とにして悪辣と狡猾が人の形と成った妖怪だ。ある種魔術師の極致、怨念と妄執の権化とも言える悪鬼の類い。

 そんな相手の親族を、魔術回路すらないマスター(間桐慎二)を、聖杯戦争とはいえ殺そうものならどんな厄介事をされるか検討もつかない。いや、最悪の場合無理矢理あの娘()か臓硯本人がアイツ(間桐慎二)の後釜に据えられる可能性がある。

 否、あの御仁なら歴代間桐マスターの令呪を隠し持っていてもおかしくない、何故なら聖杯戦争のにおいて《サーヴァントシステム》と《令呪》を考案したのは間桐だ。大事なサーヴァントへの絶対命令権たる令呪を教会に使用したと申告する必要もなく、ましてや第三次聖杯戦争から介入してきた教会の監督官にあの妖怪が渡す謂れはない。

 

 激情と沈着の間を思考が行き来して、若干の混乱と事態の早期解決、彼女にとって最悪の事態を防ぐ意味で、渋々間桐慎二に肩から足をどける。

 

「………………さっさと行きなさい慎二。もうあんたに用は無いから」

 

 沸き上がる激情を抑え顔を背けて逃亡を許すと言った。しかし、見ようによってはそのぶっきらぼうに様は照れ隠しのようにも見えなくもない………かなり強引だが、だが当の言われた本人はこの状態の慈悲を、一時でも自身に窮地に追いやりった相手を決して許さない。徹底的に追い詰め自身が味わった苦痛を何倍にもして返す。だから間桐慎二(自分)は彼女にとって特別な価値があると勘違いした。

 ………………してしまったのだ。好意による裏返しと――

 

「――なんだよ。遠坂も可愛いところあるじゃないか、大丈夫だよ遠坂、こんなことで僕がギッ!」

 

 不意に放たれたガント、間桐慎二の鳩尾へ寸分の狂いもなく。

 うずくまり、苦しみ悶え見上げた彼の目に写ったのは、感情が一線を越えて無表情になった遠坂凛その人だ。

 

「ねぇ慎二………何を勘違いしているか知らないけどね。何が『大丈夫』なの? 『僕が』なに?

 もしかして私がアンタに好意でも抱いていると思ったの? ずいぶん御目出度い頭しているのね。何だっけ、前に楓が言ってた『ツンデレ』? と勘違いしてるの?

 だったら、教えて上げる。私はね、アンタみたいな羽虫のことなんかどうでもいいの。うんん、羽音のうるさい蝿でもいいし、何でもいい。私を不快にさせる点では同じだもの」

 

 そこまできて間桐慎二の顔を見る。彼は恥も外聞もなく、ガントによる苦痛とは別の恐怖によって、取り巻きの女子たちにはとても見せられない程顔を酷く泣き濡らしている。

 そして、彼女の手から魔力が集まる、高まる魔力は魔術回路のない間桐慎二(一般人)にも見える程、わざわざ見えるように調整した呪いの塊。

 

「慎二、綺麗には言っておくから教会で聖杯戦争が終わるまで養生しなさい。安心しなさい、殺しはしないしアレで綺麗は医療魔術だけは上手いから」

 

「あぁぁぁぁあ、お、お、おい衛宮!

 この狂暴な女をどうにかしろ! 友達だろ! 早く! 早くしろ!

 

「っ! 遠坂止めろ!」

 

 間桐慎二の必死の救援、直後後ろから衛宮君の駆け音がする。だが間に合わない。間に合わせない。この男はここで退場させるべきだ。

 ――そうだ。殺すことなく、教会で保護兼治療となれば間桐の翁とはいえ容易に動けないはず。

 打算的で、よく考えれば穴だらけの、その場しのぎですらない即興の計画を、この時の遠坂凛は名案と誤認して、

 

「たっ、助けて!」

 

 

――止めの一撃(ガント)を撃つ――

 

 

 

  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「………………なんのつもりセイバー?」

 

「そこまでたリン」

 

 慎二に放たれた致命の一撃を遮ったのは《白い男》だ。慎二と遠坂凛の間に掌を突き出して吼えるガントを受け止めたのだ。

 セイバーのマスターである俺と同盟者の遠坂はすぐに思い至る。

 

 雷電移動と雷電探知。

 

 セイバー常識から逸脱した俊敏性と探知能力。その2つを駆使すれば校庭からこの場所までの把握と移動は容易なのは想像がつく。最速と言われるランサーの背後に回るほどの速さはまだ記憶に新しい。

 

「もう一回聞くわセイバー、何で止めたの?」

 

「助けを求める声が聞こえたからだ」

 

「っ!!」

 

「さあ慎二、早く行きなさい」

 

 首が壊れんばかり上下させておっとり刀で立ち上がり、悲鳴を上げる気力もないのか無言で下駄箱の方へと一目散に向かう。途中床や壁に転びぶつかり、よろよろと蛇行しながら慎二は消えていった。

 その際に遠坂は腹いせにとガントを撃つ。だが、慎二の背後に張られた雷電防御膜によって届くこと無く徒労に終わった。

 

 俺再度二人を見る。内心驚愕と納得、同時に呆れとそれ以上に尊敬。この状況下において然も平然とこなす意志の強さと不動の行動指針とそれを貫く力に羨望を覚え、それ以上に己の不甲斐なさも痛感してしまう。

 そして、遠坂もセイバー(ニコラ・テスラ)の行動原理もここ数日で多少はわかっているはず。そう、遠坂からすれば業腹だろうが、結果的にといえセイバーは遠坂を三度助けられている。

 

 一度目はバーサーカーの時に、

 二度目はライダーの時に、

 三度目は今回、

 

 顕著なのは二月二日の深夜バーサーカーに襲われた時、セイバーは言った。

『下がれ! 士郎! リン!』っと、つまりセイバーは始から己のマスター衛宮士郎と停戦状態とはいえ敵である遠坂凛を守るつもりで戦いに臨んだのだ。荒れ狂う人形(ひとがち)嵐と言っても過言ではないバーサーカー相手に、二人に災禍が及ばぬように移動し遠ざけた。それだけではない、セイバーはイリヤスフィールと戦うなと警告までしたのだ。

 完全にセイバーにとっては衛宮士郎と遠坂凛は披保護対象で彼にとっては守るべき子供たちなのだ。遠坂本人としては俺と同列に扱ってもらいたくはないようだ。彼女は一人前の魔術師として覚悟や矜持を持って生きている。

 

 その激情は慎二の時とは別種の怒りだ。たぶん遠坂は主従共々甘い考えと唾棄しているのだろう。少なくとも彼女のサーヴァントはマスターより露骨に不快感を露にしている。

 それでもアーチャーが手を出さないのは、セイバーのことをまだ測っているからだ。これまでの言葉が真実か、その根幹にあるのはなにかを――

 

「リンの言いたいことはわかる。後の禍根を残さぬために根から摘み取る。なるほど、戦略上ではしごく正しい。

 慎二の実力はさておき間桐は古くからある魔術の家系、なら魔術が使えない状態での策は用意している可能性はある。戦争とはありとあらゆる不測の事態に備えることを意味する。

 だが、リンはそれ以外の感情で行動しようとしている。

 

『余裕をもって優雅たれ』が遠坂の家訓なのだろ、ならここで慎二を射っても益はない。むしろ不利益があるからこそリンは躊躇したのだろ?」

 

「………答えになってない。

 それは私、『遠坂凛』を説得するための方便で、セイバーあなた自身のこたえではない」

 

 セイバーの説得で頭が少し冷えたのか、声は幾分平静さを取り戻していた。背中越しで遠坂がどのような表情をしているわからないが、セイバーを見据えるそであろうその瞳はアーチャー共々セイバー《ニコラ・テスラ》の真意を確かめるため、返答次第では同盟を破棄する覚悟で問い(ただ)していた。|さんとしていた。

 

「――――私は」

 

「遠坂撤収なり隠蔽工作なりしなくていいのか? 魔術師とは神秘を隠匿するものだろ?」

 

 二人の会話を遮っる葛木、ことの推移を見守っていたキャスター陣営の二人が割り込んだ。

 見守っていた理由は慎二を尋問してある限りの情報を得るためだ。もっとも大した情報もなく、せいぜい間桐の実質的当主が事の一端を担っている可能性があるかどうか、あやふやな情報のみで時間の浪費とこのまま放置すれば自分たちには関係のない話をしだしそうで中断さたほうが賢明だと判断した。

 そこまで来てやっと遠坂は今現在共闘は終了し、いつ戦闘に突入してもおかしくない状況に、またもやセイバーに守られていたことに。

 

「……そうね。一旦ここから離れないと、ここのことは綺麗が片付けてくれるでしょうから私たちは特に何もしなくっていいわ。

 それと、セイバーにはあの『白いやつ』の正体や情報をキッチリと教えてもらうわよ」

 

「無論だ。アレのことは仔細に提供しよう。葛木とキャスターも来るといい。

 

 

これは、正しく、世界の危機なのだから

 」

 

「………貴方がそこまで言うなら相当でしょうね。さて、まずは綺麗に連絡しないと」

 

「待て遠坂」

 

 言うなや遠坂は昇降口とら逆方向に走り出そうとした。俺は咄嗟に遠坂の手を掴んで(・・・・・)止めた。

 握り止めた遠坂のては細くスベスベとして、それでいて少し掌に湿りっ毛を感じた。

 初めは何か驚く遠坂、だか次の瞬間も何か別のこと気づいたのか、握った手を強引に振り払い半身を捻った反動で俺の脇腹に中拳を打ち込んだ。

 

「ゴホア」

 

 あまりにも見事に打ち込まれた拳は肋骨には(あた)ってはいなかったが、俺も一応は鍛えてはいるがそれでも筋肉のつきづらい脇腹は脆く、打ち込まれた中拳はめり込む勢いで危うくお昼の中身が逆流しそうなのを懸命に堪えた。耐えて息を整えて口を開く。

 

「………………遠坂、わざわざ職員室にいかなくても俺がケータイ持ってるから」

 

「………何よ、持ってるならは早く言いなさいよ!」

 

 戦いが終わったあとに膝をつく無様を見せまいと、打ち込まれた脇腹を抑え、膝に懸命に力をいれて、さも平気さを偽りケータイを遠坂に差し出した。

 遠坂も男の子の意地を尊重してか気まずさを誤魔化すためか、殴る勢いで俺のケータイを受け取り………………硬直した。

 その目はマンガ的な表現で言うなら、額に汗を垂らしケータイを遠ざけたり近づけたりして、画面やボタンの意味がわからず『う~ん。う~ん』うねりながら目をグルグルしている。

 

「あの遠坂、ロックは解除してあるからあとは」

 

「ちょっと衛宮君、これどうやって操作するの!」

 

 意を決して声をかけて話の腰を折ってられて逆に怒鳴られた。

 やるせなさと理不尽さを感じつつも遠坂に操作方法を教える。最初はそのままダイヤルボタンを押せばかかるといぅたのだが、『そのままってどのままよ!』とかボタンを押す度に指がバイブレーションして違うボタンを押してやり直すと二度三度繰り返して、最終的にはセイバーが操作して呼出音を鳴るところで遠坂に渡した。

 その後、遠坂はケータイに向かってぶっきらぼうに最低限状況報告と隠蔽措置についての要望を伝えると再度セイバーにケータイを渡して通話を切ってもらい俺に返却した。

 

「――さて行くわよ」

 

「行くってどこに?」

 

 即座、昇降口に向かおうとする遠坂を呼び(・・)止める。

 ――また繋ぎ止めて殴られてはたまらない。

 

「何処って、衛宮君の家に決まってるじゃない」

 

「なんで(うち)って決まってるんだ?」

 

「だって衛宮君の家って『見られたり』『盗られて』困るようなものないでしょ?」

 

「いや、家にだって金庫や通帳とかな」

 

「んー。ねえ衛宮君、私が言ってるのは『魔術師的』な意味での『見られたり』『盗られたり』であって、衛宮君の家に見られて困るようなものある? 無いわよね。だって魔術の基礎すら疎かなるところに大した物があるとは思えないもの。

 だってまともな魔術が強化した出来ないじゃない?」

 

『そんなことはないぞ。俺にだって他の魔術(・・・・)も使えるし土蔵(工房)くらいある』とは言えない。土蔵を鍛練場と言い換えたところで中の惨状を見られれば同じ反応するの予想に易い。

 ――それなら黙って忍び耐える。

 

「そうかしら? 私は坊やの工房に興味があるわ」

 

 なぜか初対面のキャスターから興味を持たれた。俺なんて遠坂から見ても『へっぽこ』と呼ばれているのに、あんなとてつもない魔術を行使するキャスターからだと赤子以下と罵られても反論できない。

 ただ、キャスターの発言にセイバーが警戒心を露にする。

 

「キャスター、士郎の何に興味をもったか知らんが、余計なことはしないことだ」

 

「あら怖い。別に捕って食ったりしないわよ。ただの一魔術師として坊やに興味を持っただけよ。

 私は万能の優等生(・・・・・)よりも一極特化した(・・・・・・)劣等生の方が可愛げあるという話よ」

 

「?」

 

 ――なんだろ。俺はキャスターに興味を持たれるような魔術の才能はなかったはず………

 そんな益体のない思考に没しそうになった時、校舎のそとからけたたましいサイレン音が響く。

 

「思ったよりも早いわね。さあ急ぎましょ。ここで警察に見つかると手間が増えるから」

 

 遠坂が先頭をきって進む。その後急いで俺たちは昇降口で靴を持って裏の雑木林から駆け降りて、途中からマスター三人はキャスターに認識阻害をかけられ各々のサーヴァントに抱えられて衛宮邸に向かった。




お待たせしました。ごめんなさい。二月ふりの投稿が改定版ですいませんでした!(土下座)
そのお詫びを込めたのか前書きです。内容は雷電王閣下以外の性転換です。ですのでイリヤの執事こと、Aもメイド(!?)になってます。もちろん性格は一切ぶれてません!

あと、今回の話は間違って削除したわけじゃないんだからね、変な勘違いしないでよね(無駄にツンデレ風)!

まあ、言い訳や弁解はこれくらいにしないと長くなりそうなので、
では、親愛なる皆様、良き青空を。



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