Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

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なお、言峰教会での説明というなのいじめは割愛します。


夜の散歩

 衛宮邸での話し合いの後、私たちは聖杯戦争の歴史を知る男のいる言峰教会に向うため夜の街を歩く。

 

 私の世界の歴史上でもこと”魔術”や”錬金術”などの異端と呼ばれるモノは主の教義に反するとして多くの人々、中には冤罪や政治的理由でそれこそ老若男女民族貴賤問わず殺されてきた。もっとも、機関文明の第二次産業革後の教会にはそれほどの権威などは失われていた。

 しかし、この世界の教会と言うモノは私の世界における教会とは毛色が違うようだ。

 

 真贋の是非はともかく、聖杯と名の付く戦争を教会が管理していると言うのは少々どころではないほど違和感を感じる。私がもしも教会の関係者なら有無を言わさず力ずくで奪いに行く、しかし、それがないと言うことは裏では魔術組織と繋がっているいる可能性が、いや、たぶん何らかの協定を結んでいるのだろう。そうでなければ少女とはいえ一介の魔術師が自分の大敵と言ってもおかしくない教会に堂々と行くなどと言うモノか。

 聖杯戦争中にも関わらず警察機構の警邏らしき者たちははごく僅か、その事から聖杯戦争のことは公には完全に隠蔽されている。この街並みから察するに少なくとも一度は文明開化している、他にも様々な電波が飛び交っていることから高度な情報社会が形成されているであろうこの国で、過去に四度もこの聖杯戦争をしていたというにも関わらず。だ。つまり、それほどの強大な力を持つ組織が二つ手を組んでこの戦争をしている。

 

 一番懸念しなければならないのは、この聖杯戦争その物が出来レースでは無いかということだ。

 仮にそうであるなら士郎に誤った情報を吹き込んで、私たちを離反させて漁夫の利をとれることもありうる。そして、それほどの力を持つ組織が放つの監視役ならば話術はもとより戦闘力も油断できない。

 いや、この魔術師の少女がその神父と一定以上の関係を持っているということは、この土地の管理者に所縁のある人物……例えばリンの後見人? 

 

 この聖杯戦争に参加するのならまず当主が出てくるはずだ、そう考えるとリンが当主、もくは代行と言うことになる。

 そうなればまずリンの周辺を調査しなければならない。リン本人はともかく、その親が魔術師然とした魔術師だった場合、真っ先に士郎に害が及ぶの確実だ。

 

 さて、まずはこの周辺に魔術の痕跡がないか、雷電探知でこの世界の魔術師の結界を突破できるか、試してみる。か。

 

 川に掛かる橋の中央に差し掛かったところで探知の目を張る。その間、士郎とリンどころかアーチャーですら私が何かやっていることには気づいていないようだ。

 そうなると、キャスターのサーヴァントはともかく、この世界の一般的な魔術師とサーヴァントとは私の探知が張り巡らされていても問題ないことがわかった。

 

 その探知の範囲を広げている最中、ふと、河川に探知の輪が触れた。

 

 その水は暗く淀んでいなかった。いや、この世界が永遠の灰色に覆われていないことも、河川や海が暗く淀んでいないことも、とうに気付いていた。

 気付かざるおえない。それは、あの土蔵で士郎と向かいあった時、その場を月光が照らしていたのだから。

 

 空を見上げれば瞬く星と、優しい光で地上を照らす月。

 見下ろせば暗く淀んでおらず、粘性もなく、魚たちが泳ぎ回り、昼間であれば川底や海底が見えるであろう水。

 

 かつての19世紀には当たり前だった空、遥か遠き19世紀には憩いの場だっだ河川。

 どちらもわが師に守ると言った尊きもの。ネオンたちに残したかったかけがいのない物。

 

 永遠の灰色が覆い、煤と蒸気病が蔓延する機関文明ではない世界。

 かつて私が実現させたかった電気文明の世界。

 結社に阻まれた理想の世界。

 

 それは…………

 

「どうしたんだマスターテスラ? 空なんかじっと見て」

 

 気付けば私はその場に立ち止まり、空を眺めていた。

 久しく、そう、久しく見た月と、星と、永遠の灰色に覆われていない空、それらを前に、気付かないうちに文字通り感傷に浸っていた。

 あの世界でこのような空を見たのは遠くカダスの彼方、《世界の水殻》の先、《未知世界》でしか見ることが叶わないモノだから。

 

 だから――

 

「いや、夜空が、星と月が綺麗だと思って、な――」

 

「そうか? この街もだいぶ明るいから星もだいぶ少なくなっていると思うけど。

 それよりも早く行こう、あんまりのんびりしていると帰りの頃には朝になる」

 

 そう言うとまた歩きはじめる。

 先程よりも幾分、早歩きで、

 

 士郎の言いたいことはわかる。

 ここの空気はあちら程ではないが、それでも汚れている。しかし、それも許容範囲内であり、水もまた同様だ。

 仮に、あちらの富裕層がこの街を見たら大金を叩いて土地を買い占めようとするだろう。

 

 それほどまでに、あちらの世界は暗かった。

 ある一時期から僅かに見え始めた、永遠の灰色の隙間から差す陽射しですら貴重と思えるほどに。

 その程度の陽射しすら私は、守れなかったの、だから。

 

 その後も夜闇で暗いながらも、街の、新都の郊外の山へと向かう。途中自然の色そのもの森や草を眺めていると、違う世界にいると実感する。

 それに、私があちらの世界ではあるが、この国にいた頃よりも西洋化が進んでいるのにも知的好奇心が湧く、特に外人墓地や教会などあの頃は隠れるように、ひっそりと建っている物だったが、今では堂々とその威容を示している。

 そして、外人墓地を過ぎた辺りからリンの顔が険しくなっていった。この坂の上に件の言峰教会があるのだろう。

 

「衛宮くんはこの教会が初めてかもしれないから一つ言っとくけど、あそこの神父は一筋縄じゃいかないから、気を引き締めてね」

 

 リンはそう言うと先だって登っていく。

 暫く登ると教会が見えた。一見したところ立派な作りで、敷地もこの高台のほとんどを占めるだろう。手入れのいきとどいた広場が我々を出迎える。

 しかし、この教会は、そう大きくないのに、迷える子羊を導くはずの場所なのに、他者を威圧する。

 

 これが神の家なのか。

 これが人々に神の教えを教示する者の。

 これが聖職者いるべき場所か。

 

「どうしたんだマスターテスラ。早く行こう」

 

 士郎はまた私が物珍しさに呆けていると思ったのか、急ぐように催促する。

 だが、私は――

 

「いや、私はここに残る。士郎は気にせず行くといい」

 

「……え? なんで?」

 

「士郎、この教会に、ここにいるであろう神父に用があるのは士郎だろ。私はここまでの道中士郎とリンを護衛するために付いて来たに過ぎない。

 これから先は、士郎自身が聞き、考え、答えを出すのだ。

 二人に危機が及んだら、士郎が私を呼んだのなら、すぐさま私は駆け付けよう。

 だから、心置きなく行ってくるがいい、なにも心配するな」

 

「……わかった。行ってくる」

 

 士郎は一応の納得して行った。

 私は二人を送り出し、これまでの事を整理する。

 

 まず、私が現界で来ている理由、この胸にはスミリヤの家の者の繋がりを、ネオンとの繋がりを感じない。

 答えは一つ、私を召喚した士郎が楔となっているのだろう。

 電力に関しても士郎の傍にいる限り、士郎との繋がりを絶たれない限り問題もないだろう。

 

 次にこの聖杯戦争そのものについてだが、どうにかして士郎を戦線から遠ざけることはできないだろうか? ダメだ、士郎の性格を鑑みるにネオンと同じように私の後を追ってくる可能性が高い。そうなれば今の士郎では死んでしまう。

 士郎にメスメルを掛けるか、いや、そのようなことをしてもいずれは思い出し、魔術師としての道を進むだろう。ならば、私に出来ることは出来うる限りで士郎を鍛えること。

 

 士郎自身は体が出来ている、が、型に嵌っていないのは歩き方を見ても明白だ。魔術に関しては私は門外漢だ。

 他の者に教授願うか、そうなるとリンが適任だ。彼女の行動は非常にチグハグだが、一つの理由を付け加えれば一貫性が現れる。

 それは自身へのある種の暗示、踏ん切りを付けるための行動と言動。そうみれば彼女の行動に説明がつく。

 そうであるなら多少の段取りをとってリンに協力を要請しよう。

 

 結論を出した直後に教会の扉が開かれた。

 士郎たちが戻ってきた。

 

 二人は私の前に止まると、士郎が口を開く。

 

 その瞳には決意を。

 その拳には覚悟を。

 その心には輝きを抱いて。

 

「マスターテスラ。俺は、この聖杯戦争を終わらせるために戦う。

 力を貸してくれないか?」

 

 ならば、私もその意志に応えなければならない。

 

「サーヴァント 二コラ・テスラ、マスターたる衛宮士郎の呼び声に応じ、参上した。

 これより我が雷電は、貴方と共にあり、その輝きは常に貴方と共にある。

 この狂気なりし儀式、聖杯戦争を終わらせるために、この力、共にあらん」

 

「ふぅん。これにて万事解決、というわけでいいのね?

 よかった。義理は果たしたんだじ、これで容赦なくあなたたちを倒せる」

 

 リンと霊体化を説いた赤い外套の男……アーチャーが立っていた。

 まったく開口そうそう剣呑なことを。親はどういう教育したのか。まったく子供らしくない。

 後でゼリービーンズをあげよう。そうすれば童心にかえって少しは子供らしくなるだろう。

 

「? 何いっているんだ遠坂、俺は遠坂と喧嘩するつもりはないぞ」

 

「はぁ……やっぱりそうきたか。まいったな、これじゃ連れてきた意味ないじゃない」

 

 リンは額に手を当てて大きなため息を零す、中でどのような話をしたかは知らないが、今の士郎には戦時中という緊張感がない。

 リンは先達として、魔術師として、いや個人のプライドがあるのだから最低限の手助けを下に過ぎない。それが終わった今、この場で襲われても文句は言えない状況なのに、士郎はそれを理解していない。

 

「凛」

 

「なによアーチャー。私がいいって言うまで口出ししない約束でしょ」

 

「それは重々承知している。が、このままでは埒があかない。

 相手の覚悟など確かめるまでもない。倒し易い敵が目の前にいるなら、遠慮なく殺るべきだ」

 

「随分な言いようだなアーチャー。

 確かに戦いは非情だ。士郎も戦いの参戦を表明した。

 これから真の聖杯戦争が始まるだろう、力無き者から倒れるのが必定だろう。しかし、覚悟の定まってない者から倒すと言うのは些かどうかと思うが」

 

「セイバー、我々の話に口を挟まないでいただきたい。

 それに先ほど貴様が言ったであろう。そこの男は参戦を表明した。自ら戦うと宣言したのだ。

 ならば今、この場で戦闘が始まってもおかしくない状況で、私でなくとも凛が、いやそもそも態々宣戦布告したにも関わらず、未だに戯言をほざくのだ。

 呆れもするし、嘆きもする。ならばいっそこの場で、と、思うの至極当然だと思うのだが?」

 

「士郎はまだ子供だ。準備も覚悟もないまま巻き込まれたのだ。リンは子供なからに周到な準備してきて、魔術の鍛練に関して言うに及ばずだ。

 だが、士郎にはそれがない。なかった。無論、ずっと見逃せとは言わんし、手加減しろとも言わん。

 だが、今夜はもういいだろう。リンも言外に今夜は見逃すと言っている。主の意に添うのもサーヴァントとして当然だと思うが」

 

「耳の痛いことを言う。だが、君の言葉で言うなら凛もまだ子供だ。

 マスターを正しく導くのもサーヴァントの勤めだし、苦言も呈する。私は敗北するために呼ばれたわけではなく。勝つためによばれたのだからね」

 

「ちょっとまって! 勝手に話を進めないで! アーチャーもセイバーも人を子供子供って失礼なこと言わないで。アーチャーも今夜はセイバーの言う通り見逃すの。いつでも倒せるなら別に今でなくてもいいでしょ。

 それに、我が家の家訓は『余裕を持って優雅たれ』よ。敵にさえなってない相手を倒すなんて優雅さの欠片もないまねできない」

 

 リンが私とアーチャーの間に入って仲裁しようとする。

 私自身としてはここで戦闘を開始するつもりは無いのだが、リンから見て臨戦態勢に見えたようだ。

 

「しかし凛、その男相手にそのようなことを言っていてはいつまでも進まんぞ」

 

「大丈夫よ。見逃すのは今日限り、次は無いわ。

 仮に、そう仮に次も私に対して無防備で、間抜けな面を見せたら、その時は容赦しない」

 

「ふう。ではその時が来たら呼んでくれ」

 

 アーチャーは肩を竦めると霊体に戻り姿を消した。

 その後、無言で帰路へつく。坂の途中に差し掛かりリンは。

 

「じゃあ、ここで別れましょうか。考えればなにも一緒に帰る必要もないし。

 私たちはこのまま新都で調査をするわ。今日は何にも成果がなかったって、いうのは癪だし。セイバーの真名は棚から牡丹餅だから成果に数えたくないし。

 じゃあね衛宮君、明日からは敵同士よ」

 

「遠坂って、いいやつなんだな」

 

「は? なによ突然。おだてたって手加減しないわよ」

 

「知ってる。けど出来れば敵同士になりたかくない。俺、おまえみたいなヤツ好きだ」

 

「な――――――」

 

 やれやれ、二人とも魔術に携わる者としては甘いな。21世紀の魔術師は皆こうなのか? まぁ魔術師皆があの魔女のようだったら、それはそれで気が滅入るが。

 

「ふぅ。いい! 二つ忠告よ。もしもセイバーがやられたら教会に逃げ込みなさい。

 そして、セイバーのことをマスターテスラと呼ぶのはやめなさい。無駄に真名を吹聴するものではないわ。

 あとはせいぜいセイバーと作戦を立てて、自分がやられないように気を付けることね」

 

 言うだけ言ってリンは新都の方へ歩き出す。

 

 が。

 

 幽霊でも見たかのような唐突さで、彼女の足はピタリと止まった。

 

          「――――――――ねえ、お 話 は 終 わ り ? ―――――――― 」




実は改定前の方がうまく書けている気がしないでもないが、でも、あの頃よりも、今の方が雷電王閣下の事を知っているのでどうしても書きたかったんですよ!


では、親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。

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