Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

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遅くなり申し訳ございません。
今回は二編に分けて投稿します。理由としましては、目まぐるしく視点が変わるのと、個人的に一話に付き、一万文字前後を限度としているからです。
それと、今後に関わる設定が大幅に変わったのでそこは少し楽しんでもらうと幸いです。
では、本編どうぞ―――


最強のサーヴァント 前編

  「――――――――ねえ、お 話 は 終 わ り ? ―――――――― 」

 

 幼き声が静かなる月下の夜に響き渡る。

 歌うようにかけられた声、声の主である少女に視線が向かう。

 

 向かうその先に――

 

「――バーサーカー」

 

 少女の隣に、突如として、人の形をした石巌があった。岩が精巧な人の形をしていた。

 いや、違う。月光に照らされるそれは、決してこの世にはあってはならないモノだ。

 

 そう。例えるなら、御伽噺や神話で出てくる悪魔や怪物のような異形。間違っても人が敵わないモノ。

 

「――何なの、単純な能力ならセイバー以上…………」

 

 聞きなれない単語を口にする遠坂。

 その言葉の意味するところに実感はもてないが、あの巨人のが放つ異質さは否が応でもわかる。

 アレは人の形をしているが、決して人と呼ばれるものではない。

 

 ならば、アレは――マスターテスラ、マスターと同じ、サーヴァントと呼ばれる存在(英雄)だ。

 

 バーサーカーと呼ぶそれを睨んだ遠坂が言った言葉の意味、単純な意味で狂戦士(バーサーカー)なのではないということでない。

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」

 

 まるで妖精のように微笑みながら少女は言った。

 その無邪気な微笑みが、その悪意のない微笑みが、背筋を震わせる。

 少女とその隣にいる巨人がいる風景があまりにチグハグで、あまりに不釣り合いで、もはや悪夢としか形容できない。

 

「――――」

 

 いや、背筋どころではない。体中、意識、心まで凍り付いてしまう。

 アレは正真正銘の化け物だ。いかな逸話、武勇伝がある英雄だろうとアレは化け物としか言いようがない。

 ただそこにいるだけで周りを圧倒する存在、視界を合わせる必要もなく、意識されることもなく。その存在そのものが圧倒的存在。

 

 しかし、それらを意に介することのない者が此処にいた。

 

 

 

「少女よ。こんな時間に外をであるのは感心せんな。

 子供は家に帰って寝ている時間だ。道に迷ったと言うのなら、家を探すのを手伝おう。

 なに、なんの心配はいらない。レディの扱いは英国紳士のたしなみだ。しっかり送り届けよう」

 

 

 

「……………………」「――――――」

 

 あの巨人を前に変わらぬマスターに、俺たち二人は呆気にとられいた。

 そんなマスターの対応に少女は虚をつかれたようで、俺たち同様に一瞬呆けたあと、クスクスと笑い始めた。

 

「ふふふ、お気遣い感謝しますジェントルマン」

 

 っと。

 少女はスカートの裾を掴んで、その場に不釣り合いな、とてもきれいなお辞儀をした。

 

「はじめまして、リン、ジェントルマン。私はイリヤ。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。今夜限りのお見知りおきを。

 リンなら私のことわかるよね?

 そして素敵な名も知らないジェントルマン。今日私はここで、貴方たちを待っていたので、貴方の心配は杞憂です。どうぞご安心を」

 

「ふむ。名乗るのが遅れた、私はニコラ・テスラ。よろしくイリヤスフィール。

 そして、イリヤスフィール、先程の言は冗談ではないのだな。君は今日ここで私たちを待っていたと言ったな、ならば尚のこと感心せんな。

 イリヤ、きみはこのような争いするべきではない。

 言ったであろう。子供は家に帰って寝ている時間だ。それに子供は良く食べ、良く学び、良く遊び、健やかに育つべきだ。

 

 罷り間違っても聖杯戦争などに参加すべきではない。ましてやその影に潜む者(・・・・・)は人間が関わるべきではない。

 即手放し、このような世界から離れるべきだ」

 

「ふふふ」

 

 少女はクスクスと、なにがおかしいのか笑う。

 

「お優しいのねジェントルマン。それにとても礼儀正しい、あの人とは大違い。

 ねえジェントルマン、その優しさは余裕の表れ?」

 

「ああ――私が優しいのも、礼儀正しいのも当たり前だ。英国紳士だからな。

 

         ――――それに、私は強いぞ――――」

 

 マスターは不遜に、あの巨人(恐怖)を前にして動じることなく、そこにある。

 遠坂はマスターとイリヤスフィールが話している間、アーチャーに指示らしきものを出している

 遠坂の指示を出し終えてのか、アーチャーの気配が消え、視線をイリヤスフィールに向き直しつつ、俺に近づいき耳元で囁く。

 

「衛宮君、ここで逃げるか戦うか自由にしなさい。……けどね、出来ることなら逃なさい――」

 

「相談は済んだ? なら、始めちゃっていい?」

 

 少女は告げる。

 身体を揺らして、心底楽しそうに。

 歌うように、軽やかに。

 

「士朗、リン。一つ言っておく、イリヤスフィールとは決して戦うな」

 

 その合間、マスターが俺たちに言葉をかける。

 

「じゃあ殺すね」

 

「彼女自信もそうとうなモノだが、その影に潜むものは人の敵うものではない」

 

 その忠告の意味するところを問う間もなく、始まる。

 

「やっちゃえ、バーサーカー」

 

 先程まで巌のようだったバーサーカーに熱を宿る。

 筋肉が膨張する、体が赤黒く変色する。

 

「■■■■■■■■■■■■」

 

 咆哮が、轟音が、確かな衝撃を伴う裂帛が放たれる。

 巨人が、跳躍する。その一足は大地を砕く、まるで薄氷を踏み砕くように、容易く。

 巌の巨人、バーサーカーが坂の上からの十数メートルという距離を、一息で迫る。

 

「下がれ! 士郎! リン!」

 

 迫りくるバーサーカー、刹那の間に来るであろう脅威を前に身構える。

 しかし、その脅威が届く前に、空中という無防備な状態のバーサーカーに赤い光弾が襲う。

 

 撃ち落とされたバーサーカーに追い打ちの光弾五発が襲い掛かる。不利な体勢から五発の光弾の内三発を薙ぎ払うが、残りの二発は直撃を受け、外人墓地の一画に大きな爆発が起こる。

 しかし、爆炎の晴れた先に無傷のバーサーカーがいた。

 

「下がって! 衛宮君!」

 

 瞬間、視界からバーサーカーが消えた。

 かん(・・)か、はたまた危機を感知したのか振り向いた先に、バーサーカーが岩塊としか思えない大剣を振り上げ、今にも叩き落そうとしている。

 

 刹那――マスターの白い背中が視界を埋める。

 振り下ろされた大剣をマスターが、五本の光の剣が、近代兵器を思わせる一撃を防いだ。

 

「バリツ式――」

 

 マスターが拳を握りしめる。

 雷鳴と共にマスターが紫電を纏う。

 雷鳴と共に機械の籠手(マシンアーム)が紫電に輝く。

 

 外人墓地を照らす月明かりより眩い雷光が――

 深い闇さえ切り裂く輝きが――

 バーサーカーの腹部に吸い込まれる――

 

「――雷電正拳突き!」

 

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるバーサーカー。

 巻き上がる土煙、大地が砕ける音がするのと同時に土煙の中心からバーサーカーが飛び出しマスターに襲いかかる。先程よも苛烈に、先程よりも過激な攻撃。

 その身に傷はなく、疲弊した様子もない。ただ平然と、何事もなかったように、それこそ人の形をした災害とも言える存在。一撃一撃が猛威。

 力任せの一撃、誰にでも出来て、その実誰にもできない一撃をバーサーカーは振るい続ける。

 

 ただ力任せの一撃ならマスターも防ぐことなく、その攻撃を掻い潜り一方的な攻勢へと出るだろう。

 だが、そうはいかない、バーサーカーの一撃は力だけでなく、速さも兼ね備えている。規格外のパワーとスピード、大地を砕き大気が悲鳴を上げる一撃。常人であれば掠めるだけで粉砕される。単純な二つの要素を兼ね備えた攻撃がマスターを攻め立てる。

 

 次の瞬間、マスターが体勢を崩した。バーサーカーに砕かれた大地に足をとられた。

 僅かな隙、そんな隙を見逃すバーサーカーではなく、今までで一番大振りな一撃を繰り出す。

 しかし、マスターは振り落とされた大剣に片手を添えていなし、大地に食い込む大剣に二本の光の剣、止めに中国拳法の震足を思わせる踏み込みで大剣を大地に縫い付ける。

 完全な無防備のバーサーカーに三本の光の剣が、右肩、左足、胸に襲いかかる。

 誰しもが必殺の瞬間と思っただろう。

 

 だが、違った。

 

 バーサーカーは大剣を手放し、倒立と少しの体の捻りで三本剣を避け、その勢いで踵落とし二連、逆にマスターを大地に縫い付け回し蹴りをマスターに叩き込んだ。

 

「――!? なんなのあの肉ダルマ! あれ本当にバーサーカー!?」

 

 遠坂は驚愕していた。いや、驚愕しざるおえない。アレが文字通りのバーサーカーだとしたら、いや、終始あの怪物から理性の類は感じなかった。

 バーサーカーとはクラススキル狂化により、理性を失うことによりステータスを上昇させるサーヴァントの中でも異質な存在。それは同時に一部のスキルや宝具、生前持っていた武技を失うことを意味している。それ程までにあの武技は異常だ。

 

 吹き飛ばされたマスターが無事に着地する。マスターにダメージらしきものは見当たらないものの、その表情は驚愕に染まっていると思われた。が、

 

「――なるほど、異能(アート)を使ったジョウ以上のパワーとエリス以上の武技とは。

 さぞかし高名な英雄なのだろ。

 狂化に呑まれようとも消えぬ太刀筋、見事だ」

 

 ここにおいても、あれほどの熾烈な攻防をして尚も、その自負は揺るがず、不遜なまでに泰然自若。

 バーサーカーもさることながら、マスターも俺たちの常識では計り知れない。

 

「ッ! アーチャー援護して!」

 

 遠坂が遠くにいるであろうアーチャーに指示を出す。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ここは新都高層ビルの屋上。

 あれほど明るかった街は寝静まり、今この場には赤い弓兵が一人。眼下の街にいる人々は、今この時に頂上と超常が激突しているとも知らず。ただ静かに、約束された安寧たる朝を待っている

 その人ならざる者たちの戦いを見据え、その者たち同等の力を持つ者が自分たちの直上にいるとも知らず。

 

「消えぬ太刀筋と言うよりは、体に染み付いると言った方が的確だろう。さしずめ闘いの化身と、言ったところか」

 

 弓兵は遠くの言峰教会。坂を降りた公園を、その瞳は遠くバーサーカーを捉えていた。

 主の指示に応え、弓に矢を番える。必殺の時を見据えながら、弓を引絞る。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 咆哮が夜の空気を激震させる。その一振りが大地を隆起させる。一度や二度ではない、それこそ滂沱の如くマスターに様々な角度から降り注ぐ。

 正面、下、頭上、横、空中、それらをギリギリのところでいなし、光の剣で防ぐ。

 その間にも、アーチャーの矢は確実にバーサーカーに当たっている。なのに、

 

「やれやれ。思ったより頑丈で、想像よりも強い。

 どれ程の人生を送れば、それほどまでになるのか、興味がある」

 

「ふふ。まだ余裕があるのねジェントルマン。でもね、貴方がどれ程強くってもバーサーカーには敵わないわ。

 だって、そいつはギリシャ神話最大最強の大英雄なんですもの」

 

「! まさか、それって――」

 

「ふむ。なるほど、合点がいった。バーサーカー――貴公の真名はヘラクレスか」

 

「正解よジェントルマン。そいつこそ神が下した12の試練を踏破し、主神ゼウスに列なる大英雄ヘラクレス。

 貴方たちではアレに絶対に勝てない」

 

 不遜なまでに変わらぬマスター、それを見るイリヤスフィールは微笑ましそう嗤う。

 それは自信の顕れ、自分たちが負けないと言う、負けるということすら想像できない。事実、この状況かで俺はマスターが勝てるように思えないのだから。

 

「――ッ! 舐めんじゃ」

 

 遠坂は違った。歯噛みをしたのはほんの一瞬、バーサーカーに向かい駆け出した。

 

「ないわよ!」

 

 その手に握られた何かを、闇夜においても輝く宝石をバーサーカー相手に投げつける。

 

「アーチャー!」

 

 バーサーカーの上で宝石が弾ける。弾け、紫色の魔力がドーム状にバーサーカーを囲う。囲われたバーサーカーが地面ごと沈みこむ。

 多分アレは重力操作の魔術だ。しかも、バーサーカーの動きを止めるほどモノともなれば相当高位の魔術だ。それを遠坂は宝石を媒介に一動作(シングルアクション)で行使した。

 そして、動きの止まったバーサーカーに二十を越えるアーチャーの矢が突き刺さり、爆発する。

 

 されど、バーサーカーは健在。ダメージらしいダメージもなく、損傷らしい損傷もない。まさに怪物だ。

 

「バーサーカー。リンとアーチャーは無視していいわ。どうせあの程度じゃあなたの宝具は越えられないのだから。さあそろそろ幕引きとしましょ」

 

 更に激しくなる攻撃、獰猛さを増す斬撃、破壊の一撃。

 公園を縦横無尽に駆け回り、マスターに着地すら許さぬ連撃が、マスターを追い詰める。徐々に上へ上へと、教会のある頂上に向かって追い込まれるマスター。

 成すすべなく、反撃を許さず、回避すらままならぬ追い打ちが続く。

 

「追いなさいバーサーカー」

 

 イリヤスフィールはマスターたちの言った方へ歩き出す。

 俺たちに興味がないのか、それとも初めから眼中に無いのか、全く警戒素振りもなく向かう。

 

「ちぃ」

 

 遠坂は舌打ちをし、こちらに向かって。

 

「いい! あなたは逃げなさい! わかったわね!」

 

 それだけ言うと、遠坂は少女を追っていった。

 

「――――くそ!  一緒に戦うと言ったのに、これじゃあ只の足手纏いだ」

 

 ならどうする、ここで諦めるのか。マスターを置いて逃げるのか?

 

 いや、逃げない。

 逃げちゃだめだ。

 

 ――俺にだって出来ることは必ずあるはずだ。 そのために今日まで頑張ってきたんじゃないか!

 ――それに、今ここで逃げるのは、マスターに対する裏切りだ。それだけは、それだけはしてはならない。

 

 俺は駆け出す。マスターの手助けをするために。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 山の中腹の開けた場所に、イリヤスフィールは立っていた。

 ネオンの光が消え、車や電車も行き来しない新都を眺めている。

 

 突如イリヤスフィールの背後、暗い森から二つ魔力の塊がに放たれる。最少の動作と音による奇襲――

 

 しかし、その二つはイリヤスフィールに到達することなく、彼女の周りに浮遊する銀の針金細工で作られたような鳥が主人を護った。

 

「随分な挨拶ねリン。前口上も、名乗りもなしに攻撃するなんて、優雅さのかけらもない。なんて野蛮なのかしら、まるで野生の獣ね。

 それとも、これが遠坂の流儀なのかしらリン」

 

「あら、開戦の狼煙を揚げたのそちらよ。なら不意打ちも何もない。

 それともまたさっきみたいに名前を教えてくれるのかしら? イリヤスフィール」

 

 不意打ちした身でありながら、傲岸に喋りかける遠坂。喋りかけている間も得意のガントを放つ姿勢で、咄嗟の状況に即座に対応できるよう退路を確保しつつ、相手との間合いを図り、彼我の戦力差を計り、必勝の法を謀る。

 

「また自己紹介? そんなモノに意味があるのかしら? いいえ無いわ。

 すべて。そう、すべて。あらゆるものは意味を持たないわ。

 たとえば――――

 ここで死んでしまう。あなたに、そんなことする意味なんて。ないんだから。

 

 ――いいえ、訂正するわ。せめても無聊の慰めにでもなれば、あなたに意味が生まれるわ」

 

 イリヤスフィールも優雅に振り返る。まるで遠坂凛を脅威とは認識しておらず、敵とすら認識していない。それは遊び相手、自分の無聊を慰める相手。

 視線が交差する、イリヤスフィールの傍を飛んでいた鳥の形をした銀の針金細工が遠坂に迫る。そして、嘴から魔力弾が射出される。

 それを躱し、後退しながらガントで迎撃するも鳥の使い魔はそれを避けて、遠坂を追尾するのと同時に攻撃の手を休めない。やむなく遠坂は急斜面を転げ落ちるように下り追っ手を撒く。

 

「ッーー。なんなのアレ。自動追尾に魔力の生成までやるなんて、まるで魔術師じゃない!」

 

 手入れのされた自慢の髪やコートを汚しながらもなんを逃れ、独り言ちる遠坂。

 先程の交戦である程度互いの戦力は測れた。ならば、ここから勝つための方程式と、負けない。いや、ことイリヤスフィールに関して言えば死なず、何より勝つためにしてはならない行動と、しなければならない行動を決める。

 

 ――まず、あんなのに囲まれたら袋叩きにあってしまう。けれどもあれほどの魔術なら術者にもそれなりの負荷と弊害があるはず。

 ――それを見極めるために、今は逃げて、隠れてる。

 

「あら? リン、StorchRitter(コウノトリの騎士)から逃げたかと思ったら、今度はかくれんぼかしら?

 でも、逃げ切ったご褒美にもう二羽追加してあげる」

 

 イリヤスフィールが髪をかきあげる。かきあげると髪が二本中に舞い、銀の鳥の針金細工が生成された。

 

 ――なんなの! あの反則!

 こうなれば、いくら潜んでいても、いずれは発見され、囲まれるのが落ちだ。

 ――なら!

 

 

 

「へー。逃げ隠れするのを辞めて、正面対決か、あなたはもう少し賢いと思ったのだけど」

 

「言っていなさい――」

 

 遠坂はイリヤスフィールの正面へと躍り出た。彼女には搦め手は通用しないと判断し、今持てるカードのすべてを切らなければ、この状況を打開できないと至ったが故に。

 手刀を相手に突き付けるように構え、放たれるガンド。

 遠坂の得意魔術の初等呪術《ガンド撃ち》だが、物理的破壊力を持たないはずのガンドが、当たった相手を呪い、昏倒させるだけのぱずガンド撃ち。

 しかし、そのガンドは、普通ではあり得ないほど高い密度魔力が込められている。その威力は拳銃の弾丸並みの破壊力を持ったものになっている。これは一部の魔術師のみが行使可能な物理的破壊力を持ったガンド、通称《フィンの一撃》と呼ばれる高等魔術だ。

 

 二度目の不意打ち。

 

 しかし、それをもイリヤスフィールは防ぐ、鳥が盾へと変形し防ぎ、反撃する。

 

「せい!」

 

 遠坂が放り投げたエメラルドが砕け、その粉が自身を守るように魔力の壁が形成される。形成された盾に鳥たちの攻撃が殺到する。しかし、盾は砕けない。

 

「――お返しよっ!」

 

 ガントが鳥たちを襲う、放たれた魔力が鳥を二羽撃破、次に狙うは本命。イリヤスフィール本人。

 放たれるガントに対抗するために、鳥を形成していた銀の髪が(ひもと)かれ、剣の形成される。主の敵を、障害を滅せんがために、一振りの剣が遠坂に飛来する。

 瞬間、遠坂は直感で右に避けた。その直感は正しかった。飛来する剣はガントと盾を諸共貫く。

 ――貫かれた!?

 

Zähre()は防げてもDegen()は防げないのね。がっかり、もう少しは楽しませてくれると思ったのに――」

 

 もう一振りの剣が、遠坂に照準を定める。

 

「じゃあ、これでお終い。はしたない女鹿には串刺しがお似合いよ」

 

 放たれる剣。

 しかし、それを正視する遠坂凛は絶望していない。

 

「この程度、予測済みよ!」

 

 再度放つガント、それを見て嗤うイリヤスフィール。ガントと剣が接触する。鬩ぎ合うこともなく、術者諸共串刺しにする未来を想像する。

 だが、次の瞬間、イリヤスフィールが瞠目する。

 貫くはずの剣が砕かれ、それだけで勢いは止まらず自分に向かってくる。瞬時にからくりを看破する。あのガントの中には宝石がある。それにより威力を底上げしているのだ。

 急ぎ髪をかき上げ使い魔を三体盾にするも、粉砕される。そこでガントも消えるも、その一瞬、気を緩めた。

 

 それが命取りとなる。

 

 ガントの後ろに、隠すようにもう一発のガントが、目の前に迫っていた。今からでは使い魔も間に合わない。

 自身の命が刈り取られようとする。

 遠坂は心の中でガッツポーズをとり、勝利を確信した。瞬間、

 

 イリヤスフィールの影が、コポリと、泡立つ――――

 蠢くように、粘度の高い水のように、泡立つ――――

 昏く、暗い、イリヤスフィールの影が、主を害する凶刃を止める――――

 

「――――!!」

 

 ――なんな、のアレは――

 恐怖に駆られ遠坂はガントを放つ、手持ちの宝石すべてを消費して、残りの魔力すべてを動員して。

 説明できない恐怖に怯え、幼少の頃、第四次聖杯戦争の時感じた恐怖よりも強く。涙を耐えながら、悲鳴を押し殺して、攻撃を続ける。

 その攻勢は雪崩のように、機関銃のように、バズーカの如き一撃を混ぜながら、繰り出す。

 

 されど、押し寄せる脅威の波を、イリヤスフィールの影が、受け止めて。受け止めて――――

 飲み込み、喰らう――――

 ガントも、フィンの一撃も、宝石魔術も、等しく、喰らう――――

 

 ――なんなの、アレは……

 魔力も、宝石も、戦意も失い。呆然とする。

 

「……A(アー)。主人の遊びに手を出すなんて、とういうつもり?」

 

 イリヤスフィールが言うと、影から――――

 舞台の昇降装置から上がってくるように――――

 白く、(しろ)い、長身の執事が――――

 

「はい。いいえ。Mein Königin(我が女王)

 

 

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