Fate/ Thunderbird   作:ジンネマン

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最強のサーヴァント 後編

 影から現れた白い執事は、主に恭しく頭を下げている。

 

 白い髪、肌は黒、赫い瞳。肌は黒人や日焼けおは違うもっと異質な涅ろさ。白い紳士服が更に肌の色を打ちあがらせいる。

 とても人間のそれとは思えない。あまりに異質な存在。

 

「っで、弁明は無いのかしら、A(アー)?」

 

「畏れながらイリヤ。あのまま傍観すれば、君が傷つくことになる。たとえそれが、猫に引っ掛かれた程度の傷であろうと、そう言ったことを事前に防ぐために、僕はいる」

 

「――ふん! あの程度、あたしだけでもどうにか出来たよ! それよりもA、あな――」

 

 イリヤスフィールが言葉を紡ぐの妨げるように、新都の方から、高い魔力を秘めた幾つもの紅い光弾が、襲いかかる。

 しかし、それらの光弾はイリヤスフィールに到達する前に、Aと呼ばれた執事の影に受け止められた。押し寄せる波のごとく放たれる矢を、波瀾の如く押し寄せる矢を、影が受け止めていた。

 陽炎のように揺蕩い。炎のように揺らめく。

 イリヤスフィールとA自身の周囲を囲うように、アーチャーの矢を、受け止めて。

 

「まったく、主人同士の戦いに横槍を入れるなんて、あなたは飼い犬の躾すらできないの? まぁ、それはこちらも同じだし、今日のところは許してあげるわリン。

 でもね――」

 

 イリヤスフィールがアーチャーがいるであろう高層ビルを睨む。

 それは自分の楽しみを、玩具を取り上げられた子供が、親を睨むような、そんな目をしてAに命令する。

 

「私の遊びに横槍を入れたアーチャーは許さない。

 A! アイツを狩りなさい――」

 

Ja。 Mein Königin(イエス。我が女王)

 

 未だに遅い続ける光弾に向かうA。

 悠然と、機械的に、彼方にいるアーチャーに向かい。

 

「サーヴァントアーチャー。射貫く者。射殺す者。その鷹の目をもってあらゆるものを見通し、撃ち貫く。たとえいかな距離があろうとも、外すことのない正確な射撃。何よりもその矢、一発一発の威力は並の魔術師では手も足もでないだろう。

 しかしその程度では、僕の影を超すことは出来ない」

 

 告げる。女王の騎士が、

 一つ。女王の命を受けて、

 静かに、揺るがぬ力を持って、

 

 影に下す。女王の命を。

 

「――さあ、来い。

 女王の言葉を借りて。来たれ。我が影、我がかたち、我が剣」

 

 コポリ。コポリ。コポリ。

 Aの影が激しく泡立ち、()り上る。

 追り上がる影が、形造られる。

 

 言葉に応じるように。意志に応じるように。

 それは、影だ。力ある影だ。意志ある影だ。騎士なる影だ。

 かたちを得る影、影がかたちとなる。

 声と、言葉と、力を道標として。

 それは、昏く。それは、暗い。それは、力と騎士なる魂の権限にして。

 

 アーチャーから放たれ続ける魔弾を、一介の魔術師なら防ぐこと能わぬ光弾を、受け止め、一歩踏み出す。

 穿たれる影。破砕される影。それでも、なお泡立ち続ける。それは、地の底から溢れ出る無形の、彼の力のあらわれ。

 

 Aの背後から、立ち上がる――――

 影、黒、力。しもべが一つ。

 

 ――それは、戦慄だった。いままで、見たこともないほど黒く、昏い魔力。

 ――魔力にも色がある。術者の特性に左右される色。放つモノに依存した色。

 ――多分アレは、護るもの。守護騎士の権限。女王の盾にして剣。

 

「堅固なる力の鼓動――――」

 

 ――たしかなる鼓動と共に、それは来る。

 ――白い執事の背後から。

 

「剣なる昏き影――――」

 

 ――黒い影、昏い影は、形をそのままに来る。白い執事の背後から。

 

「そして、すべてを護り、すべてを打ち払う(くろがね)の剣。

 我が声に応え顕現せよ、我が欠片。我が力。

 絶対なる守護騎士。

 ――――使い魔《クリッター・ナイトテンプル》ッ!」

 

 無形なる影が、秩序無き影が、歪む。

 瞬く間に、全長六メートルの騎士が、降り立つ。

 

 下半身は駿馬が、されど他を圧倒する巨体。

 上半身は二人一対の、四椀二頭の騎士の偉容。

 ここに、黒く、昏き、騎士が降り立つ。

 

「ナイトテンプル。イリヤスフィールを護り、敵なる射手を、薙ぎ払え――」

 

 嘶く馬頭、雄叫びを上げる四椀一対の騎士。

 駆ける。(くう)を蹴る。打ち付ける蹄が魔力の足場を創り、馬は障害物のない大草原を掛けるが如く加速していく。

 己が主の、敵に向かって。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「くっ!」

 

 思わず舌打ちをするアーチャー。それもそのはずだ。

 いまアーチャーは自分に近づいてくる騎兵を射貫こうと矢を放っている。それを止めるべく放つ赤い光弾が、騎士を、馬を狙う。しかし、騎士の四腕に握られた大型の盾二つと、常人なら片手では振り回せない筈のロングソードと馬上槍に阻まれる。

 いま自分に近づいてくる騎兵は、サーヴァントと同等の、正面対決ならアサシンやキャスターすら屠れるほどの存在だ。それが、次第に近づいてきているのだ。

 

 アーチャーが焦るほどに近づかれた原因、それはセイバーと対峙しているバーサーカーにも注意を向けていたからだ。仮にここでセイバーがやられた場合、自分のマスターの安全が保障できず、駆け付けたとしても間に合わない可能性が大きい。故に、セイバーへの援護は絶やさずしていたのが裏目に出た。

 もしも、かの騎兵に注意を向け、集中して攻撃していれば撃退できたやも知れない。だが、そうは出来ずここまで近づかれた。それほどまでにアーチャーにはセイバーが追い詰められているように見えたのだ。

 そして、

 

「!」

 

 騎兵がランスを投げた。アーチャーが躱し、投擲されたランスがそれまでアーチャーがいた場所を砕く。

 その隙を逃さず騎兵は加速、アーチャーも矢を射るが足場の不安定な空中ではまともな威力もなく、着地した自分の目の前には、

 

「Aaaaaaaaaaa!!」

 

 二本のロングソードを振りかざす騎兵がいた――――

 

 咄嗟に弓矢を干将莫邪に替え、振り下ろされる二振りの大剣を逸らし、距離を取る。

 

「――まったく、アインツベルンも相当この聖杯戦争に執心なのだな。まさか、これほどのモノまでを用意するとは、頭が下がる思いだ」

 

 不意に、不敵に、笑みを浮かべる弓兵。その笑みに一切の反応もなく、意に介することなく、騎兵はアーチャーに突進する。

 

「凛。少しの間耐えろ――」

 

 衝突する二騎――――

 火花散らす、激闘が――――

 始まる――――

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ――今の私じゃ敵わない。

 暗い森を遠坂凛は駆ける。文字通り闇雲に。

 あの白い執事の影から、二頭一対の人馬が出現し、新都にいるであろうアーチャーに向かった瞬間に駆け出していた。出そうになった諸々の声を噛み殺し、森に駆け出した。

 彼我の戦力差を、自身の準備不足を、自身の認識の甘さを、認識して。

 

 ――いや、違う遠坂凛。イリヤスフィールに関して言えば宝石を用意すれば勝算はある。

 ――だけど、あの白い執事とバーサーカーをどうにかしないと話にならない。違う、あの執事も私が相手しないとアーチャーはバーサーカーに勝てない。

 ――そうなると……

 

「わ!」「ッ!」

 

 考えながら走っていたせいで人の気配気付かず、目の前から男の子の声が聞こえ、咄嗟に相手の関節を極めて、地に叩き伏せた。

 

「痛い! 痛い! 遠坂俺だよ! 衛宮だ!」

 

 その声を冷静に聞くとつい数分前に別れた人物だとわかり、一瞬心が緩みそうになり、引き締めるためのスイッチに再度関節を強く締め、一呼吸おいて声をだす。

 

「――何やってるのあなたは! 私は逃げなさいと言ったのに、わざわざ戻ってくるなんて死にたいの!?

 それともなに、聞こえていなかったとでも言うつもり!」

 

 出来る限り語気を強く、相手に一瞬でも安心したなんて悟られないように。すごい剣幕で怒鳴られているとしか思われないように。

 

「聞いていたよ。でも、そうはいかない。いくワケにはいかなくなったんだ」

 

「どうしてそうなるの! どういう理屈でそういうことになるの! どうしてそんな結論になるの! 衛宮君には戦う手段がないんだから、ただの足手まといにしかならないのがわからないの!? 邪魔にしかならないの!」

 

「そんなの関係ない! マスターが戦っているだ! だったら俺一人が逃げていいワケがない!

 ――あと、遠坂はなんでそんなに怒っているだ? 別に俺が何しようと遠坂には関係ないだろ?」

 

 生意気な反論をした後、心底疑問なようにこちらに視線を向けてくるモノだから、一層腹が立ってもう一度強く関節を極める。

 そして、私と違う意味で聖杯戦争に対して認識の誤りがある馬鹿に言ってやる。

 

「関係あるわよ! 今夜は見逃すって言ったのに、これじゃあ私ただのバカみたいじゃない。いいこと、今晩はちゃんと家に帰ってもらわないと困るの、この、私が!」

 

 ――そう。あの取って置きまで使ったのに、あれだけお膳立てしたのに、ここで死なれちゃ――

 

「ああんも! とにかく無事なら、早く逃げなさい。今すぐに。

 イリヤスフィールは今日、ここで私たち皆殺しにするつもりよ」

 

「だから、そういかないんだ。マスターが今も戦っているのに、それなのに俺は一人で逃げれない。いいはずがないんだ。

 ―――――約束したんだ。一緒に戦うと言ったんだ。だから――」

 

「それは一人前の台詞よ。何の援護も出来ないあなたがいても無駄死にするだけでしょ。それこそセイバーの邪魔になるだけでしょ。

 ――これが最後の忠告よ、今すぐに逃げなさい」

 

「そんな事ない。体があるかぎり、諦めなければ出来ることはあるはずだ。

 それに遠坂、自分に出来ないことを他人に押し付けるな」

 

「………………はぁー」

 

 今悟った。これは何をしても曲がらない。いや、曲げれない。今なおも関節を強く極め続けているのに、それでもセイバーのもとに行くと聞かないこの男の子を、あの日の少年を(・・・・・・・)――

 

「どうなっても知らないわよ」

 

 最後に、一際強く締めたあと解放した。

 立ち上がった男の子は、何か言いたげ私を睨むも、近くから轟音が鳴り響くと、なにも言わずに走り出した。

 私は、彼の後を追うように走り出す。今の私にできることは無いとわかっているのに。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 轟音の震源地へと走り、視界の開けた場所に着いた。そこは外人墓地だった。

 墓標の連なるこの場所で、マスターは縦横無尽に動きながらバーサーカーと交戦していた。

 墓石が砕ける。

 

「■■■■■■■■」

 

 咆哮をあげてる巨人が、その凶暴な大剣を一閃するたびに、重たいはずの墓石が一瞬で石屑へと変貌していく。

 

 その中。

 

 数多の石塊となった墓石が宙を舞う戦場に、マスターは有利に戦っている。先程までの劣勢が嘘のように。

 墓石そのものはバーサーカーには障害物にもならないだろう、だがマスターは無数にある墓石を巧みに利用していた。

 

 先程夜も鋭い斬撃。

 先程よりも強い打撃。

 

 それらをすべてをバーサーカーに中てていた。

 そして、それらの攻撃は間違いなく、あの巨人にダメージを与えていた。

 

「なるほどね。あの肉ダルマ相手に遮蔽物ないところで戦うのは無謀、いえ自殺行為と言っても過言ではいわ。

 だからここまで誘導した。ここなら遮蔽物に困らない、セイバー機動力さえあればあのバーサーカーとさえ有利に戦える。これは評価を改めるべきね」

 

「じゃあマスターはわざとここまで追い込まれたのか、この状況をつくるために」

 

「そういうことね。流石は最優のサーヴァント、的確な状況判断能力。そしてそれを実行する行動力。戦闘力。非の打ち所がないわ。

 英国紳士云々がなければね」

 

 ――ごめんマスター。それはフォローできない。

 

「衛宮君」

 

 遠坂が墓地の中央を指さす。マスターとバーサーカー正面から対峙している。

 

「狂化されては、語ることも語れん。が、お前の輝きは見してもらった。

 英雄ヘラクレスよ、お前が戦う理由もわかった。ならば、少々手荒だが退場願おう。そして、この聖杯戦争が終わるまで自陣に引いてもらう」

 

 駆けるニコラ・テスラ。

 バーサーカーが大剣を両手で持ち、唐竹の構えをし、大地に叩きつける。大地が激しく隆起させた。その衝撃は地鳴りとなり、その爆風は俺たちの所まで届いた。

 その激震地に、マスターを正面突破した。五本の光の剣を足や腕に刺し、拘束。

 

 その一瞬。

 まばゆい光が、逬る。

 それは黄金色をした輝きだった。

 それは遥かな果ての輝きだった。

 黄金の――――

 輝き――――

 

 身動きの取れない黒い巨人に、白い彼!

 高速言語が音の壁を破る。

 

 左手と右手を、輝かせて。

 左手と右手に、紫電を溜めて。

 白色の彼が――――

 

 

「――――電刃! 極大雷電の神槍(マルドゥーク・ジャベリン)ッ!」

 

 ――――閃光が――――

 

 ――――黒の巨人を――――

 

 ――――すべてを、砕く――――

 

 

 

 視界が戻るとマスターの帯電は元に戻っていた。

 あの黄金の一撃が、巨人を砕いたのだ。バーサーカーは半身を失い、未だにマスターの黄金の雷が帯電している。それでも現界している。だがバーサーカーは間違いなく戦闘不能だ。

 

「ふむ。これで当分の活動は無理だろう。あとは大人しく自陣に――」

 

 直後、バーサーカーが自身の心臓を、握り潰した。自分でだ。

 瞬間、あれだけの傷が、塞がり始めた。

 

「なるほどこれは再生ではない。

 もはや時間逆行に近い。蘇生の呪い。死んだら発動するの、と言ったところか」

 

 冷静に考察するマスター。その最中、遠坂が独り言をしたかと思うと、何か首を傾げた。

 

「――――え? アーチャー…………? 離れるってどういう事?」

 

 その時、遥か彼方から、こちらに向かって殺気を感じた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「よくやったセイバー。後は――」

 

 新都高層ビルの屋上で、クリッター・ナイトテンプルと対峙しているアーチャーは、その先頭の最中、セイバーとバーサーカーの戦いを注視し続けていた。

 たしかに、この騎兵は侮りがたい敵だ。攻撃力、防御力、機動力、どれをとってもサーヴァントに匹敵するほどだ。だが、決定的に駆けているものがあった。

 それは知能。それは知性。それは意志。

 

 いかに強力な敵でも、短絡的な状況判断しかできないのならば恐れるに足らず。たとえ撃退、撃破が難しくとも、持ちこたえることさえ出来るのならば、そう悪い状況ではない。

 なによりも、慣れてしまえば他のことに注意を向けることも出来る。仮にこの騎兵があの白い執事やイリヤスフィールと一緒にいることで真価を発揮るというなら話は変わるが、それは今気にすることではない。

 そして、持っていた干将莫邪を騎兵に投げつけ、間合いを取る。

 

 弓兵が新たに弓矢持ち、矢を番え、弓を引き絞る。

 されど弓兵の番えるモノは矢ではない。

 ひどく螺れた剣、それを矢にして引き絞っている。

 

「凛そこを早く離れろ!」

 

 弓兵が引き絞っていた手を離す――――

 騎兵と射線が重なるように――――

 騎兵は躱すが、その余波が肉体を抉る――――

 抉られた騎兵は夜の街に墜落し、その矢の行く先は――――

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「あいつ!」

 

 気が付いたら俺は走っていた。マスターはアーチャーの攻撃気付いてない。

 

「マスターーーー!」

 

 マスターはこちらを見て驚いた顔をした。貴重な顔だと後から思った。

 マスターは悪さをした子供を叱るように言う。

 

「士郎。まだ戦いは終わってない。危ないから早く離れなさい」

 

 マスターが何か言っているが聞こえない。有無言わさずマスターの手をとって走り出す。あいつの攻撃が届く前に離れようと、強くマスターの手を握り走る。

 

 背筋が、全身の毛が逆立つ。迫りくる悪寒。

 

「士郎。一体――」

 

「いいから早くこっちに! 説教はあとでき――――」

 

 直後、マスターが俺を抱き寄せ、跳んで伏せた。

 

 ――――"矢"が着弾する。

 

「■■■■■■■■」

 

 その刹那。

 再生途中のバーサーカーは背を向けて逃げる俺たちを無視して、迫り来る"矢"を全力で迎撃した。

 

 ――――瞬間。

 白い閃光が走る。

 あらゆる音が、消えた。

 

 

 

「ッ!!」

 

 歯を食いしばり、マスターと地面に伏せて、ただ耐える。先程から音が聞こえないのは聴覚が麻痺したせいかもしれない、わかるのは大気の振動とこの身を焼かんばかりの熱風。

 それも途中までで、マスターが光の剣を突き刺し、その雷電が盾となって防いでいる。

 だが、マスターが光の剣を展開する前、アーチャー一撃によって発生した爆発は、様々な物を吹き飛ばしていた。その中の破片が、ごつっ、と重い音をたてて、俺の頭に破片が当たっていた。

 

「っ!」

 

 歯を食いしばって耐える。

 白い閃光が、晴れたのを確認すると二人で立ち上がる。自分の体を確認する。守るつもりが逆に守られていたのに少々悔しい思いがした。

 視線を自身から、白い閃光があった方に向ける。

 

「――――」

 

 炎上していた。アーチャーが放った”矢”が墓地を一瞬で火の海にしていた。

 バーサーカーのいたところは、爆心地となりクレーターが出来ていた。

 

 だが、それほどまでの破壊を起こしたにも関わらず。それほどの破壊をもってしても、黒い巨人、バーサーカーは健在だった。あれほど重傷を快復さえしている。

 

「バーサーカー――あれほどの宝具を受けて、なお健在とは、大したものだ」

 

 マスターは相変わらずだった。

 火がはぜる音が、揺らめく陽炎と火の粉が、静かな夜に溶けていく。

 黒い巨人は炎のなかに佇む。

 そんななか、硬い金属が音を立てて落ちて、視線を向けると奇妙なモノが転がってきた。

 

 それは剣だ。

 

 否、それは剣ではない、それは"矢"だった。

 

 豪華な柄と、螺旋状に捻れた刀身の矢。

 …………たとえそれが剣であろうとも、"矢"として使われたのなら、それは矢である。

 それが、どうしてそこまで気になったのか。

 バーサーカーによって叩き折られた矢は、粒子の粉になるように消えていった。

 それが――――

 

 

 ――――理由もなく、吐き気を呼び起こした。

 

「士郎。今のは」

 

「――――アーチャーの矢だ。ソレ以外は、わからない」

 

 顔を上げる。見える筈のない、遥か彼方のアーチャーに視線を向ける。

 

 そう、見える筈がない。見えるわけはないというのに、確かに見えた。

 やつは口角を高くしていた。

 狙ったのはバーサーカーだけではない、と俺に見せつけるように笑ったのだ。

 

「あいつ!」

 

 頭痛がする。

 吐き気がする。

 悪寒が止まらない。

 

「――ふうん。見直したわリン。やるじゃない、アナタのアーチャー」

 

 いつの間にか、イリヤスフィールは見たことのない、白い執事と共にそこにいた。

 

「いいわ、戻りなさいバーサーカー。つまらない事は初めに済まそうかと思ったけど、少し予定が変わったわ」

 

 徐に、不死身の巨人が動き出す。その炎をに身を焼くことなく、平然と歩き出す。

 

「なによ。ここまでやって逃げる気?」

 

「ええ、気が変わったの。セイバーもそうだけど、リンのアーチャーには興味が湧いたわ。

 だから、もう少しだけ生かしておいてあげる」

 

 黒い巨人が消えて、少女は笑いながら言った。

 

「それじゃあ失礼します。お優しいジェントルマン。

 バイバイお兄ちゃん。また遊びましょうね。さあ、A帰るわよ」

 

「了解。イリヤスフィール、降りたところに車を用意してある」

 

 そうして、イリヤスフィールは、白い少女と白い執事は炎の向こう側に消えていった。

 

 突如として舞い降りた厄災は去った。

 口ではああ言っていたが、遠坂はあの少女を追いかける気はないだろう。あの白い執事が出てきた途端、遠坂が強張るのがわかったからだ。いや、それ以前にわかったのだ。今は見逃されたということに。

 なによりも、

 

「やはり、あの気配は間違い――」

 

 マスターがあの白い執事を、睨んでいたのだ。それは強敵という証。

 バーサーカーだけでも難敵なのに、それ以外にも戦力があるとしたら、それは――

 

 瞬間、突然立ちくらみがし、尻餅をついてしまった。

 ――マスターがしゃがんで俺のことを見ている。

 

「士郎? 大丈夫か、どこか悪いの――――士郎、頭から血が…………!」

 

 切迫したマスターの声。

 ……頭痛が強いためか、マスターの顔がぼやけてきた。

 マスターは倒れかける俺の体を支えて、頭に手を当てる。

 

「取り敢えず、急ぎ士郎の家に戻ろう。

 そこで必要な措置をする。それまで気をしっかり持て士郎」

 

 …………倒れる体を支えてくれる感触。体温をあまり感じないけど、温かな感触。

 それもすすぐに消えて、呆気なく、ほんとんどの機能が落ちてしまった。

 

 ――――残ったのは、この鼓動だけ。

 

 何が癪に障って。

 何が気なっているのか。

 何に惹かれているのか。

 ……意識は落ちようとしているのに、熱病めいた頭痛だけが、鼓動のように続いてた。

 

そして、鼓動以外が全てが闇に落ちた。

 




と言うわけで、先にも書きましたが、これで大幅改訂は一旦終了。
後日から改めて、本編再開です。
まだまだ拙い文ですが、お付き合いして頂けると幸いです。
では、親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。
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