生存・黎明
――――見たことない景色だった。
頭上には炎の空。
足元には無数の剣。
戦火の跡なのか、世界は限りなく無機質で、生きてるモノは誰もいない。
灰を含んだ風が、鋼の森を駆け抜ける。剣は樹木のように乱立し、その数は異様だった。
十や二十ではきかない。
百や二百には届かない。
だが実数はどうであれ、人に数えきれぬのであらば、それは無限と呼ばれるであろう。
大地に突き刺さった幾つもの武具は、使い手か不在のままに錆びていく。
夥しいまでの剣の跡。
――――それを。
まるで墓場のようだと、彼は思った。
…………世界が戻っていた。
「――――ん」
重い瞼を開けて、士郎は、視界に映るものを見る。
聞こえてくる小鳥の囀り。
ぼんやりと、辺りを見渡す。
視界に写るのは見慣れた部屋。見慣れた庭。見慣れた景色。
そこで自分は今、自分の部屋で寝ていたことに気付いた。
外が明るい、日が昇ってから随分と時間が経ってるであろう、太陽が高い。
そして、昨晩のことを思い出す。
あの時、アーチャーの矢の破壊に巻き込まれて、アーチャーの矢の残骸を見て、
そのあと、マスターの無事を確認したあと頭に鈍い痛みが走り、そして…………
まだ、ぼんやり。する。
けれど。
「……あれは…………夢か…………」
…………剣の丘。
あんな夢を見たのは……そう、剣を持ったマスターと、昨夜炎と破壊に包まれた墓地を見たからに違いない。そうでなければ――――
「お、お目覚め?」
「…………ふぁ…………」
誰――――
誰かいる?誰だ、今日は休日だらか桜ではない。ならば藤ねえか? いや藤ねえはこんな起こし方はしない。
結論。まだ夢だ。
「うん………………ん」
「こら! 二度寝しないの!」
再度起こされた。
うるさい。昨日は酷く大変で疲れたんだ。
青い槍兵に二度も襲われて。
そのあと新都郊外の教会まで歩き。
帰り道にバーサーカーに襲われた。
――――そこまで思い出し、目が覚めてくる。
あそこでバーサーカーとイリヤスフィールがいなくなった後、記憶はなく今、自分の部屋に寝ているという現実。
自分をここまで運んだのは誰だろうか? そして、自分を起こしているのは誰であろうか?
桜でもなけば、藤ねえでもないのであれば誰だ?
瞼をしっかり開く。
「やっと起きた。まあ、大事がなさそうでなによりだわ」
なぜか、どうしてか、遠坂が偉そうに見下ろしながら、いたく普通なことを述べている。
まだ夢を見ているんだろうか?遠坂が家にいるなんてあり得ない。
「~~~~~~~っ!」
布団をひんむいて、一瞬で部屋の隅へ逃げた。
「とと、トトとどどと、遠坂! 何でこんなところいるんだ!
何が何をしているんだ!?」
頭が現実に追いつかない。
自分は炎に包まれた墓地にいた筈で、近くにいたマスターで、自分の部屋には遠坂で、朝で、何が何やらどうなっているのか!?
いやまずは遠坂が何で目の前にいるかが一番びっくりしている。
「随分な言いようね。昨夜の記憶があるなら今の状況はすぐに理解できる筈だけど」
遠坂はあくまでも冷静で、おかけでこちらの頭も冷えてきた。
そうだ。
昨日、あの戦場にはマスターの他に遠坂もいた。そして、今自分が生きていて、遠坂が目の前にいると言うことは、
「――そうか。あのあと気を失った俺をここまで運んでくれたんだな、遠坂」
「ふーん。なんだ、思ったより頭の回転速いのね。混乱していても思考はちゃんとしているようね。なかなかどうして」
…………褒めているか貶しているのか、曖昧な言動はやめてほしい。
「……それじゃ、俺の家まで運んでこれたってことは、人目につかないで逃げられたんだな」
「そう言うことよ。話が早くって助かるわ。
じゃあ、もういいわね」
そう言うと、満足したのか。
それじゃ、と言って、立ち上がると歩き出した。
「――――え、遠坂どこに行くんだよ」
それを聞いた遠坂は、額に手を当てて、大きなため息を吐いてこちらを向いた。
「…………はぁ、衛宮君。まだ寝ぼけてるの?どこに行くにも何も、ここがどこかわかっているの?私はここに居ていい存在ではないでしょ」
きっぱりと言う。
昨夜の彼女の言葉を思い出した。
『明日からは敵同士よ』
そう言った。
「――――」
そうだ。
昨夜。
戦うと口にした。
ならば、衛宮士郎と遠坂凛は聖杯を求めて、殺し会い、奪い合うしかないか関係。
そこには馴れ合いや、助け合いなどといった概念はない。自分達は魔術師であり、魔術師は一般的ルールといったモノに縛られない存在なのだ。
しかし、
「そうだっだな。すまない遠坂。
それと、今更ながらだか、ありがとな」
その言葉を聞いた遠坂は、こちらを睨んだ。
その瞳には激しい憤怒か宿っている
「衛宮君。間違っても敵には、そんな言葉掛けるモノではない!
例えそれが肉親であろうと! 命の恩人であろうと! 同じ学校の人間であろうとよ! 敵のマスターは人の言葉を喋るだけの障害物! 始まったが最後、情け容赦無しに、ありとあらゆる手段を行使して戦うのが聖杯戦争。
昨夜、あのエセ神父に嫌と言うほど聞かされた筈よね。もう忘れたの!?」
遠坂の言葉は尤もだが、腑に落ちない点がある。
「――じゃあ、遠坂は何で俺にそこまでしてくれるんだ?
遠坂の言い分なら、真っ先に殺している筈だろ」
すると遠坂は、む! っとした顔をしたと思うと若干捲し立てるように、
「ええそうよ。けれどねスタートラインにすら立っていないあなたを倒すのはフェアではないわ。
遠坂の家にはね『余裕を持って優雅たれ』って家訓があるのは昨夜聞いたわよね。その私に寝込みを襲えって言うのは、気分が乗らないのよ! なんか気にくわないのよ! 文句ある!」
「遠坂。今さっきどんな手段をとっても倒す相手、肉親すら障害物と思えって言ったよな?」
「言ったわよ。だからこれは私の失点、私があなたより強いから生じた慢心。言うなれば心の贅肉」
なんか妙な表現だな。
「心の贅肉? つまり遠坂は太っているってコトか?」
彼女は笑った。
淀みなく、涼やかに、綺麗な笑顔。そう。あの笑顔には何ら不純物はなく純度100%のひとつ感情しかない。
そして、その感情とは、
例題です。
ここに、一人の少年がいました。
魔術師の少年です。
彼は助けてもらった少女に疑問を問いました。
心の贅肉とはなにかと、
あなたは太っているのかと、
そう問いました。
するとどうでしょう。
少女は綺麗な笑顔をしました。
少年が見たことない笑顔です。
少年の周りにはなかった笑顔です。
しかし少年は震えていました。
誰がどう見ても綺麗な笑顔なのに、
少年には何か別のものに見えているようです。
少年は焦ります。
自分は何かとんでもないことをしでかしたのかと、
赤い悪魔を目覚めさせたのかと、
少年は後悔します。
けれど後悔は先にたたないのです。
そして必死に頭の回転させます。
この場における最善策を、
この場における正解を、
ありとあらゆる可能性を模索します。
――――どうすべきですか?
少年は、平謝りするべき?
少年は、一目散に逃げるべき?
少年は、このあとの結果を受け入れるべき?
――少年は
――少年には選択権はありませんでした。
しかたないことなのです。
人は時に選択を許されないモノなのです。
そして朽ちてゆくのです。
そして終わってゆく。
だから、これでおしまい。
何処かで誰かが嗤うのでしょう。
新都の神父か、
ふるき黄金か。
ですから――――
これで、おしまい。
さよなら。
残 念
で
した
功程四拍
寸勁→回転足払い→回転肘撃ち→崩拳の4連
容赦がなかった。隙もなく。情けの欠片もなく。
そして、彼女の笑顔に秘められた感情は殺意だった。
教訓。
女性に体重のことを言ってはならない。命が惜しければ。
「それじゃ、衛宮君お達者で。
次会うときは敵同士だから、その時は覚悟しなさい」
どの口が言うか、この赤い悪魔め。
言いたいことだけ言って、赤い悪魔もとい遠坂は帰っていった。
俺をここまで運んで、手当てまでしてくれのは本当に気紛れなのだろう。
「――――さてと」
深呼吸をして、状況を確認する。
昨夜の学校でランサーとアーチャーの戦いを目撃してから、ゆっくり考える時間がなかった。
「ん?じゃあ、あの時にいた人影って遠坂だったんだな」
今更ながら気付いた。
そのあと、ランサーに胸を穿たれて、どういうわけか生きていて、家に戻ったら再びランサーに襲われて…………
マスターテスラに助けられて、マスターになった。
遠坂や言峰の話。
聖杯戦争という狂気の儀式。
勝者のみに与えられる。万能の願望器"聖杯"。
…………そんな話、実感が持てないが、確かなのは聖杯戦争という狂気の儀式があり。聖杯のために起こりうる被害を、
新都の大火災のようなこと、
あの地獄を、未然に防ぐために戦うと口にした。
だから、俺の戦う理由は聖杯戦争に勝ち残るためじゃない。
勝つために手段を選ばないヤツを、あの日の誓いを守るために、非道なヤツを、力ずくで止めるために戦うことだ。
「――――――!」
…………拳を握る。
間違ってない。
衛宮士郎は正義の味方に、理不尽な"モノ"に、それらのモノから"誰かを"守るために、今まで魔術を、肉体を鍛えてきたんだ。
「よし!まずはマスターと話をしないと」
身体中に痛みが走る(大半は遠坂の攻撃によるダメージ)が問題なく歩ける。
何か引っ掛かるものはあるが、振り払ってマスターを探しにいく。
すぐにマスターは見つかった。
「ん。おはよう士郎。身体の方は大丈夫か?」
居間にいた。
居間で眼鏡をかけて新聞を読みながら寛いでいた。
まるで我が家のように寛いでる。
「…………マスターおはようございます。身体の方は大丈夫です。
…………マスターその服はどうしたんですか?」
マスターは昨夜の白い詰襟服は着ておらず、ここ五年間見ていなかった。けれど、懐かしい物マスターは着ていた。
切嗣が、じいさんが着ていた和服。この五年間引き出しの奥に仕舞ったままだった物。
「ああ、あの格好ではリンが落ち着かないと言ってな、勝手で悪いが服を借りた。
極東服は久しぶりだ。丈も悪くないし、生地の質も良い、この極東服はゆったりできる」
そう言うマスターは心無し、懐かしさを滲ませて頬を緩める。
そして、
「士郎、積る話もあるだろうが身体が大丈夫なら、少々遅いが朝食を作ってくれ。
……腹が減った」
「……………………」
時計を見る。
今は午前10時。朝というには遅い時間だ。
「どうした士郎、どこか具合が悪いのか?」
「……いや大丈夫だ。マスターすぐに用意するから待ってくれ」
――――サーヴァントもお腹減るんだな。
そう思うとマスターが凄く身近に感じる。
取り敢えず冷蔵庫にあるもので手早く作ってしまおう。
三日前にガクトゥーン ファンディスク購入しまして、あと四日で攻略予定。
ヴァルターさんに負けないように駆け抜ける!
では皆様、良き青空を