魔王になる為に魔界を放浪するラハール。
その傍らには1人の青年悪魔が居た。
彼らは小さい頃からの『トモダチ』で、『契約者』だった。
子供たちの『契約-やくそく-』は、『互いに裏切らない』こと。
しかし、彼にはラハールに秘密にしていることがあった。



※ディスガイア無印の第5話「エトナの秘密」直後の話です。
 自サイト閉鎖に伴い、こちらにて掲載。

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契約者の秘密

 

 

 

「――アンタに最ッ高の恐怖を、刻み込んでア・ゲ・ル!!」

 

 

そう言ってエトナは幼い顔に妖艶な笑みを浮かべ、槍を振り上げた。

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

かくして暗黒饅頭を盗み食いして追放されたマヌケ、もといマデラスは、

ラハール一行の手によって心に永遠に消えない傷を刻まれた。

その後マデラスは、恐怖心からラハールたちに忠誠を誓うが、そんな事はさて置き、

一応裏切った形になるエトナに対し、ラハールが髪を逆立てて怒鳴り散らしていた。

 

 

「全く、この俺様を謀るとはトンでもない奴だ!

 まあ悪魔としては見事な所行だが、やはり俺様を裏切ったのは許せん!!」

 

 

そう言って、ラハールは吊り上った紅い瞳でギロリとエトナを睨む。

睨まれたエトナはといえば、全く怯えた素振りも見せず、むしろ楽しそうに、

「きゃー!殿下ったら怖ーいv」と笑いながら、一人の青年の背中へと隠れる。

当然の流れとして、ラハールのキツイ眼差しはその青年へと向けられる。

 

ずっと曇り空のままの魔界では見る事の無い、青空のごとく蒼い髪、

滴る鮮血のような紅い瞳をした彼は、端正な顔に胡散臭い穏やかな表情を貼り付けたまま、

ラハールを宥めにかかる。

 

 

「まあまあ、ラハール。

 エトナも反省しているかもしれないし、許してあげたら?」

「ふん。悪魔が反省などするか!

 そんな事よりも、ルシル!……お前は、裏切るなよ。」

 

 

髪を逆立てて怒鳴った後、ラハールがジロリとルシルを睨み付ける。

射殺すような視線を受けているにも拘らず、やはりルシルは胡散臭い笑みのまま応える。

 

 

「僕は君を裏切らない。

 『君が僕を裏切らない限り、僕は君の傍に居る』

 そういう“契約”だったろ?」

「ふん。」

 

 

ルシルの応えに満足したのかしていないのか、それともどうでも良かったのか。

ラハールはプイと顔を背けると、振り返る事無くずかずかと歩き始める。

その小さな後姿を、楽しそうに眺めているルシルに、今まで後ろに隠れていたエトナが、

ひょっこりと顔を出して尋ねる。

 

 

「いいんですか、『陛下』?

 殿下に自分が兄君だって知らせなくて。」

 

 

エトナはそう口にした途端、凄まじい寒気に襲われて「ひっ」と小さな悲鳴を漏らす。

寒気の原因は、目の前に居るルシル。

被っていた胡散臭い笑みの仮面は外れ、酷薄な光を宿した紅い瞳がエトナを見据える。

そして、不快気な声が告げる。

 

 

「エトナ。僕を『陛下』と呼ぶんじゃない。」

「は、はい!……申し訳ありません。」

 

 

圧倒的な畏怖が、自然とエトナに膝を付かせ、臣下の礼を取らせる。

もしルシルの怒りを買えば、エトナなど指一本で殺されてしまう。

いや、指一本ですら動かす必要もないかもしれない。

 

その事実に、絶望的なまでの力の差にエトナが震えていると、

突然圧し掛かっていたプレッシャーが消え失せる。

恐々とエトナが顔を上げると、ルシルは再び笑顔の仮面を浮かべていて、

にこにこと楽しそうに告げた。

 

 

「……良いんだよ。あの子に知らせる必要はない。」

「ど、どうしてですか?

 兄君が居るって判ったら、殿下も喜ぶんじゃないんですか?」

 

 

表面上、穏やかに戻ったルシルに安心したのか、エトナはそろそろと立ち上がり、尋ねかける。

その問いかけに、ルシルは笑顔はそのままに、

視線には「そんな事も解らないのか」と嘲りを込めて、エトナを見下ろす。

そして、つまらなそうに答えた。

 

 

「そうかもしれないね。

 でも、そうなると、どうしたって魔王位の継承争いになる。

 そんなのは面倒だし、だいたい僕はね、魔王になんて興味ないんだよ。」

「は?で・でも、だって魔王ですよ!?魔王!!

 魔界で一番偉いんですよ!!?」

 

 

驚きの余り、わたわたと手を振り回しながらエトナが詰め寄る。

しかしルシルは、どうでも良さそうに軽く肩をすくめて言い捨てる。

 

 

「どうだっていいよ。手下がぞろぞろ居たって鬱陶しいだけだし。」

「じゃ、じゃあ、ルシル様はどうして殿下と行動してるんですか?」

 

 

ルシルの答えに更に困惑したエトナが、頭上に?マークを飛ばしながら再び問いかければ、

嘘の笑顔ではなく、本当に楽しそうな笑顔を浮かべてルシルは答えた。

 

 

「……僕はね、欲しいモノがあるんだ。」

 

 

その美しい笑顔に、エトナは魅了される。

まるで天使の様に清らかで、見る者全てを虜にする悪魔の美。

頭ではそれが危険極まりないモノだと解っているのに、心が言う事を聞かない。

すっかり見惚れて、エトナは熱に浮かされた様に喋り続ける。

 

 

「欲しいモノ、ですか?」

「ああ、たった一つだけね。」

「それって何か、聞いてもいいですか?」

「……『アイ』だよ。」

 

 

静寂。

今、ルシルが何と言ったのか理解できず、エトナはパチパチと目を瞬かせる。

そして、きっかり3秒沈黙した後、やっとの事でルシルの言葉を復唱した。

 

 

「……『愛』?」

 

 

そんなエトナの様子など気にも留めずに、ルシルは時折稲光の走る空を見上げ、

まるで見果てぬ夢を見る様に、陶然と語る。

 

 

「そう。僕はたった一つの無償の『アイ』が欲しい。

 かつてラハールがあの女から与えれたのと同じ、真実の『アイ』が。」

 

 

これは本気だ、とエトナは理解する。

そして考えてしまう。

チャンスだ、と。

だから、行動に移してしまった。

ルシルが『何』であるのかも忘れてしまって。

 

手を頬に当て、科を作りながら、エトナは恥ずかしげに言葉を綴る。

 

 

「それでしたらぁ、私がいくらでも「ウソだ。」……ぐっ!?」

 

 

唐突に遮られる言葉。

そして、エトナの疑問の声が発せられるよりも早く、その口からは苦悶の声が漏れる。

爛々と輝く紅い瞳でエトナを見据えながら、

ルシルはエトナの細首を掴み上げた手に力を込めていく。

 

 

「お前が僕をアイしている?

 ウソだ!」

 

 

哂いながらルシルは、その手に力を込める。

 

 

「お前が僕の為に自分の命を差し出す?

 ウソだ!!」

 

 

次第に大きくなる声と共に、更に手に力が込められる。

 

 

「お前に他人に与えられるアイがある?

 ウソだ!!!」

 

 

エトナが意識を失う寸前、このままへし折るのではないかと思われていたルシルの手が、

掴み上げた時と同じく唐突に開かれる。

 

 

「カハッ!!……ゴ・ゴホッゴホッ!

 ……ハッ、はあはあ、はあ……。」

 

 

地に伏して、涙ぐみながら咳き込むエトナを冷ややかに見ながら、ルシルは淡々と吐き捨てる。

 

 

「お前は悪魔だ。

 きっと最後には自分の利を守ろうとする。

 だから僕は信じない。」

 

 

その傲慢さに、その冷酷さに、その余りにも悪魔らしい考えに、エトナは自分の愚かさを悟った。

「ああ……この方は『悪魔』だった」と。

 

その時、遠くから大分苛立った声が二人に投げかけられる。

 

 

「おい!!何をトロトロしておるのだ、貴様ら!!!

 さっさと来ないと置いて行くぞ!!」

「ああ!今行くよ、ラハール!」

 

 

ラハールの声に、常の胡散臭い笑みを浮かべると、ルシルは何事も無かったように歩き出す。

その後ろを、首を擦りながらエトナが慌てて追いかける。

 

 

「待って下さいよ~!殿下、ルシル様~~!!」

 

 

エトナは恐怖に竦む足を叱咤しながら、必死に走った。

抗い難い恐怖から逃れる為に。

走るその先には、いつもの日常がある筈だから。

 

 

「おい、ルシル!いつも言っているであろうが!!

 俺様の事はラハール様と呼べ!!!」

「はいはい。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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