散片   作:待兼山

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どうとでもなれと投げた日々の

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柔らかい何かが頭を保護してくれるかのような気分にさせてくれる。

頭がはっきりしないまま、もう起きなければ仕事に遅れてしまう。そんな警告が頭の中で発せられた。

「...ううん...えっ」

声を発した後、絶句してしまった。だって、柔らかい何かは、誰かの膝でゆっくりと視線を上げていくと座りながら女性が寝ていた。私が声を出したのにも関わらず、身じろぎ一つしないまま、小さく息をして眠っている事を伝えている。

愛くるしい顔立ちをしている。髪は色素が薄いのか軽く染めているのか、その色を窓から射す陽光が綺麗に見せていた。

いつかのごろんたよろしく、私はその髪に触れてみる。

しっかりと入念に手入れをしているわけではないが、癖毛な為の手入れはきちんとされているようだった。

ごろんたのように髪で遊びながら、どうしたものかを考えてみる。

携帯に触れる気にもならないし、かといって半分麻痺した頭では会社の事を考える勇気は起きない。

そして、何故彼女の膝枕で頭を乗せ続けているのか。

志摩子にすら、私はほんの少しだけしか頼らずにいたし、社会に出てからの遊びではもってのほか。パーソナルスペースに踏み込まれると同等に、激しく拒絶をした。

 

つらつらと考えていると、彼女の瞼が微かに震えだして開かれた。

「ごきげんよう、聖さま。」

思考も身体機能も停止したかのような錯覚があった。

何故、彼女は私の母校の挨拶を知っていて、呼び方の習わしまで。挨拶は、まだ説明がつく。彼女の家庭が躾が厳しかったや古風だったとか、同じような学校があるとか。それ繋がりで呼び方の習わしも母や親戚が、などで説明が出来るが私の名前はどうして。

「ど...して...君は、だれ...なんだい」

変な聞き方だと、言った瞬間に気が付く。

彼女は柔らかく笑みを向けてきて、何故かかつての親友たちにすら向けなかった安堵をしてしまう。栞以来の心の底からの安心の心地よさ。

「難しいことは、今は良いのかもしれません。聖さまが私を気に留めた、私がそれに気づいた。それが全てで、今だけはそれ以上もそれ以下も放っておきませんか。」

ああ、それでいい。そんな気持ちになるような声色と優しさだった。何処までも綿菓子で、口のまわりがべたべたになるとかそんなのは食べている間は気にもならない。でも、私は一口目で気になるような子どもだった。そんな私がその甘さに甘えていたいと思ってしまった。

「聖さまの髪はお綺麗ですよね。程よく手入れがされていて、でも、念入りではないのが聖さまらしいです。」

愛嬌ある顔は私の周りには昔も今も居ないタイプだった。

惰性でも諦観でもなく、今をしっかりと生きている。苛立つほどに、楽観的さも持ち合わせている。呼吸するのも面倒臭く感じる時の気の抜き方も、彼女は知っているのだろうか。妬ましい、似て異なる感情の正タイプである羨ましいが良いのかもしれないが、私のは一瞬その気持ちが占めた。私は昔からこんなにも世の中が吐き気がするほどに、嫌だと言うのに彼女はどうしてそんな風に笑顔を見せられるのかと。

「聖さまはいつでもお辛そう。でも、思ったよりも世の中は聖さま中心じゃないんですよ?」

ぴしゃりと氷水を吹っかけられた気がする。

置いて行かれた子どものような、でも、繋いでもらっているこの手の温もりはなんだって言うんだ。裏切られた気持ちにも似た、何かが心を充満していく。

「何が分かる?聖さまって、あんたは私の母校の後輩でもなしに、何?一目惚れての信者?止めてちょうだい。」

反射的に、彼女に食って掛かる。言葉の刃が私を引きずり込む。

彼女の膝から起き上がってからずっと、意識が相反している。

 

まだ、ここに居たい。

もう充分だ、人の優しさなんてクソ喰らえ。

 

「私は都合の良い、その場その場で活かされる存在。ある時は、後輩。または先輩、友人、知人、同僚。」

その言葉に、出口に向かい掛けていた足が止まる。

「何、その、ソレは。」

上手く言い表せないけど、声を出さないといけない気がした。

感情を乗せてないのに、寂しそうで。夢の知らない女の子のあの、置いてかれる気持ちを存分に伝えてきた言葉に似ていた。それなのに彼女は包むような温かみが染み込んでくる笑みを向けている。

「聖さまはやっぱり優しい。優しいから、傷つきやすくてそんな自分を受け容れてくれた蓉子さまたちを、がっかりさせて欲しくなくて。脆いから、築き上げたモノは。何処にも代わりがないから、傷つける前に死を覚悟した動物のように背を向けた。」

突きつけられる言葉が、先ほどの私の刃を跳ね返らせて刺さる。

「止めてっ。」

目を伏せる。強く、強く。事実も真実も見せられたくない。

上塗りさせた事実さえ、どんな内容かも分からなくなった現在では、そんな過去は焦がれるものではない。

腰の力か脳が判断したのか分からないけど、しゃがみ込み耳を塞いでいた。

耳朶に温度のない、でも優しさが十二分に溢れる声が聞こえた。

懐かしく何度か焦がれた、聞き飽きた日もあったあの声。

だから、伏せた目からどうしようもないくらいに涙が出てくるのは仕方ない。

 

「ああ...蓉子...。ごめんね...」

 

 

 

 

 




お久しぶりの投稿で申し訳ございません。
仕事が息つく暇もないくらいに人手不足でして...。
今月中にはもう一話を。来月辺りには次の回を出したいなあって考えてます。

では、ごきげんよう。

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