散片   作:待兼山

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どうとでもなれと投げた日々の懐かしみ

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誰かが呼んでいる。

慌てたように、懐かしさと愛おしさを併せ持って、何処か滲み出る怒り、やるせなさ、苛立ち、そんな気持ちを乗せて。

割れるような頭の痛みによってなのか、呼ぶ声に安心と懐かしさを感じられてなのかはっきりと分からないけど、意識を現実に合わせた。

「...せ...い?やっぱり...聖なの...?」

昔は毎日のように聞いていたその声。うっとおしく感じられても、大学に進学した時は寂しさを抱いた親友の声。でも、すっぱりと切り離した。

「よ...こ?」

分かっていても、怖くなる。問うのは、怒らないでという意思表示なのかもしれない。

「聖、なのね?それよりも、こんな所でうたた寝しないで頂戴。風邪、ひくわ」

端折られた言葉は、色んな気持ちを仕舞い込んだ証拠なのか。しかし、そんなところとはどんなところなのかと確認すれば、何処かのビルの植木群の一つ、花壇を背にしていた。

「どうして...てか、何で蓉子が居るの?」

そこが最大の疑問でもあった。ありふれた小説やドラマみたいに、偶然が落ちているわけではない。

蓉子は眉間に薄い皺を入れ、かつてよく見た渋い表情をしていた。

よくよく見れば、蓉子は慈愛を込めてもいるだろう。気が付かなかった、あの頃はうっとおしく感じられて撥ね退けたり、軽薄に対応していた。それは現在の人間関係にも繋がっている。

「貴女ね、ここは私が勤めているオフィスが入っているビルよ。出てきたら、貴女が居たから...」

怒ったふりなのか、本当になのか。

この再会は、あれからどれ位の時間が経ったのだろうか。ゆりかごのような、怠惰であり、急かされながらも笑っていられたあの空間を去りし、今。

目の前に居る蓉子は、綺麗になり、社会の歪みに浸かっての脆さがあった。不意に湧き出る、感情。

「それは、知らなかった...蓉子、綺麗になったね...傍で見れなかったのが、悔しいくらいに。」

何故、こんな事を言っているのか自分でも分からない。蓉子も呆気に取られていた。

一滴、瞬きをした瞬間に流れ出る。

止めどなく、為すすべなくというように、無意識か心の奥底に願っていた事に蓋をした罰だと嘲笑われているかのようのも感じられる。

「ちょ、え、聖?!どしたのよ、いったい...」

慌てる蓉子にしがみついて泣き笑いを披露して見せて、会いたかったと呟いた。

どうしようもない私に、温もりをお姉さま以上にくれたのに振りほどき、悪態を吐き、姿をくらませて。そんな気持ちと共に、ひょっこりこんな処でばったり出会って慌てさせてごめん。その気持ちも込めて、謝罪を何度も口にした。

臆病にも感じられた、手のひらを後頭部に感じられていたが、今では幼子をあやすかのように居心地よく思える。

 

 

 

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何故だか蓉子の働くオフィスの側で行き倒れを展開し、蓉子とは気が向けば、気が付けば何となく会っていた。

適温に設定された環境を何よりも嫌い、そこから逃げ出すように瓦解を仕向けていた、つい最近が懐かしくも腹にはもう収められないなと思う。

ゆっくりとゆっくりと、馴染ませるかのように蓉子は話の登場人物の像を語りだす。それはやはり、蓉子だからこそ分かりやすくも、面白さも兼ねそろえていた。度々、私でも分かる人物を挟んだりして、折り合いを付けれるようにしてくれていると感じれる。

でも、私はまだまだ無理な気がする。

かつての私なら頑なに拒み、蓉子が深く息を吐き、吸い込みながら仕方ないわね...とそう言わせていたはず。

今の私は多分、蹲りはしても前の道を眺めて空を見上げている。それだけではなく、どう立ち上がるかをほんの少し考えている。

この切欠は、なんだろう。

夢を見たはずなのだ。

何処か懐かしく、知らない光景と思い出を映し出した夢。

青春独自のほろ苦いとか箸が転げても笑える、絶え間ない時間。

悲喜こもごも、愛おしいと当時では考えれない事を思い、迎えた卒業式。

 

「それで、聖。貴女、さっきから上の空じゃない?人の話、聞いてたの?昔の聖に、ご対面するなんて明日は晴天ね。」

蓉子が苦笑い気味に愛おし気に、声を掛けてくる。

「ごめん、聞いてなかった。それで、なんだっけ?」

だから、正直に謝り、話を再開してもらい今度は聞く態勢に入る。どうして、何故なんて一人で居る際に、時間を潰すに費やせる。

「今度はきちんと聞いて頂戴ね。祥子の“妹”の、_がね今度、集まらないかって。どう、聖?」

何と言った?蓉子は今、何と言った。祥子の“妹”はあの特徴ある子ではなかったか。

「蓉子、今誰って言った?」

あの子の名前を言う、それを期待して問う。何処かで裏切られる、そう思う自分も居るが素知らぬ顔をして。

「え...聖、どうしたのよ?具合、悪いの?早めに...」

遮るように、もどかしく感じられてまくしたてる。

「だから、誰だって?あの特徴ある子だよね?名前忘れたけどさ」

募り言えば、蓉子は瞠目し、残念ながらと表現するかのような顔をしていた。

「聖、一体どうしたのよ?あんなに可愛がっていたじゃない。祥子が顔を真っ赤にするくらい、瞳子ちゃんにもされて二度どころか三度も四度も美味しい紅薔薇一家とか言って。」

尚も蓉子は何か言っていたけれど、私には聞こえていなかった。

私には経験した事のない事が蓉子や私の昔を知る人間がしていて、私はその場に居たというのだ。

何がどうなっているのか、働かない頭ではどうすることも出来ない。

 

『藁しべ、いいじゃない』

知らない私が、誰かに言っている。

そこは懐かしき、薔薇の館。

拗ねたような、恨めし気に私を見上げてくるぼやけた、髪を二つにくくった少女が居た。

 

 

 

 

 

 

 





これで聖さまの話は一旦、区切ります。
次の話はそろそろっとしたためてますので、今週中に投稿すると思います。
先月に投稿すると言ってすみませんでした。今月に入って三日、経ってますがお暇潰しになれば幸いです。

では、ごきげんよう
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