散片   作:待兼山

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それから

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令は祐巳が語った事を懸命に噛み砕こうとした。

本当は無気力でありながら、親族にそれを良しとしてもらえずに、どうにか馴染むように強く勧められてきた。

確かに納得出来る。

由乃はもちろんの事、志摩子さえも祐巳との薔薇の館での出会いが無ければ深く付き合いが無かったから。

その事実が、語った通りであれば至極当然のように感じられる。来る者拒まずに居れば、望まれた行動で接することが出来る。自ら行う事は、酷く億劫で何れかの形で距離を計り間違えて、お互いに幻滅と言う結果が待っている。

だけど、とそう否定した考えが頭を占めようとした際に声が令を引き留めた。

「令さま。もうそろそろ、閉店の時間です。さっきから店員さんが申し訳なさそうな顔でちらちらとこちらを窺ってます。」

令と祐巳は大急ぎで、祐巳は簡単に出れる準備はしていたが、店を後にした。出る際に、令は人受けする笑顔を振りまき、店員に長居の謝罪を口にした。

ちらりと祐巳が令を見やる。

令は噛み砕けなかった部分の咀嚼を諦めつつ、味を吟味するのに忙しく気付かない。

 

令が運転する車で迂回をしながら、祐巳が住まう街に送る最中に色々と聞いた情報を整理する。

何故、そんな話になったのか。

令が由乃に対して卒業前から感じていた〝重さ〟をぽつりぽつりと零したから始まった。

 

では、何で祐巳に話したのか。

祐巳はふわふわとしているが、〝何か〟を決めて歩んでいるかのように感じられ、それに憧れて欠片でも触れさせて欲しいと思ったから。

なら、祐巳の話を聞いて、幻滅・期待外れ・失望などの感情を覚えたのか。

いや。

むしろ、安心したというのだろうか。

似たような、言葉にしにくい感情が圧倒的に占めた。今もパズルのピースが填まったかのような満足感があった。

 

「どうして、令さまは私に話してくださったんですか。」

何の感情も乗せてはいない口調、声音で祐巳は令に訊ねる。

令は溜息とも、苦笑いとも付かない息を出した。

「どうしてかな。祐巳ちゃんだから、知って欲しかったのかも。」

夜の十時を回って、深い色を塗りたくられる前に、急き立てられるように走る他の車や大型二輪車に追い越させらるのも厭わない令の車。祐巳の感情を乗せなかったその言葉の意味を令は分かりたかったから、それを法定速度で表した。祐巳は令の心中を知ってか知らずか、何も言わずに前だけを見ている。

「私は、役割があると上手く立ち回れるんだけど。自ら、とかが、昔からのせいか苦手っていうのかな。あまり、出来ないんだよね。」

令は話ながら、リリアンの頃に志摩子が乃梨子を“妹”にするしないで塞いでいた際に立ち回った事を思い出していた。

「お姉さま、江利子さまはそれを分かってらっしゃたんだけどね...多分、蓉子さまや聖さまも。でも、良しとしてらっしゃらなくて。まあ、当たり前なんだろうけど...」

苦笑いを添えて、信号に従う。

色々な思い出が駆け巡る。大半はやはり、リリアンでの事。

「江利子さまも心裡を話すのが苦手な方だったから。私に伝えるのが四苦八苦されてた。でも、由乃が高等部に進学してきてからは、私が他を見る手助けをしていているんだって。役割、それを与えられるよりも見抜く事を教えてくれてた。それも苦い選択の末だったみたいだけどね...」

ここから先はどう行けばいい。令は祐巳に案内を促す。応える祐巳の顔には、当時の面影はなく、令の独白を聞いた後には感じられなかった。それでも、令はやり場のない感情は湧いてこなかった。

 

令は大学で出会った彼を思い出す。

出会えた事は必然で、令にとっては喜ばしいことだった。自分にも〝何か〟を手にして行けると思った。不都合になる事態を深く考えずに、令はただそれだけを見ていた。

それは、役割が無い状態での令には乳歯の生え変わり段階のまだ途中でありながら、急いでしまい抜いた際のように出血も酷く、空白があった。

歪に永久歯が生えてしまい、それでも何とかなるだろうと放置した結果、痛い思いしか残されてなかった。

 

目を逸らし、過去に思い馳せる事なく、何も望まないまま。

それを祐巳に再会し、変えるべきなのか令は冷静に自ら考えようとした。

 

『考えてみなさい、令。』

記憶の江利子がくすぐるかのような口調で言っていた。

ミルクティの為に淹れる際の温度や状態を、茶葉を説明していた時だった。

お菓子や料理はレシピがふんだんに手に入るが、紅茶の専門書は書店の棚に数冊だった。だから、深くは思わなかった。

それから、令は薔薇の館ではミルクティを一番に薫りを損なわずに、美味しく淹れるようになった。

 

「誰かが指摘してくれる。誰かは優しく包み込んでくれる。誰かは何も気にもせず、気にもさせずに居させてくれる。逆も然り。そんな人間関係でもいいと思いますけど、どうなんでしょうか。」

祐巳が令が心に潜るのを引き止めるかのように声を掛ける。

その声に現実に引き戻され、祐巳の顔を見やる。

「う、ん。そう、なのかも...」

その顔にははっきりと感情があった。

 

 

 

 

 





かなりの不定期更新かつ、短めで申し訳ございません...

現在、練り直しもやりつつ...で生みの苦しみも味わっております。
特に、そこにある花を練り直しというか、リメイクというかもっと奥深く?したいな~欲求がやっと出てきた気がします。

では、ごきげんよう。

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