「みんなおいてくよ〜?」
「やっぱ身軽だな岡野は」
「あー、こういうことやらせたらクラス1だ」
そう生徒たちと3人の教師は崖をよじ登っていた。
しかし教師が3人とはいっても、ひとりは行動不能。もうひとりは今のところ足でまといだ。
しかしどうにかこうにか誰一人欠けることなく非常口までたどり着くことが出来た。
「律、侵入ルートの最終確認を頼む」
「はい、烏間先生。私たちはエレベーターを使用できません、従って階段を上るしかないのですか…。その階段もバラバラに配置されており…、最上階までは長い距離を歩かなくてはなりません」
「テレビ局みたいな構造だな」
「?千葉くん?」
千葉の言葉に茅野が聞き返す。
「テロリストに占拠されにくいように複雑な設計になってるらしい」
「こりゃあ悪い客が愛用するわけだ」
それをきいて菅谷は険しそうな顔をする。
「行くぞ時間がない。状況に応じて指示を出すから見逃すな」
烏間の言葉に生徒たちは頷き、いよいよ潜入が始まった。
まず最初の関門が立ちはだかる。
上の階に行くためにはロビーを通らなければならないのだが、当然警備のチェックも最も厳しい。
烏間がどのように通過するか決めあぐねていると。
「なによ、普通に通ればいいじゃない」
イリーナがそう口にし、堂々と歩いていった。
「まて、イリーナ!」
烏間の制止の声にも振り向かずイリーナはロビーに入っていく。
その足取りは、フラフラとして酒に酔っているようにも見える。艶やかに歩くイリーナの姿に警備も目を奪われていた。
そのままイリーナは一人の警備にぶつかった。
「あっ…ごめんなさい。部屋のお酒で悪酔いしちゃって」
「お、お気になさらずお客様」
「来週そこのピアノを弾かせて頂くものよ。早入りして観光してたの」
警備たちはホテルに頻繁にやってくるピアニストのひとりと勘違いしているようだ。
「酔い覚ましついでにね…、ピアノの調律をチェックしておきたいの。ちょっとだけ…弾かせてもらってもいいかしら?」
「えっ…と、じゃあフロントに確認を」
「いいじゃない…あなた達にも聴いて欲しいの。そして審査して…?」
「し、審査?」
「そ…私のことよく審査して…ダメなとこがあったら叱ってください…」
そういってイリーナはピアノの演奏を始めた。
幻想即興曲、その腕前もさることながら。全身を艶やかに使って奏でるその音色にその場にいる全員が釘付けになった。
「ねぇ…そんな遠くで見てないで。もっと近くで確かめて…?」
「お、おお…」
警備たちはイリーナに魅了され近くに集まっていく。
「(20分稼いであげる、いきなさい)」
生徒たちはイリーナの美しさに目を奪われつつも、上の階に続く階段をあがっていった。
「すげーやビッチ先生、あの爪でよくやるぜ」
「ああ、ピアノ弾けるなんて一言も」
菅谷と磯貝が尊敬の言葉を発している。
「普段の彼女から甘く見ないことだ、優れた殺し屋ほど万に通じる。君たちに会話術を教えているのは、世界で1、2を争うハニートラップの達人なのだ」
生徒たちは改めて自分たちの先生の凄さを思い知った。
しかしそれは相手も同じ敵も手ごわいプロなのだとも思い知ることとなる。