E組の全員はカズキの部屋に集まった。
クラス全員が注目する中カズキはポツリポツリと話し始めた。
生徒たちはカズキの言葉を聞き逃すまいとじっと見ている。
「物心ついた時から父親はいなくて…母さんと二人暮らしだった。母さんは帰りが遅かったり、出張が多かったりしたけど…誕生日とか大事な日にはいつも一緒にいてくれて…大好きだった…刺剣の使い方だって母さんが教えてくれたんだ。いろんな国の剣術を知ってた。最初に教えてくれたのは王国剣術だったよ。厳しかったけど…稽古をつけてもらってる時は本当に楽しかったんだ」
そういってカズキは悲しそうに笑って続ける。
「ずっとこんな日々が続くと思ってたんだ…でも…そんなことはなかった…。去年の夏、母さんが出張からなかなか帰ってこなくてさ…心配になってさ。母さんの勤め先に問い合せたんだ…帰国予定日は何時だってね。」
「その勤め先ってどこなんだ?」
磯貝がカズキに問いかける。
「防衛省…烏間先生と同じだよ」
「「「………!?」」」
生徒たちは驚いて烏間の方を振り返った。
「ああ、桜井君の母親は俺の上司だ。とても多忙な人でな、皆からの信頼も厚かった」
「そうなんですか…」
烏間の言葉に渚は返事が弱々しくなる。
「問い合せたらさ…防衛省にも連絡がなかったんだって…任務がおわったら連絡がある筈なのにって…。それから2週間が経った時に俺の家に女の人が二人来て…母さんの死を告げられた…。遺体はちゃんと戻ってきて…葬式も親戚がしてくれた。でも俺は受け入れられなかったんだ…たったひとりの家族がいなくなって…ひとりになったことに。俺に残されたのはひとりにしては大きい家と、母さんがくれた3本の刺剣…そのうちの2本は今回使ったやつだよ…。母さんの葬式から少し経ってようやく母さんがいなくなったことをちゃんと理解したよ…そこで壊れちゃったんだ…潜入してた皆は聞いたと思うけど…精神崩壊って言葉が正しいとおもう。周りの目が気になって仕方がないし、独りの孤独が本当に辛かった。それでね…心が冷たくなっちゃったんだ…俺に心はもうないのかもしれない…」
そう言ってカズキは泣き出してしまった。
すると殺せんせーが
「心がない人は仲間を助けようとしませんよ。君は速水さんを命を賭けてまで助けたじゃないですか」
「そんなの…俺の身勝手だよ…俺はさ、このクラスに自分から来たんだよ…?みんな俺と同じような人達だと思ってた。でも違ったんだ、みんなは眩しかった…暖かかった…俺の凍えるような冷たさとは違ったんだよ…だから失いたくなかった…」
「カズキくんはすごいね」
「渚…?」
「だって守ったじゃない?速水さんのこと、失わせなかった」
「でも…俺はあいつを…ロミオを殺そうとしたんだぞ?いや…殺したのかあいつの心を…」
「カズキくん…」
渚の慰めも虚しくカズキの涙は止まらない。
「俺は…寂しいよ…ひとりぼっちは寂しい…」
「桜井はひとりじゃないよ?」
「えっ…?」
生徒たちは驚いた、速水がカズキの事を抱きしめたのだ
「私たちがいるじゃない、ひとりじゃないよ?このクラスに来た時からずっと」
「速水さん…」
「速水さんのいう通りですカズキくん、君は今たくさんの人に関わっている。君はちゃんと心を持っています。もしそれが凍っていると言うのなら、それは仲間がとかしてくれるでしょう。そうですよね皆さん?」
「あたりまえじゃん!」
「桜井がいなかったら俺の命も危なかったしな」
生徒たちは強く返事をする。
「みんな…」
「今は頑張らなくていいよ…辛かったら泣いていいの…ずっとそばにいてあげるから」
「速水さん…ありがとう…ごめん…ごめんね。うぅっ…」
そういってカズキは速水の腕の中で泣き始めた。
心にせき止められた雪解け水がすべて流れ出すかのように
「話してくれてありがとうカズキ君、みなさんは一度部屋に戻ってください。夜9時にビーチに集合です。それまではゆっくりと休んでください。カズキくんのことは速水さんに任せますね」
「うん、わかった」
「それでは一度解散です」
殺せんせーに促され生徒たちはカズキの部屋を後にする。
「殺せんせーどうして凛香ちゃんにまかせたの?」
「それはですね、速水さんがカズキ君の本質をさらけ出させたからです」
倉橋の問いに殺せんせーは答える。
「ほんとにそれだけー?」
中村がそう疑ってかかると
「あと、ちょっとふたりがいい雰囲気でしたので」
殺せんせーの顔がピンクになっている。
下世話だ、とても下世話だ。
「やっぱ殺せんせーは殺せんせーだね」
「にゅや?どうゆうことですか?」
「いつかわかるよ」
渚の言葉に殺せんせーは首をかしげる。
生徒たちはそれぞれの部屋に戻っていった。