[完結]Home is the sailor, home from the sea.   作:Гарри

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「大規模作戦」-3

 僕は隣の那智教官を見つめ、彼女は僕を見つめ、僕たちは笑った。僕は飛び上がって叫んだ。

 

Ураа(万歳)!」

 

 不十分にでもロシア語を解する人物がここにいなかったのは残念なことだ。北上は半ば泣きそうな顔になると、利根と隼鷹に抱きついて固く抱きしめ合った。僕はそれを見て那智教官に飛びつこうとしたが彼女がさっと身をかわしたので、代わりにキャビンの内壁と抱き合うことになったが、その衝撃や痛みさえ何かとても喜ばしいものに思えていた。提督は──彼女という人間にしては珍しいことに──この馬鹿騒ぎが自然に収まるまで待ち、吹雪秘書艦をけしかけようとはしなかった。その内に喧騒が賑やかなホームパーティーぐらいのものになると、彼女は杖で床をがんがん叩いて注目を提督その人に戻させた。

 

「この新型通常兵器に用いられている革新的技術については機密指定されていて説明できないし、機密でなかったとしてもお前たちには理解できんだろう。お前たちが知っておくべきことは、それがとうとう現実のものになったのだということだけだ。またそれこそ、お前たちが今回、こうして私と()()()()()()をしている理由でもある」

 

 彼女が強調した部分で僕は再び笑ったが、提督がこちらに視線を向けたので口を閉じた。彼女の視界に入っている間は、あらゆる感情表現を無にするのが一番だ。加賀などはそれをわきまえすぎたばかりに、あんな鉄仮面みたいになってしまったのではないだろうか。「いいか」と提督は前置きをして、第五艦隊の艦娘たちを片目でまとめて睨みつけた。

 

「どういう訳か、お前たちが運用試験担当の艦隊として選抜された。この付近に私の第三艦隊が特務で捜索し、発見した敵の潜水艦基地がある。その基地を新型兵器……ミサイルで攻撃する。第五艦隊はミサイルを誘導し、攻撃の成果を報告せよ。誘導に際しては通常、レーザーを使用するが、目標が海中に存在するということを考慮して、旗艦と二番艦にビーコンを渡してある。どちらかを使え。起動方法は簡単、側面のスイッチを一度押すだけだ。ビーコンからの信号を受信次第、先ほど後にした航空基地から空中発射型巡航ミサイルを搭載した攻撃機が発進、適切なタイミングで発射する。海中での爆発になることから安全性は高いと思われるが、くれぐれも注意するように。ただでさえ軍は遺族年金の支払いに苦労しているんだからな。ここまでで質問は?」

「敵潜水艦基地の場所が分かっているのなら、ミサイルの管制装置に座標を入力してやればそれで済むのでは?」

 

 教官がもっともな質問をした。提督もこれについては分かっていたのだろうが、顔をしかめて答えた。

 

「残念ながら、第三艦隊はそれをするのに足りるほどの正確な座標を入手することができなかった。だが心配する必要はない。旗艦の情報端末やお前たちのGPSに潜水艦基地が存在すると予想される範囲を示すデータを送信してある。それに従って不知火、北上両名のアクティブソナーで潜水艦基地を再捜索せよ。ソナーで得られた情報は旗艦の情報端末に視覚表示される」

 

 結構な無茶を言ってくれる。自ら音波を発するアクティブソナーのいいところは、比較的遠距離まで探査できることと、相手が動いていなくとも見つけ出すことができる点だ。その反面、音を出す訳だから、パッシブソナーで聞き耳を立てている相手(たとえば敵の潜水艦)にとってはいい的になる。それを敵潜水艦基地の裏庭みたいなところでやるのか? 提督は回りくどい「死ね」の言い方を何個も腹の中に隠しているようだが、これはその中でも悪質さで言えばランキングトップを飾ることのできるものだろう。僕は手を上げて発言の許可を求めた。提督が頷いたので、質問をぶつける。

 

「付近での敵の潜水艦の活動は?」

「大規模作戦が発令され、一部では既に攻撃が始まっている。そちらへの援軍として、昨日の内に大半が移動したものと見られる」

「では、水上艦の活動は?」

「衛星による最後の確認時には、有力な敵なしということだった。ただ、それは昨日の話だ。それに、現在当該海域周囲は曇天との報告が来ている、敵が雲の下で隠れている可能性を否定はできん」

「これから具体的にどうするのですか?」

「目標海域に近い小島に降りる。そこで夜明け前まで待ち、それからヘリで行けるギリギリのところまで連れて行ってやる。後はお前たちの仕事だ。それと、撤退に際しては回収用のヘリを待機させておく」

 

 聞きたいことはそれで全部だった。僕は質問は終わりだ、という意味の頷きを示して、一歩退いた。他の誰かが、僕の忘れていた聞くべきことを聞きたがるかもしれないからだ。でも誰もそれ以上のことを聞きたがらなかった。提督も言ってしまわなければならないことを全て言い終えたからか、それ以上の追加情報はなかった。貨物室の床に座り、思考の海に潜っていた隼鷹の肩を後ろから叩く。それだけで、彼女は振り返って晴れやかな笑みを見せてくれた。きっと彼女の頭の中では今、バラ色の未来が始まっているに違いなかった。彼女は言った。

 

「こりゃ、もしかしたらあたしら生きて退役できるんじゃね?」

「艦娘じゃない普通の人間でも深海棲艦と戦えるようになったら、こっちの戦力は一気に膨れ上がる訳だしな。なあ隼鷹、想像してみたことあるかい? 自分が礼装なんか着込んで、街で凱旋パレードするとこなんて」

「よしなよ、何だか口に出したら夢みたいに覚めちまいそうだろ。あたしから言っといてアレだけどさ」

「じゃあそれについては黙るとしてもだぜ、少なくとも世の中の安定には一役買うと思うんだよ、普通の人でも深海棲艦と戦えるってことはさ、つまり」

 

 隼鷹もぴんと来たようだった。現在、世界の海を守っているのは少数の国家だ。その中でも大きな役割を果たしているのは、やはりアメリカと日本を筆頭に、ドイツ、ロシア、イギリス、イタリア、フランス、オーストラリアと言ったような大昔の列強諸国やそれに連なる国々であった。もし深海棲艦を、ひいてはそこから生まれた艦娘を殺すことのできる通常戦力が存在しないままに戦争が終わっていたら、どうなっていただろう? 戦争が終わってすぐはいい。復興で忙しくて、新しい戦争を始める元気は誰にもないだろうからだ。しかし時間が経てば、人は必ず忘れるものだ。艦娘たちは脚部艤装を脱がされ、代わりにブーツを履いて陸で戦うことを強要されたかもしれない。拳銃やライフルの弾が問題にならず、力が強く、装備さえあれば水上航行でき、燃料や弾薬、食料さえ与えておけばよい艦娘は、人類始まって以来最も完成された歩兵になり得るのだ。妖精たちが人間同士の争いに手を貸すかどうかは分からないが、連中が手を貸さないと信じる理由はない。

 

 けれど通常兵器で殺せる相手に成り下がってしまえば、艦娘はただの力が強くて水上スキーができる人間でしかない。余分の燃料や費用を投じてまで運用する価値もあるまい。お陰で僕らは自分の望まない戦争に行かなくても済むだろう。差し当たっての懸念は日本が研究開発の成果を他国と共有するかどうかだが、これはもう政治の世界の問題であって、一介の兵士でしかない僕が関わっていけるようなことではない。響に頼んで神にでも祈って貰えばいいと思う。気が向けば何かあっと驚くような奇跡を起こしてくれるさ。

 

 僕らは日が沈み切る頃に、島へと着陸した。海から見えないように、林を丸く切り開いてランディングゾーンを作ってあった。が、夜間も行動可能な種類の敵航空機が飛んできたら一目でバレてしまうということで、着陸してから一時間掛けて偽装を施さなければならなかった。面白いことに、これに那智教官の持ってきた道具が役立った。彼女は現代の艦娘がめっきり見なくなった文明の利器、暗視装置を持っていたのだ。単眼式と両眼式が一つずつだったが、二つあるだけで作業の効率性はぐんと上がった。僕は意地悪な感謝の示し方として「ようやく教官の用意が報われましたね」と言った。以前の漂流の際に、天候不順のせいで教官の持っていた六分儀が全くの役立たずだったことを指した訳である。彼女は無言で僕の頭をぱしんと叩くと、くすくすと楽しそうに笑って言った。

 

「この艦隊はいいな。貴様が旗艦だから、遠慮なく叩ける」

「海の上じゃ、勘弁して下さいよ」

「当然だ。戦闘任務中とそれ以外での切り替えぐらいつけられる。さあ、続きをやるぞ」

「はい、教官」

 

 こうして作業を済ませて、ようやく僕らは休めることになった。艤装を外に隠して、ヘリのキャビンの中にスリーピングマットを敷いて、薄手の布団やブランケットで寝る、という夏場のキャンプみたいな有様だったが、暑い寒いで寝られないような奴はいない。外気取り入れの為にカーゴドアを開けたままにしておいたので、息苦しさとも無縁だった。僕が寝られなかったのは、ひとえに緊張のせいだ。寝る前まではよかった。マットの上に横たわって、自分の防災ブランケットに包まり、目を閉じるまでは全然何の心配もなかったんだ。ところが、目を閉じた途端、いっぺんに何もかもが襲ってきた。緊張、興奮、恐怖、希望、そういったものの全てが……挙句の果てに、僕は僕らが、僕たち第五艦隊の任務が人類の歴史の一部となるであろうことを発見してしまったのだ。赤子みたいに寝られる訳がなかった。

 

 時計を見る。日の出まではまだまだ時間がある。外をぶらついてきても大丈夫だろう。真夜中に島の中で動く一人の少年を目で捉えられるほど、敵の目がいいということもないだろうし。それに幸運にも、僕はカーゴドアに近いところに寝ていた。ここまで揃っていて、横になってはいられなかった。誰も起こさないようにしながら、僕は貨物室を抜け出た。さく、さく、と草を踏みしめる音を立てつつ、林の中を歩く。小さな島だと提督が言ったこともあって、すぐに海岸近く、砂浜前まで出た。これでは努力したとしても、迷子にはなれそうもない。腰を下ろして、天を見上げる。空は七分ほど曇っていたが、僕には残りの三分だけで足りた。小さな、しかし恐らくは誰かによって既に発見され名づけられているであろう星々が、呼吸するように光を大きくしたり小さくしたりしているのを見るだけで、心は洗われるようだった。悩みが解決したり、吹っ切れたりはしなかったが、ただ落ち着けたのだ。

 

 深呼吸して、海と大地の(かぐわ)しさを楽しむ。じっとそこに座って何をするでもなく、風の吹く音、波の打ち寄せる音に耳を傾ける。同じ短い時間を繰り返しているかのような錯覚に陥り、時間の感覚を失う。起きていても寝ているような気分だ。だから、風に乗って金属のきしむ音が聞こえた時、僕は本当にびっくりした。きしみとは! 調和の取れた音と音の中に割り込んでくる無粋な不協和音だ。僕はその音を立てたのが誰かを知る為に、身を捻ってそちらを見た。暗さのせいで最初それが誰だか分からなかったが、砂の上を滑るような足音と馥郁(ふくいく)たる彼女固有の香りで、じきに僕の二番艦だと分かった。

 

「眠れないのか?」

「ええ」

 

 僕は何も考えずにそう答えたが、すぐに素っ気なさすぎたかと考え直し、教官を散歩に誘った。彼女は「余り褒められたことではないが、しかし……」と躊躇うようなポーズを見せると、昔の彼女がどんな性格だったか響や長門が教えてくれたことを思い出させる、不敵な笑みを浮かべてその後を続けた。「悪くない」

 

 候補生時代の僕が今の様子を見たら、驚きの余りその場で卒倒してそのままあの世行きだろう。那智教官と二人で夜の海岸を歩いているなんて、この目で見ても信じないに違いない。これで月でも出ていればロマンチックなことこの上ないのだが、生憎と月は曇った七分の側だった。僕たちは無言で歩き続けた。話題がなかったからじゃない。話せることは沢山あった。作戦のこと、新兵器のこと、少なくとも一年か二年は先だろうが戦争に勝てるかもしれないこと、僕らが実戦での評価任務を実行している間に第一艦隊と第二艦隊は何をするのだろうかという疑問。ぱっと出てくることだけでもこれだけある。でもそれらは、話したいことでもなければ、話さなければいけないことでもなかった。

 

 だから、僕らは黙っていた。時として沈黙は百の言葉よりも雄弁なものである。僕は口を閉じ、意識を集中させるだけで教官の気持ちの揺らめくような動きを何となく察することができたし、彼女の方は片手間にだって僕の感情を把握できていたろう。それは候補生たちに対して訓練教官が持つ、七つの超能力の一つなのだ。

 

 そうして、同時に足を止める。僕は教官がそうするだろうと感じ取ったからだが、彼女が足を止めた理由は分からなかった。傍らの彼女を見ると、波打ち際の方に目をやっている。僕もそちらを見るが、僕の目では興味を惹かれるような何物も見つけられなかった。こちらの困惑を感じたのか、教官は視線を僕に向けて言った。

 

「来い」

 

 那智教官が僕にそう求める時、逆らう理由など皆無である。僕は文句も疑問もなしに、砂浜へと歩き出した教官の後を追った。そして()()の間近まで来てようやく、那智教官が何を見つけたのか知った。臭いに顔をしかめるが、鼻をつまみまではしなかった。精神力で耐えたのだ。臭いの発生源は、そうするに値するものだった。

 

 死んだ艦娘が、潮流でここに流れ着いたらしい。下半身と機関部は失われており、腕と思しき部分の砲一門が彼女の持っている艤装の全てだった。その腕も上半身も顔も腐敗して原型を留めておらず、その濃厚な死の気配を抜きにしても、昼間に見ていれば気分を悪くしたことは間違いなかった。一方で、気まぐれな波が悪魔的な芸術家気質を発揮したかのように、その艦娘は今も生きているかのごとく、腐った腕を水平線に目掛けて伸ばし、敵に向かって今しも砲を放とうとしているかのようだった。僕は目を逸らした。言わずもがなだ。明日に戦闘を控えている艦娘が、どうして好き好んでこんなものを見なくちゃいけないって言うんだ? 僕は服のポケットからハンカチを取り出して鼻に当てた。この臭いには我慢できなかった。それは特有のものだ。腐乱した死体の臭いとしか言えない。平和な社会で暮らしている民間人たちには一生縁のないものだろう。

 

「行きましょう、教官。何だったら明日、任務を済ませたら戻ってきて回収すればいいでしょう。手伝いますよ、化学防護服を陸軍から借りてきます。ねえ、僕は自分の未来の姿でも見てるみたいで、どうも胸がむかつくんです」

 

 すると那智教官は僕にわざわざ体まで向けて、まっすぐに目を見た。僕は面食らった。その態度がいつになく真面目なものだったからだ。でも、面食らいはしたものの、彼女が口を開く前に僕は聞く準備を終えていた。

 

「これは全然、貴様の未来ではないよ。もちろん、私のものでもない。これは──全く別のものだ。象徴なのだ。分かるか? 見るがいい、この腐った腕を、このさびついた砲を。死してもなお、彼女は己の前に立とうとする敵を撃つ意志がある。大事なのは、彼女が死んでいるということなのだ。

 

 この一点については、懐疑の出番も何もない。彼女は死んでいる。ああ、だがそれでもまだ、抗おうとしているのだ。彼女はこの海で死にたくないと叫びながら死んでいったあらゆる艦娘の、そしてこれから死んでいくあらゆる艦娘の象徴だ。いや、艦娘だけではないな。死に対して、文字通り命を投げ打って死に物狂いで抗った、あらゆる人々の象徴だ。勇気の、勝利の、不屈の信念の象徴なのだ。恐怖の中の勇気、敗北の中の勝利、容認の中の抵抗。

 

 彼女はお前と長門を救う為に死んでいった天龍だ。敵に我々の位置を教えない為に、空に散ることを選んだあの水観の妖精も彼女だ。この戦争が始まったばかりの頃に、一分一秒を稼ぐ為に海に出て行った水兵たちは彼女なんだ。死にはしたが、その意志を、魂を今ここにいる私たちが受け継いでいる、その名を謳われることのない英雄たちは、誰でも彼女なんだ。※93 ……分かるな?」

 

 僕は答えなかった。僕にとってその死体は艦娘の末路でしかなかった。お前も、お前の戦友たちも、何か一つ間違えるだけでこうなるんだぞ、という運命の残酷な通達だ。教官はふう、と息を吐いて「その内、不意に腑に落ちる時が来るさ」と僕を励ますように言って、踵を返した。そのまま砂を踏みしめて戻っていこうとするので、僕は横に並んであの死んだ艦娘をどうするのかと訊ねる。教官は怪訝な顔をした。

 

「場所は分かってるんだ、私から後でそれとなく提督に伝えておけばよかろう。間違っても貴様から言うんじゃないぞ。どういう理由かは知らんが、提督は貴様が大のお気に入りのようだからな」

「お気に入りですって? 僕には到底そう思えませんが。お気に入りならもっと大事にするもんでしょう。僕の知り合いの女の子は四つの時にお父さんから貰った人形を、十五になってもそりゃあ大切にしてましたよ」

「そうだな、人形扱いだったらよかったのに。サンドバッグとは貴様も運がない」

 

 僕と教官は笑った。死体のことを思考から取り除いてみれば、実にすがすがしい気分だった。僕らは歩いてヘリに戻り、夜明け前まで夢も見ないで眠った。

 

 肩を蹴られて目を覚ます。隼鷹が立っていた。時間が来たようだ。彼女に早起きで負けるとは思わなかった。親切にも差し出してくれた手を取って立ち上がり、朝の挨拶をする。寝ぼけ眼をこすりつつ外に出てみると、教官はいつものように僕より先にそこにいた。後は利根と北上、不知火先輩だ。吹雪秘書艦と提督は放っておいていいだろう。だって吹雪秘書艦が寝過ごすなんて、あり得ないからな。僕は彼女と加賀のどちらがより冷たい表情を浮かべられるのか、比べてみたい気がした。秘書艦の方が名前の分だけ有利っぽい気もする。

 

 教官が彼女の艤装の点検を終え、利根たちを起こしにヘリのキャビンに戻っていくと、隼鷹はさささっと素早く僕に身を寄せてきた。

 

「なあなあ、自分の訓練教官と深夜のお散歩、どうだったよー、ええ?」

「おい、起きてたのか?」

「いんや、靴に付いた砂を見て分かったのさ。流石に那智の方は払い落としてたけど、暗かったからかそれも完璧じゃあなかったしね」

「名探偵隼鷹か。アヘンの代わりにアブサンでもやるんだな」

アブサンかあ。そんなら黒タバコも用意しないと※94片手落ちじゃないかい?」

 

 タバコだの葉巻だのに造詣が深くない僕は、とりあえず賛意を示しておいた。大体、黒タバコというものが何なのかさえ分からない。白タバコというものもあるのだろうか。僕の父はヘビースモーカーではない愛煙家だったが、彼の口にあるのはいつも白い紙巻タバコだったと思う。それが白タバコなのか? 後で調べよう、と僕は決めた。見栄を張るのはよくないし、愚かなことだ。でもそれよりもっと大きな過ちがある。それは、自分がそれを知らないということを改めて認識しておきながら、知ろうともしないことだ。生きている限り人は学び続けるべきだという考えは、僕が幼い頃から固く持ち続けている信念の一つでもあった。もし僕がベッドの上で死ねたなら、その時僕の横には読みかけの本が置いてあることだろう。それまでに失明してなければ。多分。

 

 取り留めのない話をしていると、利根たちも起きてきた。北上が大欠伸をしながら朝の挨拶をすると同時に水筒を一つ投げ渡してくる。器用な奴だ、と感心しながらそれを受け取った。利根が北上に代わって説明してくれた。

 

「吾輩らの持ってきた修復材じゃ。余分があって困ることはなかろう? ほら、隼鷹も受け取るがよい」

「ありがたいなあ。あたしの艤装ってば、敵の弾すぽすぽ抜けちゃうから盾になんないんだよねえ」

「僕のも決して盾にできるようなサイズや装甲厚、形じゃないからなあ。伊勢と日向の後部甲板が欲しいよ。二人とも盾じゃないって言ってるけど、どう見たってありゃ盾じゃないか」

 

 以前の演習で、日向に後部甲板で殴られるかと思った記憶が蘇る。今彼女と一対一で戦ったら、あの時よりはいい戦いができる自信があった。だが第一艦隊で過ごした短い期間で見たものから考えて、あの演習での日向が本気だったとは思えないので、また同じぐらいぼこぼこにされてへこまされるだけに終わるかもしれない。それもそれでいいだろう。僕は油断してるとすぐ天狗になってしまう悪癖がある。何処へ行くにも十五分先に鼻っ柱がご到着だ。定期的に自分でへし折ってやらないと、僕の健康にもよくない。

 

 提督と吹雪秘書艦がヘリから出てきた。指示を受けてヘリのカモフラージュ(擬装)を解除し、艤装装着の上で貨物室へ移動する。秘書艦もこの作戦についてきてくれたらいいのに、と僕は考えた。旗艦の座を譲ったっていい。そういう気持ちを持って提督の横にぴったりとくっついた秘書艦を見てみるが、彼女はこちらを一顧だにしない。実は秘書艦と提督は似たもの同士なのかもな、というような想像が胸に沸き起こった。これはいずれ教官に聞いてみたいところだ。

 

 ヘリが飛び立つ。すぐに出られるよう、誰も座らなかった。立って、姿勢保持用の吊革のようなものを掴んでいた。まともな片手が杖で塞がっているせいで吊革を持つことのできない提督は、吹雪秘書艦に支えられて立っている。頭の中で、今日自分がやらなければならないことを繰り返し確認する。不知火と北上のソナーで潜水艦基地を発見。ビーコンを起動してマーキング。ヘリでの回収要請。爆発の影響半径から離脱。着弾後、威力評価。回収地点への移動。撤退。一つ一つには、難しい点はない。危惧することと言えば最初のソナーによる探査の段階ぐらいだ。潜水艦基地に敵がまだ残っていたら、僕らは……どう表現していいか分からないが、困るだろう。

 

 と、ヘリが急に横へ動いた。吊革を持っていなかったら、壁に叩きつけられていたところだ。何だ何だと喚いていると、操縦席からの声がキャビンのスピーカーから聞こえてきた。

 

「敵がいるぞ!」

 

 貨物室の小さな窓に飛びついて、昇って来つつある太陽の光を頼りにして海の上に人影を探す。いた。六隻の深海棲艦の艦隊が、猛烈に砲火を浴びせ掛けて来ている。同じく窓から敵を見ていた那智教官の呟き声が聞こえた。「リ級二、ネ級一、タ級一、軽巡ホ級二」空母も軽空母もいないのは僥倖だが、現況がよいものである訳ではない。機銃はともかく主砲や副砲が当たっていないのは、ひとえに連中がヘリを撃つことに慣れていないからだろう。航空機よりも三次元的な動きをするヘリに砲を当てるのは、容易なことではない。とはいえ、いつかはまぐれにでも当たることになる。そうなれば、一発で終わりだ。提督が溜息を吐くのが聞こえた。

 

「やはり衛星など当てにならんか……おい、ここじゃまだ遠すぎる、もっと先で下ろせ!」

 

 彼女は操縦士を怒鳴りつけたが、あっちだって負けちゃいない。自分の命が掛かっているのだ。

 

「これ以上は無理です、提督! あなたの艦娘にはここで降りていただきます!」

「ちっ、仕方ない。第五艦隊、戦闘用意! 三秒で降りろ! 吹雪、お前も艤装を装備して援護してやれ!」

 

 三秒なんてそんなご無体な、という文句は腹に押し込めて、僕はカーゴドアが開いていくのを見守った。風が吹き込んで来て、目を閉じそうになる。操縦士がスピーカーで叫ぶ声と、提督の命令が半ば重なる。

 

「降下中!」

「行け行け行け!」

 

 僕は旗艦なので、真っ先に飛び出なければいけなかった。しかも提督は気が逸ったのか、ヘリが十分に高度を下げる前に命令を下した。その上、僕の訓練された体は命令に自動的に反応してしまった。結果としてどうなったかというと、僕はほぼヘリから飛び降りる格好になったのである。敵が驚いたことは請け合いだ。珍しいタイプの標的を目にして撃ちまくっていたら、そこから艦娘が身を投げるようにして現れたのだから。それも次々六人も。幸いなことに僕も残りの艦隊員も上手い具合に着水に成功し、ただちに回避機動に入りながらの砲戦を展開することができた。ヘリは機敏に尻を向け、逃げていく。その後部で爆発が起こった──いや、吹雪秘書艦が撃っているのだ。その砲弾は次々と敵に吸い込まれていき、瞬く間にホ級の全てとリ級一隻が沈められた。あれが第一艦隊旗艦にして、提督の秘書艦の座を許された艦娘の力という訳だ。

 

 ヘリは時速数百キロのスピードで去っていってしまったが、残った敵は三隻だけだった。重巡二隻と戦艦一。この数なら吹雪秘書艦の援護なしでも相手にできる。撤退の気配はなく、接近して乱戦に持ち込もうというつもりらしい。隼鷹と利根に互いの間隔を開けて後退しながら重巡を攻撃するよう命じ、北上には魚雷温存と追従を命じる。不知火先輩と教官には、ああしろこうしろと言う必要はないだろう。傍受の危険が低い短距離無線通信で可能な限りの行動報告を命じて(二人が次に何をするのか分からないと連携のしようもないからだ)、後は彼女たちの判断に任せることにした。

 

 隼鷹の航空機がエンジン音を響かせて空を飛んでいく。僕も敵に向かって左から回り込むように近づきながら、水観を数機飛ばして周囲の警戒に当てる。隼鷹の航空隊には眼下の敵に集中していて貰いたい。利根も同じ考えで、彼女の水上機も警戒の手伝いをしてくれた。空の目が沢山あっても困ることはない。敵の勢力圏とされる海域の中では特にそうだ。隼鷹航空隊の援護の下、不知火先輩と教官が、横列を作った三隻の深海棲艦に小刻みな回避運動を挟みつつ突っ込んでいく。見事なものだ。見とれていたくなるが、僕も仕事をしなければならない。

 

「北上、あいつらの動きを封じるんだ」

「はいはい、あたし左撃つからそっち右よろしくー」

 

 彼女は連装砲を構え、無造作に発砲する。放たれた砲弾は敵の横列左端に立ったリ級の、更に左に落ちる。僕の放った弾は、右端に立ったネ級の更に右へ。横列の間隔が狭まるのが分かった。不知火先輩と教官が二手に分かれ、横列を崩して一塊になった敵に十字砲火を浴びせる。ネ級とル級は減速すると僕と北上の牽制を潜って散開してそれを避けたが、リ級は片手の艤装で那智教官の砲弾を防ぎつつ、不知火先輩に襲い掛かろうとした。その背中に、隼鷹の艦爆が爆弾を直撃させる。体が半分になったリ級は水に沈んでいった。

 

 残りはネ級とル級だ。ル級は回避運動を繰り返し、艤装を掲げて盾役を務めつつ、隙あらば隼鷹への遠距離砲撃を仕掛けてくる。僕は親友にして第五艦隊唯一の空母を失う訳には行かなかったので、回避運動を行い続けるように指示した。隼鷹は足が遅い方だが、突っ立っているより被弾率が少ないのは確かだ。利根が前に出てル級に対抗砲撃を加えるが、やはり重巡と戦艦では砲のサイズや威力、射距離が違う。命中弾や有効な至近弾は期待できない。

 

 ネ級は盾の陰に隠れて、後ろへ回り込もうとする教官と不知火に発砲している。腐っても深海棲艦、殺しの為だけに生まれてきた連中だ。その砲撃の精度は高い。不知火先輩は平気でひょいひょいとかわしているが、それは彼女が磨き上げてきた回避の技術が特別に優れているからだ。僕が彼女だったら、ああはいかないだろう。北上と二人でネ級とル級に発砲を続けるが、敵戦艦の盾は固い。僕の艦隊にも高速戦艦がいてくれればよかったのに、と思わずにはいられなかった。金剛型が一般に装備している砲は長門や武蔵の砲ほどの威力こそないが、重巡の二〇.三センチ砲よりは強力だ。数発撃ち込めば、ル級の盾を破壊することもできる筈である。

 

 ル級の砲がこちらに向いた。北上との共同射撃が、余程彼女の癇に障ったらしい。「散開!」と叫んで機関の出力を上げ、横滑りに移動する。過去位置の近辺に着弾したが、受けたのは水飛沫だけで済んだ。ル級はどちらを狙う? 僕か? 北上か? 迷ったのかル級の砲は揺らぐ。が、すぐに僕を向いた。肌が粟立(あわだ)つが、気は楽になる。僕は彼女の砲撃のタイミングを、隼鷹への砲撃を見ることで悟っていた。ル級がそのことに気付くまでは、回避は難しくない。狙いはいいのだが、いつ撃たれるか分かっていれば何を恐れることがあろう。調子を合わせて水平移動。それだけだ。

 

 そしてネ級は、ル級が頭を冷やし終わるまでの長きに渡って、隼鷹の航空隊と不知火先輩と那智教官という第五艦隊の三つの矛を同時にさばけるほど、傑物ではなかった。先輩が放った雷撃がネ級の足を吹き飛ばし、ル級の体を爆風と破片で傷つける。バランスを崩し、回避運動を止めてしまったル級にすかさず教官が発砲した。戦艦は最後の意地でそれを盾に受けて防ぐ。それから、がら空きになった頭を爆撃で吹き飛ばされた。

 

「集まれ」

 

 号令を掛け、水観を回収しつつ、吹雪秘書艦が三隻始末してくれたお陰で戦闘が短く済んだことをありがたく思った。本来の降下地点の手前でもうこれだ。ここからは多数の敵を相手にすることとなるだろう。秘書艦のように弾薬を節約し、狙いすました一撃で敵を倒すようにしなければいけない。号令に応じて集まった教官と先輩を前に、次いで隼鷹と利根を間に、最後に僕と北上を後ろに回して複縦陣を組み、潜水艦基地の推定位置範囲を目指して移動を始める。

 

 これは長門の、そして彼女の第二艦隊でそれなりの時間を過ごした僕にとってもお気に入りの隊列だった。戦闘になってしまうと第二艦隊に隊列などというものはなく、またコンビネーションだとか協同という言葉もなかったが、戦闘前の段階、つまり索敵においては多少の協力もあった。複縦陣はその目的に実に適う隊列だったのである。もちろん航空機が敵を発見することの方が、僕らの肉眼で敵を発見することよりもしばしばだったが……潜水艦は航空機での発見が難しいし、日中ならともかく夜間では航空機を飛ばせないことの方が多い。悪天候などが重なればなおさらそうだ。だから僕らは油断せず陣形を組んで索敵をしたものだった。

 

 情報端末を見て、目標海域までの距離を調べる。雑な計算だが、基地の推定範囲内に入るまでは四時間ほど掛かりそうだ。道中の敵とは交戦を避けて進むべきか、倒せるだけ倒して進むべきか? 本能は前者を選びたがったが、理性で捻じ伏せてやった。戦うべき時と戦うべきではない時というものがある。今日は戦うべき時だ。ミサイル攻撃が終わった後も、撤退という大仕事が待っているのだから。逃げる背中を撃たれたくないなら、先に一掃しておかなくてはならないのは当然だろう。

 

 艦隊員たちにその旨を通達する。那智教官からの対案の提言はなかったので、彼女も同じことを考えていてくれたのだと分かった。そうでなければ彼女は言っただろう。何か思うところことがある時、彼女は誰に対しても直言を避けないからだ。きっと長い軍歴の中で、彼女は僕などよりもっと気後れする相手に「お前の考えよりこっちの方がいいんじゃないか?」と言っていると受け取られかねないことを口にしてきたのだと思う。だから僕みたいな、やっとこさ新米を抜け出た程度の小物に遠慮などしないのだ。ありがたい話だった。

 

 移動を始めてから三十分としない内に、とうとう太陽が水平線から抜け出てその全身を露わにした。朝の光は目に眩しくて困るほどだ。こういう時にはサングラスを掛けてもいいのだが、視界が暗くなることで何か見落とすことが恐ろしかったので、僕は眩しさに目を慣らす方を選んでいた。ふと思い出して、腰のポーチから日焼け止めを取り出す。隣の北上が「こんな時にまでお肌のケア?」と笑ったので、軽く睨んでから笑い返してやった。ひどい日焼けがどれだけつらいものか、艦娘である以前に少女である彼女が、知らない訳がない。塗っておいたので、これで今晩ベッドの中でもだえ苦しむこともなかろう。

 

 太陽の様子を見た利根が、そろそろ水上機による周囲の警戒を始めてもいい頃ではないかと提案した。それを退ける合理的な理由はない。僕と利根は数機を空に送り、敵がいないかを調べさせた。するとその中の一機が、かなり遠くに何か動くようなものを見た気がすると言い出した。味方とは思えないが、それでも念の為に無線をヘリで帰投中の提督に繋ぎ、呼び出してみる。彼女はそこにいるのは絶対に友軍ではないと請け負った。それなら確認と攻撃以外に選択肢はない。敵からの先制攻撃を受けないとは言い切れないので、僕らは複縦陣の間隔をより大きなものにした。互いのサポートはしづらくなるが、集中砲撃や爆撃でまとめてやられるよりはいい。

 

 敵影を見たという水観を燃料補給の為に一度呼び戻してから、再度その方角へと向かわせる。僕は続報を待つ間に、隼鷹に指示して艦戦を準備させておく。第五艦隊を立ち上げた際の装備更新で彼女の艦戦は零戦から紫電改二になっている。第五艦隊の運用理念から制空権確保を優先する決定を下していた為、艦爆や艦攻と比べて搭載数も多い。そのお陰で空戦域への完全な展開にはやや時間が掛かるが、だからこそ数的不利があろうとも、性能と操縦する妖精たちの技量で対抗できるだろうというものだ。本当なら量に対して質で対抗などしたくはない。戦争というのは参加する軍の数と質で決まるが、大概の戦争ではとりわけ数がものを言う。一騎当千の兵士がいたとしても、一万の雑兵に囲まれてはどうしようもあるまい。そして千人力の一人を育て上げるには馬鹿みたいに時間と金が掛かるだけでなく個人の才覚も必要なのに、一万の雑魚を揃えるにはそこそこの金と時間だけで済むのだ。

 

「展開準備完了、いつでも行けるぜぇ」

 

 隼鷹のリラックスした声が、無線独特のノイズと共に僕の耳に届く。よし、空のことはこれでいい。敵艦隊がヲ級六隻で構成されているのでもない限り制空権は確保できるだろうし、仮に隼鷹の艦戦だけでは手が足りなくなったとしたって、対空砲撃は得意技だ。しかも僕に対空射撃を教えてくれた那智教官までいる。僕たちに艦載機を送った空母連中は、必ず後悔することになるだろう。

 

 水観妖精たちからの通信が入る。敵影らしきものを目撃した地点の付近に来たが、姿はないとのことだった。見間違えか? そうとは思わない。今飛んでいるのは、僕の妖精たちだ。一緒に今日まで戦ってきた。その能力は把握している。断じて見間違いを犯すような間抜けではない。とすれば見つけられなかったのは妖精たちのせいではなく、僕の失敗のせいだ。燃料補給で時間をロスさせるべきではなかったのだ。そこまで消費していたのでもなし、飛ばし続ければよかった。もし敵の航空機に追われた時にタンクの残量を気にしているようでは撃墜されてしまう、と考えてのことだったが、もっと水観妖精たちを信じるべきだった。

 

 だが過ぎたことは過ぎたこと。気にしていても仕方ない。少なくとも一つ有益な事実が判明した。敵がいる。奴らはきっと待ち構えている。恐らくは戦闘音を聞きつけたが、救援に駆けつけるには遅いと判断したのだろう。僕らが仕留めた三隻が、人類の知らない深海棲艦独自の通信方法で「一度退いて他の味方と合流するべきだ」と進言した可能性だってある。あるいは途中まで来たものの、音が途切れたことと通信に応じないことで全滅を悟って後退したとか。何でもいい、奴らは僕らの進行方向にいる。情報端末をもう一度見て、経路上に待ち伏せに使える場所がないか探してみる。島、岩礁、何だっていい。身を隠して待てる場所はないか? 僕は警戒を艦隊員や上空の妖精たちに任せて、端末を穴が開くほど見つめた。見つからなかった。一番近い島でも数百キロ以上離れている。なら、不意打ちは避けられるだろう。己の判断を信じて、前進を続ける。

 

 更に時間が経過する。そろそろ、潜水艦基地の存在が予想される範囲に入る。敵影はないが、油断はしない。僕は不知火先輩と北上の二人に呼びかけて、二人が装備しているアクティブソナーの性能について訊ねた。僕は重巡ということもあって、水中聴音機の使い方ならともかく探信儀のことについてはさっぱりだったのだ。ソナーの使用によって敵を呼び寄せる可能性があるからには、音波を発する回数はできるだけ少なくしたい。その為には一度にどれだけの範囲を探査できるのか、知らなくてはならなかった。ところが北上はこれまでに使ったことがなかったらしい。全ては先輩に託され、彼女は見事に応えてくれた。僕が研究所に着任する少し前のことだが、敵の潜水艦狩りに駆り出されていた時期があったらしく、水中探信儀の扱いには慣れているのだそうだ。潜水艦と戦わなければならなくなった時には、隼鷹と先輩の二人が戦闘の要となるだろう。二人を全力で守らなければなるまい。

 


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