怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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 ぎ、ギリギリ、セーフ!
 本日の執筆時間が狭まった中、無事に書き切れました!
 いやぁ、燃え尽きましたな!



魔導書

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?』

 

「きゃー、可愛ぃー!?」

 

「ちょっと、私にも触らせてー!」

 

「ねぇ、私が連れてきたんだからねー!?」

 

 黄色い声と共に四方八方から伸びた手が白兎(ニードル・ラビット)を引っ張り回した。

 

 それぞれが自分よりもずっと大きい存在感を持つ少女達に何度も抱きしめられ、本気で怯える白兎は死にそうになっている。もう軽くパニックだった。

 

『……随分と人気だな、あの(うさぎ)は』

 

『……チッ』

 

『モンスターも手懐けられるモンだったんだなぁ』

 

『恐怖で縛り付けるのはあらゆる生物に共通するものなんだろう』

 

『いや、女共(あいつ等)に自覚は無いんだろうよ』

 

 代わる代わる女性陣に抱きしめられ、その手で撫でられるニードル・ラビットに対して周囲を通りがかる男性陣から羨望、嫉妬、関心、哀れみ等、多種多様の感情が込められた視線が突き刺さる。

 

「……」

 

「どうよ?」

 

「……まぁ、問題は無いみたいだな」

 

 ニヤリ、と笑う青年(ジャック)に対し、経過を確認していた王族(グリファス)は疲れ切った様に息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャック達がミランダからの相談を受けてから3日が過ぎた。

 

 当初は突然の話に誰もが反発していたが、今ではあの白兎、女性陣を中心に大きく人気になっている。女戦士(ミランダ)の調教も効果があったのかモンスターが暴れて被害を出す事も無く、一安心といった所だ。

 

 大魔法で砲撃でもしたのか、『穴』の付近から爆音が轟く中、グリファスは見知った少女(エルフ)を発見して近寄った。

 

「グリファス様……」

 

「レイラ?もう起き上がって大丈夫なのか?」

 

「はい。そう何日も寝ている訳にはいきませんし」

 

「そうか。調子が良い様なら何よりだが……ほどほどにな?」

 

「えぇ」

 

 作業を手伝っていたのか、荷物を抱えたまま白髪を揺らして微笑む少女にグリファスも笑う。

 

「あ、言いそびれていたんですけど……先日の探索では、助けていただいてありがとうございました」

 

「何、気にする事は無い。お前のおかげで砲竜も倒す事ができたんだからな」

 

「そんな事は……そもそもグリファス様が助けてくれなければ私は詠唱もできずにハービィに()られていたでしょうし……」

 

「謙遜するな。あの魔法は見事だった」

 

 否定しながらもやはり満更でも無いのか、うっすらと頬を染めるレイラ。

 

 そんな彼女を優しく見つめるグリファスは一笑を投げ、己の天幕に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 天幕の中、グリファスは筆を持ち、一冊の書物を静かに書き続けていた。

 

 

『魔導書を読みたい?』

 

 もう10年も前。

 

 森の中、訓練を終えた少年の言葉を聞いた師は難しい表情になって考え込んだ。

 

『……何故、突然その様な言葉を?』

 

 ぐっ、と少年は声を詰まらせる。

 

 正直に言ってしまうと、年下の少女が強力な魔法を使える事に若干の嫉妬と羨望を抱いたからなのだが、そんな事を白状するのはちっぽけな自尊心(プライド)が許さなかった。

 

 全ては話さず、魔法を使えるようになりたいとだけ言うと、師はじっと考え込み始めた。

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』

 

 一言も発さず、黙考を続ける師に、心なしか少年が焦り始めた時の事だった。

 

 少し楽しそうな表情で、師は笑った。

 

『……作ってみましょうか。魔導書(グリモア)

 

『はい?』

 

 当時の少年(グリファス)は、師の顔を見て何故か嫌な予感を感じたのだった。

 

 

「……くっ」

 

 既に九割以上完成している分厚い魔導書(グリモア)の執筆を続けていたグリファスはそこまで回想を続けて苦笑混じりに笑う。

 

「(いやいや、あれは大変だった……)」

 

 まぁ、『自分の魔導書を自分で作れば、本当に欲しい魔法を手に入れられるかもしれません』と言う師の言葉には当時の自分も納得した。

 

 したのだが―――その後が大変だった。

 

 なにしろ複雑な工程を紙作りから始めるのだ。力ある文字(ルーン)を刻んだ樹木(じゅぼく)から紙を長い時間かけて作り、そこから血を使って何通りもの文字を刻むのだ。精霊から教わる必要のあった神の文字は本当に苦労した。あっという間に10年だ。今となってはもはや何の為に書いているのかも分からない。

 

「後、数日が目処か……」

 

 10年ものの歳月を経て完成に近づく自分だけの魔導書(グリモア)

 

 その古ぼけた一冊を見つめる青年の顔に、笑みが浮ぶ。

 

 その後、作業は日が沈むまで続いた。

 

 




 土日は投稿できるか分かりません。次話をお楽しみにしてください!

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