怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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新たなる魔法

 

 

『―――私にとっての魔法とは、何だ?』

 

 奇跡。

 

 敵を殲滅し、仲間を守り、現実のルールを塗り替える物。

 

 ―――私の想像する『魔法』とは、そういう物だ。

 

『―――私にとって魔法とは?』

 

 希望。

 

 自分のよく知る少女が過去に示した、絶望をも消し去る希望の光。

 

『私にとって魔法とはどんなものだ?』

 

 ―――敢えて言うのなら、樹だ。

 

 どこまでも大きな大樹。どんな魔法も始まりは魔力(根っこ)からだ。詠唱によって育ち、枝分かれして多種多様の魔法(はな)を咲かせる。

 

『魔法に、何を求める?』

 

 力。

 

 もう誰も死なせない為に。戦友(なかま)を助ける為に。大切な少女(ひと)を守る為に。

 

 あらゆる敵を貫き、あらゆる壁を穿つ、そんな力が欲しい。

 

『それだけか?』

 

 ……神の力。おこがましい事だが、それに匹敵する様な力が欲しい。

 

 どんな敵をも打ち倒す、神の如き力が。

 

 …………こんな事を誰かに知られたら、何を言われるか分からんな。

 

『……欲張りな奴だ』

 

 全くだ。我ながら呆れる。

 

『―――だが、それが私だ』

 

 それを最後に、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――グリファス様、起きてください、グリファス様」

 

「っ……」

 

 肩を揺すられる。

 

 聞き慣れた少女の声に、目を覚ました。

 

 顔を上げると、その紅い瞳と目が合った。

 

「目が覚めました?」

 

「っ~~、レイラ、か」

 

「珍しいですね、机で眠るだなんて」

 

「あぁ、そうだな……」

 

 視線の先にあるのは、昨晩完成し、すでに読み終わった魔導書(グリモア)

 

 アレを読んで意識を落としたのだろうと察しがつく。

 

 当然レイラもそれに気付いた様だった。

 

「あれ、これって……」

 

「察しが良いな、魔導書(グリモア)だ」

 

「あ……完成したんですか!?」

 

「あぁ。昨晩な。もうこれは奇天烈書(ガラクタ)だが」

 

「わぁっ……!!」

 

 10年も前からグリファスが製作を続けていた事を知っているレイラは感動した様に魔導書を持ち上げる。

 

 心なしかその紅い瞳はキラキラと輝いていた。

 

「凄いっ、とうとう完成したんですねっ!」

 

「随分と苦労したよ……」

 

「本当に凄いですよ、魔導書(グリモア)を書くだなんて……!!あのっ、これは頂いても良いですか!?」

 

「構わないが……もう効果は消失しているぞ?」

 

「それでも良いんです!」

 

 パラパラと中身を(めく)っては感嘆の声を上げるレイラの姿に、苦笑しながらも気恥ずかしさを覚えた。

 

「どんな魔法を発現させたんですか?」

 

 今後連携をする上で重要な事を尋ねられ、グリファスは黙考する。

 

 必要な事は全て頭の中に入っていた。詠唱式も自由に思い浮かべられる。

 

「……詠唱式から考えて、単射系の攻撃魔法だな。超長文詠唱になる」

 

「……え?」

 

 その言葉に、レイラは戸惑った様な声を発した。

 

 超長文詠唱。

 

 レイラもそれは一つだけ発現させているが、長文詠唱と比べてもそれなりに時間をかける為に滅多に使わない。当然ながら威力も詠唱量に比例して上がるのだが、どうしても手間が長くなる。

 

「(白兵戦に特化したグリファス様とは相性が悪いのでは……?)」

 

 そんなレイラの疑問を察したかの様に、グリファスも苦笑した。

 

「まぁ、大丈夫だろう。私にも考えがある」

 

 迷宮から帰還してから、一週間が過ぎた。

 

 今日は、二度目の探索だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試し撃ち、ねぇ……」

 

「あぁ。だいたいの予想はついているが、新しい魔法がどの様な効果を発揮するのか、確認しておきたい。迷宮でならそれにうってつけだろう?」

 

「……」

 

 装備を整えていた途中、グリファスに事情を説明されたジャックは30(ミドル)離れた『穴』に視線を向け―――それを指差した。

 

()()を実験台にすれば良いんじゃねぇの?」

 

 その直後、穴の付近が()()()()()

 

『アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 咆哮と共に現れたのは、純白の体を持つ氷の竜。

 

 7(ミドル)もの巨体でありながら飛竜と変わらない飛行速度を誇るモンスター、『グレイシアドラゴン』。

 

 何よりも印象的なのは、周囲の空間を一撃で凍てつかせるその咆哮(ブレス)だろうか。

 

「流石にアレはディルムッド達でも抑えきれなかったか……グリファス、行けそうか?」

 

「あぁ……」

 

 軽傷のみで凍竜の攻撃を凌いだ防衛部隊を視界に入れながら、グリファスは笑みと共に銀杖を構えた。

 

「―――ちょうど良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒ぅ!?」

 

「野に放つのは不味い、何としても始末するぞ!」

 

 ディルムッド達が凍竜と戦闘を繰り広げる、その最中。

 

 投擲された小石がグレイシアドラゴンの側頭部に直撃した。

 

『ウゥ!?』

 

「!」

 

 その直後、虹色の翼を(まと)うグリファスが凍竜に一撃を叩き込む。

 

 空中で放たれた一撃はその爪に弾かれた。

 

「グリファス!?」

 

「―――済まない、こいつは貰うぞ!緊急時に援護頼む!」

 

 火精霊(サラマンダー)の少年に叫び返したグリファスは返事を待たずに凍竜に襲いかかった。

 

「―――【それは、破滅(おわり)の始まり】」

 

 そして、詠唱を始めた。

 

「【愚かなる人の王によって戦乱の剣が振るわれ、戦いが始まった】」

 

 攻撃、防御、回避、移動―――詠唱を続けながら戦闘を行うグリファスに、誰もが目を見開いた。

 

 明らかな強敵を前に、『並行詠唱』を実現する。

 

「【人々も世界も神々も死に至る黄昏(たそがれ)の戦い。最後に嗤うのはヒトならざる怪物】」

 

「【世界は終焉の闇に包まれた】」

 

 全てを凍てつかせる咆哮(ブレス)を回避。返す刀で振るわれた銀杖が竜の一撃と拮抗した。

 

 弾き合う。

 

「【人々を見下ろした世界樹よ、妖精(われら)を見守り続けた始まりの樹よ。世界を守れ、世界を繋げ。我が声に応え、力を貸したまえ】」

 

「【それは英知を司る一本の枝。妖精の手によって枝は槍に変わった】」

 

 想起するのは、一本の槍。

 

 あらゆる敵を狙い撃ち、闇を穿つ。

 

「【至れ、オーディンの槍】」

 

 グリファスを中心に魔力が吹き荒れた。

 

「【全てを貫け、暗雲を払え。放たれよ、神の一撃】!」

 

 詠唱が完成する。

 

 超長文詠唱によって編み上げられた魔力の規模に、凍竜が極限まで目を見開いた。

 

『アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「―――【グングニル】」

 

 魔法名が紡がれた。

 

 金色の魔力が、銀杖を包み込む。

 

 放たれた絶対零度の咆哮(ブレス)に真正面から―――投擲した。

 

 銀杖から放たれたのは、金色の槍。

 

 

 それは一瞬で竜の咆哮(ブレス)を撃ち抜き―――グレイシアドラゴンの胸部を貫いた。

 

 

『―――』

 

 魔石を破壊され、断末魔も発せずに凍竜が灰になる中―――飛行魔法(フィングニル)を解除した王族(ハイエルフ)が着地する。

 

 その直後、歓声が轟いた。

 




 グリファスの新魔法です。多分並行詠唱って、古代ではまあ、最上級(トップクラス)の力を持っていればやっていたんじゃないですかね。汚れた精霊も原作でやってるみたいですし。
 超長文にもなると、並行詠唱を使うか前衛中衛が死ぬ気で守らないと扱えないんだろうと思います。

 いやぁ頑張った。


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