怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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 ありがとうございます!!今後とも精進しますのでよろしくお願いします!


守ってくれるのは

 

 

「……」

 

 グリファス一人しかいない天幕で、静かに作業が行われていく。

 

 机の上には様々な資料が重なり、集中する彼の手の中には食料庫から採取した水晶があった。

 

 美しい石英(クォーツ)は、彼の注入した魔力に応じて輝きを放つ。

 

(……やはり、()()()魔力との親和性が……いや、これ自体が魔力を放っているのか?)

 

 適当に察しをつけるグリファスの側に置かれているのは大小様々な魔石。

 

 石英(クォーツ)を置いた彼はそれらも手に取って観察する。

 

 魔石は、モンスターの核だ。

 

 魔石を体から抜かれたモンスターは例外無く灰になる。それこそ種族問わずだ。

 

 最近近くで獲られた巨黒魚(ドドパス)などはその体の大きさと(いびつ)で強固な鱗からモンスターと勘違いされ、魔石が発見されずにグリファスを大いに焦らせた。

 

 魔石を破壊しても死なないモンスター?冗談じゃない。

 

 若干逸れた思考を戻し、小石程の大きさの魔石に魔力を集中させる。

 

 先日の防衛でディルムッドが串刺しにした大鷲(ヴァン・ロック)の魔石は魔力に反応し、石英(クォーツ)よりも強く光った。

 

「……」

 

 目を細めたグリファスは別の魔石を手に取り、これもまた魔力を流し込む。

 

 爪の欠片とほとんど変わらない大きさの魔石―――最弱モンスターであるゴブリンの魔石は、鈍く光るだけだった。

 

(魔石―――いや、ダンジョンで採れる物全般に、質の差がある様だな)

 

 当然といえば当然だろう。何しろゴブリンと大鷲(ヴァン・ロック)では文字通り格が違う。

 

 その核である魔石に差が出るのは、決しておかしい事では無い。

 

(―――まぁ、そもそもモンスターが存在する事自体が異常なのだが、それを言ってもしょうがないだろう)

 

 身も蓋も無い思考に苦笑しながら、迷宮から手に入れた物品の研究を続ける。

 

 モンスターから取り出される魔石については以前から研究を行っていたが、連合(ユニオン)での活動が激化するにつれて―――いや、元々かなり命懸け(ハード)だったのだが―――その余裕も無くなっていた。魔導書の執筆が遅れたのもその影響だ。

 

 迷宮から実際に『資料』を持ち帰る事ができたのは大きい。探索を続けていけば今後多くの事が分かってくるだろう。

 

(―――魔石から発せられるこの魔力、これを有効活用できれば……)

 

 魔力を持つ物体はそれだけで多くの可能性が生まれる。単純な加工をするだけでもそれを媒介にして簡単な魔法―――あるいはそれに近い現象を起こせるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 集中して作業を行っていたグリファスは、だからこそその気配に気付くのが遅れた。

 

「―――グリファス様?」

 

「!」

 

 耳元でそう囁かれたグリファスは、僅かに肩を揺らす。

 

 普段はそれなりに冷静な彼のその挙動が、確かな動揺を表していた。

 

「れ、レイラか。どうした、いきなり」

 

「いえ、何度か声をかけていたんですけど……」

 

「……済まない、気付かなかった」

 

 思わぬ失態に頭を抱えたくなったグリファスは息を吐く。

 

「で、どうしたんだ?」

 

「いえ、こんな真夜中に明かりが点いていたので……また無理していないか、心配になって」

 

「お前は私の母親か……」

 

「一応、クリスティナ様からは貴方の事を一任されていますけど?」

 

 苦笑交じりにぼやいたグリファスに白髪を揺らす少女は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 

 こうして昔の様な会話をしていられるのも、二人きりだからか。いずれにせよグリファスにとっては心地の良いものだった。

 

「……()()()()()

 

 そう呼びかけるレイラが、そっと彼に寄り添う。

 

「最近、何だか怖くなってきました」

 

「……気にする事は無い。お前は―――」

 

「違います、そうじゃないんです」

 

「……?」

 

 独白する様に呟くレイラに言葉をかけようとしたが、否定される。

 

「モンスターが怖い訳じゃないんです。皆が、貴方が守ってくれるから。でも―――」

 

 そこで、彼女は思い詰めた顔で、言った。

 

 問いかけた。

 

 

「―――貴方は、誰が守ってくれるんですか?」

 

 

 レイラはまだ良い。弱いから、一人ではモンスターに勝てないから、誰もが注意する。守ってくれる。

 

 だが―――グリファスは?

 

 グリファスは強い。それこそ並のモンスターなど軽くあしらえる位に彼は強い。超長文詠唱による砲撃も手に入れた。実戦でそれを使いこなせる技量もある。単純な白兵戦でも連合(ユニオン)の頂点に立つだろう。

 

 しかし、彼は強くなりすぎた。

 

 だから、レイラは恐れたのだ。問いかけたのだ。

 

 もし、どうしようもない存在が現れ、彼が窮地に立たされた時―――誰が、貴方を守るのか、守れるのかと。

 

「……」

 

 その言葉の意味を、真意を理解したグリファスは―――そっと、微笑んだ。

 

 答えは、とても短かった。

 

 彼にとって、それは単純なものだったからだ。

 

「―――お前だよ、レイラ」

 

「え?」

 

 自分を見上げる少女の頭を撫で、笑う。

 

「お前が居てくれるから、ここまで来れた」

 

「お前が居てくれるから、これからもやっていける」

 

 むしろ自分だけだったら、三回は死んでいたとグリファスは断言できた。

 

 その魔法が、自分を何度も救ってくれた。

 

 守りたい存在が、守ってくれる存在が居てくれたから、自分は生きる事ができたのだと。

 

 目を見開くレイラにそう告げたグリファスは、優しく微笑む。

 

「だから―――大丈夫だ」

 

 その言葉を聞いて、少女はその紅い瞳を濡らす。

 

 小さな光の粒を散らしながら、レイラは笑い。

 

 感情のままに、グリファスに抱きついた。

 

 微笑むグリファスが彼女を受け入れる中。

 

(―――この人に応えられる様に)

 

 弱い自分を、頼りにしてくれる彼に、応えよう。応えて見せよう。

 

 彼を脅かす敵を打ち倒し、彼を守り、彼を癒やそう。

 

 彼を救う魔法(うた)を届け、私は―――

 

(―――いつまでも、どこまでもついて行こう)

 

 彼の腕の中に顔をうずめ、少女は誓った。

 

 




 最近ポケモンのSSも手がけ始めましたが、そちらの方は気が向けば、息抜き程度の感覚なので、こちらを基本的に進めます。
 暇な方は、是非ご覧ください。


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